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過ぎたるは及ばざるが如し
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◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「ふうっ」
腰に手を当て額に流れる汗を拭う氷柱の表情は、何かをやりきった充実感で満ち溢れていた。
ちなみにその足元では冗談みたいにボッコボコに顔を腫らした(当社比1.5割増し)天柳相一が冷たい氷の上で伸びていた。
「…………ぐ、…………ばブ」
ボロ雑巾の如く打ち捨てられた相一は目詰りを起こした排水口の様な音を絞り出す。
「少し悪乗りが過ぎましたね、どこからどう見ても自業自得としか」
「ぶ、ぶぐう」
「そうは言ってもあの子も年頃ですから。そもそも女の子の身体的コンプレックスをからかう事に問題がですね…………」
「なんでそれで会話が成立してるのよ…………。っていうか誰のどこがコンプレックスだって!?」
黙って二人の会話?を聞いていた氷柱が聞き捨てならないといった風に割り込んでくる。
「確かに? 他の人に比べたらちょっと…………ほんのちょっぴりボリューム感に欠ける事は認めるわ」
ちょっと――――? その言葉に相一と璃亜が揃って小首を傾げる。二人の胸中では同じ疑問が浮かんでる筈だがわざわざ口に出さないのが大人の優しさである。
「でもそれは発展途上なだけであって、あと数年もすればあたしのも璃亜と変わらない程立派なものに…………って、そもそも別に特に何も気にしたりしてる訳じゃないから体の極一部分が膨らもうが縮もうが全くもって興味関心のカケラも無いわけだけど!?」
後半にいくにつれて勝手にヒートアップしていく氷柱を眺めながら相一は思う。
(こういう所はからかいが甲斐あって可愛いと思うんだけどなあ)
胸の内で浮かんだその言葉を一言でも伝えてやれば、一人で暴走を続ける氷柱もすんなり大人しくなったのかもしれない。尤も、かえって火に油を注ぐ結果にもなりかねないが。
「まあとにかく、おかげで海の藻屑にならずに済んだ。ありがとうな氷柱」
相一の手が雪女の頭上でぽんぽんと跳ねる。
「むうう、これぐらいでさっきの罵詈雑言の嵐をチャラにできると思わないことね」
口を尖らせながら不満気に言う彼女だがどうやら満更でも無いようで。
「その割には顔が緩んでいるようにも見えますが…………」
「んなっ!?」
「それはともかく、お二人共無事で何よりです。こうして氷柱さんが戻ってきたということは海中の敵を退けられたという事でしょうか」
氷柱は何か言いたそうな様子だったが、ひとまず璃亜の話に応じる事にしたらしい。
「ま、そういう事よね。気になるなら自分達の足元をようく見てご覧なさいよ」
「足元?」
相一と璃亜が揃って視線を下に向ける。そこにあるのは氷柱を乗せて海中から浮かび上がってきたミニ氷山。先程まではその主が上で倒れていたため隠れていたが透明な氷塊の奥、中心に見えるのは長い金髪ごとその動きを停止させた全裸の爆乳の姿。
「……………………おおう」
「所長。相手が誰であれ女性の裸をジロジロ眺めるのはあまり感心しませんが」
すうっと、周囲の気温が少しばかり下がった気がしたが、きっと足元の氷のせいだろうということにしておく。
「で、結局この無駄乳痴女何だったのよ? ここ一連の事件の犯人ってことでいいのかしら」
がしがしと足元の氷を踵で踏みつける氷柱からは何か黒い感情が滲み出ている気がするが、隠す気もないのか金髪全裸の体のある一部分を憎々しげに睨みつけている。
「それは本人に聞いてみないとなんとも言えないけど…………まあ、その、あれだ。過ぎたるは及ばざるが如しっていう言葉がこの国にはあってだな」
「それはアレか!? あたしの何かが世間一般平均ボーダーにすら及んでいないと!! そう言いたいわけか!?」
「…………はぁ」
ぎゃーぎゃー騒ぐ二人を横目にしながら小さく溜息を吐くのは、平均ラインをぶっちぎって周回遅れにさせかねない人物である。
二人共ほんの数分前まで文字通り命の危機に瀕していたはずなのだが、そんなのはいつもの事だと言うように普段の調子でふざけあう姿に呆れた様子で首を振る。
「とりあえず一度陸に上がりましょうか。千里さんと詩織さんも心配しているでしょうし」
「そうしよう、いつまでも氷の上につっ立ってる格好でもないしな」
真夏とは言え場所が場所。床冷えどころか冷気そのものが這い上がって来るような氷上で、海パン一丁にビーチサンダルでは長居しようという気は出てこない。
「氷柱、コレを浜まで動かせるか?」
相一はそう言って二人の待つ砂浜を指す。
「あーはいはい」
対して氷柱は仕方がないという風に頭をかき、憎き爆乳を囚えている氷の牢へ膝をついた。そのまま氷に手をかざすと船の舵を切る様にニ人の待つ方向へと振り向ける。その動きに従うように皆を乗せた氷の塊が向きを変え、ゆっくりと浜辺に向かって進みだした。
「ふうっ」
腰に手を当て額に流れる汗を拭う氷柱の表情は、何かをやりきった充実感で満ち溢れていた。
ちなみにその足元では冗談みたいにボッコボコに顔を腫らした(当社比1.5割増し)天柳相一が冷たい氷の上で伸びていた。
「…………ぐ、…………ばブ」
ボロ雑巾の如く打ち捨てられた相一は目詰りを起こした排水口の様な音を絞り出す。
「少し悪乗りが過ぎましたね、どこからどう見ても自業自得としか」
「ぶ、ぶぐう」
「そうは言ってもあの子も年頃ですから。そもそも女の子の身体的コンプレックスをからかう事に問題がですね…………」
「なんでそれで会話が成立してるのよ…………。っていうか誰のどこがコンプレックスだって!?」
黙って二人の会話?を聞いていた氷柱が聞き捨てならないといった風に割り込んでくる。
「確かに? 他の人に比べたらちょっと…………ほんのちょっぴりボリューム感に欠ける事は認めるわ」
ちょっと――――? その言葉に相一と璃亜が揃って小首を傾げる。二人の胸中では同じ疑問が浮かんでる筈だがわざわざ口に出さないのが大人の優しさである。
「でもそれは発展途上なだけであって、あと数年もすればあたしのも璃亜と変わらない程立派なものに…………って、そもそも別に特に何も気にしたりしてる訳じゃないから体の極一部分が膨らもうが縮もうが全くもって興味関心のカケラも無いわけだけど!?」
後半にいくにつれて勝手にヒートアップしていく氷柱を眺めながら相一は思う。
(こういう所はからかいが甲斐あって可愛いと思うんだけどなあ)
胸の内で浮かんだその言葉を一言でも伝えてやれば、一人で暴走を続ける氷柱もすんなり大人しくなったのかもしれない。尤も、かえって火に油を注ぐ結果にもなりかねないが。
「まあとにかく、おかげで海の藻屑にならずに済んだ。ありがとうな氷柱」
相一の手が雪女の頭上でぽんぽんと跳ねる。
「むうう、これぐらいでさっきの罵詈雑言の嵐をチャラにできると思わないことね」
口を尖らせながら不満気に言う彼女だがどうやら満更でも無いようで。
「その割には顔が緩んでいるようにも見えますが…………」
「んなっ!?」
「それはともかく、お二人共無事で何よりです。こうして氷柱さんが戻ってきたということは海中の敵を退けられたという事でしょうか」
氷柱は何か言いたそうな様子だったが、ひとまず璃亜の話に応じる事にしたらしい。
「ま、そういう事よね。気になるなら自分達の足元をようく見てご覧なさいよ」
「足元?」
相一と璃亜が揃って視線を下に向ける。そこにあるのは氷柱を乗せて海中から浮かび上がってきたミニ氷山。先程まではその主が上で倒れていたため隠れていたが透明な氷塊の奥、中心に見えるのは長い金髪ごとその動きを停止させた全裸の爆乳の姿。
「……………………おおう」
「所長。相手が誰であれ女性の裸をジロジロ眺めるのはあまり感心しませんが」
すうっと、周囲の気温が少しばかり下がった気がしたが、きっと足元の氷のせいだろうということにしておく。
「で、結局この無駄乳痴女何だったのよ? ここ一連の事件の犯人ってことでいいのかしら」
がしがしと足元の氷を踵で踏みつける氷柱からは何か黒い感情が滲み出ている気がするが、隠す気もないのか金髪全裸の体のある一部分を憎々しげに睨みつけている。
「それは本人に聞いてみないとなんとも言えないけど…………まあ、その、あれだ。過ぎたるは及ばざるが如しっていう言葉がこの国にはあってだな」
「それはアレか!? あたしの何かが世間一般平均ボーダーにすら及んでいないと!! そう言いたいわけか!?」
「…………はぁ」
ぎゃーぎゃー騒ぐ二人を横目にしながら小さく溜息を吐くのは、平均ラインをぶっちぎって周回遅れにさせかねない人物である。
二人共ほんの数分前まで文字通り命の危機に瀕していたはずなのだが、そんなのはいつもの事だと言うように普段の調子でふざけあう姿に呆れた様子で首を振る。
「とりあえず一度陸に上がりましょうか。千里さんと詩織さんも心配しているでしょうし」
「そうしよう、いつまでも氷の上につっ立ってる格好でもないしな」
真夏とは言え場所が場所。床冷えどころか冷気そのものが這い上がって来るような氷上で、海パン一丁にビーチサンダルでは長居しようという気は出てこない。
「氷柱、コレを浜まで動かせるか?」
相一はそう言って二人の待つ砂浜を指す。
「あーはいはい」
対して氷柱は仕方がないという風に頭をかき、憎き爆乳を囚えている氷の牢へ膝をついた。そのまま氷に手をかざすと船の舵を切る様にニ人の待つ方向へと振り向ける。その動きに従うように皆を乗せた氷の塊が向きを変え、ゆっくりと浜辺に向かって進みだした。
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