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9.束の間のデート
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翌日、アンネはいつも奉仕する側だったのに、身体を磨かれて身支度される側になり、戸惑っていた。
ディートリヒシュタイン家のカントリーハウスにはなぜかアンネにぴったりと合うドレスが数着用意されており、その中から彼女の赤毛に映えてルドルフの瞳の色に近い深緑色のドレスを選び、用意されていたルビーのネックレスとイヤリングをつけた。
ルドルフはアンネの着飾った姿に感動し、綺麗だと連呼した。アンネの癖が強くて赤い剛毛は爆発しやすくてまとまりにくい。ちんまりとした目鼻立ちで少し日に焼けた顔には化粧でもかくしきれないそばかすが広がっていて、正直に言えばアンネの容姿は美しいとは言えなかった。
アンネはいくら着飾ったところで貴族の女性には到底見えなかった。それどころか、艶のある金髪や海のような青い目、雪のように白い肌を持つルドルフの婚約者ゾフィーのほうが公平な目でみれば美しかったし、金髪碧眼の貴公子然としたルドルフにお似合いに見えた。
だが、ルドルフはアンネの優しい心根に惹かれていたから、恋は盲目とはよく言ったもので、アンネが最高に美しく見えた。そうでなくともアンネには人の良さが表情に出た愛嬌があり、周囲の人をその人柄で魅了していた。
ルドルフとアンネがその日、劇場で見た『真実の愛』の劇は、王国中に小説としても流布していた。冷静に考えれば、真実を脚色して美化した劇と小説で王家のスキャンダルをもみ消そうとしていると気が付くものだろう。だが劇の内容は2人にとって二の次だった。こんなに着飾って劇場に来たことはアンネにはなかったし、ルドルフにもアンネにとっても2人きりでのデートが何よりも大切だったからだ。
もっともアンネは、豪華な劇場で着飾った紳士淑女の中で決まりの悪い思いをしていた。アンネは自分がどう見ても良家の子女には見えないことが分かっていたので、貴公子のルドルフの隣は嬉しくとも、人々の好奇な目線を感じてルドルフに申し訳なく思った。だがデートで高揚しているルドルフは、そんな視線に全く気付いている様子はなかった。
劇を見終わって劇場の隣の高級ホテルにチェックインしてすぐに、ルドルフは夕食を部屋に運ばせた。食べ終わった後、2人は客室のリビングルームでまったりとソファーに座ってくつろいでいた。
「ルドルフ様、今日は本当に最高の日でした。いいえ、今日だけでなく、この旅行自体がもう夢のようです。これを胸に次の勤め先で頑張れます」
「そんな悲しいことは言わないで」
「でもこれが最後って約束ですから……」
「だからだよ。旅行中はそのことは言わないで。でないと君の口をふさいでしまうよ」
そう言ってルドルフはアンネにやさしく口づけ、段々と強く唇を吸っていった。やがて彼の舌がアンネの唇と歯を割って口の中に入り、アンネの舌と絡まりあった。くちゅくちゅと部屋に響き渡る音と2人の唇の間に引く銀糸でルドルフはさらに興奮したが、アンネはルドルフとの2度目の深いキスに腰砕けになった。ルドルフはそのアンネをお姫様だっこで寝室のベッドまで運んだ。
ディートリヒシュタイン家のカントリーハウスにはなぜかアンネにぴったりと合うドレスが数着用意されており、その中から彼女の赤毛に映えてルドルフの瞳の色に近い深緑色のドレスを選び、用意されていたルビーのネックレスとイヤリングをつけた。
ルドルフはアンネの着飾った姿に感動し、綺麗だと連呼した。アンネの癖が強くて赤い剛毛は爆発しやすくてまとまりにくい。ちんまりとした目鼻立ちで少し日に焼けた顔には化粧でもかくしきれないそばかすが広がっていて、正直に言えばアンネの容姿は美しいとは言えなかった。
アンネはいくら着飾ったところで貴族の女性には到底見えなかった。それどころか、艶のある金髪や海のような青い目、雪のように白い肌を持つルドルフの婚約者ゾフィーのほうが公平な目でみれば美しかったし、金髪碧眼の貴公子然としたルドルフにお似合いに見えた。
だが、ルドルフはアンネの優しい心根に惹かれていたから、恋は盲目とはよく言ったもので、アンネが最高に美しく見えた。そうでなくともアンネには人の良さが表情に出た愛嬌があり、周囲の人をその人柄で魅了していた。
ルドルフとアンネがその日、劇場で見た『真実の愛』の劇は、王国中に小説としても流布していた。冷静に考えれば、真実を脚色して美化した劇と小説で王家のスキャンダルをもみ消そうとしていると気が付くものだろう。だが劇の内容は2人にとって二の次だった。こんなに着飾って劇場に来たことはアンネにはなかったし、ルドルフにもアンネにとっても2人きりでのデートが何よりも大切だったからだ。
もっともアンネは、豪華な劇場で着飾った紳士淑女の中で決まりの悪い思いをしていた。アンネは自分がどう見ても良家の子女には見えないことが分かっていたので、貴公子のルドルフの隣は嬉しくとも、人々の好奇な目線を感じてルドルフに申し訳なく思った。だがデートで高揚しているルドルフは、そんな視線に全く気付いている様子はなかった。
劇を見終わって劇場の隣の高級ホテルにチェックインしてすぐに、ルドルフは夕食を部屋に運ばせた。食べ終わった後、2人は客室のリビングルームでまったりとソファーに座ってくつろいでいた。
「ルドルフ様、今日は本当に最高の日でした。いいえ、今日だけでなく、この旅行自体がもう夢のようです。これを胸に次の勤め先で頑張れます」
「そんな悲しいことは言わないで」
「でもこれが最後って約束ですから……」
「だからだよ。旅行中はそのことは言わないで。でないと君の口をふさいでしまうよ」
そう言ってルドルフはアンネにやさしく口づけ、段々と強く唇を吸っていった。やがて彼の舌がアンネの唇と歯を割って口の中に入り、アンネの舌と絡まりあった。くちゅくちゅと部屋に響き渡る音と2人の唇の間に引く銀糸でルドルフはさらに興奮したが、アンネはルドルフとの2度目の深いキスに腰砕けになった。ルドルフはそのアンネをお姫様だっこで寝室のベッドまで運んだ。
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