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春の恒例イベント2

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「それにしても今回のパーティーのメニューは普段と雰囲気が違うわね」

 気が付きましたか。

「そうなんです。今回はユキバミ芋尽くしですよ」
「ユキバミ芋っていうと……ああ、例の公国との関係良化の立役者っていうあれね」
「はい」

 即席テーブルの上にはパイ、シチュー、揚げ芋などユキバミ芋を使った料理がいくつも並んでいる。しかも領民たちにも評判だ。

「今年の冬は公国の人たちも手伝ってくれたおかげで、ユキバミ芋についての知識がたくさん貯まりました。品種改良自体がそこまで進んだわけではないんですが」

 大量生産によってユキバミ芋の味が少しいいものは見つかり、品種改良もわずかに進んではいる。しかしそれ以上に効果があったのは美味しく食べるための方法の確立だ。

 公国の人たちがミドルダム領や近隣の領地に来たことで、ユキバミ芋の消費量が跳ね上がった。

 それがきっかけで色々な調理方法が試されることになり、ユキバミ芋を美味しく食べるための工夫が発見されたのだ。

 収穫後に雪の中に保管すると甘みが増すとか、芋の煮汁はとろみがついていて温まるのに最適だとか。

 結果論だけど、やはり公国の人たちに協力を頼んだのは正解だった。

「うんうん。さすがレイナね。あたしが認めた数少ない為政者だわ」
「今回のことは半分まぐれのようなものですが……もともと公国の国民がこちらに偶然流れてきたのが原因ですし」
「それをきっかけに公国との関係良化までこぎつけたんだから、やっぱりすごいわよ」
「ありがとうございます」

 ミリネア様の言葉に素直にお礼を言う。私の実力かはさておき、公国の人を含めて今回の件で多くの利益があったことは嬉しいことだ。

 不意にミリネア様がこんなことを言った。

「そういえばレイナ、あなためでたく婚約破棄が成立したわよ。おめでとう」

 婚約破棄……?

 私が婚約していた相手というと。

「え? ロージア家とのですか?」
「ええ」

 ミリネア様の唐突な言葉に私は目を白黒させる。

 私の立場を説明しておくと……現在の私は婚約相手であるランザスから逃げ出しているだけの状態だ。

 貴族同士の婚約というのは簡単に解除できるものではないため、ランザスが同意しないと婚約破棄は成立しない。ロージア家を逃げ出してから私はランザスに一度も会っていないため、それも不可能のはずなんだけど……

「その様子だと、ロージア家の末路についてまだ聞いてないみたいね。いいわ、教えてあげる」

 ミリネア様は最近のロージア家の状況について語った。

 私はめまいがした。

 マリーの放火、イザベラ様の違法薬物密造、ドブルス様のキルジア卿への暴行……

「そんなことになっていたんですか……!?」
「やっぱり知らなかったのね……」

 冬の間はやることが多かったので、王都の情勢なんてまったく知らなかった。

「キルジア卿は怪我をしたそうですが、その後はなにか聞いていませんか?」
「心配しなくてもご無事だそうよ。せっかくあなたが良化させた公国との関係も、キルジア卿が寛大に処理してくれたおかげで滅茶苦茶にならずに済んだみたいね」
「それならいいのですが」

 キルジア卿はドブルス様のせいで怪我をさせられたものの、あえて笑って許してくれたそうだ。公国とサザーランドとの関係を壊さないためだろう。

 以前オーゲルス領のことで話したときにも思ったけど、すごい人格者だ。

 ミリネア様が続ける。

「話を戻すけど、レイナの婚約破棄についてね。ロージア家は当主が公国の人間に怪我をさせたから、レグルス陛下によってその地位を剥奪されたわ。そしてこの国では、相手の家に大きな罪がある場合はその婚約は自然消滅することになっている」
「なるほど、それで婚約がなくなったんですね……」

 この国では罪を犯して取り潰された家は、貴族社会から排除される。

 清く正しい貴族社会に罪人は入れるべきではない、という理由だ。

「ミリネア様、旧ロージア領の人たちがどうなるかは聞いていますか?」
「まだ未定のようね。あの領地、土壌がいいことで有名でしょ? 高位貴族が自分の手下を送り込みたくて、牽制し合ってるのよ」

 旧ロージア領ほどの優秀な土地を治めれば、利益は莫大なものとなる。

 前当主のようなずさんな管理でも大きな税収を得ていたほどなのだから。

 貴族同士が取り合うのもわかるけど……

 それってどうなんだろう。その間領民たちは宙ぶらりんなわけだし、不安なんじゃないだろうか。仮に前の年みたいな大雨でも降ったら、その対処は誰がするんだろう?

 心配だ。
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