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48.罪悪感
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レオポルティーナが寝台の上でゆっくりと目を開けると、側に人の気配を感じた。
「ティーナ! 具合はどう?」
「にい……フェル?」
「ああ、僕だよ。子供は無事だって聞いたよね?」
「ええ、でもごめんなさい、せっかくできた子供を危険に晒してしまって……」
「そんなことより……いや、『そんなこと』って語弊があるね。もちろん、僕達の子供も大切だよ。でも、まだ生まれていない子供よりも今ここに生きている、ティーナが1番大事だよ」
「私が1番大事……?」
フェルディナントにとってレオポルティーナが大切なのは嘘ではない。子供の頃からよく知っていて妹のように思っている。彼女も大事だ。でも本当に1番大切な存在は……口にしてはいけないのだ。そう思い浮かべたフェルディナントは、胸にチクリと痛みを覚えた。
一方、そんな夫の気持ちを分かっているのに嫌味のように彼の言葉をオウム返してしまってレオポルティーナは恥じた。
「ごめんなさい、フェル……」
「どうして謝るの?」
「だって……」
具体的に口にしてしまえば、わざとフェルディナントを責めるようなことを言ってしまうだろう。そうしたらフェルディナントは、醜い嫉妬心を持つレオポルティーナを軽蔑するに違いない。だからレオポルティーナは、そのことについてはもう言うつもりはなかったが、聞かなくてはならないことがあった――例え、胸が痛くなるとしても――
「フェル、ヨハンの容態はどうなの? まだ意識が戻らないの?」
「……まだだよ」
「そんな……! ごめんなさい、にい……フェル! 私のせいで!」
レオポルティーナが顔を覆うと、フェルディナントの華奢な手が彼女の頭に触れた。レオポルティーナは、確かに夫との触れ合いを渇望していたが、こんな理由で触れてもらっても罪悪感で胸が痛いだけだ。
「謝らないで。君のせいじゃない」
「でも私が買い物に行きたいなんて言ったから! 家に商人を呼べばよかったんだわ。ああ……兄様……フェル、ヨハン、ごめんなさい!」
「まさかあんなことが起きるなんて誰も分からなかったんだ。仕方ないよ。ヨハンの回復を祈ろう」
「フェル、ヨハンの見舞いに行かせて下さい」
「君は絶対安静だ。ヨハンが回復したら、君の所に向かわせるから、それまで我慢していて」
「私は元気です。同じ敷地内の移動ぐらい大丈夫です。ヨハンの方が怪我人ですわ」
「でも……ヨハンを見舞って事故を思い出して倒れたりしちゃったら……父上になんて言われるか」
「もしそんなことになったら……またフェルやヨハンが殴られてしまいますよね……ごめんなさい、自分のことばかり考えて私って自分勝手ですよね……」
「あ、いや、違う、ティーナが心配で……」
万一レオポルティーナが倒れたら、フェルディナントやヨハンが義父にまた殴られることにまで彼女は考えが及ばず、自分の浅慮具合に落ち込んだ。一方、フェルディナントはレオポルティーナの見舞いを止めるのは彼女の身体を心配しているからと口にしかけたが、本当は自分の保身の為なのではと気付き、自分の心の醜さに恥ずかしくなった。
「……それでは、フェルが……代わりに見舞いに行ってくれませんか?」
「うん……行きたいのは山々だけど、父上が……」
「妻を庇って怪我をした恩人を夫が見舞うのは当然ですわ。私からお義父様に頼んでみます。だから、お願いします」
「うん……確かにそうだね。それなら大丈夫かな?」
フェルディナントはヨハンを見舞いたくて仕方なかったが、父の怒りが凄くてとてもではないが今まで言い出せなかった。だからレオポルティーナの申し出は棚からぼた餅だった。
「それじゃ、ゆっくり休んでね」
「フェル、私が眠るまで手を握っていてくれる? お願い」
「お安い御用だよ」
レオポルティーナは、掛布団の下から手を出した。フェルディナンドが寝台の側に座って手を握ると、彼女は安心したように目を瞑った。しばらくすると、スヤスヤと寝息が聞こえ始め、フェルディナンドはそっと手を外してレオポルティーナの寝室を出て行った。
「ティーナ! 具合はどう?」
「にい……フェル?」
「ああ、僕だよ。子供は無事だって聞いたよね?」
「ええ、でもごめんなさい、せっかくできた子供を危険に晒してしまって……」
「そんなことより……いや、『そんなこと』って語弊があるね。もちろん、僕達の子供も大切だよ。でも、まだ生まれていない子供よりも今ここに生きている、ティーナが1番大事だよ」
「私が1番大事……?」
フェルディナントにとってレオポルティーナが大切なのは嘘ではない。子供の頃からよく知っていて妹のように思っている。彼女も大事だ。でも本当に1番大切な存在は……口にしてはいけないのだ。そう思い浮かべたフェルディナントは、胸にチクリと痛みを覚えた。
一方、そんな夫の気持ちを分かっているのに嫌味のように彼の言葉をオウム返してしまってレオポルティーナは恥じた。
「ごめんなさい、フェル……」
「どうして謝るの?」
「だって……」
具体的に口にしてしまえば、わざとフェルディナントを責めるようなことを言ってしまうだろう。そうしたらフェルディナントは、醜い嫉妬心を持つレオポルティーナを軽蔑するに違いない。だからレオポルティーナは、そのことについてはもう言うつもりはなかったが、聞かなくてはならないことがあった――例え、胸が痛くなるとしても――
「フェル、ヨハンの容態はどうなの? まだ意識が戻らないの?」
「……まだだよ」
「そんな……! ごめんなさい、にい……フェル! 私のせいで!」
レオポルティーナが顔を覆うと、フェルディナントの華奢な手が彼女の頭に触れた。レオポルティーナは、確かに夫との触れ合いを渇望していたが、こんな理由で触れてもらっても罪悪感で胸が痛いだけだ。
「謝らないで。君のせいじゃない」
「でも私が買い物に行きたいなんて言ったから! 家に商人を呼べばよかったんだわ。ああ……兄様……フェル、ヨハン、ごめんなさい!」
「まさかあんなことが起きるなんて誰も分からなかったんだ。仕方ないよ。ヨハンの回復を祈ろう」
「フェル、ヨハンの見舞いに行かせて下さい」
「君は絶対安静だ。ヨハンが回復したら、君の所に向かわせるから、それまで我慢していて」
「私は元気です。同じ敷地内の移動ぐらい大丈夫です。ヨハンの方が怪我人ですわ」
「でも……ヨハンを見舞って事故を思い出して倒れたりしちゃったら……父上になんて言われるか」
「もしそんなことになったら……またフェルやヨハンが殴られてしまいますよね……ごめんなさい、自分のことばかり考えて私って自分勝手ですよね……」
「あ、いや、違う、ティーナが心配で……」
万一レオポルティーナが倒れたら、フェルディナントやヨハンが義父にまた殴られることにまで彼女は考えが及ばず、自分の浅慮具合に落ち込んだ。一方、フェルディナントはレオポルティーナの見舞いを止めるのは彼女の身体を心配しているからと口にしかけたが、本当は自分の保身の為なのではと気付き、自分の心の醜さに恥ずかしくなった。
「……それでは、フェルが……代わりに見舞いに行ってくれませんか?」
「うん……行きたいのは山々だけど、父上が……」
「妻を庇って怪我をした恩人を夫が見舞うのは当然ですわ。私からお義父様に頼んでみます。だから、お願いします」
「うん……確かにそうだね。それなら大丈夫かな?」
フェルディナントはヨハンを見舞いたくて仕方なかったが、父の怒りが凄くてとてもではないが今まで言い出せなかった。だからレオポルティーナの申し出は棚からぼた餅だった。
「それじゃ、ゆっくり休んでね」
「フェル、私が眠るまで手を握っていてくれる? お願い」
「お安い御用だよ」
レオポルティーナは、掛布団の下から手を出した。フェルディナンドが寝台の側に座って手を握ると、彼女は安心したように目を瞑った。しばらくすると、スヤスヤと寝息が聞こえ始め、フェルディナンドはそっと手を外してレオポルティーナの寝室を出て行った。
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