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ドブルス・ロージア4
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と、それまでキルジア卿と話していた貴族が腹を立てたように喚く。
「ロージア卿! いきなりやってくるなりどういうつもりだ! 順序をわきまえよ!」
「ああ、申し訳ありませんが私はキルジア卿に用があるのです。後にしてもらえますか?」
「調子に乗るなよ! 落ち目の貴族の分際で……!」
その貴族の言葉にキルジア卿が目を瞬かせた。
「落ち目とは穏やかではありませんね」
ちっ、余計なことを。
まあいい。
「そうですね。最近は色々と良くないことが重なり……資金難が続いております」
「そうですか。それは大変だ」
「ええ。ですから良きパートナーを探しているのですよ。我が領地では素晴らしい農作物を取り扱っているのですが、国外にそれを流通させるパイプがあれば盤石です」
「それは頼もしいことですね」
あくまで紳士的に振る舞うキルジア卿。
くそっ、全然乗ってこないな……
ロージア家の名前を知らないのか?
なんて無知な男だ。他国の貴族でなければ怒鳴りつけていたところだぞ。
「我が家には最近よくないことがあったと言いましたが……実はそれは一人の女が原因なのです」
仕方ない、こうなったら泣き落としだ。
今の俺はどうなっても金を得なくてはならないからな。
「一人の女が原因、ですか?」
「その通りですキルジア卿。私の愚息には婚約者がおりました。しかしその娘は我が領地の仕事を手伝うふりをして、様々な悪行を行っていたのです」
「悪行とは穏やかではありませんね」
「そうなのです。服飾店に放火をしたり、違法薬物の材料を秘密裏に領地で育てたり……! あの女さえいなければっ……ううっ……! レイナが、あの婚約者のフリをした悪女――レイナ・ミドルダムがいなければこんなことには……!」
とりあえずマリーやイザベラの罪をなすりつけながら泣き真似をしてみる。
どうだ?
哀れだろう? 同情したくなっただろう?
周囲の他の貴族からは困惑したような声や、「何を言ってるんだ」と抗議が上がるが今の俺はそんなことを気にしていられない。邪魔をするな。
「私は……必死に領地を立て直そうとしております。なのになかなか融資が集まりません。どうかキルジア卿、少しでもお力添えを――」
俺がちらちらと表情を窺いながらキルジア卿に聞こえるように言うと。
「……レイナ・ミドルダム?」
ぽつりとキルジア卿は、まるで知っている人物の名前を呟くように言った。
「ロージア卿、と言ったか。そのレイナ・ミドルダムというのはミドルダム家の令嬢のことですか? 公国との国境線付近に領地を持つ、あのミドルダム家の?」
「え、ええ。そうですね。その通りです」
「そうか……となるとフィリエル殿下が言っていたのは……」
ぶつぶつとなにか呟き始めるキルジア卿。
「――なるほど。あなた方がレイナ殿を傷つけた、愚か者の一人か」
「……はい?」
一体なにを言っているんだ。
キルジア卿は目を細めて続けた。
「私はレイナ殿のことを知っています。彼女は……素晴らしい為政者の卵だ。男爵家の娘であれほど領地経営に優れた少女は見たことがない」
「……!? れ、レイナのことをご存じなのですか!?」
「ええ。彼女がとても誠実であり、放火だの違法植物の栽培だのを絶対しないであろうこともね」
冷や汗が、どっ! と背中から噴き出した。
レイナのことを知っている!? そんなのは計算外だ!
「そ、それはキルジア卿が騙されているのです! レイナは酷い少女です」
「ロージア卿。私は一人の為政者として、レイナ殿を尊敬しています。彼女を侮辱するのはやめてもらおう」
「……っ」
「フィリエル殿下と以前話した際に、レイナ殿の環境については少しだけ聞き及んでいたが……そうか。あなた方か。レイナ殿を嫁入り前の滞在と称してこき使い、苦しめたのは」
まずい。
まずいまずいまずい。
泣き落としをするつもりだったのに、逆鱗に触れてしまったようだ。
「悪いがロージア卿、あなたの援助を行う気はない。不愉快だからもう話しかけないでくれ」
「あっ……!」
キルジア卿がどこかに行ってしまう!
「お待ちください!」
俺は慌ててキルジア卿の肩を後ろから掴んで引き留めた。
それがよくなかった。
「むうっ……」
思い切り俺が引っ張ったことでキルジア卿の態勢が崩れ、転んでしまう。
それだけならまだいい。
だが、キルジア卿が転んだ先には、たった今料理を配膳し終えたワゴンを使用人が運んでおり――
ガゴンッ! という音がしてキルジア卿がワゴンを巻き込んで倒れた。
「ロージア卿! いきなりやってくるなりどういうつもりだ! 順序をわきまえよ!」
「ああ、申し訳ありませんが私はキルジア卿に用があるのです。後にしてもらえますか?」
「調子に乗るなよ! 落ち目の貴族の分際で……!」
その貴族の言葉にキルジア卿が目を瞬かせた。
「落ち目とは穏やかではありませんね」
ちっ、余計なことを。
まあいい。
「そうですね。最近は色々と良くないことが重なり……資金難が続いております」
「そうですか。それは大変だ」
「ええ。ですから良きパートナーを探しているのですよ。我が領地では素晴らしい農作物を取り扱っているのですが、国外にそれを流通させるパイプがあれば盤石です」
「それは頼もしいことですね」
あくまで紳士的に振る舞うキルジア卿。
くそっ、全然乗ってこないな……
ロージア家の名前を知らないのか?
なんて無知な男だ。他国の貴族でなければ怒鳴りつけていたところだぞ。
「我が家には最近よくないことがあったと言いましたが……実はそれは一人の女が原因なのです」
仕方ない、こうなったら泣き落としだ。
今の俺はどうなっても金を得なくてはならないからな。
「一人の女が原因、ですか?」
「その通りですキルジア卿。私の愚息には婚約者がおりました。しかしその娘は我が領地の仕事を手伝うふりをして、様々な悪行を行っていたのです」
「悪行とは穏やかではありませんね」
「そうなのです。服飾店に放火をしたり、違法薬物の材料を秘密裏に領地で育てたり……! あの女さえいなければっ……ううっ……! レイナが、あの婚約者のフリをした悪女――レイナ・ミドルダムがいなければこんなことには……!」
とりあえずマリーやイザベラの罪をなすりつけながら泣き真似をしてみる。
どうだ?
哀れだろう? 同情したくなっただろう?
周囲の他の貴族からは困惑したような声や、「何を言ってるんだ」と抗議が上がるが今の俺はそんなことを気にしていられない。邪魔をするな。
「私は……必死に領地を立て直そうとしております。なのになかなか融資が集まりません。どうかキルジア卿、少しでもお力添えを――」
俺がちらちらと表情を窺いながらキルジア卿に聞こえるように言うと。
「……レイナ・ミドルダム?」
ぽつりとキルジア卿は、まるで知っている人物の名前を呟くように言った。
「ロージア卿、と言ったか。そのレイナ・ミドルダムというのはミドルダム家の令嬢のことですか? 公国との国境線付近に領地を持つ、あのミドルダム家の?」
「え、ええ。そうですね。その通りです」
「そうか……となるとフィリエル殿下が言っていたのは……」
ぶつぶつとなにか呟き始めるキルジア卿。
「――なるほど。あなた方がレイナ殿を傷つけた、愚か者の一人か」
「……はい?」
一体なにを言っているんだ。
キルジア卿は目を細めて続けた。
「私はレイナ殿のことを知っています。彼女は……素晴らしい為政者の卵だ。男爵家の娘であれほど領地経営に優れた少女は見たことがない」
「……!? れ、レイナのことをご存じなのですか!?」
「ええ。彼女がとても誠実であり、放火だの違法植物の栽培だのを絶対しないであろうこともね」
冷や汗が、どっ! と背中から噴き出した。
レイナのことを知っている!? そんなのは計算外だ!
「そ、それはキルジア卿が騙されているのです! レイナは酷い少女です」
「ロージア卿。私は一人の為政者として、レイナ殿を尊敬しています。彼女を侮辱するのはやめてもらおう」
「……っ」
「フィリエル殿下と以前話した際に、レイナ殿の環境については少しだけ聞き及んでいたが……そうか。あなた方か。レイナ殿を嫁入り前の滞在と称してこき使い、苦しめたのは」
まずい。
まずいまずいまずい。
泣き落としをするつもりだったのに、逆鱗に触れてしまったようだ。
「悪いがロージア卿、あなたの援助を行う気はない。不愉快だからもう話しかけないでくれ」
「あっ……!」
キルジア卿がどこかに行ってしまう!
「お待ちください!」
俺は慌ててキルジア卿の肩を後ろから掴んで引き留めた。
それがよくなかった。
「むうっ……」
思い切り俺が引っ張ったことでキルジア卿の態勢が崩れ、転んでしまう。
それだけならまだいい。
だが、キルジア卿が転んだ先には、たった今料理を配膳し終えたワゴンを使用人が運んでおり――
ガゴンッ! という音がしてキルジア卿がワゴンを巻き込んで倒れた。
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