世界をまたいだ恋~植物状態になった恋人も異世界に転生してました~

田鶴

文字の大きさ
上 下
30 / 56
本編

閑話4 青い魔石のペンダント

しおりを挟む
当初第17話として公開していた話です。ご指摘をいただいて時系列がめちゃめちゃなことに気付き、順序を入れ替えて内容も少々書き変えました。混乱を招いて申し訳ありません。

------

カールがマリオンに黙って公爵家を辞してから早数ヶ月。後半年でマリオンはクラウスと結婚する。

カールの行き先は杳として知れなかった。

――お嬢様。

マリオンは、カールのくれた青い魔石のペンダントを触ると、彼の慈愛に満ちた呼び声を思い出す。

「カール……どこにいるのかしら……元気にしているといいんだけど……」

真っ二つに割れたペンダントトップは接着して継ぎ目を青く塗って修理させた。それ以来、肌身離さず身に着けて何ともなしにペンダントトップに触るのがマリオンの習慣になった。でもクラウスが嫉妬するので、いつも服の下に隠して人目のない時にペンダントトップに触る。

そしてウェディングドレスの仮縫いが出来て試着する日――クラウスに見つかるといけないと思いつつ、マリオンはぎりぎりまでペンダントを外せなかった。でもドレスアップしたシルクのウェディングドレスにはこのペンダントはちぐはぐに見えて一目で見つかるに違いない。

ズカズカと大股で歩く音が廊下から聞こえ、クラウスが試着室にいきなり入って来た。

「ちょっとノックもしないでマナー違反よ!」
「ごめん、でもお前のウェディングドレス姿をすぐに見たくて……き、綺麗だ……」

クラウスはマリオンのウェディングドレス姿に息を呑んだ。全体に細かい刺繍やレースがあしらわれて手の込んだオーダーメイドのドレスは、マリオンをますます美しく見せていた。肩まで開いた襟ぐりから豊かな胸の谷間が覗き、腰はきゅっと絞られ、腰から後ろにはトレーンが長く引く。胸の谷間に思わず目が惹きつけられたクラウスは、襟ぐりが広すぎたかと後悔した。自分は見てもよくても、他の男には見せたくない。襟ぐりの布を上に引き上げようと手を伸ばすと、美しいウェディングドレス姿にそぐわない、彼にとって忌々しいペンダントが目に留まった。

「ちょっと! 触らないで! いやらしい! まだ結婚前なのよ!」
「襟ぐりをもう少し詰めてもらおうと思っただけだ。それより、こんな割れたのまだ身に着けてるのか?!」
「ドレスのデザインは変えさせないわ! ペンダントはただのお守りよ」

クラウスは怒りの表情を浮かべて反論しようとしたが、その前にドレスショップのお針子や侍女達に合図をして部屋から退出させた。全員が部屋から出ると、クラウスはマリオンを再び詰問し始めた。

「他の男からもらったアクセサリーを後生大事にいつも着けてるんじゃない! お前はもうすぐ俺の妻になるんだぞだいたい石が割れたのをくっつけたペンダントなんてみっともない!公爵令嬢が身に着けるものじゃない」
「だからアクセサリーじゃないの、お守りよ。石が割れたって関係ない。青い魔石なんだから」
「石が割れたら不吉だろう? そんなんじゃお守りにもならない。それに青い魔石の効能なんて迷信だ。ほとんど宝石のようなものだぞ。これが割れる前ならあいつの給料の何ヶ月分するか知ってるのか?」
「そんなの知らないわよ」

クラウスはマリオンににじり寄ってペンダントトップを掴んだ。金の鎖がマリオンの白い首に食い込んだ。

「止めて、引っ張らないで! 痛いわ!」
「あいつの給料でこんな高いアクセサリーを買って贈るのはどう考えても下心がある!」
「でも彼はもういないのよ」
「だからあいつを想って肌身離さず身に着けるのか?! そんなに他の男に心を残したまま俺の妻になるなんて俺は許せない!」
「じゃあ、結婚止める? いいわよ、私は修道院に行く。貴方は後継ぎ教育をずっと受けて優秀なんだから、分家のお嬢さん達の誰かを娶ってそのまま次期公爵でいられるわよ。貴方にデメリットは何もないじゃない」
「どうしてだよ?!俺は他の女と結婚する気なんてない!次期公爵なんてどうでもいい!」

涙でくしゃくしゃになったクラウスの顔をマリオンはきょとんとして見つめた。

「どうして?! 私と結婚する最大のメリットでしょ?」
「何言ってるんだ! 俺は! お前と結婚できるから! こんなに頑張ってきたんだ!」

俯いて泣き声になったクラウスはマリオンの腕を掴んで離さない。マリオンは呆然として俯いている彼を見てふぅっと大きなため息をついた。

「……言ってみただけよ。今更結婚を止めるわけにいかないでしょ」
「でも俺は! 俺は……お前があいつを想ってるのが許せない!」

マリオンはクラウスの肩を掴んでぐっと押し返した。

「私は、貴方と結婚する。ただ、これは……私の初恋なの。でも相手はもう私の目の前にいない。どこにいるかも分からない。だから辛抱してくれる?」
「俺だってお前を待ちたいよ。でもいつまで待てばいいんだよ?! 他の男をずっと想っている妻を受け入れろって言うのか?!」
「ずっと、じゃないと思う。もうちょっと時間をくれれば……」
「でも結婚式はもう半年後だ!」
「私は貴方を裏切るつもりはないの。初恋が完全に思い出になるまで、私を優しく見守って」
「俺の……俺の初恋は……お前なんだ。お前と婚約できるって知って俺は有頂天だった……そのためにずっと努力してきたのに……酷いじゃないか」
「でも私は貴方を裏切っていない。この身は清いままよ。彼とは手すら繋げたこともないわ。私は純潔のままもうすぐ貴方の妻になる」

実際は手の甲にカールのキスをもらったことだけはあったが、マリオンの記憶のない時で今は覚えていない。

「俺はお前の心も欲しいんだ」

それはクラウスの心からの悲痛な叫びだった。

「ありがとう。貴方が公爵家のために、私達のために頑張ってくれてるのは知ってるわ。だからどうかお願い。このままそっとしておいて。このペンダントを取り上げないで。そうしたらきっと私は貴方に心を開ける」
「それは……いつか俺を愛してくれるってことか?」
「それは……わからない……でも見守ってくれたら、もしかしたら……」
「あああ……」

クラウスは黄金色に輝く髪を手でくしゃくしゃに掻きむしった。クラウスの目は真っ赤で頬は涙で濡れて鼻の先が赤くなっている。普段、人前で取り繕って貴公子然としているクラウスのそんな顔をマリオンは見たことがなかった。マリオンは決まりが悪くなり、クラウスからすぐに目を逸らした。その間にクラウスは涙でくしゃくしゃの顔のまま、試着室を出て行った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】火あぶり回避したい魔女ヒロインですが、本気になった当て馬義兄に溺愛されています

廻り
恋愛
魔女リズ17歳は、前世の記憶を持ったまま、小説の世界のヒロインへ転生した。 隣国の王太子と結婚し幸せな人生になるはずだったが、リズは前世の記憶が原因で、火あぶりにされる運命だと悟る。 物語から逃亡しようとするも失敗するが、義兄となる予定の公子アレクシスと出会うことに。 序盤では出会わないはずの彼が、なぜかリズを助けてくれる。 アレクシスに問い詰められて「公子様は当て馬です」と告げたところ、彼の対抗心に火がついたようで。 「リズには、望みの結婚をさせてあげる。絶対に、火あぶりになどさせない」 妹愛が過剰な兄や、彼の幼馴染達に囲まれながらの生活が始まる。 ヒロインらしくないおかげで恋愛とは無縁だとリズは思っているが、どうやらそうではないようで。

皇帝の番~2度目の人生謳歌します!~

saku
恋愛
竜人族が治める国で、生まれたルミエールは前世の記憶を持っていた。 前世では、一国の姫として生まれた。両親に愛されずに育った。 国が戦で負けた後、敵だった竜人に自分の番だと言われ。遠く離れたこの国へと連れてこられ、婚約したのだ……。 自分に優しく接してくれる婚約者を、直ぐに大好きになった。その婚約者は、竜人族が治めている帝国の皇帝だった。 幸せな日々が続くと思っていたある日、婚約者である皇帝と一人の令嬢との密会を噂で知ってしまい、裏切られた悲しさでどんどんと痩せ細り死んでしまった……。 自分が死んでしまった後、婚約者である皇帝は何十年もの間深い眠りについていると知った。 前世の記憶を持っているルミエールが、皇帝が眠っている王都に足を踏み入れた時、止まっていた歯車が動き出す……。 ※小説家になろう様でも公開しています

できれば穏便に修道院生活へ移行したいのです

新条 カイ
恋愛
 ここは魔法…魔術がある世界。魔力持ちが優位な世界。そんな世界に日本から転生した私だったけれど…魔力持ちではなかった。  それでも、貴族の次女として生まれたから、なんとかなると思っていたのに…逆に、悲惨な将来になる可能性があるですって!?貴族の妾!?嫌よそんなもの。それなら、女の幸せより、悠々自適…かはわからないけれど、修道院での生活がいいに決まってる、はず?  将来の夢は修道院での生活!と、息巻いていたのに、あれ。なんで婚約を申し込まれてるの!?え、第二王子様の護衛騎士様!?接点どこ!? 婚約から逃れたい元日本人、現貴族のお嬢様の、逃れられない恋模様をお送りします。  ■■両翼の守り人のヒロイン側の話です。乳母兄弟のあいつが暴走してとんでもない方向にいくので、ストッパーとしてヒロイン側をちょいちょい設定やら会話文書いてたら、なんかこれもUPできそう。と…いう事で、UPしました。よろしくお願いします。(ストッパーになれればいいなぁ…) ■■

乙女ゲームに転生したらしい私の人生は全くの無関係な筈なのに何故か無自覚に巻き込まれる運命らしい〜乙ゲーやった事ないんですが大丈夫でしょうか〜

ひろのひまり
恋愛
生まれ変わったらそこは異世界だった。 沢山の魔力に助けられ生まれてこれた主人公リリィ。彼女がこれから生きる世界は所謂乙女ゲームと呼ばれるファンタジーな世界である。 だが、彼女はそんな情報を知るよしもなく、ただ普通に過ごしているだけだった。が、何故か無関係なはずなのに乙女ゲーム関係者達、攻略対象者、悪役令嬢等を無自覚に誑かせて関わってしまうというお話です。 モブなのに魔法チート。 転生者なのにモブのド素人。 ゲームの始まりまでに時間がかかると思います。 異世界転生書いてみたくて書いてみました。 投稿はゆっくりになると思います。 本当のタイトルは 乙女ゲームに転生したらしい私の人生は全くの無関係な筈なのに何故か無自覚に巻き込まれる運命らしい〜乙女ゲーやった事ないんですが大丈夫でしょうか?〜 文字数オーバーで少しだけ変えています。 なろう様、ツギクル様にも掲載しています。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

生まれ変わっても一緒にはならない

小鳥遊郁
恋愛
カイルとは幼なじみで夫婦になるのだと言われて育った。 十六歳の誕生日にカイルのアパートに訪ねると、カイルは別の女性といた。 カイルにとって私は婚約者ではなく、学費や生活費を援助してもらっている家の娘に過ぎなかった。カイルに無一文でアパートから追い出された私は、家に帰ることもできず寒いアパートの廊下に座り続けた結果、高熱で死んでしまった。 輪廻転生。 私は生まれ変わった。そして十歳の誕生日に、前の人生を思い出す。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

処理中です...