76 / 88
春の恒例イベント2
しおりを挟む
「それにしても今回のパーティーのメニューは普段と雰囲気が違うわね」
気が付きましたか。
「そうなんです。今回はユキバミ芋尽くしですよ」
「ユキバミ芋っていうと……ああ、例の公国との関係良化の立役者っていうあれね」
「はい」
即席テーブルの上にはパイ、シチュー、揚げ芋などユキバミ芋を使った料理がいくつも並んでいる。しかも領民たちにも評判だ。
「今年の冬は公国の人たちも手伝ってくれたおかげで、ユキバミ芋についての知識がたくさん貯まりました。品種改良自体がそこまで進んだわけではないんですが」
大量生産によってユキバミ芋の味が少しいいものは見つかり、品種改良もわずかに進んではいる。しかしそれ以上に効果があったのは美味しく食べるための方法の確立だ。
公国の人たちがミドルダム領や近隣の領地に来たことで、ユキバミ芋の消費量が跳ね上がった。
それがきっかけで色々な調理方法が試されることになり、ユキバミ芋を美味しく食べるための工夫が発見されたのだ。
収穫後に雪の中に保管すると甘みが増すとか、芋の煮汁はとろみがついていて温まるのに最適だとか。
結果論だけど、やはり公国の人たちに協力を頼んだのは正解だった。
「うんうん。さすがレイナね。あたしが認めた数少ない為政者だわ」
「今回のことは半分まぐれのようなものですが……もともと公国の国民がこちらに偶然流れてきたのが原因ですし」
「それをきっかけに公国との関係良化までこぎつけたんだから、やっぱりすごいわよ」
「ありがとうございます」
ミリネア様の言葉に素直にお礼を言う。私の実力かはさておき、公国の人を含めて今回の件で多くの利益があったことは嬉しいことだ。
不意にミリネア様がこんなことを言った。
「そういえばレイナ、あなためでたく婚約破棄が成立したわよ。おめでとう」
婚約破棄……?
私が婚約していた相手というと。
「え? ロージア家とのですか?」
「ええ」
ミリネア様の唐突な言葉に私は目を白黒させる。
私の立場を説明しておくと……現在の私は婚約相手であるランザスから逃げ出しているだけの状態だ。
貴族同士の婚約というのは簡単に解除できるものではないため、ランザスが同意しないと婚約破棄は成立しない。ロージア家を逃げ出してから私はランザスに一度も会っていないため、それも不可能のはずなんだけど……
「その様子だと、ロージア家の末路についてまだ聞いてないみたいね。いいわ、教えてあげる」
ミリネア様は最近のロージア家の状況について語った。
私はめまいがした。
マリーの放火、イザベラ様の違法薬物密造、ドブルス様のキルジア卿への暴行……
「そんなことになっていたんですか……!?」
「やっぱり知らなかったのね……」
冬の間はやることが多かったので、王都の情勢なんてまったく知らなかった。
「キルジア卿は怪我をしたそうですが、その後はなにか聞いていませんか?」
「心配しなくてもご無事だそうよ。せっかくあなたが良化させた公国との関係も、キルジア卿が寛大に処理してくれたおかげで滅茶苦茶にならずに済んだみたいね」
「それならいいのですが」
キルジア卿はドブルス様のせいで怪我をさせられたものの、あえて笑って許してくれたそうだ。公国とサザーランドとの関係を壊さないためだろう。
以前オーゲルス領のことで話したときにも思ったけど、すごい人格者だ。
ミリネア様が続ける。
「話を戻すけど、レイナの婚約破棄についてね。ロージア家は当主が公国の人間に怪我をさせたから、レグルス陛下によってその地位を剥奪されたわ。そしてこの国では、相手の家に大きな罪がある場合はその婚約は自然消滅することになっている」
「なるほど、それで婚約がなくなったんですね……」
この国では罪を犯して取り潰された家は、貴族社会から排除される。
清く正しい貴族社会に罪人は入れるべきではない、という理由だ。
「ミリネア様、旧ロージア領の人たちがどうなるかは聞いていますか?」
「まだ未定のようね。あの領地、土壌がいいことで有名でしょ? 高位貴族が自分の手下を送り込みたくて、牽制し合ってるのよ」
旧ロージア領ほどの優秀な土地を治めれば、利益は莫大なものとなる。
前当主のようなずさんな管理でも大きな税収を得ていたほどなのだから。
貴族同士が取り合うのもわかるけど……
それってどうなんだろう。その間領民たちは宙ぶらりんなわけだし、不安なんじゃないだろうか。仮に前の年みたいな大雨でも降ったら、その対処は誰がするんだろう?
心配だ。
気が付きましたか。
「そうなんです。今回はユキバミ芋尽くしですよ」
「ユキバミ芋っていうと……ああ、例の公国との関係良化の立役者っていうあれね」
「はい」
即席テーブルの上にはパイ、シチュー、揚げ芋などユキバミ芋を使った料理がいくつも並んでいる。しかも領民たちにも評判だ。
「今年の冬は公国の人たちも手伝ってくれたおかげで、ユキバミ芋についての知識がたくさん貯まりました。品種改良自体がそこまで進んだわけではないんですが」
大量生産によってユキバミ芋の味が少しいいものは見つかり、品種改良もわずかに進んではいる。しかしそれ以上に効果があったのは美味しく食べるための方法の確立だ。
公国の人たちがミドルダム領や近隣の領地に来たことで、ユキバミ芋の消費量が跳ね上がった。
それがきっかけで色々な調理方法が試されることになり、ユキバミ芋を美味しく食べるための工夫が発見されたのだ。
収穫後に雪の中に保管すると甘みが増すとか、芋の煮汁はとろみがついていて温まるのに最適だとか。
結果論だけど、やはり公国の人たちに協力を頼んだのは正解だった。
「うんうん。さすがレイナね。あたしが認めた数少ない為政者だわ」
「今回のことは半分まぐれのようなものですが……もともと公国の国民がこちらに偶然流れてきたのが原因ですし」
「それをきっかけに公国との関係良化までこぎつけたんだから、やっぱりすごいわよ」
「ありがとうございます」
ミリネア様の言葉に素直にお礼を言う。私の実力かはさておき、公国の人を含めて今回の件で多くの利益があったことは嬉しいことだ。
不意にミリネア様がこんなことを言った。
「そういえばレイナ、あなためでたく婚約破棄が成立したわよ。おめでとう」
婚約破棄……?
私が婚約していた相手というと。
「え? ロージア家とのですか?」
「ええ」
ミリネア様の唐突な言葉に私は目を白黒させる。
私の立場を説明しておくと……現在の私は婚約相手であるランザスから逃げ出しているだけの状態だ。
貴族同士の婚約というのは簡単に解除できるものではないため、ランザスが同意しないと婚約破棄は成立しない。ロージア家を逃げ出してから私はランザスに一度も会っていないため、それも不可能のはずなんだけど……
「その様子だと、ロージア家の末路についてまだ聞いてないみたいね。いいわ、教えてあげる」
ミリネア様は最近のロージア家の状況について語った。
私はめまいがした。
マリーの放火、イザベラ様の違法薬物密造、ドブルス様のキルジア卿への暴行……
「そんなことになっていたんですか……!?」
「やっぱり知らなかったのね……」
冬の間はやることが多かったので、王都の情勢なんてまったく知らなかった。
「キルジア卿は怪我をしたそうですが、その後はなにか聞いていませんか?」
「心配しなくてもご無事だそうよ。せっかくあなたが良化させた公国との関係も、キルジア卿が寛大に処理してくれたおかげで滅茶苦茶にならずに済んだみたいね」
「それならいいのですが」
キルジア卿はドブルス様のせいで怪我をさせられたものの、あえて笑って許してくれたそうだ。公国とサザーランドとの関係を壊さないためだろう。
以前オーゲルス領のことで話したときにも思ったけど、すごい人格者だ。
ミリネア様が続ける。
「話を戻すけど、レイナの婚約破棄についてね。ロージア家は当主が公国の人間に怪我をさせたから、レグルス陛下によってその地位を剥奪されたわ。そしてこの国では、相手の家に大きな罪がある場合はその婚約は自然消滅することになっている」
「なるほど、それで婚約がなくなったんですね……」
この国では罪を犯して取り潰された家は、貴族社会から排除される。
清く正しい貴族社会に罪人は入れるべきではない、という理由だ。
「ミリネア様、旧ロージア領の人たちがどうなるかは聞いていますか?」
「まだ未定のようね。あの領地、土壌がいいことで有名でしょ? 高位貴族が自分の手下を送り込みたくて、牽制し合ってるのよ」
旧ロージア領ほどの優秀な土地を治めれば、利益は莫大なものとなる。
前当主のようなずさんな管理でも大きな税収を得ていたほどなのだから。
貴族同士が取り合うのもわかるけど……
それってどうなんだろう。その間領民たちは宙ぶらりんなわけだし、不安なんじゃないだろうか。仮に前の年みたいな大雨でも降ったら、その対処は誰がするんだろう?
心配だ。
25
お気に入りに追加
5,385
あなたにおすすめの小説
魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
王子に婚約を解消しようと言われたけど、私から簡単に離れられると思わないことね
黒うさぎ
恋愛
「エスメラルダ、君との婚約を解消させてもらおう」
フェルゼン王国の第一王子にして、私の婚約者でもあるピエドラ。
婚約解消は私のためだと彼は言う。
だが、いくら彼の頼みでもそのお願いだけは聞くわけにいかない。
「そう簡単に離したりしませんよ」
ピエドラは私の世界に色を与えてくれた。
彼の目指す「綺麗な世界」のために、私は醜い世界で暗躍する。
小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+にも投稿しています。
お馬鹿な聖女に「だから?」と言ってみた
リオール
恋愛
だから?
それは最強の言葉
~~~~~~~~~
※全6話。短いです
※ダークです!ダークな終わりしてます!
筆者がたまに書きたくなるダークなお話なんです。
スカッと爽快ハッピーエンドをお求めの方はごめんなさい。
※勢いで書いたので支離滅裂です。生ぬるい目でスルーして下さい(^-^;
一体だれが悪いのか?それはわたしと言いました
LIN
恋愛
ある日、国民を苦しめて来たという悪女が処刑された。身分を笠に着て、好き勝手にしてきた第一王子の婚約者だった。理不尽に虐げられることもなくなり、ようやく平和が戻ったのだと、人々は喜んだ。
その後、第一王子は自分を支えてくれる優しい聖女と呼ばれる女性と結ばれ、国王になった。二人の優秀な側近に支えられて、三人の子供達にも恵まれ、幸せしか無いはずだった。
しかし、息子である第一王子が嘗ての悪女のように不正に金を使って豪遊していると報告を受けた国王は、王族からの追放を決めた。命を取らない事が温情だった。
追放されて何もかもを失った元第一王子は、王都から離れた。そして、その時の出会いが、彼の人生を大きく変えていくことになる…
※いきなり処刑から始まりますのでご注意ください。
冷遇された王妃は自由を望む
空橋彩
恋愛
父を亡くした幼き王子クランに頼まれて王妃として召し上げられたオーラリア。
流行病と戦い、王に、国民に尽くしてきた。
異世界から現れた聖女のおかげで流行病は終息に向かい、王宮に戻ってきてみれば、納得していない者たちから軽んじられ、冷遇された。
夫であるクランは表情があまり変わらず、女性に対してもあまり興味を示さなかった。厳しい所もあり、臣下からは『氷の貴公子』と呼ばれているほどに冷たいところがあった。
そんな彼が聖女を大切にしているようで、オーラリアの待遇がどんどん悪くなっていった。
自分の人生よりも、クランを優先していたオーラリアはある日気づいてしまった。
[もう、彼に私は必要ないんだ]と
数人の信頼できる仲間たちと協力しあい、『離婚』して、自分の人生を取り戻そうとするお話。
貴族設定、病気の治療設定など出てきますが全てフィクションです。私の世界ではこうなのだな、という方向でお楽しみいただけたらと思います。
婚約なんてするんじゃなかった——そう言われたのならば。
ルーシャオ
恋愛
ビーレンフェン男爵家次女チェリーシャは、婚約者のスネルソン伯爵家嫡男アンソニーに振り回されていた。彼の買った時代遅れのドレスを着て、殴られたあざを隠すよう化粧をして、舞踏会へ連れていかれて、挙句にアンソニーの同級生たちの前で「婚約なんてするんじゃなかった」と嘲笑われる。
すでにアンソニーから離れられやしないと諦めていたチェリーシャの前に現れたのは、長い黒髪の貴公子だった。
竜人王の伴侶
朧霧
恋愛
竜の血を継ぐ国王の物語
国王アルフレッドが伴侶に出会い主人公男性目線で話が進みます
作者独自の世界観ですのでご都合主義です
過去に作成したものを誤字などをチェックして投稿いたしますので不定期更新となります(誤字、脱字はできるだけ注意いたしますがご容赦ください)
40話前後で完結予定です
拙い文章ですが、お好みでしたらよろしければご覧ください
4/4にて完結しました
ご覧いただきありがとうございました
許してもらえるだなんて本気で思っているのですか?
風見ゆうみ
恋愛
ネイロス伯爵家の次女であるわたしは、幼い頃から変わった子だと言われ続け、家族だけじゃなく、周りの貴族から馬鹿にされ続けてきた。
そんなわたしを公爵である伯父はとても可愛がってくれていた。
ある日、伯父がお医者様から余命を宣告される。
それを聞いたわたしの家族は、子供のいない伯父の財産が父に入ると考えて豪遊し始める。
わたしの婚約者も伯父の遺産を当てにして、姉に乗り換え、姉は姉で伯父が選んでくれた自分の婚約者をわたしに押し付けてきた。
伯父が亡くなったあと、遺言書が公開され、そこには「遺留分以外の財産全てをリウ・ネイロスに、家督はリウ・ネイロスの婚約者に譲る」と書かれていた。
そのことを知った家族たちはわたしのご機嫌伺いを始める。
え……、許してもらえるだなんて本気で思ってるんですか?
※独特の異世界の世界観であり、設定はゆるゆるで、ご都合主義です。
※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。教えていただけますと有り難いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる