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39.名前を呼んでくれ

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エイダンがエスターと再び関係を持ってしまってからもう数週間が経ったが、その後エイダンは別邸には一切近寄らなかった。エスターがいつ本邸に来てステファニーにそのことを告げ口しないかエイダンは恐れていたが、だからと言っていくら媚薬を盛られたせいと言ってもエイダンはステファニーに告白して懺悔する勇気もなかった。

「旦那様、どうかしました?」

「いや、何でもないよ」

「本当に?それならいいですけど・・・」

ステファニーの目を見ると、エイダンは黙っていることに罪の意識を感じて胸が押しつぶされそうになった。人払いをさせて2人きりになってとうとう切り出した。

「・・・ブライアンと別邸に行った日、エスターに媚薬を盛られて関係を持ってしまった。すまない」

「それが謝ることですか?それはおかしいですよ」

「・・・どうして?!」

「元々、旦那様はエスター様と内縁関係にあったではないですか。白い結婚ではありますけど、私が後から割り込んだのです。だから今更ですよ」

「いや、私は彼女と別れると決めたんだ。だけど、睡眠薬と媚薬を盛られて気付いた時には・・・すまない、言い訳がましいよな」

「何はともあれ、簡単に薬を盛られるようでは不用心過ぎます」

「情けないが、その通りだ・・・薬を盛られてかすかにあった家族としての情もなくなった。家や使用人の管理のために1ヶ月に1度ぐらいは別邸に行こうと思っていたが、それすら嫌になった。ブライアンもあと1年したら、卒業して戻ってくるから管理は任せることにするよ。それまでは家令と執事に任せる」

「旦那様のご希望通りになさって下さい」

「・・・冷たいよ。名前を呼んでくれないか?『旦那様』だと使用人に呼ばれているみたいだ」

「そうですか?では、エイダン様」

「呼び捨てにしてくれ」

「・・・エイダン」

エイダンはステファニーを抱きしめたかったが、抱きしめようとしたらひどく怯えられたことを思い出して思いとどまった。

「ありがとう。髪にキスするのを許してくれないか?」

「・・・ええ」

エイダンはステファニーの髪をひとすくいしてそっとキスした。この時は不思議とあの事件の悪夢がステファニーの脳裏に浮かんでこなかった。
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