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第3章 前世を思い出した後

22.『鬼ごっこ』のゴール

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 あの『鬼ごっこ』から10年後――ウルフはディートリヒシュタイン商会の支所長に就任した。ウルフはアニカの両親に認めてもらえるように必死に頑張ってきた甲斐があったとむせび泣きした。

 アニカは学校卒業以来、ずっと実家のディートリヒシュタイン商会で仕入れ担当だ。調査能力と生来の目利き能力で仕入れた商品の売れ行きはいい。

 ウルフは28歳、アニカは26歳になっていた。

 支所長就任の日、ウルフはアニカの前で片膝をついて99本の薔薇の花束を差し出した。

 「アニカ、愛してるよ。結婚してください!」
 「はい、ウルフ!ありがとう…うれしいっ!」

 ここまで長かった。でも今の平均結婚年齢は男性20代後半、女性20代半ばだからとアニカはウルフに結婚を急かしそうになる度に自分を励ましていた。ウルフがアニカの両親に認めてもらってから結婚したいという気持ちをアニカもよく分かっていた。

 ウルフの支社長就任から半年後――結婚式の日は2人の未来を見通したかのように快晴だった。首都の中央教会の黒光りする外壁が青空に映える。2人は知らなかったが、この教会は約100年前にルドルフの元婚約者ゾフィーが後にコーブルク公爵となったラルフと結婚式を挙げた場所だ。

 バージンロードの入口で新婦の娘アニカと腕を組む父ディートリヒシュタイン伯爵の顔は涙でくしゃくしゃだ。アニカは父に囁く。

 「パパ、泣き声抑えて…」
 「泣かずにいられるかっ!こんなヤツに愛娘をやらなきゃいけないなんて!」
 「『ヤツ』じゃないわよ。私の愛する夫なの。そんなこと言うならパパと絶好よ!」

 父は娘の『パパと絶好』宣言に弱い。伯爵はなりたてほやほやの義息子への不満を封じてよき義父の仮面を被った。

 結婚式の後はディートリヒシュタイン家のタウンハウスに場所を移し、立食パーティが始まった。王政時代に豪華絢爛な夜会が開かれた大広間で商会の取引先から学校時代の友人まで2人に縁があった人々を200人以上招待した。生オーケストラの演奏もあり、空いている場所で自然にダンスを始める人や、旧交を温める人、ビュッフェを満喫する人、皆それぞれだったが、共通しているのはアニカとウルフの結婚を喜んでいることだった。あのモニカも態度は相変わらず天邪鬼だったが、皆と同じで2人を祝福していた。

 「モニカ、今日は来てくれてありがとう」
 「あんたのためじゃないわよ、ウルフのためよ」
 「モニカ!――妻が失礼なことを申してすみません」

 モニカの隣には、夫となったヴィリーがいた。学校時代、モニカとウルフをカップルに見立ててからかっていた悪ガキだったが、モニカへの想いを自覚してからは何度振られても辛抱強くアタックし、絆されたモニカがとうとうプロポーズにOKサインを出して結婚したばかりだった。

 パーティは真夜中まで続いたが、新婚カップルのお約束通り、アニカとウルフは先に寝室へ下がった。

 「あー、疲れた!やっと座れた!」

 アニカが寝台の上にボスっと身を投げ出すと、ぐぅ~とお腹が鳴った。アニカとウルフは200人以上のゲストに挨拶してまわってへとへとでほとんど食べ物を口にできなかったのだ。

 「お腹すいちゃった」
 「そう思って俺達の分、とっておいた」

 ウルフが内線電話でキッチンに連絡して数分でブッフェの食べ物とスパークリングワインが運ばれてきた。ウルフはスパークリングワインのボトルを開けてグラスに注いだ。

 「私達の将来に乾杯!」
 「乾杯!」
 「今から初夜だね」
 「ぶっ!な、何言うの、いきなり?!」
 「今更照れることないじゃない。もう何度もシてるんだし」
 「なっ!」

 何年一緒にいてもウルフは照れる。今更…と言ってもやっぱり初夜でアニカを抱くって思うとクるなぁとウルフは興奮してきた。

 スパークリングワインを飲み干してお腹を満たすと、初夜が待ちきれない2人はそそくさとシャワーを浴び、寝台にダイブして朝まで愛し合った。

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薔薇99本は、「永遠の愛」、「ずっと好きだった」という意味だそうです。
次回、最終話です!
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