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第3章 前世を思い出した後
21.逃がさない!(ウルフ視点)
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脚と手を骨折した俺は、1ヶ月入院を勧められた。でもひき逃げされた俺はそんな長期の入院費を払えない!目が覚めた翌日に強引に退院して孤児院で静養することにした。昏睡状態だった1週間分とその後の2日分の入院費は借金として俺の肩にずっしりかかってきた。でも骨折が治るまでは仕事もできないので、返済は猶予してもらっている。
アニカは毎日学校帰りに寄ってくれているけど、俺達の両方に前世の記憶があることがわかってから俺に怯えているようでなんだか距離を感じる。
今日もそろそろアニカが来る時間だ。部屋の前から待ち望んでいた女性の足音が聞こえて思わず口角が上がった。
コンコン――
俺が滞在している客室の扉がノックされた。療養中は特別に客室を1人で使ってよいことになっている。治ったら6人部屋に逆戻りだ。
部屋に入って来たアニカは寝台の横に置かれている椅子に座ってそろそろと静かに椅子を後ろに引いて寝台から離れようとしている。俺に気付かないと思っているのか?!アニカがかわいくて思わずにんまりしてしまった。
「アニカ、ここ座って」
俺は腰かけている寝台の横をポンポンと叩く。
「え、いいよ…」
「俺達、恋人でしょ?そんなに離れて座らなくてもいいじゃない」
「まだ結婚していないんだから、節度持たないと…」
アニカは椅子ごと後ろにずりずりと下がろうとしている。
「いつの時代の話してるの?隣同士に座って抱き合ってキスするぐらい、恋人なら当然するよね?」
「だ、だ、抱き合ってキス?!」
アニカが目を白黒しているうちに俺は骨折していないほうの左腕でアニカを抱き寄せた。
「ウルフっ!ちょ、ちょっと!」
「まだキスしたことなかったよね。今、してもいい?」
俺はアニカの耳元で囁いた。アニカの顔はわかりやすく真っ赤になっている。
「だっ、だめっ!」
「アニカの口は嘘つきだなぁ。顔はキスしてって言ってるよ」
俺はアニカの唇に人差し指をぷにっと押し付けた。ああっ、なんて柔らかいんだ!
「ふふっ、俺のアニカ、かわいい!」
アニカが頭のてっぺんまで真っ赤になっていっぱいいっぱいになってる隙に唇にちゅっとキスした。ああっ!かわいいアニカとキス!なんて甘いんだっ!
「アニカ、そんな蕩けた顔、他の男に見せちゃだめだよ!」
「わわわっ!」
アニカはパニクって俺の腕をほどいて立ち上がってそのまま部屋を出て行こうとする。でも俺は左手で咄嗟にアニカの腕を掴んだ。
「どうして逃げるの?俺達、愛し合ってる恋人同士だろう?」
アニカは俺の手を振りほどいて出て行く。俺はその背中に叫んだ。
「逃げても無駄だよ、どこまでも追いかけて行くからね!」
俺はヘタレウルフを返上した。アニカが逃げる度に『愛してる』と『俺達は幸せになれる』を繰り返した。
まるで鬼ごっこみたいだった。でもこの『鬼ごっこ』はアニカの負けって決まっていた。最初は俺に不安がっていたアニカは洗脳され――いや、考えを改めた。アニカは俺に捕まえられた!
アニカは毎日学校帰りに寄ってくれているけど、俺達の両方に前世の記憶があることがわかってから俺に怯えているようでなんだか距離を感じる。
今日もそろそろアニカが来る時間だ。部屋の前から待ち望んでいた女性の足音が聞こえて思わず口角が上がった。
コンコン――
俺が滞在している客室の扉がノックされた。療養中は特別に客室を1人で使ってよいことになっている。治ったら6人部屋に逆戻りだ。
部屋に入って来たアニカは寝台の横に置かれている椅子に座ってそろそろと静かに椅子を後ろに引いて寝台から離れようとしている。俺に気付かないと思っているのか?!アニカがかわいくて思わずにんまりしてしまった。
「アニカ、ここ座って」
俺は腰かけている寝台の横をポンポンと叩く。
「え、いいよ…」
「俺達、恋人でしょ?そんなに離れて座らなくてもいいじゃない」
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アニカは椅子ごと後ろにずりずりと下がろうとしている。
「いつの時代の話してるの?隣同士に座って抱き合ってキスするぐらい、恋人なら当然するよね?」
「だ、だ、抱き合ってキス?!」
アニカが目を白黒しているうちに俺は骨折していないほうの左腕でアニカを抱き寄せた。
「ウルフっ!ちょ、ちょっと!」
「まだキスしたことなかったよね。今、してもいい?」
俺はアニカの耳元で囁いた。アニカの顔はわかりやすく真っ赤になっている。
「だっ、だめっ!」
「アニカの口は嘘つきだなぁ。顔はキスしてって言ってるよ」
俺はアニカの唇に人差し指をぷにっと押し付けた。ああっ、なんて柔らかいんだ!
「ふふっ、俺のアニカ、かわいい!」
アニカが頭のてっぺんまで真っ赤になっていっぱいいっぱいになってる隙に唇にちゅっとキスした。ああっ!かわいいアニカとキス!なんて甘いんだっ!
「アニカ、そんな蕩けた顔、他の男に見せちゃだめだよ!」
「わわわっ!」
アニカはパニクって俺の腕をほどいて立ち上がってそのまま部屋を出て行こうとする。でも俺は左手で咄嗟にアニカの腕を掴んだ。
「どうして逃げるの?俺達、愛し合ってる恋人同士だろう?」
アニカは俺の手を振りほどいて出て行く。俺はその背中に叫んだ。
「逃げても無駄だよ、どこまでも追いかけて行くからね!」
俺はヘタレウルフを返上した。アニカが逃げる度に『愛してる』と『俺達は幸せになれる』を繰り返した。
まるで鬼ごっこみたいだった。でもこの『鬼ごっこ』はアニカの負けって決まっていた。最初は俺に不安がっていたアニカは洗脳され――いや、考えを改めた。アニカは俺に捕まえられた!
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