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42.堕天使の応援(*)
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父ロルフに夫婦仲良いところを夜会で見せろと言われ、フェルディナントとレオポルティーナは夜会を開催し、中々の盛況だった。ただ、人々が2人に好意的だったかと言うと、必ずしもそうではない。フェルディナントが妻にぴったり寄り添う姿を見た人々は、フェルディナントが男色だという噂は嘘だったのだろうか、それともカモフラージュなのかと囁き合った。そのひそひそ話は2人にも聞こえてしまい、レオポルティーナは胸が張り裂けそうになった。フェルディナントはそんな妻を見て罪悪感でたまらなくなった。
フェルディナントにずっと横恋慕していたアンゲラはもちろん招待されず、出席できなかった。でもフェルディナントが妻と一緒に夜会を主催し、仲睦まじい姿を見せたことは彼女の耳にも入った。
「エマニュエル、どういうこと?! フェルディナント様は廃嫡されたんじゃなかったの?!」
「あいつの妻が夫と夫の愛人を庇ってそれを恩に着た愛人が身を引いたらしいです。奴の愛人を煽ってみましょう」
「あの侍従を? でも別れたって貴方が今言ったんじゃない!」
「お嬢様、落ち着いて。大丈夫です、お任せ下さい。おまんこを舐めてあげますから、気持ちよくなって不安を忘れましょう」
「な、何言ってるのよ?!……あっ、あっ、だ、駄目っ、誤魔化……されないわよっ……あああっ、あん! あん!」
その後、アンゲラが達しすぎて気を失うまで彼女の喘ぎ声と水音がひたすら部屋に響いた。
***
ヨハンはレオポルティーナ付きの侍従にはなったものの、たまに他の騎士と一緒に彼女を護衛する他は、本来の侍従としての任務を与えられない上、彼女の侍女達に白眼視されて居心地が悪い。必然的に夜、居酒屋にヤケ酒を飲みに行くことが多くなった。
フェルディナントとレオポルティーナの夜会から1週間ほど経ったある晩、居酒屋のカウンターで飲んでいるヨハンの隣に若い男――というよりも美少年だ――が座った。ヨハンは彼の顔をどこかで見たことがあったような気がした。こんなに綺麗な顔なら忘れるはずがないのに酒に酔った頭は霞がかかったようでどうにも思い出せない。
「おい、他にも席は空いてるんだ。隣に座るなよ」
「あんちゃん、つれないねぇ。失恋のヤケ酒かい?」
ヨハンはキッと少年を睨んだ。
「お前みたいな子供に何が分かる! あっちに行ってくれ!」
「おお、怖い、怖い。そんなに睨まないでくれよ。なぁ、悔しくないか? 両想いなのに別れなきゃいけないなんておかしくないか?」
「な、何言ってるんだ!?」
「教会が、世間が許さないからって、想い合う2人を引き裂いて前歯まで折るなんて理不尽だよな。でも……もし邪魔な女が消えたらって考えたことはないか?」
「……!!」
「あるよなぁ?」
正体不明の美少年に見透かされたように見つめられてヨハンは狼狽した。
「だ、だ……黙れ! それ以上言うなら店を出て行け!」
「落ち着いてよく考えろ。邪魔者さえいなくなれば、君は恋しい彼とずっと一緒にいられるんだ」
ヨハンの酔って濁り切った目が少年の目と合い、その目に思わず吸い込まれそうになった。
「や、や……止めろ!聞きたくない! 俺は……俺は……ティ……彼女に恩があるんだ。そんなことを思ってはいけないんだ!」
「そうかな? そう思おうとしてるだけだろう? 元々、彼は君のものだったんだ。横恋慕したのは彼女だろう?それなら排除されるのは彼女だ」
ヨハンは、自分の忠誠心がグラグラと揺れるのを感じて、頭をブンブンと振った。
「黙ってくれ! お願いだ!」
「彼女が憎いだろう? いなくなればいいと思わないか?」
男はヨハンの両手をカウンターの上で握り、俯くヨハンの顔を覗き込んだ。涙で滲んだヨハンの視界に彼の瞳が入ると、酔ったヨハンの理性はその瞳にスーッと引き込まれて消えていった。
「あ、あ、あ、あ……」
「いいんだよ、正直になって」
男は天使のように微笑んだ。
「僕は君の恋を応援するよ」
その言葉を聞いた途端、ヨハンの目から滝のように涙が滴り落ちた。
「ほら、これで涙を拭いて。飲み過ぎはよくないよ。ここは僕が奢るから今日はもう帰りな。僕に会いたくなったら、この居酒屋に来て親父さんにファビアンに会いたいって言付けしてよ。そしたらすぐに来るよ」
自称ファビアンはそう言ってヨハンの肩を叩き、代金を払って出て行った。ヨハンは彼が残していった白いハンカチを手に握り、じっと眺めた。しばらくして思い立ったようにバッと席を立ち、居酒屋の外に出てファビアンを探したが、彼の姿はもう見つからなかった。
フェルディナントにずっと横恋慕していたアンゲラはもちろん招待されず、出席できなかった。でもフェルディナントが妻と一緒に夜会を主催し、仲睦まじい姿を見せたことは彼女の耳にも入った。
「エマニュエル、どういうこと?! フェルディナント様は廃嫡されたんじゃなかったの?!」
「あいつの妻が夫と夫の愛人を庇ってそれを恩に着た愛人が身を引いたらしいです。奴の愛人を煽ってみましょう」
「あの侍従を? でも別れたって貴方が今言ったんじゃない!」
「お嬢様、落ち着いて。大丈夫です、お任せ下さい。おまんこを舐めてあげますから、気持ちよくなって不安を忘れましょう」
「な、何言ってるのよ?!……あっ、あっ、だ、駄目っ、誤魔化……されないわよっ……あああっ、あん! あん!」
その後、アンゲラが達しすぎて気を失うまで彼女の喘ぎ声と水音がひたすら部屋に響いた。
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ヨハンはレオポルティーナ付きの侍従にはなったものの、たまに他の騎士と一緒に彼女を護衛する他は、本来の侍従としての任務を与えられない上、彼女の侍女達に白眼視されて居心地が悪い。必然的に夜、居酒屋にヤケ酒を飲みに行くことが多くなった。
フェルディナントとレオポルティーナの夜会から1週間ほど経ったある晩、居酒屋のカウンターで飲んでいるヨハンの隣に若い男――というよりも美少年だ――が座った。ヨハンは彼の顔をどこかで見たことがあったような気がした。こんなに綺麗な顔なら忘れるはずがないのに酒に酔った頭は霞がかかったようでどうにも思い出せない。
「おい、他にも席は空いてるんだ。隣に座るなよ」
「あんちゃん、つれないねぇ。失恋のヤケ酒かい?」
ヨハンはキッと少年を睨んだ。
「お前みたいな子供に何が分かる! あっちに行ってくれ!」
「おお、怖い、怖い。そんなに睨まないでくれよ。なぁ、悔しくないか? 両想いなのに別れなきゃいけないなんておかしくないか?」
「な、何言ってるんだ!?」
「教会が、世間が許さないからって、想い合う2人を引き裂いて前歯まで折るなんて理不尽だよな。でも……もし邪魔な女が消えたらって考えたことはないか?」
「……!!」
「あるよなぁ?」
正体不明の美少年に見透かされたように見つめられてヨハンは狼狽した。
「だ、だ……黙れ! それ以上言うなら店を出て行け!」
「落ち着いてよく考えろ。邪魔者さえいなくなれば、君は恋しい彼とずっと一緒にいられるんだ」
ヨハンの酔って濁り切った目が少年の目と合い、その目に思わず吸い込まれそうになった。
「や、や……止めろ!聞きたくない! 俺は……俺は……ティ……彼女に恩があるんだ。そんなことを思ってはいけないんだ!」
「そうかな? そう思おうとしてるだけだろう? 元々、彼は君のものだったんだ。横恋慕したのは彼女だろう?それなら排除されるのは彼女だ」
ヨハンは、自分の忠誠心がグラグラと揺れるのを感じて、頭をブンブンと振った。
「黙ってくれ! お願いだ!」
「彼女が憎いだろう? いなくなればいいと思わないか?」
男はヨハンの両手をカウンターの上で握り、俯くヨハンの顔を覗き込んだ。涙で滲んだヨハンの視界に彼の瞳が入ると、酔ったヨハンの理性はその瞳にスーッと引き込まれて消えていった。
「あ、あ、あ、あ……」
「いいんだよ、正直になって」
男は天使のように微笑んだ。
「僕は君の恋を応援するよ」
その言葉を聞いた途端、ヨハンの目から滝のように涙が滴り落ちた。
「ほら、これで涙を拭いて。飲み過ぎはよくないよ。ここは僕が奢るから今日はもう帰りな。僕に会いたくなったら、この居酒屋に来て親父さんにファビアンに会いたいって言付けしてよ。そしたらすぐに来るよ」
自称ファビアンはそう言ってヨハンの肩を叩き、代金を払って出て行った。ヨハンは彼が残していった白いハンカチを手に握り、じっと眺めた。しばらくして思い立ったようにバッと席を立ち、居酒屋の外に出てファビアンを探したが、彼の姿はもう見つからなかった。
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