始まりは偽装デキ婚から【R18】

田鶴

文字の大きさ
上 下
21 / 36

21.襲撃

しおりを挟む
ノスティツ子爵家には馬車がない。天気が悪い時は、ラルフは王宮まで辻馬車に乗るが、節約のためほとんど歩きで通っていた。

ゴットフリートがラルフの仕事を引き継ぐことが正式に決まり、ずっと家にいたゴットフリートが歩きで王宮に通うのはきついだろうということで、引き継ぎ期間中は辻馬車で行くことにしていた。だが、ゴットフリートは外の世界に出て行く踏ん切りがまだつかず、この日もラルフは1人で王宮へ向かって歩いていた。

道中、ガタイのよいが人相は悪い男がラルフの正面から近づいてきた。ラルフがよけようとして横にそれた途端、その男は太い腕でラルフの首を締め、ナイフを首に突き付けて騒ぐなと耳元で伝えた。

いつの間にか横につけられていた馬車にラルフが乗せられようとしたその瞬間、すらりとした人影が素早くならず者の脇腹を蹴った。ラルフを拘束する腕が緩んだところでその男はぼこぼこに殴られ、ラルフは解放された。すぐに護衛騎士のようなたくましい男達が現れてその男と御者を縄で縛って捕らえていた。

ラルフはしばらく放心状態だったから、気付いた時には犯人達は連れ去られた後で、妙に色気のある見目麗しい若い男だけがその場に残っていた。

「助けていただいてありがとうございます。私はラルフ・フォン・ノスティツと申します。貴方のお名前をお伺いしても?」

「貴方のことは存じています。私はコーブルク公爵家から派遣されたヨナスです。家名はないものと思ってくださって結構ですので、ヨナスとお呼びください」

「私のことをご存知なのですか?どうしてまた貴方がコーブルク公爵家から派遣されたのでしょうか?」

「貴方は公爵家乗っ取り勢力に狙われています。今日から外出時は私が護衛します。コーブルク公爵家から馬車を寄こしますので、歩きで通勤するのは止めてください」

「もう犯人は捕まりましたし、自分だけで通勤して大丈夫ですよ」

「危機感が足りませんよ。昨日はゾフィー嬢が誘拐されかかりました」

「えっ!彼女とお腹の中の子供は無事ですか?」

「無事です。とある場所で公爵家が結婚式まで匿っています。ですが昨日と今日、捕まったのは実行犯だけです。主犯は推測がついていますが、まだ主犯を捕まえるには証拠が足りません。主犯が逮捕されるまでは、貴方の家に私が住み込みで在宅時も護衛しますが、よろしいですか?」

「貴方じゃなくて別の方に来てもらうわけにいきませんか?」

「なぜ?」

「貴方は、そのー、あのー、危険なんです・・・」

ヨナスがノスティツ家に来たら、ラルフの母カタリナが厚化粧をもっとけばけばしくしてヨナスにしなだりかかること請け合いだろう。ラルフとしてはそんなものを家で見たくもない。ヨナスも閨の教師役や男娼を伊達に何年もやっているわけではないので、ラルフが何を危惧しているかすぐにわかった。

「お約束しましょう、お宅のレディに手は出しません」

「ぷっ・・・うちにレディはいませんよ。古狸のつがいもどきがいますけどね」

「ご冗談がうまいですね。ラルフ様が王宮に着かれたら、私はさっそくお宅へ向かいます。私がお宅を離れる場合に備えてもう1人別の護衛も公爵家から派遣します」

その日の夜、ラルフが仕事を終えて帰宅すると、疲れがどっと出る光景を目にしてしまった。いくらヨナスが距離をとろうが、母カタリナはぐいぐい来ていた。それを目の当たりにした父フランツは、もてる男にやっかみもあるのだろう、普段愛人とイチャコラしているくせに面白くなくて怒りを爆発させていた。

------

狸は、この小説がモデルにしている時代(19世紀半ばから末ぐらいで考えています)にはヨーロッパで自然繁殖してませんでしたが、そこは「ナーロッパ」(私の場合は近世のつもり)ってことでご勘弁お願いします。

新作の都合上、ラルフの父の名前をフランツに変えました。(2023/11/11)
しおりを挟む
スピンオフ『年下執事が崇める女神~虐げられている男爵夫人を救いたい~』(R18)連載中(本編は完結、番外編を更新中)。
別のスピンオフ『転生令嬢は前世の心中相手に囚われたくない!』も掲載しています(完結済)。
感想 3

あなたにおすすめの小説

燻らせた想いは口付けで蕩かして~睦言は蜜毒のように甘く~

二階堂まや
恋愛
北西の国オルデランタの王妃アリーズは、国王ローデンヴェイクに愛されたいがために、本心を隠して日々を過ごしていた。 しかしある晩、情事の最中「猫かぶりはいい加減にしろ」と彼に言われてしまう。 夫に嫌われたくないが、自分に自信が持てないため涙するアリーズ。だがローデンヴェイクもまた、言いたいことを上手く伝えられないもどかしさを密かに抱えていた。 気持ちを伝え合った二人は、本音しか口にしない、隠し立てをしないという約束を交わし、身体を重ねるが……? 「こんな本性どこに隠してたんだか」 「構って欲しい人だったなんて、思いませんでしたわ」 さてさて、互いの本性を知った夫婦の行く末やいかに。 +ムーンライトノベルズにも掲載しております。

婚約解消から5年、再び巡り会いました。

能登原あめ
恋愛
* R18、シリアスなお話です。センシティブな内容が含まれますので、苦手な方はご注意下さい。  私達は結婚するはずだった。    結婚を控えたあの夏、天災により領民が冬を越すのも難しくて――。  婚約を解消して、別々の相手と結婚することになった私達だけど、5年の月日を経て再び巡り合った。 * 話の都合上、お互いに別の人と結婚します。白い結婚ではないので苦手な方はご注意下さい(別の相手との詳細なRシーンはありません) * 全11話予定 * Rシーンには※つけます。終盤です。 * コメント欄のネタバレ配慮しておりませんのでお気をつけください。 * 表紙はCanvaさまで作成した画像を使用しております。   ローラ救済のパラレルのお話。↓ 『愛する人がいる人と結婚した私は、もう一度やり直す機会が与えられたようです』

私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?

水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。 日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。 そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。 一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。 ◇小説家になろうにも掲載中です! ◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

もう2度と関わりたくなかった

鳴宮鶉子
恋愛
もう2度と関わりたくなかった

一番悪いのは誰

jun
恋愛
結婚式翌日から屋敷に帰れなかったファビオ。 ようやく帰れたのは三か月後。 愛する妻のローラにやっと会えると早る気持ちを抑えて家路を急いだ。 出迎えないローラを探そうとすると、執事が言った、 「ローラ様は先日亡くなられました」と。 何故ローラは死んだのは、帰れなかったファビオのせいなのか、それとも・・・

傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。

石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。 そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。 新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。 初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、別サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

腹黒宰相との白い結婚

恋愛
大嫌いな腹黒宰相ロイドと結婚する羽目になったランメリアは、条件をつきつけた――これは白い結婚であること。代わりに側妻を娶るも愛人を作るも好きにすればいい。そう決めたはずだったのだが、なぜか、周囲が全力で溝を埋めてくる。

処理中です...