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36.別れ話
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昼食後、ブライアンが明日寄宿学校に持って行く荷物をまとめてから、エイダンはブライアンと共に別邸へ発った。
別邸の居間にいたエスターは、馬車の音がしてふと窓から外を見た。するとアンヌス伯爵家の馬車が見え、顔を輝かせてすぐにエントランスホールに飛び出していった。
「エイダン!来てくれたのね!ずっと来ないから待ちくたびれてたのよ!」
エスターに喜色満面で臆面もなく抱き着かれてエイダンは眉間に皺を寄せた。エスターは本音ではまた本邸に突撃したかったが、エイダンに不興を買っていたことがわかったので、我慢していた。
「今日はここで3人でディナーをとろう。私もブライアンも今夜は泊まる。ブライアンは明日の朝、ここから寄宿学校に戻る」
「まぁ、そうなの!うれしいわ!じゃあ、支度してきますね」
エスターはまるで初夜に臨む新婦のように念入りに身体を洗って磨かせ、時間をかけて化粧をしてよそ行きのドレスを着た。鏡の中の自分は、昔に比べれば少し年をとったが、己惚れなしにまだまだ美しいとエスターは満足した。
3人のディナーの話題は当たり障りなくブライアンの学校の様子や最近流行している演劇や小説についてなどだった。ブライアンは両親に気を利かせてデザートの後、早々に寝室へ下がった。ブライアンが食堂を去ってすぐにエイダンは別れを切り出した。
「エスター、悪いが、別れてくれ」
「なっ!どういうこと?!私は別れないわよ!」
「君は好きなだけここに住み続けていい。家や使用人の費用、その他の生活費は私が持つ。でも私はもうここには来ない。来るとしても必要最低限、この家を維持して使用人を管理するためだけだ。それもブライアンが卒業したらブライアンに任せることになる。そうしたら私はここには一切来ない」
「あの女のせいなのっ?!白い結婚だって言ったじゃない!」
「最初はそうだった。でも今はステファニーと本当の夫婦になりたいと思っている」
「そんなの許さないっ!」
エスターは鬼気迫る表情でワイングラスを向かい側に座るエイダンに向けて投げつけた。グラスはエイダンが間一髪でよけて後ろの壁にぶつかって砕けた。
「許さない!許さない!許さない!貴方と一緒にいた年月は何だったの?!私が年をとって醜くなったから別れるの?息子と同じような歳の娘に鼻の下を伸ばして汚らわしい!!」
今度はテーブルの上の皿が宙を舞って砕け散った。
「君はまだ十分若いし、醜くもないよ」
「でも18歳の娘とは比べようもないのは事実でしょ!」
「そういう問題じゃないんだよ・・・」
エイダンは立ち上がって食堂を去っていった。エスターはその背中を茫然と見送った。そこに派手な物音と言い争う声を聞いてブライアンが食堂に飛び込んできた。
「母上!大丈夫ですか?そんなところに座り込んでいては破片で怪我をしますよ」
エスターは皿の破片が飛び散っている床に力なく座り込んで涙を流していた。ブライアンは母親に駆け寄って立ち上がらせた。
「ううううっ・・・ブライアン・・・私達の20年は何だったの?!ブライアンにも辛い思いさせていたのにこんなことになって・・・ごめんなさい」
「いいえ、母上のせいではありません。気にしないで。人の気持ちは縛れませんからね。婚姻関係があれば気持ちがなくても配偶者として縛れるのに・・・身分って何なんでしょうね」
「本当ね・・・この20年、ほとんどエイダンの妻のように過ごしてきても私が元娼婦だから結婚できなかった。だから簡単に捨てられるのよね。・・・でも気持ちのない冷たい夫婦も空しいわ」
「貴族の夫婦ではそれが普通ですよ。母上が今まで幸せだったと思うしかないですね」
「そうね・・・でも20年も一緒だったから、なかなか諦めがつかないわ。それに私がエイダンの内縁の妻でなくなったら、貴方にもっと辛くあたる使用人がいるでしょう?」
「大丈夫です。母上も僕が守ります」
「そんなこと言って貴方も大人になったのね」
「実際、社交界デビューが終わってるから大人ですよ」
「本当に生意気な子に育っちゃって・・・」
エスターはブライアンの前で再び泣き崩れた。そんな母をブライアンは呆然と見ていた。
別邸の居間にいたエスターは、馬車の音がしてふと窓から外を見た。するとアンヌス伯爵家の馬車が見え、顔を輝かせてすぐにエントランスホールに飛び出していった。
「エイダン!来てくれたのね!ずっと来ないから待ちくたびれてたのよ!」
エスターに喜色満面で臆面もなく抱き着かれてエイダンは眉間に皺を寄せた。エスターは本音ではまた本邸に突撃したかったが、エイダンに不興を買っていたことがわかったので、我慢していた。
「今日はここで3人でディナーをとろう。私もブライアンも今夜は泊まる。ブライアンは明日の朝、ここから寄宿学校に戻る」
「まぁ、そうなの!うれしいわ!じゃあ、支度してきますね」
エスターはまるで初夜に臨む新婦のように念入りに身体を洗って磨かせ、時間をかけて化粧をしてよそ行きのドレスを着た。鏡の中の自分は、昔に比べれば少し年をとったが、己惚れなしにまだまだ美しいとエスターは満足した。
3人のディナーの話題は当たり障りなくブライアンの学校の様子や最近流行している演劇や小説についてなどだった。ブライアンは両親に気を利かせてデザートの後、早々に寝室へ下がった。ブライアンが食堂を去ってすぐにエイダンは別れを切り出した。
「エスター、悪いが、別れてくれ」
「なっ!どういうこと?!私は別れないわよ!」
「君は好きなだけここに住み続けていい。家や使用人の費用、その他の生活費は私が持つ。でも私はもうここには来ない。来るとしても必要最低限、この家を維持して使用人を管理するためだけだ。それもブライアンが卒業したらブライアンに任せることになる。そうしたら私はここには一切来ない」
「あの女のせいなのっ?!白い結婚だって言ったじゃない!」
「最初はそうだった。でも今はステファニーと本当の夫婦になりたいと思っている」
「そんなの許さないっ!」
エスターは鬼気迫る表情でワイングラスを向かい側に座るエイダンに向けて投げつけた。グラスはエイダンが間一髪でよけて後ろの壁にぶつかって砕けた。
「許さない!許さない!許さない!貴方と一緒にいた年月は何だったの?!私が年をとって醜くなったから別れるの?息子と同じような歳の娘に鼻の下を伸ばして汚らわしい!!」
今度はテーブルの上の皿が宙を舞って砕け散った。
「君はまだ十分若いし、醜くもないよ」
「でも18歳の娘とは比べようもないのは事実でしょ!」
「そういう問題じゃないんだよ・・・」
エイダンは立ち上がって食堂を去っていった。エスターはその背中を茫然と見送った。そこに派手な物音と言い争う声を聞いてブライアンが食堂に飛び込んできた。
「母上!大丈夫ですか?そんなところに座り込んでいては破片で怪我をしますよ」
エスターは皿の破片が飛び散っている床に力なく座り込んで涙を流していた。ブライアンは母親に駆け寄って立ち上がらせた。
「ううううっ・・・ブライアン・・・私達の20年は何だったの?!ブライアンにも辛い思いさせていたのにこんなことになって・・・ごめんなさい」
「いいえ、母上のせいではありません。気にしないで。人の気持ちは縛れませんからね。婚姻関係があれば気持ちがなくても配偶者として縛れるのに・・・身分って何なんでしょうね」
「本当ね・・・この20年、ほとんどエイダンの妻のように過ごしてきても私が元娼婦だから結婚できなかった。だから簡単に捨てられるのよね。・・・でも気持ちのない冷たい夫婦も空しいわ」
「貴族の夫婦ではそれが普通ですよ。母上が今まで幸せだったと思うしかないですね」
「そうね・・・でも20年も一緒だったから、なかなか諦めがつかないわ。それに私がエイダンの内縁の妻でなくなったら、貴方にもっと辛くあたる使用人がいるでしょう?」
「大丈夫です。母上も僕が守ります」
「そんなこと言って貴方も大人になったのね」
「実際、社交界デビューが終わってるから大人ですよ」
「本当に生意気な子に育っちゃって・・・」
エスターはブライアンの前で再び泣き崩れた。そんな母をブライアンは呆然と見ていた。
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