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1.プロローグ
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目覚めたステファニーの目に涙でくしゃくしゃになった王太子エドワードの顔が映った。いつもは整っている輝く金髪は乱れ、深い海のように青い瞳の下の隈と焦燥した表情で見目麗しい容貌が台無しだった。
「……ステフィー! よかった! このまま君の目が覚めなかったら僕はっ……」
「エド? わ、私、一体……?」
「ああ、ステフィー! すまない、君を守れなくて!」
その言葉で途端に自分の身に起きたおぞましい事件をステファニーは思い出してしまった。いや、彼女は忘れようとしていただけだった。
「僕が君に会いに来れるのもこれで最後だ。君との婚約は解消された。本当に済まない……僕の力が及ばなかった……」
「……仕方ありません。殿下は責任あるお立場にあるのです。私のことはお気になさらず、殿下にふさわしいお方とご結婚ください」
エドワードの隣に私以外の誰か別の女性が寄り添う……そんなことを想像するだけでステファニーは胸が張り裂けそうになった。でも、もう彼女には彼の隣に立つ資格がない。彼女は公爵家の令嬢として自分個人の望みよりも家門のため、王太子の婚約者となってからは王国のためになる行動をするように教育を受けてきた。個人の欲望にかられてその教えと自分の立場を忘れてはいけない。ステファニーは傷ついた心身に鞭を奮って勇気を出し、自分の本当の気持ちとは正反対のことをエドワードに伝えた。
「うっうっう……すまない、ステフィー!……今の君にこんなことを言わなくてはならなかったのは本当に辛いよ……」
エドワードは、泣きながらも、忘れてはいけないと言って冷めてしまった薬草茶をステファニーの元に持ってきた。
「ステフィー、これを飲んで。おいしくはないと思うけど、冷めても効果は同じだから」
エドワードが持ってきたのは薬草茶で、毎日飲むことで妊娠を防ぐ効果があるものだった。本来は、普段から毎日飲用することで確実な避妊効果を期待できるのだが、緊急時には、毎日2回ずつ少なくとも事後に1週間続けて飲むと、事前飲用ほど確実ではないものの、効果が期待できる。だが意識を失っていた昨日、ステファニーは飲めなかったので、効果があるかどうかは賭けだった。
「それから、これはこの薬草茶を煮詰めて濃縮してある。隠し持ってて。毎日2回、あと6日間、水に数滴垂らして飲んで。絶対に見つからないようにするんだよ」
避妊効果のある薬草茶を飲むことに、保守的な教会は否定的だ。この国――ルクス王国――で権力を誇る教会の意に沿い、避妊効果のある薬草のような物の販売は国内で禁止されている。最も、密売が横行して人々は隠れてその類《たぐい》の物を使っている。薬草茶の濃縮液が見つかれば、ステファニーはこれから監視される生活になるに違いないから、取り上げられるだろう。
「殿下、ありがとうございます」
「お願いだ、今だけはエドと呼んで、ステフィー!」
また涙をあふれさせて取り乱しながら懇願するエドワードの姿は、王太子のような高貴な身にあるとは思えないほどだった。
「ダメです。殿下と私の婚約は解消されたのです。貴方様は王太子殿下、私は一臣下の娘です。父が私をもう勘当していたら、それですらない、平民の娘です」
「君を直接は守れなくなってしまったけど、君の今後の処遇については僕も精一杯のことはする。約束する」
「止めてください。王太子殿下が陛下以外に頭を下げてはいけません。私のことは気になさらないで下さい。私が殿下に守っていただく義理はもうなくなったのです」
「いや、婚約者を守れなかったのは僕だ。本当に申し訳な……うううっ……」
皆まで言えず、エドワードは泣き崩れた。それに釣られてステファニーも泣いてしまった。
泣き疲れた後、離れがたく、見つめ合う2人の間を無情なノックが引き裂いた。その後、ステファニーがエドワードに会うことはもうなかった。いや、正確に言えば、数年間は……
「……ステフィー! よかった! このまま君の目が覚めなかったら僕はっ……」
「エド? わ、私、一体……?」
「ああ、ステフィー! すまない、君を守れなくて!」
その言葉で途端に自分の身に起きたおぞましい事件をステファニーは思い出してしまった。いや、彼女は忘れようとしていただけだった。
「僕が君に会いに来れるのもこれで最後だ。君との婚約は解消された。本当に済まない……僕の力が及ばなかった……」
「……仕方ありません。殿下は責任あるお立場にあるのです。私のことはお気になさらず、殿下にふさわしいお方とご結婚ください」
エドワードの隣に私以外の誰か別の女性が寄り添う……そんなことを想像するだけでステファニーは胸が張り裂けそうになった。でも、もう彼女には彼の隣に立つ資格がない。彼女は公爵家の令嬢として自分個人の望みよりも家門のため、王太子の婚約者となってからは王国のためになる行動をするように教育を受けてきた。個人の欲望にかられてその教えと自分の立場を忘れてはいけない。ステファニーは傷ついた心身に鞭を奮って勇気を出し、自分の本当の気持ちとは正反対のことをエドワードに伝えた。
「うっうっう……すまない、ステフィー!……今の君にこんなことを言わなくてはならなかったのは本当に辛いよ……」
エドワードは、泣きながらも、忘れてはいけないと言って冷めてしまった薬草茶をステファニーの元に持ってきた。
「ステフィー、これを飲んで。おいしくはないと思うけど、冷めても効果は同じだから」
エドワードが持ってきたのは薬草茶で、毎日飲むことで妊娠を防ぐ効果があるものだった。本来は、普段から毎日飲用することで確実な避妊効果を期待できるのだが、緊急時には、毎日2回ずつ少なくとも事後に1週間続けて飲むと、事前飲用ほど確実ではないものの、効果が期待できる。だが意識を失っていた昨日、ステファニーは飲めなかったので、効果があるかどうかは賭けだった。
「それから、これはこの薬草茶を煮詰めて濃縮してある。隠し持ってて。毎日2回、あと6日間、水に数滴垂らして飲んで。絶対に見つからないようにするんだよ」
避妊効果のある薬草茶を飲むことに、保守的な教会は否定的だ。この国――ルクス王国――で権力を誇る教会の意に沿い、避妊効果のある薬草のような物の販売は国内で禁止されている。最も、密売が横行して人々は隠れてその類《たぐい》の物を使っている。薬草茶の濃縮液が見つかれば、ステファニーはこれから監視される生活になるに違いないから、取り上げられるだろう。
「殿下、ありがとうございます」
「お願いだ、今だけはエドと呼んで、ステフィー!」
また涙をあふれさせて取り乱しながら懇願するエドワードの姿は、王太子のような高貴な身にあるとは思えないほどだった。
「ダメです。殿下と私の婚約は解消されたのです。貴方様は王太子殿下、私は一臣下の娘です。父が私をもう勘当していたら、それですらない、平民の娘です」
「君を直接は守れなくなってしまったけど、君の今後の処遇については僕も精一杯のことはする。約束する」
「止めてください。王太子殿下が陛下以外に頭を下げてはいけません。私のことは気になさらないで下さい。私が殿下に守っていただく義理はもうなくなったのです」
「いや、婚約者を守れなかったのは僕だ。本当に申し訳な……うううっ……」
皆まで言えず、エドワードは泣き崩れた。それに釣られてステファニーも泣いてしまった。
泣き疲れた後、離れがたく、見つめ合う2人の間を無情なノックが引き裂いた。その後、ステファニーがエドワードに会うことはもうなかった。いや、正確に言えば、数年間は……
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