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第3章 前世を思い出した後
16.誕生日プレゼント
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今回、最初はウルフ視点、次がアニカと第三者視点です。
------
今日はアニカの誕生日。僕は一生懸命働いて貯めたお金で薔薇のモチーフの髪飾りをプレゼントに用意している。お嬢様のアニカにとっては安物だろうけど、今の僕にとっては精一杯のプレゼントだ。彼女はきっとそれをわかって喜んでくれるはずだ。
伯爵邸での誕生日パーティには残念ながら呼ばれていない。アニカは僕を呼びたがったけど、彼女の両親が許さなかった。悔しいけど、僕がまだ認められていないってことだ。認められるまで頑張ろう。
でもパーティが終わった後、アニカに家をこっそり抜け出してもらってちょっと会うことになっている。最初は、そんなことをして彼女の両親に見つかったら、僕の信用ががた落ちになるって反対した。だけど、僕がパーティに招待されないって聞いた時にがっかりした様子を見せてしまってアニカは誕生日に会えないことを気にしてしまった。だからプレゼントを渡したらすぐに帰るってことで、伯爵邸の通用口で待ち合わせしている。今時、貴族の家でもそんなに使用人を置いていないし、夜勤の使用人までいる家はよっぽどの大金持ちか事情のある家だから、アニカが家をこっそり抜け出してもめったなことでは見つからないだろう。
******
王政時代、高貴な方々を招待して都度都度晩餐会が開かれたというディートリヒシュタイン伯爵家の晩餐室は、光り輝くクリスタルのシャンデリアで照らされている。天井や壁には蔦模様のモールディングが施されて金色に塗られており、壁にはディートリヒシュタイン伯爵家の初代と中興の祖の肖像画がかかっている。そんな豪華絢爛な晩餐室に『ハッピーバースデー アニカ♡』という手書きの垂れ幕や素朴な手作りの飾りは、なんだかちぐはぐな印象だ。もちろん、はりきって飾り付けた両親やお兄様、家政婦さんにはこんなこと言えないけど。
だからか知らないけど、VIPな招待客はいない。別の言葉で言えば、全員、よく知った人達で緊張しなきゃいけないような仲じゃないし、家族を入れても20人ぐらいのパーティだ。どう考えても格式ばったパーティじゃない。だったらウルフを呼んでもよかったのに・・・
アニカはウルフのことを考えると気持ちが沈んでしまった。その時、にこにこ顔で母方の伯母夫妻が誕生祝いの言葉をかけてくれてプレゼントを差し出してきた。
(は!いけない、せっかく皆集まってくれたのに!)
皆、入れ替わり立ち代わりアニカを祝福してくれた。気の置けない親戚や友人達との会話は楽しくあっという間に時間が過ぎていった。友人達は家に帰り、伯母夫妻を始めとした親戚は両親と大人のお酒タイムを楽しみ、そのままディートリヒシュタイン家に宿泊する。アニカは親戚に『おやすみなさい』と挨拶をして自室に戻った……と見せかけ、こっそり通用口に急いだ。パーティが思ったよりも長引いてウルフとの約束の時間から10分過ぎていた。
息を切らせてアニカが通用口に着くと、ポツンと立っているウルフが目に入った。
「お待たせ、ウルフ!」
「・・・っ!ア、アニカ・・・き、綺麗だ・・・」
「あ、ありがとう・・・ウルフに見てもらいたくって・・・着替えなかったの」
アニカは誕生日パーティで着ていたワンピースを纏い、赤毛をハーフアップにして瞳の色と同じ深緑色のリボンをつけている。オーガンジーの長袖ワンピースもリボンと同じ深緑色で細かい花柄が入っている。
「アニカ、これ、誕生日プレゼント。気に入ってくれるといいんだけど」
「ありがとう、ウルフ!開けてもいい?」
ウルフが首を縦に振ると、アニカは包み紙を破かないように慎重に開いた。中に入っていた厚紙の箱を開けると、青い薔薇をかたどった七宝細工の髪飾りが現れた。
「わぁ・・・綺麗!これって・・・ウルフの瞳の色?」
「あ、あ・・・う、うん・・・気に入ってくれた?」
「うん、とっても!ウルフの瞳の色を付けられるってすごくうれしい!」
「ア、アニカッ!煽らないで・・・」
「え?」
次の瞬間、アニカはウルフの腕の中にいた。夜の闇でお互いに気が付かなかったが、2人とも顔が真っ赤になっていた。
「ウルフ・・・私、幸せ・・・大好きよ」
「お、俺も・・・アニカが、だ、だ、だ・・・・・・」
「だ?」
「大好きだーっ!」
「ウルフ!ありがとう!でも声が大きいよ」
「ご、ごめん。はぁ・・・帰りたくないよ・・・・・・」
「私も離れたくない・・・でもあんまり長いこと外に出てると誰かが私の部屋に呼びにきたりしたらヤバイかも」
「え、誰がこんな遅い時間に呼びに来るの?!」
「親戚はまだ親と一緒に飲んでるから、私とかお兄ちゃんの部屋に誰か乱入してくるかも。特に伯母さんが酔っぱらうとお兄ちゃんや私をすごく構うの。あんまりひどいとお母さんが怒るけど、そうじゃなきゃお母さんも一緒になって喜んで私達に絡むんだよ」
「えっ、おばさん、そんなことするの?!意外だな」
「そう。子供っぽいでしょ。だから早く部屋に戻らないと・・・・・・」
「そっか・・・残念だな。次、いつ孤児院に来る?」
「明日行くよ」
「それじゃ明日。あ、でもその前に髪飾りをつけた所見たい。つけてもいい?」
ウルフはぎこちない手でリボンを取って同じ所に髪飾りをつけた。夜だからよくわからないが、明るい所で見たら赤い髪に青い薔薇が映えるだろうとウルフは思った。
「すごく似合ってるよ。今度、明るい所でもつけてるのを見たいな」
「明日、つけてくるね。早く鏡で見たいな」
「就職したら、本物の宝石のついた髪飾りをプレゼントできるように頑張って貯金するよ」
「無理しないで。値段なんて関係ないから。ウルフが私のために選んでくれたってだけでうれしい」
「あぁ・・・アニカはほんとに煽るのがうま過ぎるよ・・・帰らなきゃいけないのがツライ・・・・・・」
2人はすごく離れがたかったが、あまり長く外にいるとアニカが部屋にいないことがばれるかもしれない。翌日孤児院で会うことを約束して2人は別れた――まさか翌日言葉を交わせないとは思わずに――
------
アニカの家は、『始まりはデキ婚から』に出てきたルドルフの親友ヴォルフガング・フォン・ディートリヒシュタインの家です。ということは、アニカはヴォルフガングの100年後の子孫ということになります。
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今日はアニカの誕生日。僕は一生懸命働いて貯めたお金で薔薇のモチーフの髪飾りをプレゼントに用意している。お嬢様のアニカにとっては安物だろうけど、今の僕にとっては精一杯のプレゼントだ。彼女はきっとそれをわかって喜んでくれるはずだ。
伯爵邸での誕生日パーティには残念ながら呼ばれていない。アニカは僕を呼びたがったけど、彼女の両親が許さなかった。悔しいけど、僕がまだ認められていないってことだ。認められるまで頑張ろう。
でもパーティが終わった後、アニカに家をこっそり抜け出してもらってちょっと会うことになっている。最初は、そんなことをして彼女の両親に見つかったら、僕の信用ががた落ちになるって反対した。だけど、僕がパーティに招待されないって聞いた時にがっかりした様子を見せてしまってアニカは誕生日に会えないことを気にしてしまった。だからプレゼントを渡したらすぐに帰るってことで、伯爵邸の通用口で待ち合わせしている。今時、貴族の家でもそんなに使用人を置いていないし、夜勤の使用人までいる家はよっぽどの大金持ちか事情のある家だから、アニカが家をこっそり抜け出してもめったなことでは見つからないだろう。
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王政時代、高貴な方々を招待して都度都度晩餐会が開かれたというディートリヒシュタイン伯爵家の晩餐室は、光り輝くクリスタルのシャンデリアで照らされている。天井や壁には蔦模様のモールディングが施されて金色に塗られており、壁にはディートリヒシュタイン伯爵家の初代と中興の祖の肖像画がかかっている。そんな豪華絢爛な晩餐室に『ハッピーバースデー アニカ♡』という手書きの垂れ幕や素朴な手作りの飾りは、なんだかちぐはぐな印象だ。もちろん、はりきって飾り付けた両親やお兄様、家政婦さんにはこんなこと言えないけど。
だからか知らないけど、VIPな招待客はいない。別の言葉で言えば、全員、よく知った人達で緊張しなきゃいけないような仲じゃないし、家族を入れても20人ぐらいのパーティだ。どう考えても格式ばったパーティじゃない。だったらウルフを呼んでもよかったのに・・・
アニカはウルフのことを考えると気持ちが沈んでしまった。その時、にこにこ顔で母方の伯母夫妻が誕生祝いの言葉をかけてくれてプレゼントを差し出してきた。
(は!いけない、せっかく皆集まってくれたのに!)
皆、入れ替わり立ち代わりアニカを祝福してくれた。気の置けない親戚や友人達との会話は楽しくあっという間に時間が過ぎていった。友人達は家に帰り、伯母夫妻を始めとした親戚は両親と大人のお酒タイムを楽しみ、そのままディートリヒシュタイン家に宿泊する。アニカは親戚に『おやすみなさい』と挨拶をして自室に戻った……と見せかけ、こっそり通用口に急いだ。パーティが思ったよりも長引いてウルフとの約束の時間から10分過ぎていた。
息を切らせてアニカが通用口に着くと、ポツンと立っているウルフが目に入った。
「お待たせ、ウルフ!」
「・・・っ!ア、アニカ・・・き、綺麗だ・・・」
「あ、ありがとう・・・ウルフに見てもらいたくって・・・着替えなかったの」
アニカは誕生日パーティで着ていたワンピースを纏い、赤毛をハーフアップにして瞳の色と同じ深緑色のリボンをつけている。オーガンジーの長袖ワンピースもリボンと同じ深緑色で細かい花柄が入っている。
「アニカ、これ、誕生日プレゼント。気に入ってくれるといいんだけど」
「ありがとう、ウルフ!開けてもいい?」
ウルフが首を縦に振ると、アニカは包み紙を破かないように慎重に開いた。中に入っていた厚紙の箱を開けると、青い薔薇をかたどった七宝細工の髪飾りが現れた。
「わぁ・・・綺麗!これって・・・ウルフの瞳の色?」
「あ、あ・・・う、うん・・・気に入ってくれた?」
「うん、とっても!ウルフの瞳の色を付けられるってすごくうれしい!」
「ア、アニカッ!煽らないで・・・」
「え?」
次の瞬間、アニカはウルフの腕の中にいた。夜の闇でお互いに気が付かなかったが、2人とも顔が真っ赤になっていた。
「ウルフ・・・私、幸せ・・・大好きよ」
「お、俺も・・・アニカが、だ、だ、だ・・・・・・」
「だ?」
「大好きだーっ!」
「ウルフ!ありがとう!でも声が大きいよ」
「ご、ごめん。はぁ・・・帰りたくないよ・・・・・・」
「私も離れたくない・・・でもあんまり長いこと外に出てると誰かが私の部屋に呼びにきたりしたらヤバイかも」
「え、誰がこんな遅い時間に呼びに来るの?!」
「親戚はまだ親と一緒に飲んでるから、私とかお兄ちゃんの部屋に誰か乱入してくるかも。特に伯母さんが酔っぱらうとお兄ちゃんや私をすごく構うの。あんまりひどいとお母さんが怒るけど、そうじゃなきゃお母さんも一緒になって喜んで私達に絡むんだよ」
「えっ、おばさん、そんなことするの?!意外だな」
「そう。子供っぽいでしょ。だから早く部屋に戻らないと・・・・・・」
「そっか・・・残念だな。次、いつ孤児院に来る?」
「明日行くよ」
「それじゃ明日。あ、でもその前に髪飾りをつけた所見たい。つけてもいい?」
ウルフはぎこちない手でリボンを取って同じ所に髪飾りをつけた。夜だからよくわからないが、明るい所で見たら赤い髪に青い薔薇が映えるだろうとウルフは思った。
「すごく似合ってるよ。今度、明るい所でもつけてるのを見たいな」
「明日、つけてくるね。早く鏡で見たいな」
「就職したら、本物の宝石のついた髪飾りをプレゼントできるように頑張って貯金するよ」
「無理しないで。値段なんて関係ないから。ウルフが私のために選んでくれたってだけでうれしい」
「あぁ・・・アニカはほんとに煽るのがうま過ぎるよ・・・帰らなきゃいけないのがツライ・・・・・・」
2人はすごく離れがたかったが、あまり長く外にいるとアニカが部屋にいないことがばれるかもしれない。翌日孤児院で会うことを約束して2人は別れた――まさか翌日言葉を交わせないとは思わずに――
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アニカの家は、『始まりはデキ婚から』に出てきたルドルフの親友ヴォルフガング・フォン・ディートリヒシュタインの家です。ということは、アニカはヴォルフガングの100年後の子孫ということになります。
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