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28.最後かもしれない逢瀬

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フリードリヒが北の塔でディアナに会った翌日、ユリアは王宮に呼ばれた。マクシミリアンとの婚約が破棄された以上、ユリアは王家とは無関係だから行く必要がないと言って両親も兄も反対したが、ユリアは王宮に向かった。謁見の間では、フリードリヒが人払いをして待っていた。

「マクシミリアンに会いたいか?」

「会えるのですか?!」

「ああ。言っておくが、かつてのマクシミリアンではない。マクシミリアンはそなたにそんな姿を見てもらいたくないかもしれない。それでも最後にマクシミリアンに別れを告げたいのなら、今日これから会わせてやろう」

「『最期』?!どうにか処刑は覆りませんか?あの状態の彼が第二王子殿下の暗殺を計画実行できたとは思えません!」

「マクシミリアンが『死ぬ』ことは王家の存続に必然だ」

「そんな!非情過ぎます!」

「よく聞け。しばらくしてからマクシミリアンは獄死したと発表する。その後は辺境にある王家直轄領で別人として生きて行くことになる。全てヴィルヘルムのとりなしのおかげだ」

「本当ですか!」

涙でぐしゃぐしゃになっていたユリアの顔が途端に輝いた。

「ああ。ディアナと例の侍女もそうなる。明後日、2人は離宮に行く。ほとぼりが冷めた頃、2人は離宮で亡くなったことにして別の王家直轄領の辺境へ移す予定だ。余もいずれヴィルヘルムに譲位後にそこへ行くつもりだ」

それを聞いてユリアは何か決意したような顔でフリードリヒを見上げた。

「マクシミリアン様が辺境に移ったら、私も彼の元に行かせていただけませんか?」

「公爵が許さないであろう?」

「両親や兄がなんと言っても私はマクシミリアン様のそばで生きていきたいです」

「生きていける最低限の支援はするが、公爵家のような贅沢な生活は望めないぞ?ドレスをオーダーメイドできるメゾンや宝石店もないし、夜会やお茶会で社交もできないぞ?」

「もちろん覚悟の上です。マクシミリアン様と一緒にいられるほうが大事です」

「…そうか。わかった。公爵の説得のほうはそなたに任せる。マクシミリアンは治療が一段落したら獄死したことにして辺境に送る」

ユリアが北の塔に行った時には、マクシミリアンはディアナの滞在していた部屋に移されていた。掃除してもとれない匂いがこびりついていたからだ。マクシミリアンは既に粗相したらしく、大便の匂いがしたが、おむつをしていたのでトラウザーや寝具は汚れていなかった。ユリアは感極まって構わずにマクシミリアンに抱き着いた。

「マックス!」

「ぐっ!」

急に抱き着かれたマクシミリアンに吐き気が襲った。ろくに食べていなかったので胃液が出てきただけだったが、ユリアの首と服を汚した。ユリアはマックスを抱きしめる腕を緩めたが、彼から離れなかった。

「マックス、ごめんなさい。苦しかったね?ワン先生の言うことをよく聞いて治すのよ」

「何?誰?」

「私よ、ユリアよ」

ユリアの名前を聞いた途端、マクシミリアンの目に光が戻ってきた。

「ユリア?!そんな人、知らない。早く帰って!」

マクシミリアンはまたパニックに陥り、暴れ始めた。護衛騎士が取り押さえた後にやって来た牢番がマクシミリアンを寝台に拘束した。

「お嬢様がいらっしゃると、マクシミリアン様は落ち着かないようです」

牢番達に帰るように声をかけられ、ユリアは後ろ髪を引かれるように帰るしかなかった。ユリアは名残惜しそうに拘束を解こうと暴れるマクシミリアンを振り返って見た。

「貴方の元に行きますから待ってて!」

拘束されていても暴れるマクシミリアンにはユリアの叫びは届いていないようだった。
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