転生令嬢は前世の心中相手に囚われたくない!

田鶴

文字の大きさ
上 下
16 / 23
第3章 前世を思い出した後

16.誕生日プレゼント

しおりを挟む
今回、最初はウルフ視点、次がアニカと第三者視点です。

------

今日はアニカの誕生日。僕は一生懸命働いて貯めたお金で薔薇のモチーフの髪飾りをプレゼントに用意している。お嬢様のアニカにとっては安物だろうけど、今の僕にとっては精一杯のプレゼントだ。彼女はきっとそれをわかって喜んでくれるはずだ。

伯爵邸での誕生日パーティには残念ながら呼ばれていない。アニカは僕を呼びたがったけど、彼女の両親が許さなかった。悔しいけど、僕がまだ認められていないってことだ。認められるまで頑張ろう。

でもパーティが終わった後、アニカに家をこっそり抜け出してもらってちょっと会うことになっている。最初は、そんなことをして彼女の両親に見つかったら、僕の信用ががた落ちになるって反対した。だけど、僕がパーティに招待されないって聞いた時にがっかりした様子を見せてしまってアニカは誕生日に会えないことを気にしてしまった。だからプレゼントを渡したらすぐに帰るってことで、伯爵邸の通用口で待ち合わせしている。今時、貴族の家でもそんなに使用人を置いていないし、夜勤の使用人までいる家はよっぽどの大金持ちか事情のある家だから、アニカが家をこっそり抜け出してもめったなことでは見つからないだろう。

******

王政時代、高貴な方々を招待して都度都度晩餐会が開かれたというディートリヒシュタイン伯爵家の晩餐室は、光り輝くクリスタルのシャンデリアで照らされている。天井や壁には蔦模様のモールディングが施されて金色に塗られており、壁にはディートリヒシュタイン伯爵家の初代と中興の祖の肖像画がかかっている。そんな豪華絢爛な晩餐室に『ハッピーバースデー アニカ♡』という手書きの垂れ幕や素朴な手作りの飾りは、なんだかちぐはぐな印象だ。もちろん、はりきって飾り付けた両親やお兄様、家政婦さんにはこんなこと言えないけど。

だからか知らないけど、VIPな招待客はいない。別の言葉で言えば、全員、よく知った人達で緊張しなきゃいけないような仲じゃないし、家族を入れても20人ぐらいのパーティだ。どう考えても格式ばったパーティじゃない。だったらウルフを呼んでもよかったのに・・・

アニカはウルフのことを考えると気持ちが沈んでしまった。その時、にこにこ顔で母方の伯母夫妻が誕生祝いの言葉をかけてくれてプレゼントを差し出してきた。
(は!いけない、せっかく皆集まってくれたのに!)

皆、入れ替わり立ち代わりアニカを祝福してくれた。気の置けない親戚や友人達との会話は楽しくあっという間に時間が過ぎていった。友人達は家に帰り、伯母夫妻を始めとした親戚は両親と大人のお酒タイムを楽しみ、そのままディートリヒシュタイン家に宿泊する。アニカは親戚に『おやすみなさい』と挨拶をして自室に戻った……と見せかけ、こっそり通用口に急いだ。パーティが思ったよりも長引いてウルフとの約束の時間から10分過ぎていた。

息を切らせてアニカが通用口に着くと、ポツンと立っているウルフが目に入った。

「お待たせ、ウルフ!」
「・・・っ!ア、アニカ・・・き、綺麗だ・・・」
「あ、ありがとう・・・ウルフに見てもらいたくって・・・着替えなかったの」

アニカは誕生日パーティで着ていたワンピースを纏い、赤毛をハーフアップにして瞳の色と同じ深緑色のリボンをつけている。オーガンジーの長袖ワンピースもリボンと同じ深緑色で細かい花柄が入っている。

「アニカ、これ、誕生日プレゼント。気に入ってくれるといいんだけど」
「ありがとう、ウルフ!開けてもいい?」

ウルフが首を縦に振ると、アニカは包み紙を破かないように慎重に開いた。中に入っていた厚紙の箱を開けると、青い薔薇をかたどった七宝細工の髪飾りが現れた。

「わぁ・・・綺麗!これって・・・ウルフの瞳の色?」
「あ、あ・・・う、うん・・・気に入ってくれた?」
「うん、とっても!ウルフの瞳の色を付けられるってすごくうれしい!」
「ア、アニカッ!煽らないで・・・」
「え?」

次の瞬間、アニカはウルフの腕の中にいた。夜の闇でお互いに気が付かなかったが、2人とも顔が真っ赤になっていた。

「ウルフ・・・私、幸せ・・・大好きよ」
「お、俺も・・・アニカが、だ、だ、だ・・・・・・」
「だ?」
「大好きだーっ!」
「ウルフ!ありがとう!でも声が大きいよ」
「ご、ごめん。はぁ・・・帰りたくないよ・・・・・・」
「私も離れたくない・・・でもあんまり長いこと外に出てると誰かが私の部屋に呼びにきたりしたらヤバイかも」
「え、誰がこんな遅い時間に呼びに来るの?!」
「親戚はまだ親と一緒に飲んでるから、私とかお兄ちゃんの部屋に誰か乱入してくるかも。特に伯母さんが酔っぱらうとお兄ちゃんや私をすごく構うの。あんまりひどいとお母さんが怒るけど、そうじゃなきゃお母さんも一緒になって喜んで私達に絡むんだよ」
「えっ、おばさん、そんなことするの?!意外だな」
「そう。子供っぽいでしょ。だから早く部屋に戻らないと・・・・・・」
「そっか・・・残念だな。次、いつ孤児院に来る?」
「明日行くよ」
「それじゃ明日。あ、でもその前に髪飾りをつけた所見たい。つけてもいい?」

ウルフはぎこちない手でリボンを取って同じ所に髪飾りをつけた。夜だからよくわからないが、明るい所で見たら赤い髪に青い薔薇が映えるだろうとウルフは思った。

「すごく似合ってるよ。今度、明るい所でもつけてるのを見たいな」
「明日、つけてくるね。早く鏡で見たいな」
「就職したら、本物の宝石のついた髪飾りをプレゼントできるように頑張って貯金するよ」
「無理しないで。値段なんて関係ないから。ウルフが私のために選んでくれたってだけでうれしい」
「あぁ・・・アニカはほんとに煽るのがうま過ぎるよ・・・帰らなきゃいけないのがツライ・・・・・・」

2人はすごく離れがたかったが、あまり長く外にいるとアニカが部屋にいないことがばれるかもしれない。翌日孤児院で会うことを約束して2人は別れた――まさか翌日言葉を交わせないとは思わずに――

------

アニカの家は、『始まりはデキ婚から』に出てきたルドルフの親友ヴォルフガング・フォン・ディートリヒシュタインの家です。ということは、アニカはヴォルフガングの100年後の子孫ということになります。
しおりを挟む
この話は、『始まりはデキ婚から』(完結済、R18)のスピンオフです。
別のスピンオフ『年下執事が崇める女神~虐げられている男爵夫人を救いたい~』(R18)も公開中です(完結済)。
感想 0

あなたにおすすめの小説

傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。

石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。 そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。 新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。 初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、別サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

乙女ゲームの正しい進め方

みおな
恋愛
 乙女ゲームの世界に転生しました。 目の前には、ヒロインや攻略対象たちがいます。  私はこの乙女ゲームが大好きでした。 心優しいヒロイン。そのヒロインが出会う王子様たち攻略対象。  だから、彼らが今流行りのザマァされるラノベ展開にならないように、キッチリと指導してあげるつもりです。  彼らには幸せになってもらいたいですから。

悪役令嬢は反省しない!

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢リディス・アマリア・フォンテーヌは18歳の時に婚約者である王太子に婚約破棄を告げられる。その後馬車が事故に遭い、気づいたら神様を名乗る少年に16歳まで時を戻されていた。 性格を変えてまで王太子に気に入られようとは思わない。同じことを繰り返すのも馬鹿らしい。それならいっそ魔界で頂点に君臨し全ての国を支配下に置くというのが、良いかもしれない。リディスは決意する。魔界の皇子を私の美貌で虜にしてやろうと。

婚約破棄寸前だった令嬢が殺されかけて眠り姫となり意識を取り戻したら世界が変わっていた話

ひよこ麺
恋愛
シルビア・ベアトリス侯爵令嬢は何もかも完璧なご令嬢だった。婚約者であるリベリオンとの関係を除いては。 リベリオンは公爵家の嫡男で完璧だけれどとても冷たい人だった。それでも彼の幼馴染みで病弱な男爵令嬢のリリアにはとても優しくしていた。 婚約者のシルビアには笑顔ひとつ向けてくれないのに。 どんなに尽くしても努力しても完璧な立ち振る舞いをしても振り返らないリベリオンに疲れてしまったシルビア。その日も舞踏会でエスコートだけしてリリアと居なくなってしまったリベリオンを見ているのが悲しくなりテラスでひとり夜風に当たっていたところ、いきなり何者かに後ろから押されて転落してしまう。 死は免れたが、テラスから転落した際に頭を強く打ったシルビアはそのまま意識を失い、昏睡状態となってしまう。それから3年の月日が流れ、目覚めたシルビアを取り巻く世界は変っていて…… ※正常な人があまりいない話です。

悪役令嬢の居場所。

葉叶
恋愛
私だけの居場所。 他の誰かの代わりとかじゃなく 私だけの場所 私はそんな居場所が欲しい。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ※誤字脱字等あれば遠慮なく言ってください。 ※感想はしっかりニヤニヤしながら読ませて頂いています。 ※こんな話が見たいよ!等のリクエストも歓迎してます。 ※完結しました!番外編執筆中です。

悪役令嬢の逆襲

すけさん
恋愛
断罪される1年前に前世の記憶が甦る! 前世は三十代の子持ちのおばちゃんだった。 素行は悪かった悪役令嬢は、急におばちゃんチックな思想が芽生え恋に友情に新たな一面を見せ始めた事で、断罪を回避するべく奮闘する!

【完結】小さなマリーは僕の物

miniko
恋愛
マリーは小柄で胸元も寂しい自分の容姿にコンプレックスを抱いていた。 彼女の子供の頃からの婚約者は、容姿端麗、性格も良く、とても大事にしてくれる完璧な人。 しかし、周囲からの圧力もあり、自分は彼に不釣り合いだと感じて、婚約解消を目指す。 ※マリー視点とアラン視点、同じ内容を交互に書く予定です。(最終話はマリー視点のみ)

それは報われない恋のはずだった

ララ
恋愛
異母妹に全てを奪われた。‥‥ついには命までもーー。どうせ死ぬのなら最期くらい好きにしたっていいでしょう? 私には大好きな人がいる。幼いころの初恋。決して叶うことのない無謀な恋。 それはわかっていたから恐れ多くもこの気持ちを誰にも話すことはなかった。けれど‥‥死ぬと分かった今ならばもう何も怖いものなんてないわ。 忘れてくれたってかまわない。身勝手でしょう。でも許してね。これが最初で最後だから。あなたにこれ以上迷惑をかけることはないわ。 「幼き頃からあなたのことが好きでした。私の初恋です。本当に‥‥本当に大好きでした。ありがとう。そして‥‥さよなら。」 主人公 カミラ・フォーテール 異母妹 リリア・フォーテール

処理中です...