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20.目覚め

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「んんん……フェル兄様?…ヨハン?」

レオポルティーナが顔をテーブルから上げると、部屋にフェルディナントはおらず、ヨハンが同じテーブルで座って手持ち無沙汰にしていた。

「あれ?私…寝ちゃったの?!フェル兄様は?」
「お嬢様はお疲れだったんですね。紅茶を飲んで居眠りをされたのですよ。フェルディナント様は急に熱が出たので寝室に寝かせました。今日はもう動かせません」
「え?そんなに悪いの?あんなに元気だったのに?!じゃあ私もここに泊まるの?」
「未婚の令嬢を男性2人だけの家に泊めるわけにいきません。私が送ります」
「でも兄様が…お医者様も呼ばなくちゃ」
「大丈夫です。私はお嬢様を送ったらお医者様を迎えに行ってここに戻ってきます」
「わかったわ。でも帰る前に兄様の顔を見ていきたい」
「うつるといけません。帰りましょう」

レオポルティーナはヨハンに渋々従った。

ヨハンはレオポルティーナをクレットガウ伯爵家に送った後、ロプコヴィッツ侯爵家へ戻り、フェルディナントは熱が下がるまで館で療養すると彼の両親に伝えた。身体が弱いのに遠乗りするからだと父親ロルフは忌々しそうにフェルディナントとヨハンを罵ったが、それほど心配していなかった。ロルフは息子を心配する妻には言わなかったが、フェルディナントが寝たきりになったり死んだりしたら、市井にいるフェルディナントのを侯爵家に迎え、急ピッチで後継ぎ教育すればいいと思っている。今でも商家で働けるか、下級貴族の養子にいけるぐらいの教育は受けさせているので、それほど時間はかからないはずとロルフは見ている。

侯爵家の侍医ドミニクを派遣してフェルディナントの体調がよくなったら馬車で本宅に帰ることになった。ドミニクは馬車で行くから1時間ほどかかるが、ヨハンは馬で急いで狩猟の館へ戻った。

ヨハンが森の中の館に帰ってきた時には夕暮れが迫り、フェルディナントの眠る寝室も薄暗くなっていた。フェルディナントは尻が痛くて無意識のうちに横向きになって寝ていた。ヨハンは寝台に腰掛けて汗で湿ったフェルディナントの髪を撫でた。彼の額は熱くなって汗で濡れていた。

「フェル、起きられるか?ドミニクが診察に来る」

瞼がぴくぴくと動き、フェルディナントは寝ぼけて叫んだ。

「ん……ヨハン?!止めろっ!」
「フェル、ごめんね…君を愛してるんだ…」

ヨハンはフェルディナントを抱きしめたが、フェルディナントは腕の中から抜け出そうと暴れた。

「離せっ!離せっ!」
「もう乱暴なことはしない…許してくれ…」
「こんなことされて許せると思うのか?」
「済まない…お前がティーナばっかり優先するからつい…」
「ティーナは妹だって言っただろう?そりゃ結婚しなきゃいけない相手だけど…」
「だからだよっ!俺達は大手を振って愛し合えない…なのにお前はティーナを婚約者だって誰にでも言うことができる…」
「それは…最初からわかってたことじゃないか…僕達にはどうしようもない。でも今は僕達の関係は考えさせてくれ。あんなことされてお前のことをまだ好きだと思えるかよくわからなくなった」
「嫌だっ!そんなこと言わないでくれっ!」

ヨハンはフェルディナントに泣いて取りすがった。

「…尻が痛くてたまらない。今は僕達の関係は考えたくない」
「じゃあ治ってからゆっくり考えよう…ごめん…これからドミニクが診察に来る。数日ここで療養したら馬車で戻ることになると思う」
「ドミニクが来るのか?!」
「すまん、止められなかった」
「ばれなきゃいいんだけど…」
「なんとかなるだろう。熱で尻穴は診察しないだろう?」

リリリン――

玄関のベルを鳴らす音がした。
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