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本編
閑話4 青い魔石のペンダント
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当初第17話として公開していた話です。ご指摘をいただいて時系列がめちゃめちゃなことに気付き、順序を入れ替えて内容も少々書き変えました。混乱を招いて申し訳ありません。
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カールがマリオンに黙って公爵家を辞してから早数ヶ月。後半年でマリオンはクラウスと結婚する。
カールの行き先は杳として知れなかった。
――お嬢様。
マリオンは、カールのくれた青い魔石のペンダントを触ると、彼の慈愛に満ちた呼び声を思い出す。
「カール……どこにいるのかしら……元気にしているといいんだけど……」
真っ二つに割れたペンダントトップは接着して継ぎ目を青く塗って修理させた。それ以来、肌身離さず身に着けて何ともなしにペンダントトップに触るのがマリオンの習慣になった。でもクラウスが嫉妬するので、いつも服の下に隠して人目のない時にペンダントトップに触る。
そしてウェディングドレスの仮縫いが出来て試着する日――クラウスに見つかるといけないと思いつつ、マリオンはぎりぎりまでペンダントを外せなかった。でもドレスアップしたシルクのウェディングドレスにはこのペンダントはちぐはぐに見えて一目で見つかるに違いない。
ズカズカと大股で歩く音が廊下から聞こえ、クラウスが試着室にいきなり入って来た。
「ちょっとノックもしないでマナー違反よ!」
「ごめん、でもお前のウェディングドレス姿をすぐに見たくて……き、綺麗だ……」
クラウスはマリオンのウェディングドレス姿に息を呑んだ。全体に細かい刺繍やレースがあしらわれて手の込んだオーダーメイドのドレスは、マリオンをますます美しく見せていた。肩まで開いた襟ぐりから豊かな胸の谷間が覗き、腰はきゅっと絞られ、腰から後ろにはトレーンが長く引く。胸の谷間に思わず目が惹きつけられたクラウスは、襟ぐりが広すぎたかと後悔した。自分は見てもよくても、他の男には見せたくない。襟ぐりの布を上に引き上げようと手を伸ばすと、美しいウェディングドレス姿にそぐわない、彼にとって忌々しいペンダントが目に留まった。
「ちょっと! 触らないで! いやらしい! まだ結婚前なのよ!」
「襟ぐりをもう少し詰めてもらおうと思っただけだ。それより、こんな割れたのまだ身に着けてるのか?!」
「ドレスのデザインは変えさせないわ! ペンダントはただのお守りよ」
クラウスは怒りの表情を浮かべて反論しようとしたが、その前にドレスショップのお針子や侍女達に合図をして部屋から退出させた。全員が部屋から出ると、クラウスはマリオンを再び詰問し始めた。
「他の男からもらったアクセサリーを後生大事にいつも着けてるんじゃない! お前はもうすぐ俺の妻になるんだぞだいたい石が割れたのをくっつけたペンダントなんてみっともない!公爵令嬢が身に着けるものじゃない」
「だからアクセサリーじゃないの、お守りよ。石が割れたって関係ない。青い魔石なんだから」
「石が割れたら不吉だろう? そんなんじゃお守りにもならない。それに青い魔石の効能なんて迷信だ。ほとんど宝石のようなものだぞ。これが割れる前ならあいつの給料の何ヶ月分するか知ってるのか?」
「そんなの知らないわよ」
クラウスはマリオンににじり寄ってペンダントトップを掴んだ。金の鎖がマリオンの白い首に食い込んだ。
「止めて、引っ張らないで! 痛いわ!」
「あいつの給料でこんな高いアクセサリーを買って贈るのはどう考えても下心がある!」
「でも彼はもういないのよ」
「だからあいつを想って肌身離さず身に着けるのか?! そんなに他の男に心を残したまま俺の妻になるなんて俺は許せない!」
「じゃあ、結婚止める? いいわよ、私は修道院に行く。貴方は後継ぎ教育をずっと受けて優秀なんだから、分家のお嬢さん達の誰かを娶ってそのまま次期公爵でいられるわよ。貴方にデメリットは何もないじゃない」
「どうしてだよ?!俺は他の女と結婚する気なんてない!次期公爵なんてどうでもいい!」
涙でくしゃくしゃになったクラウスの顔をマリオンはきょとんとして見つめた。
「どうして?! 私と結婚する最大のメリットでしょ?」
「何言ってるんだ! 俺は! お前と結婚できるから! こんなに頑張ってきたんだ!」
俯いて泣き声になったクラウスはマリオンの腕を掴んで離さない。マリオンは呆然として俯いている彼を見てふぅっと大きなため息をついた。
「……言ってみただけよ。今更結婚を止めるわけにいかないでしょ」
「でも俺は! 俺は……お前があいつを想ってるのが許せない!」
マリオンはクラウスの肩を掴んでぐっと押し返した。
「私は、貴方と結婚する。ただ、これは……私の初恋なの。でも相手はもう私の目の前にいない。どこにいるかも分からない。だから辛抱してくれる?」
「俺だってお前を待ちたいよ。でもいつまで待てばいいんだよ?! 他の男をずっと想っている妻を受け入れろって言うのか?!」
「ずっと、じゃないと思う。もうちょっと時間をくれれば……」
「でも結婚式はもう半年後だ!」
「私は貴方を裏切るつもりはないの。初恋が完全に思い出になるまで、私を優しく見守って」
「俺の……俺の初恋は……お前なんだ。お前と婚約できるって知って俺は有頂天だった……そのためにずっと努力してきたのに……酷いじゃないか」
「でも私は貴方を裏切っていない。この身は清いままよ。彼とは手すら繋げたこともないわ。私は純潔のままもうすぐ貴方の妻になる」
実際は手の甲にカールのキスをもらったことだけはあったが、マリオンの記憶のない時で今は覚えていない。
「俺はお前の心も欲しいんだ」
それはクラウスの心からの悲痛な叫びだった。
「ありがとう。貴方が公爵家のために、私達のために頑張ってくれてるのは知ってるわ。だからどうかお願い。このままそっとしておいて。このペンダントを取り上げないで。そうしたらきっと私は貴方に心を開ける」
「それは……いつか俺を愛してくれるってことか?」
「それは……わからない……でも見守ってくれたら、もしかしたら……」
「あああ……」
クラウスは黄金色に輝く髪を手でくしゃくしゃに掻きむしった。クラウスの目は真っ赤で頬は涙で濡れて鼻の先が赤くなっている。普段、人前で取り繕って貴公子然としているクラウスのそんな顔をマリオンは見たことがなかった。マリオンは決まりが悪くなり、クラウスからすぐに目を逸らした。その間にクラウスは涙でくしゃくしゃの顔のまま、試着室を出て行った。
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カールがマリオンに黙って公爵家を辞してから早数ヶ月。後半年でマリオンはクラウスと結婚する。
カールの行き先は杳として知れなかった。
――お嬢様。
マリオンは、カールのくれた青い魔石のペンダントを触ると、彼の慈愛に満ちた呼び声を思い出す。
「カール……どこにいるのかしら……元気にしているといいんだけど……」
真っ二つに割れたペンダントトップは接着して継ぎ目を青く塗って修理させた。それ以来、肌身離さず身に着けて何ともなしにペンダントトップに触るのがマリオンの習慣になった。でもクラウスが嫉妬するので、いつも服の下に隠して人目のない時にペンダントトップに触る。
そしてウェディングドレスの仮縫いが出来て試着する日――クラウスに見つかるといけないと思いつつ、マリオンはぎりぎりまでペンダントを外せなかった。でもドレスアップしたシルクのウェディングドレスにはこのペンダントはちぐはぐに見えて一目で見つかるに違いない。
ズカズカと大股で歩く音が廊下から聞こえ、クラウスが試着室にいきなり入って来た。
「ちょっとノックもしないでマナー違反よ!」
「ごめん、でもお前のウェディングドレス姿をすぐに見たくて……き、綺麗だ……」
クラウスはマリオンのウェディングドレス姿に息を呑んだ。全体に細かい刺繍やレースがあしらわれて手の込んだオーダーメイドのドレスは、マリオンをますます美しく見せていた。肩まで開いた襟ぐりから豊かな胸の谷間が覗き、腰はきゅっと絞られ、腰から後ろにはトレーンが長く引く。胸の谷間に思わず目が惹きつけられたクラウスは、襟ぐりが広すぎたかと後悔した。自分は見てもよくても、他の男には見せたくない。襟ぐりの布を上に引き上げようと手を伸ばすと、美しいウェディングドレス姿にそぐわない、彼にとって忌々しいペンダントが目に留まった。
「ちょっと! 触らないで! いやらしい! まだ結婚前なのよ!」
「襟ぐりをもう少し詰めてもらおうと思っただけだ。それより、こんな割れたのまだ身に着けてるのか?!」
「ドレスのデザインは変えさせないわ! ペンダントはただのお守りよ」
クラウスは怒りの表情を浮かべて反論しようとしたが、その前にドレスショップのお針子や侍女達に合図をして部屋から退出させた。全員が部屋から出ると、クラウスはマリオンを再び詰問し始めた。
「他の男からもらったアクセサリーを後生大事にいつも着けてるんじゃない! お前はもうすぐ俺の妻になるんだぞだいたい石が割れたのをくっつけたペンダントなんてみっともない!公爵令嬢が身に着けるものじゃない」
「だからアクセサリーじゃないの、お守りよ。石が割れたって関係ない。青い魔石なんだから」
「石が割れたら不吉だろう? そんなんじゃお守りにもならない。それに青い魔石の効能なんて迷信だ。ほとんど宝石のようなものだぞ。これが割れる前ならあいつの給料の何ヶ月分するか知ってるのか?」
「そんなの知らないわよ」
クラウスはマリオンににじり寄ってペンダントトップを掴んだ。金の鎖がマリオンの白い首に食い込んだ。
「止めて、引っ張らないで! 痛いわ!」
「あいつの給料でこんな高いアクセサリーを買って贈るのはどう考えても下心がある!」
「でも彼はもういないのよ」
「だからあいつを想って肌身離さず身に着けるのか?! そんなに他の男に心を残したまま俺の妻になるなんて俺は許せない!」
「じゃあ、結婚止める? いいわよ、私は修道院に行く。貴方は後継ぎ教育をずっと受けて優秀なんだから、分家のお嬢さん達の誰かを娶ってそのまま次期公爵でいられるわよ。貴方にデメリットは何もないじゃない」
「どうしてだよ?!俺は他の女と結婚する気なんてない!次期公爵なんてどうでもいい!」
涙でくしゃくしゃになったクラウスの顔をマリオンはきょとんとして見つめた。
「どうして?! 私と結婚する最大のメリットでしょ?」
「何言ってるんだ! 俺は! お前と結婚できるから! こんなに頑張ってきたんだ!」
俯いて泣き声になったクラウスはマリオンの腕を掴んで離さない。マリオンは呆然として俯いている彼を見てふぅっと大きなため息をついた。
「……言ってみただけよ。今更結婚を止めるわけにいかないでしょ」
「でも俺は! 俺は……お前があいつを想ってるのが許せない!」
マリオンはクラウスの肩を掴んでぐっと押し返した。
「私は、貴方と結婚する。ただ、これは……私の初恋なの。でも相手はもう私の目の前にいない。どこにいるかも分からない。だから辛抱してくれる?」
「俺だってお前を待ちたいよ。でもいつまで待てばいいんだよ?! 他の男をずっと想っている妻を受け入れろって言うのか?!」
「ずっと、じゃないと思う。もうちょっと時間をくれれば……」
「でも結婚式はもう半年後だ!」
「私は貴方を裏切るつもりはないの。初恋が完全に思い出になるまで、私を優しく見守って」
「俺の……俺の初恋は……お前なんだ。お前と婚約できるって知って俺は有頂天だった……そのためにずっと努力してきたのに……酷いじゃないか」
「でも私は貴方を裏切っていない。この身は清いままよ。彼とは手すら繋げたこともないわ。私は純潔のままもうすぐ貴方の妻になる」
実際は手の甲にカールのキスをもらったことだけはあったが、マリオンの記憶のない時で今は覚えていない。
「俺はお前の心も欲しいんだ」
それはクラウスの心からの悲痛な叫びだった。
「ありがとう。貴方が公爵家のために、私達のために頑張ってくれてるのは知ってるわ。だからどうかお願い。このままそっとしておいて。このペンダントを取り上げないで。そうしたらきっと私は貴方に心を開ける」
「それは……いつか俺を愛してくれるってことか?」
「それは……わからない……でも見守ってくれたら、もしかしたら……」
「あああ……」
クラウスは黄金色に輝く髪を手でくしゃくしゃに掻きむしった。クラウスの目は真っ赤で頬は涙で濡れて鼻の先が赤くなっている。普段、人前で取り繕って貴公子然としているクラウスのそんな顔をマリオンは見たことがなかった。マリオンは決まりが悪くなり、クラウスからすぐに目を逸らした。その間にクラウスは涙でくしゃくしゃの顔のまま、試着室を出て行った。
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