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56.縁づくり

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エドワードは、なるべく多くの『王妃の話し相手』候補の夫達と会おうと努めた。それだけでなく、その家が属する家門の本家の当主達にも会って民主過激派に対抗する協力関係を作ろうとしていた。そのために騎士団を視察し、苦しい国庫の中から費用をひねり出して武器を買い集め始めた。

視察を兼ねて下級貴族の候補の夫達を一通り訪ね歩いた後、エドワードは貴族派筆頭のアウトムヌス公爵を王宮に呼び出した。公爵が向かったのは謁見の間ではなく、応接室。そこにいたのは、公爵の側近と宰相リチャードを入れて4人だけだった。エドワードが声をかけると、公爵はすぐに応えた。

「本日はお招きいただき、ありがとうございます。しかしながら、陛下は最近、下級貴族を領地に訪ねまわっていらっしゃると聞きました。私にお声をかけたのは、その後ようやくで少々傷心でございます。この国に四家しかない公爵家だというのに・・・」

「夜会でも高位になればなるほど後で登場するだろう?それと同じことだ。それに他の三公爵家には声をかけていないし、かける予定もない」

「そうでございますか。それはまたなぜ?」

「公爵のことだから、本日の用件はわかっておろう?他の三家には条件の合うご夫人がいないから声をかけないのだ」

アウトムヌス公爵は、『王妃の話し相手』を選考するお茶会に妻を招待したいと言われ、すぐに承知した。『王妃の話し相手』というおかしな地位を既婚夫人に与える計画は公爵の耳にも入っていた。どうやらそれを隠れ蓑にしてエドワードが元婚約者を手に入れるつもりであろうことも。そこまで国王が乱心なら、貴族派の計画を進めるしかない。それには妻が王宮に入り込んでいろいろ探れるのはちょうどよいと公爵は考えた。

「それは一応表面上の理由だが、公爵には協力をお願いしたい」

「何の協力でしょう?それによってはできることとできないことがあるかと存じます」

「今の状況は貴族派とか王家派とか言っている場合ではない。民主過激派に対抗して貴族の結束を高めたい」

「そうは言っても人は損得勘定なしに動くものではございません」

「余は公爵の忠誠心を疑わねばならないのか?」

「いいえ、そうではございません。貴族派と一口に言いますが、彼らは私の臣下であるわけではありません。それぞれが王国への忠誠心を裏切らない範囲で自らに利益があるように動いているのです」

「そんなことを悠長に言っている場合ではなかろう?革命が起きれば王家だけでなく貴族も一網打尽だ」

革命阻止という点では、貴族派も王家派も利害は一致している。だが、革命を阻止した後に望んでいる政治体制は両派で乖離している。貴族派は王家の権力を削いで貴族の合議制導入、王家派は今と同じ絶対君主制を目指しているからだ。だが最終目的は伏せてとりあえず緊喫の目的まで両派は協力することになりそうだ。

一方、ユージェニーは貴族との縁作りよりも、平民や教会との交流に力を入れていた。農民を束ねる村長達や商業ギルドの会合に出席して問題の解決方法を一緒に考えようというユージェニーの姿勢は、村長達や商人達の尊敬を集めることになった。彼女は、孤児院や貧しい者達を治療する救護院、離婚女性の避難先になっている修道院なども積極的に慰問したが、単なる慰問には終わらず、変動のある寄付に頼らずに安定して経営できる方法を責任者達と一緒に考えようとしていた。孤児院や救護院は教会が運営していることがほとんどであったので、必然的に教会との関係も深くなっていった。

そんなユージェニーの積極的な姿勢にリチャードは危機を覚えてエドワードに警告した。

「エド、たまにはユージェニー様と一緒に孤児院や救護院の慰問に行ったらどうだ?」

「もう何回か行ってるよ。それに国王夫妻が揃って慰問しなくても王妃が慰問すれば十分だろう?」

「単なる慰問だけじゃだめだ。ユージェニー様は、経営に関してもアドバイスしている」

「じゃあ、今更私が行ったところで役立てないよ。横槍を入れたと言われるだけだろう?」

「平民の間では、ユージェニー様の人気は高いけど、お前はそうじゃない。それにユージェニー様は、ルクス王国の王妃だけど、今もソヌス人だ」

「何が言いたい?」

「このままだと、我が国はソヌス王国に飲み込まれるか、民主化運動で王家滅亡だ」

「王家滅亡になったら、ユージェニーだって一蓮托生だろう?」

「その前にユージェニー様は泥船から逃げるさ」

「泥船になんてさせない!」

「だったら『王妃の話し相手』のこと以外にも重要なことが山積してるのはわかってるだろう?」

「わかってるよ・・・悪いが、1人にしてもらえないか」

リチャードは、自分の心配が杞憂で済めばよいと願いながら、エドワードの執務室を出て行った。一方、エドワードは長年の親友かつ側近のリチャードを追い出してしまったことを後味悪く感じて静まり返った執務室で嘆息していた。
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