31 / 36
31.出生の秘密
しおりを挟む
あっという間に時は過ぎ、ミハエルは5歳になっていた。ゾフィーとラルフは少しずつ距離を縮めていたが、まだラルフへの罪悪感が一線を越えることを許さず、未だ白い結婚は続いていた。
ラルフとミハエルはどこを見ても仲睦まじい父と息子に見えたが、ミハエルが大きくなるにつれて容貌や性格が似ていないことが目立つようになってきた。
「父上!僕と剣の訓練をまたしてください!」
「うん、でも僕が弱いって文句言わないでね」
ミハエルは騎士に憧れていてコーブルク公爵家の私設騎士団の騎士に稽古をつけてもらい始めた。でも専門家に普段は指導を受けているのに、ミハエルは、剣術がからきしダメなラルフとも時々訓練をしたがるのだった。だがその度に父親が弱すぎてがっかりするミハエルの様子を見る度に、ラルフは申し訳なく思った。
ある日、ミハエルは、新入りの侍女が古株の侍女と自分のことを話しているらしいのが聞こえ、いけないとは思いつつ、物陰に隠れて盗み聞きしてしまった。
「坊ちゃまって若旦那様に似てないですね」
「ほら、ご結婚後すぐにゾフィー様がご懐妊されて坊ちゃまが月足らずで生まれたっていう話、聞いたことあるでしょ?あれって嘘だって話だよ」
「じゃあ、坊ちゃまはどなたのお子さんだっていうんですか?」
「多分、亡くなったルドルフ様のお子さんだろうね。お坊ちゃまはルドルフ様がお小さい頃にそっくりだよ」
「えーっ?!ルドルフ様ってあの心中事件の?!顔知ってるんですか?」
「しーっ!声が大きいよ。そりゃ今は似姿も何も残されてないけど、私はルドルフ様がお小さい頃からここで働いているからね・・・」
ミハエルが聞いたのはそこまでだった。あまりのショックで放心状態になったから、侍女達がその場を立ち去ったのにもしばらく気付かなかった。
その噂話を聞いてからミハエルは不安定で、特にラルフの前でよそよそしい感じになった。その態度にゾフィーも気づいていた。
「父上、僕は父上の子供ですよね?」
「当たり前じゃないか!」
ラルフは不安そうなミハエルをぎゅっと抱きしめながらそう言った。自分を抱きしめる父の温かさにミハエルは『あんなことは嘘に違いない』と思い、そのうちに侍女達の言ったことは忘れていった、いや、忘れようとして記憶の奥底に仕舞った。
だが、噂好きの社交界の雀達や使用人達は黙っていない。いくらそんな下賤な噂話をする使用人達を公爵家から排除しても、次から次へと噂好きは生えて出てくるので、ミハエルが成長するにつれてそのような噂話を耳にすることが多くなった。
「ゾフィー、ミハエルが出生の秘密に気付いているかもしれない。あの子はまだ社交界デビューしてないから、使用人がしゃべったのを聞いた可能性が高いと思って、口が軽い使用人は排除してきたけど、次から次へとそういう噂をする人間が出てきて困るよ」
「まあ、何てこと!どうすればいいの?もう真実を話すべきなのかしら?」
「いや、話すのはまだ早いと思う。受け止められるか心配だ。15歳で成人してからでいいのではないかな?」
「それで誰か他の人から決定的なことを聞いてしまったら、あの子は傷つかないかしら?」
「まだ真実を受け止めるには幼過ぎるだろうね。主人家族の噂話をしないようにコンスタンティンに使用人の教育を徹底させて、改心しない人間は解雇するよ」
まだ幼いミハエルに真実を伝えるのは早いだろうが、遅くても王国で成人とみなされる15歳の時までには伝えよう。そう思ったラルフ達だった。
ラルフとミハエルはどこを見ても仲睦まじい父と息子に見えたが、ミハエルが大きくなるにつれて容貌や性格が似ていないことが目立つようになってきた。
「父上!僕と剣の訓練をまたしてください!」
「うん、でも僕が弱いって文句言わないでね」
ミハエルは騎士に憧れていてコーブルク公爵家の私設騎士団の騎士に稽古をつけてもらい始めた。でも専門家に普段は指導を受けているのに、ミハエルは、剣術がからきしダメなラルフとも時々訓練をしたがるのだった。だがその度に父親が弱すぎてがっかりするミハエルの様子を見る度に、ラルフは申し訳なく思った。
ある日、ミハエルは、新入りの侍女が古株の侍女と自分のことを話しているらしいのが聞こえ、いけないとは思いつつ、物陰に隠れて盗み聞きしてしまった。
「坊ちゃまって若旦那様に似てないですね」
「ほら、ご結婚後すぐにゾフィー様がご懐妊されて坊ちゃまが月足らずで生まれたっていう話、聞いたことあるでしょ?あれって嘘だって話だよ」
「じゃあ、坊ちゃまはどなたのお子さんだっていうんですか?」
「多分、亡くなったルドルフ様のお子さんだろうね。お坊ちゃまはルドルフ様がお小さい頃にそっくりだよ」
「えーっ?!ルドルフ様ってあの心中事件の?!顔知ってるんですか?」
「しーっ!声が大きいよ。そりゃ今は似姿も何も残されてないけど、私はルドルフ様がお小さい頃からここで働いているからね・・・」
ミハエルが聞いたのはそこまでだった。あまりのショックで放心状態になったから、侍女達がその場を立ち去ったのにもしばらく気付かなかった。
その噂話を聞いてからミハエルは不安定で、特にラルフの前でよそよそしい感じになった。その態度にゾフィーも気づいていた。
「父上、僕は父上の子供ですよね?」
「当たり前じゃないか!」
ラルフは不安そうなミハエルをぎゅっと抱きしめながらそう言った。自分を抱きしめる父の温かさにミハエルは『あんなことは嘘に違いない』と思い、そのうちに侍女達の言ったことは忘れていった、いや、忘れようとして記憶の奥底に仕舞った。
だが、噂好きの社交界の雀達や使用人達は黙っていない。いくらそんな下賤な噂話をする使用人達を公爵家から排除しても、次から次へと噂好きは生えて出てくるので、ミハエルが成長するにつれてそのような噂話を耳にすることが多くなった。
「ゾフィー、ミハエルが出生の秘密に気付いているかもしれない。あの子はまだ社交界デビューしてないから、使用人がしゃべったのを聞いた可能性が高いと思って、口が軽い使用人は排除してきたけど、次から次へとそういう噂をする人間が出てきて困るよ」
「まあ、何てこと!どうすればいいの?もう真実を話すべきなのかしら?」
「いや、話すのはまだ早いと思う。受け止められるか心配だ。15歳で成人してからでいいのではないかな?」
「それで誰か他の人から決定的なことを聞いてしまったら、あの子は傷つかないかしら?」
「まだ真実を受け止めるには幼過ぎるだろうね。主人家族の噂話をしないようにコンスタンティンに使用人の教育を徹底させて、改心しない人間は解雇するよ」
まだ幼いミハエルに真実を伝えるのは早いだろうが、遅くても王国で成人とみなされる15歳の時までには伝えよう。そう思ったラルフ達だった。
0
スピンオフ『年下執事が崇める女神~虐げられている男爵夫人を救いたい~』(R18)連載中(本編は完結、番外編を更新中)。
別のスピンオフ『転生令嬢は前世の心中相手に囚われたくない!』も掲載しています(完結済)。
別のスピンオフ『転生令嬢は前世の心中相手に囚われたくない!』も掲載しています(完結済)。
お気に入りに追加
368
あなたにおすすめの小説

燻らせた想いは口付けで蕩かして~睦言は蜜毒のように甘く~
二階堂まや
恋愛
北西の国オルデランタの王妃アリーズは、国王ローデンヴェイクに愛されたいがために、本心を隠して日々を過ごしていた。 しかしある晩、情事の最中「猫かぶりはいい加減にしろ」と彼に言われてしまう。
夫に嫌われたくないが、自分に自信が持てないため涙するアリーズ。だがローデンヴェイクもまた、言いたいことを上手く伝えられないもどかしさを密かに抱えていた。
気持ちを伝え合った二人は、本音しか口にしない、隠し立てをしないという約束を交わし、身体を重ねるが……?
「こんな本性どこに隠してたんだか」
「構って欲しい人だったなんて、思いませんでしたわ」
さてさて、互いの本性を知った夫婦の行く末やいかに。
+ムーンライトノベルズにも掲載しております。
婚約解消から5年、再び巡り会いました。
能登原あめ
恋愛
* R18、シリアスなお話です。センシティブな内容が含まれますので、苦手な方はご注意下さい。
私達は結婚するはずだった。
結婚を控えたあの夏、天災により領民が冬を越すのも難しくて――。
婚約を解消して、別々の相手と結婚することになった私達だけど、5年の月日を経て再び巡り合った。
* 話の都合上、お互いに別の人と結婚します。白い結婚ではないので苦手な方はご注意下さい(別の相手との詳細なRシーンはありません)
* 全11話予定
* Rシーンには※つけます。終盤です。
* コメント欄のネタバレ配慮しておりませんのでお気をつけください。
* 表紙はCanvaさまで作成した画像を使用しております。
ローラ救済のパラレルのお話。↓
『愛する人がいる人と結婚した私は、もう一度やり直す機会が与えられたようです』

私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?
水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。
日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。
そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。
一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。
◇小説家になろうにも掲載中です!
◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています

【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる
奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。
だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。
「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」
どう尋ねる兄の真意は……
腹黒宰相との白い結婚
黎
恋愛
大嫌いな腹黒宰相ロイドと結婚する羽目になったランメリアは、条件をつきつけた――これは白い結婚であること。代わりに側妻を娶るも愛人を作るも好きにすればいい。そう決めたはずだったのだが、なぜか、周囲が全力で溝を埋めてくる。

結婚式に結婚相手の不貞が発覚した花嫁は、義父になるはずだった公爵当主と結ばれる
狭山雪菜
恋愛
アリス・マーフィーは、社交界デビューの時にベネット公爵家から結婚の打診を受けた。
しかし、結婚相手は女にだらしないと有名な次期当主で………
こちらの作品は、「小説家になろう」にも掲載してます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる