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「ああ、飯だ。久しぶりにまともな飯にありつける」

 がつがつとシチューをかきこんでいくランザス。

 私は食事をとるランザスのもとに近寄り、怪我の治療を行った。……まあ、怪我をしたところに軟膏を塗ったり包帯を巻いたりしたくらいだけど。

「これで怪我も大丈夫ですね」
「……レイナ。お前はどうしてこんなに優しくしてくれるんだ?」
「勘違いしないでください、ランザス様たちが私にしたことを許したわけではありません。ただ私は苦しんでいる人を見捨てることが嫌いなだけです」
「……」

 なにかを考え込むように黙り込むランザス。

 なんだか……少し不気味だ。

 後ろをちらりと確認する。そこには腕利きの使用人二人が待機している。
 大丈夫。まともな人間なら、この状況で妙な気を起こしたりしないはずだ。

 ランザスが口を開く。

「レイナ。金を貸してくれないか?」
「……はい?」
「必ず返す。実は俺は借金取りに追われてて、困ってるんだ。助けてくれないか?」

 ランザスの言葉に後ろの使用人の一人が大声を上げた。

「ふざけるな! 貴様がお嬢様になにをしたか、知っているぞ! よくそんな図々しいことを言えるな! 食事を恵んでもらっただけでも十分だろうが!」
「俺はレイナと話してるんだ。静かにしててくれるか?」
「なんだとっ……」

 ……あれ?
 ランザスの様子がおかしい。

 さっきまでは殊勝な様子だったのに、少しずつ前の図々しさのようなものが見え隠れし始めている。

「ランザス様。食べ終えたなら、お引き取り願えますか?」
「なんでだよ? 話は終わってないだろ。金だ。なあ、レイナ。金を貸してくれ。頼むよ。俺は困ってるんだ」
「……私の知ったことではありません」
「酷いやつだな。こんなに俺は困ってるのに、助けてくれないのか?」
「はあ……?」

 なんでランザスが困っていると私が助けないといけないんだろう。

 意味不明だ。

「もう一度言いますが、食べ終えたならお帰り下さい。これ以上ワガママを言うようなら容赦しませんよ」

 私が言うと、ランザスはがっくりと項垂れた。
 諦めたんだろうか?

 ランザスはなにやらぶつぶつと呟いている。

「クソが……なんで思い通りにならねえんだ……こうなったら……」
「ランザス様? ――きゃあっ!」

 服を掴んで引き寄せられ、後ろから首元にランザスの太い腕を回される。

 喉が圧迫されて息が苦しくなる。
 がっちりと掴まれ、私は動くこともできなくなった。

「お嬢様っ!」
「近寄るんじゃねえ! 大事なお嬢様が傷ものになってもいいってのか!?」

 ランザスが取り出したのは――鈍く光るナイフ。
 それを私の首元に突きつけながら使用人を脅している。

「ランザス様、一体何を……!?」
「うるせえっ! もとはと言えばお前が悪いんだ! 穏便に済ませてやろうと思ったが、もう容赦しねえぞ……このまま連れ去ってやる」

 ランザスの息は荒く、興奮状態にあるように感じた。

「そ、そんなことをして一体何になると言うのですか?」
「決まってるだろ? お前をネタにファルジオン家や第一王子から金を払わせるんだよ。お前の無事のためならあいつらも言いなりになるだろ? だってお前ら友人同士なんだもんなあ?」
「そ、そう簡単にいくはずありません」
「いかせるさ。第一王子たちに俺の本気が伝わるように……お前の耳でも削いで届けてやる」
「……!」

 私は恐怖を感じた。

 ランザスは本気で言っている。

「は、犯罪ですよ! これはれっきとした脅迫、誘拐です!」
「そんなもんここにいる連中が黙ってれば済む話だろ? 幸い使用人どももお前が傷つくのは嫌みたいだしなあ~~」
「お、お前……ッ! それでも人間か!? お嬢様は過去にされたことも水に流して、食事や治療を施してやったというのに、それを仇で返すなんて」
「なにが仇だ! もとはといえばこいつのせいだ! レイナがうちの屋敷から逃げたからこんなことになったんだ! 俺は被害者だ! こいつには俺を助ける義務があるんだよ!!」
「この……この、外道が!」

 ランザスがナイフを揺らすたびに、使用人が顔を歪ませる。

 私が人質にとられていては彼らも動けない。
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