27 / 49
26.和解の試み
しおりを挟む
レオポルティーナは、最近のヨハンの意地悪な態度が気になり、フェルディナントのいない時に理由を聞こうと思ったが、2人きりになるのは中々難しい。未婚の令嬢が男性と2人きりになるのは婚約者であってもはしたないと一般的に考えられているからだ。ましてやヨハンは婚約者の従者だ。起きている時はフェルディナントに付きっきりと言ってもよく、レオポルティーナがフェルディナントに会う時はヨハンも必ず付き従っている。
レオポルティーナは言い考えを思いついた。大陸のはるか東から輸入される貴重な緑茶を入手し、毎日飲むようになった。飲み始めた時はすぐにトイレに行きたくなったが、慣れると3杯ぐらい飲んでもすぐにもよおさなくなった。
それからしばらくしてフェルディナントがヨハンとともに久しぶりに伯爵家を訪れた。
「フェル兄様、今日は珍しいお茶があるの。遠い東の国から輸入された緑茶をどう?」
「いいね。飲んでみたいな」
フェルディナントは、少し苦いそのお茶が気に入り、あっという間に飲んでしまった。お代わりを飲み終わってフェルディナントは少しそわそわしだした。
「ティーナ、お手洗いをちょっと借りるよ」
フェルディナントはもう何度も伯爵家を訪問しているので、トイレの場所は知っており、レオポルティーナの侍女ベッティーナもいるので、ヨハンは応接室に残った。レオポルティーナはベッティーナのことを口が堅いと信頼しているので、ヨハンに聞くのは今と思った。
「ヨハン、最近、貴方、私に対してちょっときついわよね? どうして?」
「そんなことはございませんが…」
「私の他はベッティーナがいるだけだから、子供の頃のようにくだけて率直に話して」
「そうは言っても……」
ヨハンは眉間にしわを寄せているベッティーナをちらりと見た。
「ベッティーナのことは気にしないで。彼女の口は堅いのーーベッティーナ、ヨハンを睨まないで」
「お嬢様、睨んではいません! ですが、この者はお嬢様に対していつも失礼な真似をしています!ですから目に入るとつい……」
「それが睨んでいるって言うのよ。兄様が帰ってくる前に急いで話したいから後ろを向いてくれる?」
ベッティーナはしぶしぶレオポルティーナの背後で後ろ向きになった。
「ねえ、ヨハン、子供の頃のように3人仲良しでいられない? 私が兄様と結婚しても貴方は兄様の従者で私達2人の幼馴染でしょう?」
「大人になったら立場が違うことを自覚して相応しい振舞いをしなければなりません。それに…」
ヨハンは言いよどんだ。
「いいわよ、怒らないから正直に言って」
「それに、子供の頃から元々、私達3人の立場は対等ではありませんでした。子供でも私はフェルディナント様の従者見習いでしたし、お嬢様は婚約者候補でした。遊びにもその立場は反映されていました」
「それはもちろんそうよ。でも3人、今はベッティーナも入れて4人だけど、私達だけの時は友人として、幼馴染としてもうちょっと本音でくだけて話せない?」
「……これだけ立場が違えば無理かと……」
「そう…私達3人は元から対等な絆を築いていなかったって言うのね。それならどうして私の提案を否定したりするのかしら? 従者の立場で失礼じゃないの?」
レオポルティーナは怒らないと約束したのに、本音を言わないヨハンに少し腹を立ててしまった。口に出してからしまったと思ったが、同時に悲しく思った。
ヨハンは拳をきつく握って低い声でゆっくり話し始めた。
「私は……私は……坊ちゃまとお嬢様を子供の頃から知る者として、従者ではありますが、おふたりが貴族令息・令嬢の道から外れないようにと……」
「なんだか矛盾してるわよ……もういいわ」
失望したレオポルティーナがヨハンの言葉を遮るのとほぼ同時に扉がノックされ、フェルディナントが戻ってきた。
レオポルティーナはヨハンと分かり合うのはもはや無理そうだと感じて悲しくなった。
レオポルティーナは言い考えを思いついた。大陸のはるか東から輸入される貴重な緑茶を入手し、毎日飲むようになった。飲み始めた時はすぐにトイレに行きたくなったが、慣れると3杯ぐらい飲んでもすぐにもよおさなくなった。
それからしばらくしてフェルディナントがヨハンとともに久しぶりに伯爵家を訪れた。
「フェル兄様、今日は珍しいお茶があるの。遠い東の国から輸入された緑茶をどう?」
「いいね。飲んでみたいな」
フェルディナントは、少し苦いそのお茶が気に入り、あっという間に飲んでしまった。お代わりを飲み終わってフェルディナントは少しそわそわしだした。
「ティーナ、お手洗いをちょっと借りるよ」
フェルディナントはもう何度も伯爵家を訪問しているので、トイレの場所は知っており、レオポルティーナの侍女ベッティーナもいるので、ヨハンは応接室に残った。レオポルティーナはベッティーナのことを口が堅いと信頼しているので、ヨハンに聞くのは今と思った。
「ヨハン、最近、貴方、私に対してちょっときついわよね? どうして?」
「そんなことはございませんが…」
「私の他はベッティーナがいるだけだから、子供の頃のようにくだけて率直に話して」
「そうは言っても……」
ヨハンは眉間にしわを寄せているベッティーナをちらりと見た。
「ベッティーナのことは気にしないで。彼女の口は堅いのーーベッティーナ、ヨハンを睨まないで」
「お嬢様、睨んではいません! ですが、この者はお嬢様に対していつも失礼な真似をしています!ですから目に入るとつい……」
「それが睨んでいるって言うのよ。兄様が帰ってくる前に急いで話したいから後ろを向いてくれる?」
ベッティーナはしぶしぶレオポルティーナの背後で後ろ向きになった。
「ねえ、ヨハン、子供の頃のように3人仲良しでいられない? 私が兄様と結婚しても貴方は兄様の従者で私達2人の幼馴染でしょう?」
「大人になったら立場が違うことを自覚して相応しい振舞いをしなければなりません。それに…」
ヨハンは言いよどんだ。
「いいわよ、怒らないから正直に言って」
「それに、子供の頃から元々、私達3人の立場は対等ではありませんでした。子供でも私はフェルディナント様の従者見習いでしたし、お嬢様は婚約者候補でした。遊びにもその立場は反映されていました」
「それはもちろんそうよ。でも3人、今はベッティーナも入れて4人だけど、私達だけの時は友人として、幼馴染としてもうちょっと本音でくだけて話せない?」
「……これだけ立場が違えば無理かと……」
「そう…私達3人は元から対等な絆を築いていなかったって言うのね。それならどうして私の提案を否定したりするのかしら? 従者の立場で失礼じゃないの?」
レオポルティーナは怒らないと約束したのに、本音を言わないヨハンに少し腹を立ててしまった。口に出してからしまったと思ったが、同時に悲しく思った。
ヨハンは拳をきつく握って低い声でゆっくり話し始めた。
「私は……私は……坊ちゃまとお嬢様を子供の頃から知る者として、従者ではありますが、おふたりが貴族令息・令嬢の道から外れないようにと……」
「なんだか矛盾してるわよ……もういいわ」
失望したレオポルティーナがヨハンの言葉を遮るのとほぼ同時に扉がノックされ、フェルディナントが戻ってきた。
レオポルティーナはヨハンと分かり合うのはもはや無理そうだと感じて悲しくなった。
0
お気に入りに追加
58
あなたにおすすめの小説
『 ゆりかご 』 ◉諸事情で非公開予定ですが読んでくださる方がいらっしゃるのでもう少しこのままにしておきます。
設樂理沙
ライト文芸
皆さま、ご訪問いただきありがとうございます。
最初2/10に非公開の予告文を書いていたのですが読んで
くださる方が増えましたので2/20頃に変更しました。
古い作品ですが、有難いことです。😇
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
" 揺り篭 " 不倫の後で 2016.02.26 連載開始
の加筆修正有版になります。
2022.7.30 再掲載
・・・・・・・・・・・
夫の不倫で、信頼もプライドも根こそぎ奪われてしまった・・
その後で私に残されたものは・・。
・・・・・・・・・・
💛イラストはAI生成画像自作

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。


サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる