上 下
8 / 56
本編

7.口論

しおりを挟む
松葉杖が届いてマリオンは喜びを隠し切れない。寝台に腰掛けて両手に松葉杖を持って立ち上がり、杖を支えに1歩2歩と歩いてみた。

「ルチア、見て!」
「お嬢様、危ないです!」

マリオンが体勢を崩してぐらりとするとルチアが慌てて支え、マリオンは転ばずに済んだ。

「では、カールを見舞いに行きましょうか」
「お嬢様、ゆっくり気を付けて行きましょう」

マリオンとルチアが部屋を出ようとする正にその時、扉がノックされた。

「あら、誰かしら?今日は特に誰とも約束してなかったけど…」

マリオンがどうぞと答えると、クラウスが部屋に入って来た。彼は次期公爵としてマリオンの父の補佐をしており、既に公爵邸で同居している。だが婚前なのでマリオンとは別室で寝起きしている。

「マリオン…もう松葉杖で歩けるのか?」
「ええ、今日、届いたの。でも貴方と散歩する気にはなれないから、出て行って下さる?」
「何だ、その言い草は。せっかく来てやったのに」
「来てって頼んでないわよ」
「何だって!俺はお前との未来のために義父上に付いてこんなに頑張ってるのに酷いじゃないか」

マリオンは顔を歪めた。以前と打って変わってマリオンが反抗的な態度を示すことにクラウスは驚くと共に頭に来た。

「お父様は私のお父様よ。貴方のお父様じゃない」
「結婚したらそうなる」
「まだしてないでしょう?」
「何でそんなに攻撃的なんだ?未来の夫に酷いじゃないか」
「元々攻撃的だったのは貴方でしょう?」

図星を突かれてクラウスは表情を険しくして思わず拳を上げそうになったが、マリオンがびくっとしたのを見てハッとして手を下げた。

「…なっ…い、いや…それより、こんな無意味な口論は止めないか?」
「いいけど、その前に言うことがあるでしょう?」
「何だ?」
「わからないの?本当に貴方にはがっかりだわ」
「なっ…このっ…い、いや…」

クラウスはマリオンを罵りそうになったが、すんでの所で口を閉じた。

「あ、あの…す、す…済まなかった…お前はまだ怪我人だと言うのに…」
「最初のほう、何て言いましたか?よく聞こえなかったわ」
「あのなぁ…わざとだろう?」
「そういうところですのよ」
「ああ…そ、そうだな…悪かった…ごめん」

クラウスがもう一度怒るかと思ったら意外にもすんなり謝ってきてマリオンは拍子抜けした。

「わかりました。今日はそれで収めておきましょう。それでは部屋からちょっと出ますから、クラウスも出てくれる?」
「どこに行くんだ?」
「どこだっていいでしょう?家の外に出るわけじゃないんだから」
「駄目だ。お前はまだ怪我人だ。どこに行くんだ?公爵邸は広い。あまり歩いて足首に負担になるといけない」
「…見舞いよ」
「…カールのか?」

クラウスの声が機嫌悪そうに低くなった。

「ええ、命の恩人がやっと目覚めたから」

クラウスはいきなり膝裏と背中に手を回してマリオンを持ち上げた。

「な、何?!下ろして!松葉杖使って少し歩いて運動したほうがいいんだから」

マリオンが松葉杖を持ったままクラウスの腕の中でバタバタしたため、杖がクラウスの身体に当たりそうになり、マリオンはびくっとした。

「あっ!ご、ごめんなさい、ごめんなさいっ!」
「いや…大丈夫だ。行きは俺が君を抱いて連れて行くよ。帰りに少し歩こう――ルチア、危ないから杖を持ってくれないか?」
「かしこまりました」
「マリオン、危ないから腕を俺の首の後ろに回してしっかり掴まっていてくれ」

マリオンも不安定な体勢は少し怖かったので、クラウスの言う通りにした。こんなに婚約者に近づいたことがなくてマリオンはどぎまぎしたが、これは胸が高まっているんじゃないと心の中で何度も反芻した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

私はモブのはず

シュミー
恋愛
 私はよくある乙女ゲーのモブに転生をした。   けど  モブなのに公爵家。そしてチート。さらには家族は美丈夫で、自慢じゃないけど、私もその内に入る。  モブじゃなかったっけ?しかも私のいる公爵家はちょっと特殊ときている。もう一度言おう。  私はモブじゃなかったっけ?  R-15は保険です。  ちょっと逆ハー気味かもしれない?の、かな?見る人によっては変わると思う。 注意:作者も注意しておりますが、誤字脱字が限りなく多い作品となっております。

異世界転生したら幼女でした!?

@ナタデココ
恋愛
これは異世界に転生した幼女の話・・・

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

突然シーカーになったので冒険します〜駆け出し探索者の成長物語〜

平山和人
ファンタジー
スマートフォンやSNSが当たり前の現代社会に、ある日突然「ダンジョン」と呼ばれる異空間が出現してから30年が経過していた。 26歳のコンビニアルバイト、新城直人はある朝、目の前に「ステータス画面」が浮かび上がる。直人は、ダンジョンを攻略できる特殊能力者「探索者(シーカー)」に覚醒したのだ。 最寄り駅前に出現している小規模ダンジョンまで、愛用の自転車で向かう大地。初心者向けとは言え、実際の戦闘は命懸け。スマホアプリで探索者仲間とダンジョン情報を共有しながら、慎重に探索を進めていく。 レベルアップを重ね、新しいスキルを習得し、倒したモンスターから得た魔石を換金することで、少しずつではあるが確実に成長していく。やがて大地は、探索者として独り立ちしていくための第一歩を踏み出すのだった。

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

あの日、さようならと言って微笑んだ彼女を僕は一生忘れることはないだろう

まるまる⭐️
恋愛
僕に向かって微笑みながら「さようなら」と告げた彼女は、そのままゆっくりと自身の体重を後ろへと移動し、バルコニーから落ちていった‥ ***** 僕と彼女は幼い頃からの婚約者だった。 僕は彼女がずっと、僕を支えるために努力してくれていたのを知っていたのに‥

明智さんちの旦那さんたちR

明智 颯茄
恋愛
 あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。  奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。  ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。  *BL描写あり  毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。

処理中です...