上 下
22 / 44

22

しおりを挟む
しばらく進んでいると、目を疑うような光景が広がっていた

「ここが目的地だよ」
馬車を止めて全員が外に降りる

《人間の娘か……何しに来た
俺様の眠りを妨げてまでここに来るような用件なんだろうな》
全長がどれぐらいなのかも分からない蛇のような魔物がいた。その魔物は地面に空いている穴の中に体を入れているのでどのぐらい長いのかは分からないが顔だけでも五メートル位のサイズなので全長もかなり長いのかもしれない

「起こしてしまったならすまない。主(ぬし)よ
しかし、聞きたいことがあってきたのだ」
《ほう。俺様に聞きたいことか、なんだ?》

「ついたー」
「ここの魔物は本当強いな」
「マスターが何とかしてくれてたからなんとかこれたしな」

朝、ギルドで同時にここへの調査を依頼された冒険者達が到着した
七つのパーティに依頼されたらしく、その全部が今到着した。主と呼ばれる魔物の回りには何故か魔物が全く近寄ってこずに安全地帯となっていた

「静かにしなさい!今は主との話中だ!」
たどり着けたことでザワザワしていた空気がピリッとした
「すまない。主よ。私の仲間達が失礼をした」
アンリエッタさんは頭を下げ主に謝る
《ふふふふ、相変わらずだな娘よ。覇気は全く衰えてはいないようだな。して、俺様に聞きたいことってのはなんだ》
主は大きな目でアンリエッタさんをじっと見る

蛇に睨まれた蛙かの様に、ここにいる何人かは恐怖で身動きができたくなっていた
五条、藤城、篠宮も動けなかった

「聞きたいことは昨日のことだ。近くに大量の魔物が来ていたんだが何故動かなかったのかと思ってな」
《ここの近くを通った魔物などいない。何者かの転移能力にて出現したようだ》
「転移能力?しかし、あの量の魔物を召喚できるものなど存在しているのか?」
《さぁな、しかし転移したのは確かだ。その中には俺よりも格上の奴もいたようだ、もし戦っていたら俺は今ここには居なかっただろうな》
「そんな奴もいたのか!?名前はなんと言うんだろうか」
《伝説の海の回遊者である、阿修羅神鮫あしゅらしんこうだ。しかし、安心せよ阿修羅神鮫あしゅらしんこうは穏やかな者でな、こちらから仕掛けなければけして襲ってくることはない》

主ですら格上って言い張る魔物ってどんなのだろうか?少し気になるな
《それを聞きに来たのか》
「その通りだ、いや助かった。感謝するぞ主よ」
これで終わりらしい。他の冒険者が来た意味なかったな
もしも主が殺られていた場合とかのために、こんなにたくさんの冒険者を集めていたんだろうな

「さて、我々はもう帰ることにする。行きなり押し掛けてきてしまってすまなかった」
その声と同時に全員が馬車に乗り込む
《娘よ、今からでは暗くなる。戻るのなら急いだ方が得策だ》
主は心配してくれているのか少しだけ言葉に角がなくなった

「心配はないさ、ではまた。失礼する」
俺たちの馬車が先頭になり島の中を移動する。来たときに比べると比較的にスムーズに進めた。バブルロードを渡り島を出る

何もせずに終わったので全く疲れなかった、帰りはアンリエッタさん、サリアさん、アサヒさんに主のことやこの土地のことなんかを聞いて時間を潰した

しばらく進んでいると暗くなってくる
「これ以上は止めておこう、全員夜営の準備をしてくれ!見張りは各パーティで一時間ずつ、私たちが最初にやるから後は決めておいてくれ」
「「「はい」」」

簡単なテントを張り、見張りを一時間したら男女に別れて寝る
「やっぱりすごかったな。主って呼ばれる魔物はさ」
睨まれたら一歩も動けないぐらい……いや、動いたら死ぬという錯覚さえ感じてしまうほどのプレッシャー。あんなものもとの世界じゃ味わえるものじゃない
味わう機会があったら不味いが

「だな、俺たちももっと強くなって活躍したいもんだな!」
隆二はニカッと笑う。以前の創ならそう考えていたかもしれない。しかし、創の心には全く違う気持ちがあった

あんなのに勝てるわけないという恐怖が

クソッこんなのは俺じゃない!今までだってずっと俺が中心だったんだ!絶対俺がすぐに全員を引っ張れるぐらいに強くなってやる
「捧げよ……に……の願い…を…………与える」
この声も馴れてきたな、段々とハッキリ聞こえるようになってきてるし

二人とも寝袋に入り、目を閉じる
「お互いに頑張ろうぜ!お前なら佐藤にだって勝てるようになるって」
気遣うように優しく言ってくる
「ああ、何がなんでも強くなって見せるさ。どんなことをしてもな」
「はは、お前なら本当にやりそうだから期待してるぜ!」
励まされながら眠りにつく




「ふふふふふふふふ。大丈夫よ、貴方は王になるのだから
私の力を使って貴方は絶対的な支配者となるのよ
楽しみだわ、早く私を解放してね。一緒に高みを目指しましょう

私の可愛い可愛い坊や」





大きな音で目を覚ます
「なんだ?この音」
既に日は昇っている。寝起きの頭を動かし、状況を理解する
どうやら魔物が出てその撃退をしているらしい
「創!すぐに戦闘準備だ!!全員もう戦ってる!仁美と外にいるから急いでくれ」
鎧を来て今まで戦っていたであろう汚れている格好で隆二がテントに飛び込んできた

「分かった、すぐ行く」
準備をし外に出る。そこには大量の虫型の魔物がいた
「なん…だ?……これ」
数千匹の虫を見たことで動揺を隠せない

「急げ!創!この虫のせいで仁美がほとんど役に立たなくなってる。お前のスピードならこんな虫蹴散らせるだろ!」
なるほど、確かに仁美は虫にはとことん弱いからな。そのくせにこういう大変なときは力になろうと無理をするから心配だな

「分かった。すぐに行こう」
縮地を使いすぐに仁美の近くに行く
「大丈夫か!仁美!」
「創さん!なんでここに!」
馬車の中から弓で攻撃している仁美がこちらを向く。その瞬間にバッタに似た魔物が跳びかかったので縮地を使いつつその勢いのまま短剣で切る
「近くは俺に任せろ!遠くの援護と回復を頼む!」
「分かりました!ありがとうございます」


十数分後
「いつになったら終わるんだ!」
「さぁな、全く終わる気がしねーよ!」
「弓ももうありません!」
全く減ることのない虫に悪戦苦闘していた。虫の魔物は三方向から来ているらしくアンリエッタさん達はそれぞれ別れて対処している
冒険者たちも戦っており馬車を守るのですら苦労していた

「アサヒ!サリア!虫の出所を潰してきて!このままでは守りきれない!」
遠くで戦っているアンリエッタさんが大きな声を出して二人に指示を出す

二人の抜けた穴は他の冒険者がカバーしているが徐々に押され始めている。既に馬車は半壊してあるものさえある
アンリエッタさんは二人とは違い圧倒的な攻撃力でほとんどの魔物を蹴散らしながら進むので、抜けても余りにも影響はなかった
「クソッ俺にもっと力があれば!クソッ!」
守れない悔しさからそんな言葉が出る

「なら……私の力を使いなさい」

急に辺りが静になる
何事かと辺りを見渡すと全てが止まっていた

「なんだ……これ」
後ずさりしながら誰に聞くでもなく呟く
「これは私の力の一部です」
上から声が聞こえたのでそっちを見ると、不思議な雰囲気を纏う少女が浮いていた
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

公爵令嬢は父の遺言により誕生日前日に廃嫡されました。

夢見 歩
ファンタジー
日が暮れ月が昇り始める頃、 自分の姿をガラスに写しながら静かに 父の帰りを待つひとりの令嬢がいた。 リリアーヌ・プルメリア。 雪のように白くきめ細かい肌に 紺色で癖のない綺麗な髪を持ち、 ペリドットのような美しい瞳を持つ 公爵家の長女である。 この物語は 望まぬ再婚を強制された公爵家の当主と 長女による生死をかけた大逆転劇である。 ━━━━━━━━━━━━━━━ ⚠︎ 義母と義妹はクズな性格ですが、上には上がいるものです。 ⚠︎ 国をも巻き込んだ超どんでん返しストーリーを作者は狙っています。(初投稿のくせに)

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

もしかして私ってヒロイン?ざまぁなんてごめんです

もきち
ファンタジー
私は男に肩を抱かれ、真横で婚約破棄を言い渡す瞬間に立ち会っている。 この位置って…もしかして私ってヒロインの位置じゃない?え、やだやだ。だってこの場合のヒロインって最終的にはざまぁされるんでしょうぉぉぉぉぉ 知らない間にヒロインになっていたアリアナ・カビラ しがない男爵の末娘だったアリアナがなぜ?

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

RPG「テクノポリスSF」

にっしー🎲
ファンタジー
ある、ゲームソフト。

処理中です...