19 / 85
19.避けられない婚約
しおりを挟む
ステファニーの結婚式から数日後、エドワードはウィリアムの執務室に呼び出されたが、用件は言われなくても分かっていた。
「エドワード、お前の婚約が決まった。反対しても無駄だぞ。お前は実質的に唯一の王位継承権保有者だ。次世代に繋げる義務がある」
エドワードは一瞬びくっとしたが、すぐに平静に戻った。その顔は苦悩と覚悟に満ちていた。
「わかっています。相手はどなたですか?」
「ソヌス王国の王妹ユージェニー殿下だ。年齢は18歳。兄王が溺愛している妹だという評判だ。婚約式は3ヶ月後、結婚式は1年後を予定している」
隣国ソヌス王国の王妹ユージェニーには、幼少の頃からの婚約者が亡くなった後、王族女性としては珍しく新しい婚約者が決められていなかった。それは亡くなった婚約者のことをユージェニーが忘れられなかったとも、兄王が掌中の珠を手放せなかったからとも言われていた。だが、近年の国際情勢と民主化運動がソヌス王国でも急速に緊迫しつつあり、婚姻関係で両国の関係を強化することがその事情よりも優先されることになったようだった。それにユージェニーが似姿と写真を見てエドワードを気に入ったことも後押しした。
一方、ユージェニーの写真と似姿を見てもエドワードには何の感慨も起きなかった。だが一般的に言えばユージェニーは美人の類に入っていると言ってよい。ユージェニーはブルネットの豊かな髪に白磁のような肌、緑色の美しい瞳を持っていた。
エドワードにとって喜ばしくない婚約話の後には、もっと苦しい話が待ちかねていた。
「隠していてもいずれ分かることだから言うが・・・エスタス公爵令嬢は、エイダン・アンヌス伯爵に嫁いだ。それからこれから言うことは、誰にも漏らしてはならないぞ。彼女は事件の時の子を腹に宿している。アンヌス伯爵はそれも承知で実子として育てることに合意した。伯爵には長年の愛人と息子がいるから、夫人とは白い結婚になるそうだ」
「それでは彼女は針の筵の結婚生活ではないですか?!」
「それでもお前には何もできることはない。お前達の道は分かれたのだ」
エドワードはステファニーが人妻になってしまったことと、強姦犯の子供を妊娠してしまったことにショックを受けた。だが彼女の白い結婚に安堵してしまったことも事実だった。そんな自分に自己嫌悪しつつも、暗い予感しかない彼女の結婚生活を思うとエドワードは心配になった。
教会の方針で堕胎はできない。でも実家の助けなしに箱入り娘が父なし子を産み育てるのも、どの国でもほとんど不可能だ。それにエドワードは国を背負う自分の立場を考えるとステファニーと駆け落ちもできない。エドワードは残酷でも運命の定めに従うしかないように思えた。
「エドワード、お前の婚約が決まった。反対しても無駄だぞ。お前は実質的に唯一の王位継承権保有者だ。次世代に繋げる義務がある」
エドワードは一瞬びくっとしたが、すぐに平静に戻った。その顔は苦悩と覚悟に満ちていた。
「わかっています。相手はどなたですか?」
「ソヌス王国の王妹ユージェニー殿下だ。年齢は18歳。兄王が溺愛している妹だという評判だ。婚約式は3ヶ月後、結婚式は1年後を予定している」
隣国ソヌス王国の王妹ユージェニーには、幼少の頃からの婚約者が亡くなった後、王族女性としては珍しく新しい婚約者が決められていなかった。それは亡くなった婚約者のことをユージェニーが忘れられなかったとも、兄王が掌中の珠を手放せなかったからとも言われていた。だが、近年の国際情勢と民主化運動がソヌス王国でも急速に緊迫しつつあり、婚姻関係で両国の関係を強化することがその事情よりも優先されることになったようだった。それにユージェニーが似姿と写真を見てエドワードを気に入ったことも後押しした。
一方、ユージェニーの写真と似姿を見てもエドワードには何の感慨も起きなかった。だが一般的に言えばユージェニーは美人の類に入っていると言ってよい。ユージェニーはブルネットの豊かな髪に白磁のような肌、緑色の美しい瞳を持っていた。
エドワードにとって喜ばしくない婚約話の後には、もっと苦しい話が待ちかねていた。
「隠していてもいずれ分かることだから言うが・・・エスタス公爵令嬢は、エイダン・アンヌス伯爵に嫁いだ。それからこれから言うことは、誰にも漏らしてはならないぞ。彼女は事件の時の子を腹に宿している。アンヌス伯爵はそれも承知で実子として育てることに合意した。伯爵には長年の愛人と息子がいるから、夫人とは白い結婚になるそうだ」
「それでは彼女は針の筵の結婚生活ではないですか?!」
「それでもお前には何もできることはない。お前達の道は分かれたのだ」
エドワードはステファニーが人妻になってしまったことと、強姦犯の子供を妊娠してしまったことにショックを受けた。だが彼女の白い結婚に安堵してしまったことも事実だった。そんな自分に自己嫌悪しつつも、暗い予感しかない彼女の結婚生活を思うとエドワードは心配になった。
教会の方針で堕胎はできない。でも実家の助けなしに箱入り娘が父なし子を産み育てるのも、どの国でもほとんど不可能だ。それにエドワードは国を背負う自分の立場を考えるとステファニーと駆け落ちもできない。エドワードは残酷でも運命の定めに従うしかないように思えた。
0
お気に入りに追加
143
あなたにおすすめの小説

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて
アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。
二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――

ラヴィニアは逃げられない
棗
恋愛
大好きな婚約者メル=シルバースの心には別の女性がいる。
大好きな彼の恋心が叶うようにと、敢えて悪女の振りをして酷い言葉を浴びせて一方的に別れを突き付けた侯爵令嬢ラヴィニア=キングレイ。
父親からは疎まれ、後妻と異母妹から嫌われていたラヴィニアが家に戻っても居場所がない。どうせ婚約破棄になるのだからと前以て準備をしていた荷物を持ち、家を抜け出して誰でも受け入れると有名な修道院を目指すも……。
ラヴィニアを待っていたのは昏くわらうメルだった。
※ムーンライトノベルズにも公開しています。

愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。
そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。
相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。
トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。
あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。
ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。
そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが…
追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。
今更ですが、閲覧の際はご注意ください。

ヤンデレ旦那さまに溺愛されてるけど思い出せない
斧名田マニマニ
恋愛
待って待って、どういうこと。
襲い掛かってきた超絶美形が、これから僕たち新婚初夜だよとかいうけれど、全く覚えてない……!
この人本当に旦那さま?
って疑ってたら、なんか病みはじめちゃった……!

悪役令嬢の生産ライフ
星宮歌
恋愛
コツコツとレベルを上げて、生産していくゲームが好きなしがない女子大生、田中雪は、その日、妹に頼まれて手に入れたゲームを片手に通り魔に刺される。
女神『はい、あなた、転生ね』
雪『へっ?』
これは、生産ゲームの世界に転生したかった雪が、別のゲーム世界に転生して、コツコツと生産するお話である。
雪『世界観が壊れる? 知ったこっちゃないわっ!』
無事に完結しました!
続編は『悪役令嬢の神様ライフ』です。
よければ、そちらもよろしくお願いしますm(_ _)m
義兄の執愛
真木
恋愛
陽花は姉の結婚と引き換えに、義兄に囲われることになる。
教え込むように執拗に抱き、甘く愛をささやく義兄に、陽花の心は砕けていき……。
悪の華のような義兄×中性的な義妹の歪んだ愛。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる