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第一部
第二話「天国への階段」
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◇
暗闇の中でレコードが回っている。
オジー・オズボーン、1980年のライブ盤。23歳のランディ・ローズはまだそこに生きていて、艶やかな轟音を奏でている。三曲目はそれを聞いて自殺してしまった少年が居て、裁判沙汰になったという曰くつきの曲だった。
それを聞いて私はどうか、と言われれば。よくわからない。和訳した歌詞を見れば多少は納得する部分もあったけれど、それだけ。聞いたからといって別に死にたくはならない。
今日死ぬと決めているのに。そう思うと不思議だった。
吐き気を堪えながら、最後のビール缶を胃に流し込む。レコードの針を上げて、ヘッドホンを外す。時計は三時。ジャージに袖を通し、ギターケースを背負って部屋を出る。家の中なのに吐く息は白く、床は氷でも張ってるみたいに冷たい。四月ってなんだろうな。ちっとも春じゃない。そんなことを思う。
カラカラと鳴る玄関の横引き戸を開けると、更に冷たい空気が頬を撫でた。たまらずジャージのポケットに手を突っ込むと、そこに入れっぱなしだったモノに気づく。
古びた煙草と傷のついたライター。くしゃくしゃの箱の中にはまだ二本だけ残っていた。どうせだからとその中の一本を口に咥え、火を付ける。
「――、」
流石にもうむせ込みはしないけど、相変わらず酷い味だった。ひどく酔っているからなのか、煙草の賞味期限がとっくに過ぎているからなのか、そもそも煙草がこういうものだからなのか。分からない。正直どうでもよかった。単にこれは自傷行為だ。手首にカッターとかそういう甘ったれた、くだらないやつ。自分で色を抜いて、真っ赤に染めた髪の毛にしてもそう。そんな事をして、どうやら私は安心したいらしい。
白い煙を吐きながら歩道を歩く。深夜の住宅地には、当たり前だけど誰の姿もない。こんな時間に一人で外を出歩いている私は、傍から見れば不良か、どこか頭のおかしい奴に見えるんだろう。
けれどそれは別に間違っていない。
私は、不良品だ。
だって、普通の人が当たり前にできる事ができない。
目を見て話す。空気を読む。電話に出る。愛想笑いをしてみせる。
そんな簡単な事すらろくにできない。
ただ、普通に。生きる事すらも。
いつから、といえば多分途中から。
小さい頃の私はよくいる普通の子供だったと思う。
だけど年を取るたび、私は少しずつ他人とズレていった。
それが決定的になった切っ掛けは、きっとほんの些細な事だったと思う。それが具体的に何だったのかはもう思い出せないけれど。周りより大人になるのが少し早かったのだと誰かが言って、私はその言葉を信じていた。
けれど、実際は真逆だった。
音無。その名字の通りおとなしい子だと、大人びていると周りによく言われた。
だけど違った。私は、子供だった。
大人の振りをしているだけで、本当は他の誰よりも幼かった。
十歳になった頃、私は同世代の人間をわけもなく嫌悪するようになっていた。彼らの無駄に大きな声や彼女達のどうでもいい話題の全てが耳障りで、目障りで、いつも苛ついてばかりいた。
周りに馴染めないなんていうのは普通に考えれば良くない事だ。他人に合わせる事で社会は成り立つのだから、嫌でも何でも馴染まなければならない。だけど私はそれをする努力をせず、何故かそれをむしろ誇りに思い、冷めた顔をして彼らを見下し始めたのだった。
私はお前らとは違う、だなんて。
それこそ子供みたいなことを思いながら。
無味乾燥な学校生活はあっという間に過ぎていった。小学校には途中から通わなくなった。中学に入っても休みがちで、授業を受けず別室で自習ばかりしていた。
高校に入ってからはバンドを組んで、ギターを弾いて、ライブをして。人並みには人らしいことをして過ごしたけれど。残ったものはなにもない。強いて言うなら、拳が空を切るような虚しさだけ。
くだらない人生だったと思う。四六時中つまらなそうな顔をして、何かを分かった気になって。それで私は一体何がしたかったんだろう。薄っぺらい大人の仮面を被っている間に、周りの子はどんどん大人になって、気づけば私だけが子供のまま取り残されていた。
今年で二十歳になる。そんな実感は、まるでない。
私はまだ高校に通っている。悪い冗談だと、そう思いたい。
だけど、これが現実だった。
卒業するはずだったあの年に、私はひどく馬鹿な真似をして、それから一年半も学校を休んだ。色んな人に迷惑をかけて、失望させた。
――なのに。これは本当に救いようがない話。
私はそれを償おうともせず、逃げようとしている。
同じことを、繰り返そうとしている。
住宅地を抜け、河川敷を歩く。そこまではいつもの高校への通学路。目的地は河川敷にかかる橋を渡った川向こうにある。
廃墟。何かの工場の跡地。いつからこうなのかは分からない。ただ似たような建物が近くにはいくつもあって、埃の被った機械や、赤く錆びたガラクタがあちこちに転がっている。
目を付けていた建物に入る。縦も横もそう広くはない、倉庫のような場所。屋根は剥がれ、見上げれば交叉する鉄骨超しに星空が見えた。一番低い位置にある鉄骨は三メートルくらいの高さにある。吊るための紐は下見の際にその鉄骨に仕掛けておいた。念の為、輪を掴んでぶら下がってみるけど、縄は解けない。
だから多分、大丈夫だろう。
足場にする為のコンテナに一旦、腰を落ち着ける。最後の煙草に火を点けた後、今日も結局持ってきてしまったギターケースから中身を引っ張り出した。
ギブソン・レス・ポール・カスタム。1974年製。八十年代、当時大学生だった私の父親が必死にお金を貯めて買った値打ち物だ。あちこち傷だらけ、白い塗装は経年とヤニで黄ばんだクリーム色に変わっていて、見た目だけならランディ・ローズが使っていたものにそっくり。高校に入った時、父さんはこれを私に譲ってくれた。
こんなものを持ち出してくる必要はなかった。だけど背中にこの重みを感じていると私は気分が落ち着くのだった。十歳、学校を休むようになった頃に始めたエレキギターは、もう私の身体の一部みたいなものだったから。真夜中にこんな薄気味の悪い場所に足を踏み入れられたのも、きっとこれが私を守ってくれているような気がしていたからだろう。
煙草を吹かしながら手癖のフレーズを弾く。クロマチックの運指から、ヴァン・ヘイレン、イングヴェイ。当たり前だけど、電気を通さないエレキの生音は味気の無いものとして響いた。ひとしきり虚しさを噛み締めた後、茫然と空を見上げる。
――最後に何を弾こう。
考えるまでもなく、自然と指はそれを爪弾いていた。
ランディ・ローズの「Dee」。
小さい頃、眠れない夜に父さんがよく弾いてくれた曲。
悪魔のようなボーカルの横に立つ、天使のようなギタリスト。オジー・オズボーンのソロバンドの初代ギタリストだったランディは飛行機の墜落事故で25歳という若さでこの世を去った。
類稀なるメロディーセンスを持った彼の弾くフレーズはどれも印象的で、緩急が利いた決して多すぎない音数の中に緻密な計算が施されている。
この「Dee」という曲は特にそう。演奏時間は一分もない、ギター一本のとても短い曲。その壊れそうなほどに繊細なメロディーを、どう比喩したらいいのか。私にはわからない。ただ思い起こすのは、ひどく懐かしい光景。煙草の香りがする部屋でギターを爪弾く父の姿。私はぼうっとそれを見つめながら、何も怖れることなく、微睡みの淵に落ちていく。
弾きながら眼を閉じると、やっぱり父さんの顔が思い浮かんだ。
『――楓』
ある朝のこと。
玄関の扉を開ける私に、痩せ細ったその人が穏やかに声を掛ける。
私は何かを言いかけて、何も言えないまま家を出る。
『――いってらっしゃい』
あれはもう、二年も前の事。
ハーモニクスの音が虚しく響く。そしてシャボン玉が弾けるみたいに呆気なく、懐かしいユメは終わりを告げた。瞑っていた目を開けると、そこにはもう誰も居ない。
「……お父さん、」
最後にそう呼んだのはもう、いつのことだろう。
いつからか、面と向かって言えなくなった。
そして言いたい事も、言えなかった事も。
全部言わせてくれないまま、あの人は遠くに行ってしまった。
辛いのは誰も一緒だと母親は言った。それはその通りだろう。あの年に家族を亡くした人はきっと大勢いる。何も私たちだけが特別に不幸なわけじゃない。辛かろうが苦しかろうが、生まれた以上、人は生きていかなくてはならない。
立ち上がるべきなのだと分かっていた。――他の人たちと同じように。
だけど私は、――ふつうじゃないから。他の人たちと同じ事ができなかった。
(もう、いいか)
そろそろ限界も近い。大量のアルコールと丸一日寝ていない身体の組み合わせは予想通りに最悪で、猛烈な眠気と不快感が、あらゆる現実味をなくさせる。
ギターをケースに戻し、近くにある大きな機械に立てかけた。ジャージのポケットから音楽プレイヤーを取り出し、イヤホンを耳に捻じ込む。選んだのはオジー・オズボーンの「グッバイ・トゥ・ロマンス」。ランディのギターが天から光が降り注がせるような、神聖さを帯びた美しいバラード。
「……」
箱の上に登り、垂らした輪を首に掛けた。
後ろめたさはある。けれど、他には何もない。
私はどうせ死ぬまで誰かの足を引っ張り続ける。
ならもう、ここで。終わらせるべきだろう。
暗闇の中でレコードが回っている。
オジー・オズボーン、1980年のライブ盤。23歳のランディ・ローズはまだそこに生きていて、艶やかな轟音を奏でている。三曲目はそれを聞いて自殺してしまった少年が居て、裁判沙汰になったという曰くつきの曲だった。
それを聞いて私はどうか、と言われれば。よくわからない。和訳した歌詞を見れば多少は納得する部分もあったけれど、それだけ。聞いたからといって別に死にたくはならない。
今日死ぬと決めているのに。そう思うと不思議だった。
吐き気を堪えながら、最後のビール缶を胃に流し込む。レコードの針を上げて、ヘッドホンを外す。時計は三時。ジャージに袖を通し、ギターケースを背負って部屋を出る。家の中なのに吐く息は白く、床は氷でも張ってるみたいに冷たい。四月ってなんだろうな。ちっとも春じゃない。そんなことを思う。
カラカラと鳴る玄関の横引き戸を開けると、更に冷たい空気が頬を撫でた。たまらずジャージのポケットに手を突っ込むと、そこに入れっぱなしだったモノに気づく。
古びた煙草と傷のついたライター。くしゃくしゃの箱の中にはまだ二本だけ残っていた。どうせだからとその中の一本を口に咥え、火を付ける。
「――、」
流石にもうむせ込みはしないけど、相変わらず酷い味だった。ひどく酔っているからなのか、煙草の賞味期限がとっくに過ぎているからなのか、そもそも煙草がこういうものだからなのか。分からない。正直どうでもよかった。単にこれは自傷行為だ。手首にカッターとかそういう甘ったれた、くだらないやつ。自分で色を抜いて、真っ赤に染めた髪の毛にしてもそう。そんな事をして、どうやら私は安心したいらしい。
白い煙を吐きながら歩道を歩く。深夜の住宅地には、当たり前だけど誰の姿もない。こんな時間に一人で外を出歩いている私は、傍から見れば不良か、どこか頭のおかしい奴に見えるんだろう。
けれどそれは別に間違っていない。
私は、不良品だ。
だって、普通の人が当たり前にできる事ができない。
目を見て話す。空気を読む。電話に出る。愛想笑いをしてみせる。
そんな簡単な事すらろくにできない。
ただ、普通に。生きる事すらも。
いつから、といえば多分途中から。
小さい頃の私はよくいる普通の子供だったと思う。
だけど年を取るたび、私は少しずつ他人とズレていった。
それが決定的になった切っ掛けは、きっとほんの些細な事だったと思う。それが具体的に何だったのかはもう思い出せないけれど。周りより大人になるのが少し早かったのだと誰かが言って、私はその言葉を信じていた。
けれど、実際は真逆だった。
音無。その名字の通りおとなしい子だと、大人びていると周りによく言われた。
だけど違った。私は、子供だった。
大人の振りをしているだけで、本当は他の誰よりも幼かった。
十歳になった頃、私は同世代の人間をわけもなく嫌悪するようになっていた。彼らの無駄に大きな声や彼女達のどうでもいい話題の全てが耳障りで、目障りで、いつも苛ついてばかりいた。
周りに馴染めないなんていうのは普通に考えれば良くない事だ。他人に合わせる事で社会は成り立つのだから、嫌でも何でも馴染まなければならない。だけど私はそれをする努力をせず、何故かそれをむしろ誇りに思い、冷めた顔をして彼らを見下し始めたのだった。
私はお前らとは違う、だなんて。
それこそ子供みたいなことを思いながら。
無味乾燥な学校生活はあっという間に過ぎていった。小学校には途中から通わなくなった。中学に入っても休みがちで、授業を受けず別室で自習ばかりしていた。
高校に入ってからはバンドを組んで、ギターを弾いて、ライブをして。人並みには人らしいことをして過ごしたけれど。残ったものはなにもない。強いて言うなら、拳が空を切るような虚しさだけ。
くだらない人生だったと思う。四六時中つまらなそうな顔をして、何かを分かった気になって。それで私は一体何がしたかったんだろう。薄っぺらい大人の仮面を被っている間に、周りの子はどんどん大人になって、気づけば私だけが子供のまま取り残されていた。
今年で二十歳になる。そんな実感は、まるでない。
私はまだ高校に通っている。悪い冗談だと、そう思いたい。
だけど、これが現実だった。
卒業するはずだったあの年に、私はひどく馬鹿な真似をして、それから一年半も学校を休んだ。色んな人に迷惑をかけて、失望させた。
――なのに。これは本当に救いようがない話。
私はそれを償おうともせず、逃げようとしている。
同じことを、繰り返そうとしている。
住宅地を抜け、河川敷を歩く。そこまではいつもの高校への通学路。目的地は河川敷にかかる橋を渡った川向こうにある。
廃墟。何かの工場の跡地。いつからこうなのかは分からない。ただ似たような建物が近くにはいくつもあって、埃の被った機械や、赤く錆びたガラクタがあちこちに転がっている。
目を付けていた建物に入る。縦も横もそう広くはない、倉庫のような場所。屋根は剥がれ、見上げれば交叉する鉄骨超しに星空が見えた。一番低い位置にある鉄骨は三メートルくらいの高さにある。吊るための紐は下見の際にその鉄骨に仕掛けておいた。念の為、輪を掴んでぶら下がってみるけど、縄は解けない。
だから多分、大丈夫だろう。
足場にする為のコンテナに一旦、腰を落ち着ける。最後の煙草に火を点けた後、今日も結局持ってきてしまったギターケースから中身を引っ張り出した。
ギブソン・レス・ポール・カスタム。1974年製。八十年代、当時大学生だった私の父親が必死にお金を貯めて買った値打ち物だ。あちこち傷だらけ、白い塗装は経年とヤニで黄ばんだクリーム色に変わっていて、見た目だけならランディ・ローズが使っていたものにそっくり。高校に入った時、父さんはこれを私に譲ってくれた。
こんなものを持ち出してくる必要はなかった。だけど背中にこの重みを感じていると私は気分が落ち着くのだった。十歳、学校を休むようになった頃に始めたエレキギターは、もう私の身体の一部みたいなものだったから。真夜中にこんな薄気味の悪い場所に足を踏み入れられたのも、きっとこれが私を守ってくれているような気がしていたからだろう。
煙草を吹かしながら手癖のフレーズを弾く。クロマチックの運指から、ヴァン・ヘイレン、イングヴェイ。当たり前だけど、電気を通さないエレキの生音は味気の無いものとして響いた。ひとしきり虚しさを噛み締めた後、茫然と空を見上げる。
――最後に何を弾こう。
考えるまでもなく、自然と指はそれを爪弾いていた。
ランディ・ローズの「Dee」。
小さい頃、眠れない夜に父さんがよく弾いてくれた曲。
悪魔のようなボーカルの横に立つ、天使のようなギタリスト。オジー・オズボーンのソロバンドの初代ギタリストだったランディは飛行機の墜落事故で25歳という若さでこの世を去った。
類稀なるメロディーセンスを持った彼の弾くフレーズはどれも印象的で、緩急が利いた決して多すぎない音数の中に緻密な計算が施されている。
この「Dee」という曲は特にそう。演奏時間は一分もない、ギター一本のとても短い曲。その壊れそうなほどに繊細なメロディーを、どう比喩したらいいのか。私にはわからない。ただ思い起こすのは、ひどく懐かしい光景。煙草の香りがする部屋でギターを爪弾く父の姿。私はぼうっとそれを見つめながら、何も怖れることなく、微睡みの淵に落ちていく。
弾きながら眼を閉じると、やっぱり父さんの顔が思い浮かんだ。
『――楓』
ある朝のこと。
玄関の扉を開ける私に、痩せ細ったその人が穏やかに声を掛ける。
私は何かを言いかけて、何も言えないまま家を出る。
『――いってらっしゃい』
あれはもう、二年も前の事。
ハーモニクスの音が虚しく響く。そしてシャボン玉が弾けるみたいに呆気なく、懐かしいユメは終わりを告げた。瞑っていた目を開けると、そこにはもう誰も居ない。
「……お父さん、」
最後にそう呼んだのはもう、いつのことだろう。
いつからか、面と向かって言えなくなった。
そして言いたい事も、言えなかった事も。
全部言わせてくれないまま、あの人は遠くに行ってしまった。
辛いのは誰も一緒だと母親は言った。それはその通りだろう。あの年に家族を亡くした人はきっと大勢いる。何も私たちだけが特別に不幸なわけじゃない。辛かろうが苦しかろうが、生まれた以上、人は生きていかなくてはならない。
立ち上がるべきなのだと分かっていた。――他の人たちと同じように。
だけど私は、――ふつうじゃないから。他の人たちと同じ事ができなかった。
(もう、いいか)
そろそろ限界も近い。大量のアルコールと丸一日寝ていない身体の組み合わせは予想通りに最悪で、猛烈な眠気と不快感が、あらゆる現実味をなくさせる。
ギターをケースに戻し、近くにある大きな機械に立てかけた。ジャージのポケットから音楽プレイヤーを取り出し、イヤホンを耳に捻じ込む。選んだのはオジー・オズボーンの「グッバイ・トゥ・ロマンス」。ランディのギターが天から光が降り注がせるような、神聖さを帯びた美しいバラード。
「……」
箱の上に登り、垂らした輪を首に掛けた。
後ろめたさはある。けれど、他には何もない。
私はどうせ死ぬまで誰かの足を引っ張り続ける。
ならもう、ここで。終わらせるべきだろう。
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