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旧ロージア領の行方
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数時間後、ランザスを衛兵に引き渡した両親が戻ってきた。
屋敷の応接間で父から話を聞く。
ちなみにここにいるのは私、両親、フィリエル殿下の四人だ。
「ランザスは聴取の結果、投獄されることになった。貴族への脅迫や暴行が許されるはずもない。借金のこともあるし、近々王都に連行されることになっている」
「そうですか」
「おそらくもう二度と我々の前に現れることはないだろう」
父はそう告げた。
ランザスがしでかしたことを考えれば、彼の罪が軽いとは思えない。
仮に釈放されたとしても、その後は借金地獄が待っている。
……とはいえ、私はもう彼に同情しない。
一度はきちんとチャンスを与えたつもりだ。けれど彼はそれを無視し、私を誘拐しようとしてきた。
彼は自分のやってきたことと向き合うべきだろう。
「これでロージア家との因縁にはカタがついたようですね」
「その通りです。そしてフィリエル殿下、改めて娘を救っていただきありがとうございます」
「気にしないでください。レイナを守るのは僕にとって当然のことですから」
「それは頼もしい」
「……」
父の言葉ににっこり笑ってそう答えるフィリエル殿下。
……あのー、それはどういう意味ですか?
不意打ちでそういうドキドキするようなことを言わないでほしいんですが!
「さて、ロージア家とのことがすべて片付いたところで……一つお伝えしたいことがあります」
フィリエル殿下が一枚の書状を懐から取り出す。
「フィリエル殿下、これは一体?」
「読んでくれればわかるよ」
机の上に置かれた書状を私と両親で覗き込む。
えっと、何々……
『旧ロージア領はミドルダム領に統合し、ミドルダム家が治めるものとする。それに伴いミドルダム家を今後は子爵家として扱う。 サザーランド国王、レグルス・サザーランド』
「「「ええええええええええええ!?」」」
一斉にのけ反る私と父。母だけは「あら、まあ」なんてのんびりした反応だったけれど。
「な、なな、なんですかこれ」
ミドルダム領……ってどう考えてもうちのことですよね!?
混乱する私にフィリエル殿下は笑顔で言った。
「いやー、なかなか根回しが大変だったよ。さすがに男爵家にいきなりこんな大領地を預けるとなると、他の貴族の反発が凄くてね」
「って、これフィリエル殿下がやったんですか!?」
「ミリネアもだけどね。ファルジオン公爵家には随分助けられたよ」
ミリネア様まで……!
「しかも子爵家って書いてありますけど……!?」
「元子爵領だった旧ロージア領を引き継ぐんだから、当然さ。本当は伯爵家にしたかったんだけど、さすがにそれは無理だったね」
「あ、当たり前ですよ!」
あまりのことに頭が追いつかない。
これ、私の両親は知っているんだろうか……?
なんとなくだけど知らない気がする。
父が悩むように眉根を寄せる。
「……フィリエル殿下。このように扱っていただけるのはとても光栄です。しかし我々にはミドルダム領の仕事もある。旧ロージア領とミドルダム領を行き来しながら領地を運営するのは、時間的に厳しいものがあります」
ミドルダム領と旧ロージア領はそれなりに距離が離れている。
父の言うように、どちらもいっぺんに管理しようとすれば往復時間が馬鹿にならない。
「ええ。ですから提案が。ミドルダム卿にはこの一帯を以前のように治めていただき……旧ロージア領はレイナに任せるのがいいかと」
私はあまりのことに思わず椅子から立ち上がった。
「む、むむ、無理ですよフィリエル殿下! 私は領主ですらないただの令嬢ですよ!? そんな私が旧ロージア領のような大領地を預かれるはずがありません!」
旧ロージア領は広大で、ミドルダム領の何倍もの規模だ。
うまく運営すれば利益を大きくもたらす。
けれど失敗すれば……本来得られるはずだった収益を失い、国力を大きく低下させることにすらなってしまう。
そんな重要な土地を、小娘に過ぎない私が預かる?
考えただけで手が震えてしまう。
そんなことできっこない!
「――そんなことはない」
思わず拒否する私に、力強くフィリエル殿下は言った。
「フィリエル殿下……?」
「君には為政者としての才能がある。収穫祭のときもそうだし、父上との会食でもその能力は見えた。ロージア領に査察に行ったときは、『レイナ様に戻ってきてほしい』と言う領民が何人もいたよ。これがその証拠だ」
フィリエル殿下が別の紙束を取り出す。
それは署名だった。
かつてロージア家にいた頃に知り合った、旧ロージア領の領民たちの名前が所せましと並んでいる。
「これはミドルダム家を旧ロージア領の新領主にする際、王城での会議で使った資料の一つだ。領民たちのレイナへの信頼の強さを示すことができたよ。彼らはレイナ、君に土地を治めてもらうことを望んでいる」
「……!」
「父上は言っていた。政治は国を回すためのものだ。しかし、それだけでは真に素晴らしい国を作ることはできない――とね。僕やミリネアも同じ意見だ」
フィリエル殿下は単なる思いつきで言っているんじゃない、と感じた。
今までの私の行動から慎重に私の素質を図り、そのうえで私を買ってくれている。
「どうか僕たちに力を貸してくれ、レイナ。君の力が必要だ」
その言葉に、私の心臓がどくんと跳ねる。
私は自分に自信があるわけじゃない。
けれど……尊敬するフィリエル殿下や、ミリネア様にそこまで期待されているなら、応えたい。
「……お父様、お母様。ワガママを言ってもいいでしょうか。私、やってみたいです」
私が言うと、両親はにっこりと微笑んだ。
「いいだろう。フィリエル殿下にそこまで言ってもらったんだ」
「困ったことがあるなら遠慮なく頼っていいからね。思いっきりやってみなさい」
「ありがとうございます」
それから改めて私はフィリエル殿下を見た。
「――わかりました。全力で、旧ロージア領を発展させてみせます!」
私が言うと、フィリエル殿下は本当に嬉しそうに笑った。
「ありがとう、レイナ。受けてくれて助かるよ」
「フィリエル殿下たちにそこまで言っていただけるなんて、すごく光栄なことですから」
実力が足りている自信なんてない。
けれど受けた信頼にこたえられるように精一杯やろう。
そしてロージア領の人たちも幸せになってもらうよう頑張るのだ。
「うんうん、頑張ってねレイナ。……僕のためにも」
「?」
最後にフィリエル殿下がぼそりと呟いていたけれど、その真意は私にはよくわからなかった。
屋敷の応接間で父から話を聞く。
ちなみにここにいるのは私、両親、フィリエル殿下の四人だ。
「ランザスは聴取の結果、投獄されることになった。貴族への脅迫や暴行が許されるはずもない。借金のこともあるし、近々王都に連行されることになっている」
「そうですか」
「おそらくもう二度と我々の前に現れることはないだろう」
父はそう告げた。
ランザスがしでかしたことを考えれば、彼の罪が軽いとは思えない。
仮に釈放されたとしても、その後は借金地獄が待っている。
……とはいえ、私はもう彼に同情しない。
一度はきちんとチャンスを与えたつもりだ。けれど彼はそれを無視し、私を誘拐しようとしてきた。
彼は自分のやってきたことと向き合うべきだろう。
「これでロージア家との因縁にはカタがついたようですね」
「その通りです。そしてフィリエル殿下、改めて娘を救っていただきありがとうございます」
「気にしないでください。レイナを守るのは僕にとって当然のことですから」
「それは頼もしい」
「……」
父の言葉ににっこり笑ってそう答えるフィリエル殿下。
……あのー、それはどういう意味ですか?
不意打ちでそういうドキドキするようなことを言わないでほしいんですが!
「さて、ロージア家とのことがすべて片付いたところで……一つお伝えしたいことがあります」
フィリエル殿下が一枚の書状を懐から取り出す。
「フィリエル殿下、これは一体?」
「読んでくれればわかるよ」
机の上に置かれた書状を私と両親で覗き込む。
えっと、何々……
『旧ロージア領はミドルダム領に統合し、ミドルダム家が治めるものとする。それに伴いミドルダム家を今後は子爵家として扱う。 サザーランド国王、レグルス・サザーランド』
「「「ええええええええええええ!?」」」
一斉にのけ反る私と父。母だけは「あら、まあ」なんてのんびりした反応だったけれど。
「な、なな、なんですかこれ」
ミドルダム領……ってどう考えてもうちのことですよね!?
混乱する私にフィリエル殿下は笑顔で言った。
「いやー、なかなか根回しが大変だったよ。さすがに男爵家にいきなりこんな大領地を預けるとなると、他の貴族の反発が凄くてね」
「って、これフィリエル殿下がやったんですか!?」
「ミリネアもだけどね。ファルジオン公爵家には随分助けられたよ」
ミリネア様まで……!
「しかも子爵家って書いてありますけど……!?」
「元子爵領だった旧ロージア領を引き継ぐんだから、当然さ。本当は伯爵家にしたかったんだけど、さすがにそれは無理だったね」
「あ、当たり前ですよ!」
あまりのことに頭が追いつかない。
これ、私の両親は知っているんだろうか……?
なんとなくだけど知らない気がする。
父が悩むように眉根を寄せる。
「……フィリエル殿下。このように扱っていただけるのはとても光栄です。しかし我々にはミドルダム領の仕事もある。旧ロージア領とミドルダム領を行き来しながら領地を運営するのは、時間的に厳しいものがあります」
ミドルダム領と旧ロージア領はそれなりに距離が離れている。
父の言うように、どちらもいっぺんに管理しようとすれば往復時間が馬鹿にならない。
「ええ。ですから提案が。ミドルダム卿にはこの一帯を以前のように治めていただき……旧ロージア領はレイナに任せるのがいいかと」
私はあまりのことに思わず椅子から立ち上がった。
「む、むむ、無理ですよフィリエル殿下! 私は領主ですらないただの令嬢ですよ!? そんな私が旧ロージア領のような大領地を預かれるはずがありません!」
旧ロージア領は広大で、ミドルダム領の何倍もの規模だ。
うまく運営すれば利益を大きくもたらす。
けれど失敗すれば……本来得られるはずだった収益を失い、国力を大きく低下させることにすらなってしまう。
そんな重要な土地を、小娘に過ぎない私が預かる?
考えただけで手が震えてしまう。
そんなことできっこない!
「――そんなことはない」
思わず拒否する私に、力強くフィリエル殿下は言った。
「フィリエル殿下……?」
「君には為政者としての才能がある。収穫祭のときもそうだし、父上との会食でもその能力は見えた。ロージア領に査察に行ったときは、『レイナ様に戻ってきてほしい』と言う領民が何人もいたよ。これがその証拠だ」
フィリエル殿下が別の紙束を取り出す。
それは署名だった。
かつてロージア家にいた頃に知り合った、旧ロージア領の領民たちの名前が所せましと並んでいる。
「これはミドルダム家を旧ロージア領の新領主にする際、王城での会議で使った資料の一つだ。領民たちのレイナへの信頼の強さを示すことができたよ。彼らはレイナ、君に土地を治めてもらうことを望んでいる」
「……!」
「父上は言っていた。政治は国を回すためのものだ。しかし、それだけでは真に素晴らしい国を作ることはできない――とね。僕やミリネアも同じ意見だ」
フィリエル殿下は単なる思いつきで言っているんじゃない、と感じた。
今までの私の行動から慎重に私の素質を図り、そのうえで私を買ってくれている。
「どうか僕たちに力を貸してくれ、レイナ。君の力が必要だ」
その言葉に、私の心臓がどくんと跳ねる。
私は自分に自信があるわけじゃない。
けれど……尊敬するフィリエル殿下や、ミリネア様にそこまで期待されているなら、応えたい。
「……お父様、お母様。ワガママを言ってもいいでしょうか。私、やってみたいです」
私が言うと、両親はにっこりと微笑んだ。
「いいだろう。フィリエル殿下にそこまで言ってもらったんだ」
「困ったことがあるなら遠慮なく頼っていいからね。思いっきりやってみなさい」
「ありがとうございます」
それから改めて私はフィリエル殿下を見た。
「――わかりました。全力で、旧ロージア領を発展させてみせます!」
私が言うと、フィリエル殿下は本当に嬉しそうに笑った。
「ありがとう、レイナ。受けてくれて助かるよ」
「フィリエル殿下たちにそこまで言っていただけるなんて、すごく光栄なことですから」
実力が足りている自信なんてない。
けれど受けた信頼にこたえられるように精一杯やろう。
そしてロージア領の人たちも幸せになってもらうよう頑張るのだ。
「うんうん、頑張ってねレイナ。……僕のためにも」
「?」
最後にフィリエル殿下がぼそりと呟いていたけれど、その真意は私にはよくわからなかった。
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