転生令嬢は前世の心中相手に囚われたくない！

第３章 前世を思い出した後

17．ウルフが…!!

アニカの誕生日パーティ翌日、大人達は二日酔いで中々起きて来なかったが、使用人達はもちろん通常通り、仕事をしていた。とは言っても、昔の貴族と違い、常勤の使用人は家政婦のハイディと伯爵の補佐をする秘書の2人しかいない。来客の応対をするのも秘書の仕事だ。

「お嬢様、孤児院からザンドラという女の子が来ていますが、お会いになりますか？すごく取り乱していていますが…」
「会います。応接室に通して」

アニカが応接室に入ると、先に案内されていたザンドラがソファから立ち上がってむせび泣きながらアニカに抱き着いた。

「アニカ！ウルフがっ！ウルフがっ！じ、事故でっ…病院に運ばれた！」
「い、命に別状はないよね？！」
「意識不明で…今夜が峠だろうって…」

アニカは絶句してその場に崩れ落ちてしまった。
昨晩、ウルフはアニカと別れた後、夜道でひき逃げされてしまったのだった。

「病院はどこ？！」
「市立病院だけど、面会謝絶だって…」
「そんな…」

アニカは放心状態でザンドラに抱き着いていた。

「ちょ、ちょっとお待ちください！」

突然、応接室の前の廊下から争う声が聞こえ、ドアが乱暴に開けられた。

「アニカ！あんたのせいよ！あんたがこっそり誕生日にウルフを呼んだから！」

押しかけて来たモニカは涙と鼻水で美しい顔を台無しにしてひたすらアニカを責めた。

「え？！どうしてそれを？！」

ウルフは誰にも言わずに内緒でディートリヒシュタイン伯爵家の通用口まで来たはずだ。それをどうしてモニカが知っているのだろうかとアニカは不思議に思った。

「そんなことどうでもいいでしょ！とにかくあんたのせいよ！」
「モニカ、止めなよ。叫んだってウルフが事故に遭う前に時間が戻るわけじゃないんだから」

ザンドラはモニカに呆れながらもなんとか場を収めようとしたが、モニカはぎゃーぎゃー騒いでアニカを責め立て続けた。

「これ以上、騒がれるようでしたら警察を呼びますよ！」

アニカの父の秘書はいつモニカを止めようとそわそわしていたが、さすがに我慢の限界を超えたので、アニカとモニカの間に割って入った。

モニカが秘書に強制的に帰された後もアニカは放心状態で床に座り込んだままだった。ザンドラはアニカの家に来た時は取り乱していたが、アニカの取り乱し様を見て気を奮い立たせた。腰を低くしてアニカの両肩を掴んで目を合わせた。

「アニカ、ウルフは強いから大丈夫。元気になるって祈っていよう」
「ありがとう…今日、1人で寝れる気がしないよ。泊まって私と一緒にいてくれる？」
「わかった。明日、学校へ一緒に行こう」
「学校なんて行ってる場合じゃない！全然、授業なんて集中できないよ」
「ウルフと頑張って商会を盛り立てようって約束したんだよね？なら頑張ろう。病院からの連絡なら孤児院から秘書さんに連絡が行くようにしておくからすぐに学校に知らせてくれるでしょう？」
「でもパパが…知らせる必要がないって言うと思う…」
「秘書さん、お願いできますよね？じゃなきゃ、アニカは学校に行っても勉強が全然身に入らないですよ」

ザンドラは秘書をじっと見た。アニカの父に内緒にするのか、説得するのか、どちらにしてもアニカを安心させろと言外に伝えたつもりだった。どうやら秘書は理解したらしく、うなずいて応接室から出て行った。