20 / 36
20.誘拐未遂
しおりを挟む
知らない道を突き進む馬車にゾフィーは恐怖を覚え、御者台との間にある窓を叩き、叫んだ。
「どういうことですか!この道は違うでしょう?!」
妊娠していなければ、最悪の場合馬車から飛び降りることも考えなくもなかったが、腹の子のことを考えるとそれはできなかった。その代わりにゾフィーは、御者に向かって叫び、窓を叩き続けた。御者はマントのフードをかぶっていて姿形がよくわからなかったが、いつものロプコヴィッツ侯爵家の御者ではないように見えた。
ゾフィーがパニックになっているのに気づいた御者は馬車を停め、素早く降りてドアを開け、転がり出ようとするゾフィーを抱きとめた。
「ゾフィー、落ち着いて。僕です、ヨナスです」
「なぜ貴方が?!うちの御者はどうしたの?」
「心配しないでください。彼には侯爵家のタウンハウスに帰ってもらいました。ここでは目立つので、詳しいことは目的地でお話します。貴女に危害は絶対に加えませんので、僕を信じてここは靜かに馬車に乗っていただけませんか?そうでないと貴女の身に危険があります」
ゾフィーはヨナスの真剣な表情を見て、信じるしか今は選択肢がないと思い、おとなしく馬車に乗り続けることにした。
教会から馬車に乗って2時間も経っただろうか、馬車は深い森の中に入り、まもなく蔦が絡まった小さな館の前で停まった。館の中は、長いこと誰も住んでいなかった様子だったが、手入れはされているようで、家具は古めかしかったものの、家の中は清潔が保たれていた。
ヨナスは客間らしき部屋にゾフィーを案内し、カモミールティーを淹れた。
「ゾフィー様、驚かせて申し訳ありません。ラムベルク男爵が教会で御者を入れ替えて貴女を誘拐させようとしていました。それを逆手にとってコーブルク公爵家は、貴女が誘拐されたと見せかけてここに匿うことにしました。結婚式まで後2週間、安全のためにここに閉じこもっていてください」
ゾフィーの頭の中は疑問でいっぱいになり、混乱した。
「ここは、コーブルク公爵家の秘密の別荘です。公爵家から信用のおける護衛と使用人もゾフィー様のために派遣されて来ています。医師も常駐させますので、ご安心ください」
「でもなぜ貴方がこんなことを?」
「実は、私が閨を教えるのは仮の姿で、本業はコーブルク公爵家の影なのです」
ラムベルク男爵アドルフと正妻の息子2人が、ロプコヴィッツ侯爵家の御者を偽者に入れ替えてゾフィーを誘拐し、腹の中の子ともども亡き者とする計画をコーブルク公爵家は掴んだのだ。それは、男娼を装って男爵家に出入りしているヨナスと、愛人として男爵を懐柔している公爵家の女性諜報員タニアの手柄だった。
それを聞いたゾフィーは、恐ろしい可能性に気付いて心臓に冷たい刃が突き付けられているような気がした。
「ラムベルク男爵家ってコーブルク公爵家の分家ですよね?それでは、ラルフ様にも危険がありませんか?!」
「実行犯は捕まえましたが、男爵家と繋がっている直接証拠はまだ見つかっていません。でも主犯の男爵を捕まえられるのも時間の問題でしょう。それまではラルフ様を私が護衛します。こう見えても私は剣の腕もたつのです」
それを聞いてほっとした自分の気持ちにゾフィーは気づいて戸惑った。
「結婚式までここにいろという話ですけど、結婚するかどうか、私はまだラルフ様に返事をしていないのです」
「ラルフ様のことを心配されてましたよね。それが答えかと思いますが」
ゾフィーは自分でも気付いていなかった気持ちを指摘され、戸惑いながら頬を赤らめた。
-------------------------------------
コーブルク公爵家の女性諜報員タニアは、『年下執事が崇める女神~虐げられている男爵夫人を救いたい~』の番外編の主人公です:
https://www.alphapolis.co.jp/novel/768272089/171743580
「どういうことですか!この道は違うでしょう?!」
妊娠していなければ、最悪の場合馬車から飛び降りることも考えなくもなかったが、腹の子のことを考えるとそれはできなかった。その代わりにゾフィーは、御者に向かって叫び、窓を叩き続けた。御者はマントのフードをかぶっていて姿形がよくわからなかったが、いつものロプコヴィッツ侯爵家の御者ではないように見えた。
ゾフィーがパニックになっているのに気づいた御者は馬車を停め、素早く降りてドアを開け、転がり出ようとするゾフィーを抱きとめた。
「ゾフィー、落ち着いて。僕です、ヨナスです」
「なぜ貴方が?!うちの御者はどうしたの?」
「心配しないでください。彼には侯爵家のタウンハウスに帰ってもらいました。ここでは目立つので、詳しいことは目的地でお話します。貴女に危害は絶対に加えませんので、僕を信じてここは靜かに馬車に乗っていただけませんか?そうでないと貴女の身に危険があります」
ゾフィーはヨナスの真剣な表情を見て、信じるしか今は選択肢がないと思い、おとなしく馬車に乗り続けることにした。
教会から馬車に乗って2時間も経っただろうか、馬車は深い森の中に入り、まもなく蔦が絡まった小さな館の前で停まった。館の中は、長いこと誰も住んでいなかった様子だったが、手入れはされているようで、家具は古めかしかったものの、家の中は清潔が保たれていた。
ヨナスは客間らしき部屋にゾフィーを案内し、カモミールティーを淹れた。
「ゾフィー様、驚かせて申し訳ありません。ラムベルク男爵が教会で御者を入れ替えて貴女を誘拐させようとしていました。それを逆手にとってコーブルク公爵家は、貴女が誘拐されたと見せかけてここに匿うことにしました。結婚式まで後2週間、安全のためにここに閉じこもっていてください」
ゾフィーの頭の中は疑問でいっぱいになり、混乱した。
「ここは、コーブルク公爵家の秘密の別荘です。公爵家から信用のおける護衛と使用人もゾフィー様のために派遣されて来ています。医師も常駐させますので、ご安心ください」
「でもなぜ貴方がこんなことを?」
「実は、私が閨を教えるのは仮の姿で、本業はコーブルク公爵家の影なのです」
ラムベルク男爵アドルフと正妻の息子2人が、ロプコヴィッツ侯爵家の御者を偽者に入れ替えてゾフィーを誘拐し、腹の中の子ともども亡き者とする計画をコーブルク公爵家は掴んだのだ。それは、男娼を装って男爵家に出入りしているヨナスと、愛人として男爵を懐柔している公爵家の女性諜報員タニアの手柄だった。
それを聞いたゾフィーは、恐ろしい可能性に気付いて心臓に冷たい刃が突き付けられているような気がした。
「ラムベルク男爵家ってコーブルク公爵家の分家ですよね?それでは、ラルフ様にも危険がありませんか?!」
「実行犯は捕まえましたが、男爵家と繋がっている直接証拠はまだ見つかっていません。でも主犯の男爵を捕まえられるのも時間の問題でしょう。それまではラルフ様を私が護衛します。こう見えても私は剣の腕もたつのです」
それを聞いてほっとした自分の気持ちにゾフィーは気づいて戸惑った。
「結婚式までここにいろという話ですけど、結婚するかどうか、私はまだラルフ様に返事をしていないのです」
「ラルフ様のことを心配されてましたよね。それが答えかと思いますが」
ゾフィーは自分でも気付いていなかった気持ちを指摘され、戸惑いながら頬を赤らめた。
-------------------------------------
コーブルク公爵家の女性諜報員タニアは、『年下執事が崇める女神~虐げられている男爵夫人を救いたい~』の番外編の主人公です:
https://www.alphapolis.co.jp/novel/768272089/171743580
0
お気に入りに追加
364
あなたにおすすめの小説
愛の重めな黒騎士様に猛愛されて今日も幸せです~追放令嬢はあたたかな檻の中~
二階堂まや
恋愛
令嬢オフェリアはラティスラの第二王子ユリウスと恋仲にあったが、悪事を告発された後婚約破棄を言い渡される。
国外追放となった彼女は、監視のためリアードの王太子サルヴァドールに嫁ぐこととなる。予想に反して、結婚後の生活は幸せなものであった。
そしてある日の昼下がり、サルヴァドールに''昼寝''に誘われ、オフェリアは寝室に向かう。激しく愛された後に彼女は眠りに落ちるが、サルヴァドールは密かにオフェリアに対して、狂おしい程の想いを募らせていた。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【完結】婚約者が好きなのです
maruko
恋愛
リリーベルの婚約者は誰にでも優しいオーラン・ドートル侯爵令息様。
でもそんな優しい婚約者がたった一人に対してだけ何故か冷たい。
冷たくされてるのはアリー・メーキリー侯爵令嬢。
彼の幼馴染だ。
そんなある日。偶然アリー様がこらえきれない涙を流すのを見てしまった。見つめる先には婚約者の姿。
私はどうすればいいのだろうか。
全34話(番外編含む)
※他サイトにも投稿しております
※1話〜4話までは文字数多めです
注)感想欄は全話読んでから閲覧ください(汗)
コワモテ軍人な旦那様は彼女にゾッコンなのです~新婚若奥様はいきなり大ピンチ~
二階堂まや
恋愛
政治家の令嬢イリーナは社交界の《白薔薇》と称される程の美貌を持ち、不自由無く華やかな生活を送っていた。
彼女は王立陸軍大尉ディートハルトに一目惚れするものの、国内で政治家と軍人は長年対立していた。加えて軍人は質実剛健を良しとしており、彼女の趣味嗜好とはまるで正反対であった。
そのためイリーナは華やかな生活を手放すことを決め、ディートハルトと無事に夫婦として結ばれる。
幸せな結婚生活を謳歌していたものの、ある日彼女は兄と弟から夜会に参加して欲しいと頼まれる。
そして夜会終了後、ディートハルトに華美な装いをしているところを見られてしまって……?
燻らせた想いは口付けで蕩かして~睦言は蜜毒のように甘く~
二階堂まや
恋愛
北西の国オルデランタの王妃アリーズは、国王ローデンヴェイクに愛されたいがために、本心を隠して日々を過ごしていた。 しかしある晩、情事の最中「猫かぶりはいい加減にしろ」と彼に言われてしまう。
夫に嫌われたくないが、自分に自信が持てないため涙するアリーズ。だがローデンヴェイクもまた、言いたいことを上手く伝えられないもどかしさを密かに抱えていた。
気持ちを伝え合った二人は、本音しか口にしない、隠し立てをしないという約束を交わし、身体を重ねるが……?
「こんな本性どこに隠してたんだか」
「構って欲しい人だったなんて、思いませんでしたわ」
さてさて、互いの本性を知った夫婦の行く末やいかに。
+ムーンライトノベルズにも掲載しております。
伯爵は年下の妻に振り回される 記憶喪失の奥様は今日も元気に旦那様の心を抉る
新高
恋愛
※第15回恋愛小説大賞で奨励賞をいただきました!ありがとうございます!
※※2023/10/16書籍化しますーー!!!!!応援してくださったみなさま、ありがとうございます!!
契約結婚三年目の若き伯爵夫人であるフェリシアはある日記憶喪失となってしまう。失った記憶はちょうどこの三年分。記憶は失ったものの、性格は逆に明るく快活ーーぶっちゃけ大雑把になり、軽率に契約結婚相手の伯爵の心を抉りつつ、流石に申し訳ないとお詫びの品を探し出せばそれがとんだ騒ぎとなり、結果的に契約が取れて仲睦まじい夫婦となるまでの、そんな二人のドタバタ劇。
※本編完結しました。コネタを随時更新していきます。
※R要素の話には「※」マークを付けています。
※勢いとテンション高めのコメディーなのでふわっとした感じで読んでいただけたら嬉しいです。
※他サイト様でも公開しています
幼馴染の腹黒王太子、自分がテンプレ踏んでることに全然気付いてないので困る。
夏八木アオ
恋愛
◆毒舌で皮肉っぽい王太子のヴィクターと、転生者でめんどくさがりな令嬢ルリア。外面の良い幼馴染二人のラブストーリーです◆
モーズ公爵家の次女、ルリアは幼馴染の王太子ヴィクターに呼び出された。ヴィクターは、彼女が書いた小説のせいで、アメリア嬢との婚約を解消の話が出ているから責任を取れと言う。その上、ルリアは自身がヴィクターの新しい婚約者になったと聞き、婚約解消するために二人で奔走することに…。
※他サイトにも掲載中
転生令嬢は前世の心中相手に囚われたくない!
田鶴
恋愛
伯爵令嬢アニカには、約100年前のコーブルク公爵家の侍女アンネとしての前世の記憶がある。アンネは、当時の公爵家嫡男ルドルフと恋仲だったが、身分差のため結婚を反対され、ヤンデレ化したルドルフに毒で無理心中させられてしまったのだ。ヤンデレルドルフが転生していたら、やっぱりヤンデレだよね?今世では、そんな男に惚れないし、惚れられない!だから今世ではまともな男性と素敵な恋愛をするぞー!と思ったら、こんな身近にルドルフの転生者らしきヤツが!!ああ、めくるめく恋愛は今世でも成就しないのっ?!
アルファポリス、小説家になろう、ムーンライトノベルズ、カクヨムに掲載している『始まりは偽装デキ婚から』(完結済み)と同じ世界の約100年後の話です。
前作で不幸な死に方をしたアンネとルドルフ(特にアンネ!)を救ってあげたくて今世で幸せになる話を書きました。
前作を読んでいなくても本作品を楽しめるように書いていますが、前作も読んでいただけると本作品をもっと楽しめるかと思いますので、前作も読んでいただけるとうれしいです!
https://www.alphapolis.co.jp/novel/768272089/741700187
作中の固有名詞は実在のものと無関係です。
*小説家になろうとカクヨムでも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる