吸血秘書と探偵事務所

かみこっぷ

文字の大きさ
上 下
52 / 72

問題発生

しおりを挟む
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「なんか氷柱ちゃん、すごい焦ってる風に見えるんですけどなにかあったんですかね?」

「さあ? 一応何かトラブルがあった場合の合図は決めてありますから、それが無いという事は特に問題ないということでしょう」

「というより…………単に氷柱ちゃんが…………はしゃいでるだけのようにも…………」

当の二人からすれば割りとシリアスな場面だったりするのだが、普段の彼らを見ている三人からすると『いつもの事』で済ませられる程度の出来事に過ぎなかった。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「げっほ、ごほがは、はぁーはぁー」

割りと間一髪なタイミングで氷の拘束を解かれた相一は海面から顔を出しながら久方ぶりの酸素をこれでもかと取り込む。

「えっと、あたしが言うのもアレなんだけど…………大丈夫?」

「し、死ぬかと思った。ここ最近で一番、あの世に近づいた、瞬間だった気が、するぞ…………」

「わ、悪かったわよ! …………でも一応あんたにだって責任の一端はあるというか、あんな余計な事言わなきゃごにょごにょ」

氷柱がぼそぼそと漏らした言葉は二人を包む波音に飲み込まれていった。

「はいはい俺が悪うございましたよ。つか、こんだけあからさまにキャッキャウフフとはしゃいでるのに怪しい気配も何も感じなかったな。依頼主によれば被害者は彼女連れの若い男性だったって話なんだけど」

立泳ぎの姿勢を維持したまま相一が困り顔を浮かべる。

「いやあんたもう一つの共通点忘れてんじゃないの? それとも気づいた上で見て見ぬふりをしてるのか」

「くっ…………」

氷柱の言に相一の顔が苦々しく歪む。

「忘れてる様なら教えてあげるわよ、被害者達のもう一つの共通点、それは………………」

「いやあの結構ですんで。ちゃんと覚えてますんで。あーよしそろそろ一回あがって璃亜達と合流――――」

「全員が全員それはもう大層なイケメンだったって事よ!!」

バッキューン、と拳銃を突きつけるようなポーズで相一を指す氷柱は、にやにやと小生意気な笑みを浮かべている。

対してつい先ほどまで若いカップル(イケメン役)を演じていた相一はと言うと。

「いや、ホラ、あれだぞ? 別に自分の事イケメンだとかなんとか思っててこんな作戦を決行したわけではないというかなんというか――――」

居心地悪そうに視線を逸らしながら自己弁護を並べるその姿に事務所の所長として威厳なんてものは欠片も存在しなかった。

「あーはいはい、分かった分かった分かってるって。あんたがそんな現実の見れない残念ナルシスト野郎じゃないって事ぐらい知ってるわよ。そもそも、どう甘く見積もってもいいとこ中の中のくせにイケメン役が務まると…………ってどうしたの?」

見れば相一が海中にある己の足元辺りをじっと見つめている。

「ん、ああさっき足の辺りで何かが動いたような気がして」

「何かって何よ。もしかして鮫とか?」

「そりゃあ困るな」

その言葉とは裏腹に彼からは焦りや緊張といったもが感じられない。唯の人間である彼だけの場合ならまだしも、超常の力を振るう妖怪が目の前にいる状態では鮫の一匹や二匹大した問題では無いという様に。

「まあともかく、コレ以上続けても成果は無さそうだし一度戻ってみましょうか」

当の妖怪本人も臆する様子を見せること無く、

『そうだな』

その一言は大きな水飛沫とその音によって塗りつぶされ、氷柱に届く事はなかった。

「え? そうい――――――ち!?」


そこに居たはずの者の姿が無い。場所は海の真ん中、当然ながら姿を隠せる遮蔽物など存在しない。

ただ一箇所…………自然に立つ波とは明らかに違う、不自然に海面が揺らいでいる場所があった。まるで、溺れかけた人間が水面下で必死にもがいているかのような。

「まさか――――――ッ!?」

足でもつったのではないか、等という呑気な事を考える程間の抜けた頭をしている氷柱ではない。

相一の姿が視界から消えた瞬間、すでに思考のスイッチは日常ラブコメのソレから正反対に位置する物へと切り替えた。

氷柱はその右手に小さな拳を作るとそのまま海面を殴りつける。

ドッパァン!! と意外な程大きな飛沫が上がった理由は浜辺に居た璃亜達からも確認できた。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?

寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。 ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。 ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。 その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。 そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。 それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。 女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。 BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。 このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう! 男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!? 溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

後宮の裏絵師〜しんねりの美術師〜

逢汲彼方
キャラ文芸
【女絵師×理系官吏が、後宮に隠された謎を解く!】  姫棋(キキ)は、小さな頃から絵師になることを夢みてきた。彼女は絵さえ描けるなら、たとえ後宮だろうと地獄だろうとどこへだって行くし、友人も恋人もいらないと、ずっとそう思って生きてきた。  だが人生とは、まったくもって何が起こるか分からないものである。  夏后国の後宮へ来たことで、姫棋の運命は百八十度変わってしまったのだった。

処理中です...