吸血秘書と探偵事務所

かみこっぷ

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事務所の頼れる美人秘書

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「――――と、ここまでが先んじて警察の方に教えて頂いた話なのですが間違いはありませんか」

昼食を終え一息ついた所から仕事の話となり、璃亜が手帳から顔を上げ海の家の親父兼観光協会会長の前橋さんへ視線を投げかける。

「ええ、はい。間違いありません」

午後二時。海の家の事務室にて本来の目的である立て続けに起こる不自然な水難事故についての詳しい説明を受けている所だ。ちなみに一応仕事ということで詩織ちゃん達は外で待ってもらっている。氷柱と千里は事務所の一員ではあるので居ても問題は無いのだが、詩織ちゃん一人放っておく訳にはいかないので三人揃って待機、ということにしてもらった。

「その話にあった被害者の共通点なんだけど、何でも若い…………イケメンって以外にもあるらしいがそれは…………?」

「まあ、一つ目の共通点から考えれば特別不自然という訳でも無いんですが。被害に遭った男性の全員が恋人と来ていた、という事ですかね」

被害者全員イケメンで彼女持ち、と……………………。ますますどうでも良くなってきたなこの事件。

「………………よし、今日はこれで解さ――――」

「所長」

「――――んな訳にはいかないなさっさと調査して断波海水浴場に平和を取り戻そうじゃないか」

美人秘書の表情が非難一色に歪むのを見て華麗な軌道修正を図る。

「………………本当に引き受けて頂けるんですか? いくら警察を通しての紹介とは言え傍から見れば唯の不幸な偶然が続いただけかもしれないこんな話を?」

前橋さんが心配そうな顔を浮かべる。彼からすればこの夏真っ盛りの時期に客足が遠のくのは生活の面から見ても死活問題なのだろう、不安に思うのは当然だ。

「もちろん本当に唯の事故が重なっただけ、という可能性もあります。が、もしそこに人ならざるモノが絡んできた場合、警察組織だけで充分な対応をするのは現行の法律制度の面から見ても困難です」

俺の隣に控える璃亜がすらすらと述べる言葉に前橋さんの顔色がより一層暗く沈んでいく。

「あの、依頼する側がこんな事を言うのもどうかと思うんですが、警察でも対応が難しいとされる…………その、妖怪なんて存在が関わっていた場合皆さんだけで解決できるものなのでしょうか?」

まあ前橋さんの心配も尤もな物だろう。彼からすれば生活が掛かった問題なのだ、本当に俺達が断波海水浴場で続く異常を取り除く事ができるかどうか不安に思うのは分かる。そんな依頼主の不安を和らげ安心を与えるのも所長たる俺の勤めだろう。

そんな訳でここは多少大げさにでも気楽に振る舞うべきだと判断した俺は

「もッちろん! 異常超常妖怪絡み! なんでもござれの探偵事務所あまやな――――」

「すいません所長少し黙っててもらえますか」

璃亜がその細く白い腕を使い俺の言葉を遮った。え、今の俺そんなにうっとうしかった? まだ全然外明るいよな? 夜モードじゃないよな? そんな冷たくあしらわれる程今の俺のテンション煩わしかった?

クール系秘書の肩書に偽りなしという様に冷えた声色を被せてくる。

「ご心配には及びません。我々天柳探偵事務所は通常の探偵業務の傍ら、数々の怪異が関わる事件を解決してきた過去があります。中には警察を始めとする公的機関からの依頼も含まれておりその実績はお墨付きと言えるでしょう。それに――――――」


そこで一旦言葉を区切るとちらりと俺の顔に視線を移し、またすぐに前橋さん方へと向き直った。

「所長は普段はこの通りですがひとたび依頼を受ければ頭脳明晰快刀乱麻、如何なる困難も乗り越え立処に解決へと導く頼りになるお方です。必ずや依頼主様にご満足して頂ける結果を出す事を約束致しましょう」

なにやら、おおという感嘆の声を漏らす前橋さんを横目に璃亜がこんな感じでよろしいでしょうか? といったニュアンスの目配せをしてきた。

どうやら彼女も俺と同じくまずは依頼主の不安を取り除き俺達が信頼出来る集団だと分かってもらおうとしていたようだ。俺の言葉を一度遮ったのは軽く明るいノリで向かうより、警察などおよそ大半の人間が信頼を置く組織の例を挙げる方が効果的に相手を説得できるとここまでの彼の反応から判断したためだろう。

どちらかというとその場のノリと勢いで話を進める俺からすればこうして細かい所で気を回しサポートしてくれる彼女の存在は我が事務所にとってかけがえの無いものだと改めて認識する。

ほんと頼りになるやつだ。

「とまあ、そんなわけなんで大船に乗ったつもりで待っててください」
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