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アントンが仕事に復帰してまもなく、2人は揃って夕食を食べていたが、リーゼロッテはあまり食が進まず、カトラリーを置いた。
「ロッティ、どうしたの? ほとんど食べてないじゃないか」
「ええ、最近ちょっと食欲があまりな……」
そこまで言ってリーゼロッテは、口を押えてバスルームへ駆けて行った。手の中ではもう吐しゃ物が溢れそうになっていたが、危機一髪で便器の上で吐けた。辛そうに吐き続ける妻の背中をアントンはひたすら擦った。
「ロッティ、大丈夫か?」
「え、ええ。もしかしたら子供ができたのかも」
「本当か?! 赤ちゃんには何が必要なんだ? 通いの家政婦さんに聞いてみるか?」
「気が早いわよ。できているかどうかまだ分からないわ。明日、お医者様に行ってくる」
「でも大分待つぞ。大丈夫か? 陛下に頼んで王宮の侍医に診てもらおうか?」
「駄目よ。私達はそういう不便も承知で平民になったのですから。平民女性はそれで妊娠出産しているんだから大丈夫よ」
翌朝、アントンは休むと大騒ぎしたが、リーゼロッテに尻を叩かれて渋々出勤して行った。でも執務室でずっと上の空だったので、結局昼過ぎにはルイトポルトに家へ送り返された。
アントンの帰宅時にはまだリーゼロッテは帰っておらず、アントンは医院へ向かって家を飛び出した。平民を診る医院は王都にそれほど沢山ある訳ではなく、リーゼロッテのあの具合では遠くに行けないから、必然的に彼女が診てもらう医院は推測できた。
医院に向かう道の途中、前からリーゼロッテが歩いて来るのが見え、アントンは駆け寄った。
「ロッティ! 大丈夫?」
「ちょっと吐き気はまだしてるけど、何とか大丈夫。それとね……赤ちゃん、できていたわ」
「やったー!」
アントンは路上にもかかわらず、リーゼロッテを思わずきつく抱きしめてしまった。
「うううっ! アントン、吐きそう……」
「ご、ごめん!」
それから7ヶ月程経ってリーゼロッテは男の子を産み落とした。その後、2人は避妊を続けてアントンの秘密を守り、2度と子供を持つ事はなかった。
アントンは、あんなにリーゼロッテに対する恩赦を拒んでいたのに、結局彼女が罰せられない事を願った。リーゼロッテは実家のフォン・ファベック元伯爵家とは血縁関係のない赤の他人だったという事になり、修道院に行く必要はなくなった。
アントンは国王ルイトポルトの側近であり続けて功績をあげたが、授爵を断って平民のままでい続けた。その為、彼らの生活はマンダーシャイド伯爵家時代のように決して豊かではなかったものの、3人家族は金銭に変えられない幸せな生活を送った。
------
最後まで読んで下さってありがとうございます。
これでリーゼロッテとアントンの話は終わりになりますが、国王の側近としてのアントンの活躍は本編『傀儡妃は幼馴染の王太子をひたすら愛する』でまだまだ続きます。
アルファポリスでも投稿し始めましたので、ぜひご覧ください:
https://www.alphapolis.co.jp/novel/768272089/915999
「ロッティ、どうしたの? ほとんど食べてないじゃないか」
「ええ、最近ちょっと食欲があまりな……」
そこまで言ってリーゼロッテは、口を押えてバスルームへ駆けて行った。手の中ではもう吐しゃ物が溢れそうになっていたが、危機一髪で便器の上で吐けた。辛そうに吐き続ける妻の背中をアントンはひたすら擦った。
「ロッティ、大丈夫か?」
「え、ええ。もしかしたら子供ができたのかも」
「本当か?! 赤ちゃんには何が必要なんだ? 通いの家政婦さんに聞いてみるか?」
「気が早いわよ。できているかどうかまだ分からないわ。明日、お医者様に行ってくる」
「でも大分待つぞ。大丈夫か? 陛下に頼んで王宮の侍医に診てもらおうか?」
「駄目よ。私達はそういう不便も承知で平民になったのですから。平民女性はそれで妊娠出産しているんだから大丈夫よ」
翌朝、アントンは休むと大騒ぎしたが、リーゼロッテに尻を叩かれて渋々出勤して行った。でも執務室でずっと上の空だったので、結局昼過ぎにはルイトポルトに家へ送り返された。
アントンの帰宅時にはまだリーゼロッテは帰っておらず、アントンは医院へ向かって家を飛び出した。平民を診る医院は王都にそれほど沢山ある訳ではなく、リーゼロッテのあの具合では遠くに行けないから、必然的に彼女が診てもらう医院は推測できた。
医院に向かう道の途中、前からリーゼロッテが歩いて来るのが見え、アントンは駆け寄った。
「ロッティ! 大丈夫?」
「ちょっと吐き気はまだしてるけど、何とか大丈夫。それとね……赤ちゃん、できていたわ」
「やったー!」
アントンは路上にもかかわらず、リーゼロッテを思わずきつく抱きしめてしまった。
「うううっ! アントン、吐きそう……」
「ご、ごめん!」
それから7ヶ月程経ってリーゼロッテは男の子を産み落とした。その後、2人は避妊を続けてアントンの秘密を守り、2度と子供を持つ事はなかった。
アントンは、あんなにリーゼロッテに対する恩赦を拒んでいたのに、結局彼女が罰せられない事を願った。リーゼロッテは実家のフォン・ファベック元伯爵家とは血縁関係のない赤の他人だったという事になり、修道院に行く必要はなくなった。
アントンは国王ルイトポルトの側近であり続けて功績をあげたが、授爵を断って平民のままでい続けた。その為、彼らの生活はマンダーシャイド伯爵家時代のように決して豊かではなかったものの、3人家族は金銭に変えられない幸せな生活を送った。
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最後まで読んで下さってありがとうございます。
これでリーゼロッテとアントンの話は終わりになりますが、国王の側近としてのアントンの活躍は本編『傀儡妃は幼馴染の王太子をひたすら愛する』でまだまだ続きます。
アルファポリスでも投稿し始めましたので、ぜひご覧ください:
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はじめまして。「傀儡妃は幼馴染の王太子をひたすら愛する」をこちらで読みたいです(願)。パトリツィアとルイトポルトのハピエンを切に願っています。お忙しい事と思いますが、更新よろしくお願いします。
コメントありがとうございます。
「傀儡妃は幼馴染の王太子をひたすら愛する」をアルファポリスで読みたいとおっしゃっていただけて、とても嬉しいです。
さっそくこちらでも投稿開始しました:
https://www.alphapolis.co.jp/novel/768272089/915999152
傀儡妃は、他サイトでは現在15万字弱まで公開しています。かなり更新が滞ってしまっていますが、リクエストをいただけて励みになりました。不定期にはなると思いますが、頑張って更新していきますので、よろしくお願いいたします。
※リンクを間違ってしまったので、返信を書き直しました。申し訳ありません。
どうせなら、こちらで読もうと思いましたが、お相手はあの、あの、あの、悪名名高きアントン!?これはリーゼロッテ⋯⋯おやおやまあまあ。
おお、こちらで読んで下さってありがとうございます。
こっちは、カクヨム版と違って忖度なしにエロを炸裂させています。エロはエロでも溺愛エロではなく、どちらかと言うとヘンタイのほうのエロですかね。悪名高きアントンの大活躍の様子も遠慮なく書けています。
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