吸血秘書と探偵事務所

かみこっぷ

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到着、絶波海水浴場

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「とうっちゃーく!!」

天柳探偵事務所の最寄り駅から約二時間、電車に揺られて辿り着いたのはもちろん件の断波海水浴場である。

夏の日差しに晒された白い砂浜は焼けた鉄板のように熱を持っており立ち止まっていれば火傷してもおかしくない。

「思ったより人が少ないですね。やはり最近事故が多発しているというのが原因でしょうか」

璃亜の言うとおり夏休みシーズンのど真ん中といっていいこの時期に人影はまばらで、普段なら客で溢れ返っている筈の海の家も店主が暇そうにテレビを眺めている程だ。

「ヴぁーあづー。溶ける、これはマジで溶ける」

「さすがに…………暑いですね…………」

「何言ってるの二人共! せっかく海まで来たんだからこれでもかってぐらい暑い方がテンションあがるでしょ!」

「おいおいお前ら一応今日は仕事で来てるんだぞ。あんまりはしゃぎ過ぎるなよ」

「所長その格好で言っても説得力がありませんよ」

天柳探偵事務所の所長は現在海パン一丁であり、首からはシュノーケル付きの水中メガネをぶら下げ両手にビーチボール、そして頭から大きめの浮き輪をすっぽりと被っている状態だ。

「いやーだって海だぜ海。海水浴なんて久しぶりだしなんだかんだ言ってテンション上がるもんだって」

子供の様にはしゃぐ所長の横でため息をつく璃亜。黒のビキニで身を包む彼女の肢体は出るとこは出て引っ込む所は引っ込んでいる、一言で言ってしまえばボンキュッボンというやつだ。

「ふわぁー秘書さんの、すご…………」

同姓の詩織からみても思わずため息が漏れるほどの魅力を秘めた体の持ち主にその自覚は無いのか背中を反らし軽く伸びをしている。当然、その動きに引っ張られる様に立派ながモノ激しすぎる自己主張をするわけだが…………

「ちょっと璃亜、それはあたしへの当て付けか何かか!! あぁん!?」

メリハリの効いたボディを惜しげも無く披露する吸血鬼の隣で氷柱がゲンナリした顔を浮かべているのは、彼女が雪女でここが真夏のビーチという自分の属性とは正反対のフィールドに立たされている事だけが理由では無さそうで。

「氷柱ちゃんはホラ、スラっとしてて無駄の無いスタイルっていうか――――」

「いらねーんだよそんなフォロー!! 余計悲しく――――って、別に気にしてないから悲しくも何とも無いんだけど!」

青白ツインテールを振り乱しながら詩織に掴みかかる雪女は水色と白の縞柄セパレートタイプの水着を身につけている。詩織が言った通り氷柱のボディラインに無駄は無く、璃亜の起伏豊かな体をアルプス山脈とするならば彼女のそれは盆地・平野の類と言え――――

「誰のドコが盆地平野の類だゴラぁ!!」

「げぶふゥッ!?」

拳大の氷の塊を顔面で受け止めた相一は缶けりの缶の様に景気良く転がっていく。…………熱々に焼けた白い砂浜の上を。

「あっづァァァァァァァァ!! 痛熱い!! 砂がッ、熱々の砂が海パンの中にぃッ!」

「うわー良い勢いで飛んでったね」

「所長さん…………熱そうです…………」

とか言いながらものんびり彼の惨事を見守っている辺り、こういった騒動は見慣れた光景なのだろう。

「いきなり何すんだよ!!」

「言った通りよ! 人の事平地だの盆地だの好き勝手言いやがって」

「え、あれ俺口に出してた?」

「途中からダダ漏れだっつーの! 大体、普段璃亜の立派なモノばかり見てるから世の妖怪みんながみんなおっぱいオバケだとでも思ってんじゃないでしょうね!?」

相一目掛けてピストルの様に構えた右手から小さな氷弾を撃ち出しながらツインテールの雪女が声を上げる。

その横では花柄のビキニを身に着ける平均的な凹凸の持ち主である中原詩織と、スクール水着によく似たデザインの真っ白な水着を纏うちびっ子三千千里が他人ごとでは無い話題に耳をそばだてていた。

「普段から見てる…………って事はやっぱり探偵さんと秘書さんてそういう関係――――」

「な、何言ってるんですか詩織さん! 私と所長が――――そんな、そんな事する訳…………」

クール系美人(ここ重要)の秘書が頬を僅かに紅潮させその細く華奢な腕を振りながら否定する。

「え、何そのガチな反応…………? ちょっと待って、え? いや…………マジで?」

「ストップストップ! ハイこの話終わりさあ海行こうさあ泳ごう、折角海に来たんだし楽しまねぇと!」

「わたし…………気になります…………!」

「子供は気にしなくてもいいんだよッ!!!!!」

人影まばらな海水浴場にとある探偵事務所の所長の叫びこだまがした。
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