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ドブルス・ロージア2

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「…………は……?」

 なんだ、それは。
 意味がわからない。

「グリス! お、お前、俺は兄だぞ! 冗談も大概にしろ!」
「冗談? ――これが冗談であるものか!」
「な、な」

 いきなり吠えたグリスに俺は腰を抜かしそうになった。

「僕はずっと兄さんを恨んでいたんだ。先に生まれただけが取り柄のあなたをね」

 グリスの瞳は冷めきっている。

 これは本当に俺の知るグリスなんだろうか?

 違う。グリスはもっと大人しくて、俺の言うことを聞くだけの人間だったはずだ。

「兄さん、あなたは無能だ。怒鳴って周りに言うことを聞かせるだけのクズだ。父さんそっくりのね。学院の成績も、周囲からの評判も僕のほうがあなたよりずっとよかった。僕がロージア家の当主になっていれば、今回のようなことにもならなかっただろう」
「ぐ、グリス。落ち着け。急にどうしたんだ」
「挙句の果てに、兄さんは僕をよその男爵家に無理やり差し出した」
「それはロージア家のために仕方なく……」
「はっ、家のための政略結婚なら気にしなかったさ。僕も貴族だし、そのくらいの覚悟はしてる。けどあの一件は、兄さんが個人的な借金を帳消しにするための工作だったんだろ? 僕はもう全部知ってるんだ!」
「――!」

 グリスの言う通り、グリスの入った男爵家の当主に俺は当時、個人的な借金があった。

 それを帳消しにする条件として、ロージア家とのパイプを向こうが要求した。

 それを呑んだ俺はグリスを生贄として差し出したのだ。

 まさかそれがグリス本人にバレるとは……!

「先代は隠そうとしていたけどね。今や僕が男爵家の――マルジア家の当主なんだ。いつまでもバレないと思ったのか?」

 そう告げるグリスの目は冷めているようで、深い恨みに燃えていた。

「さあ、頭を下げるんだ兄さん。それができないなら今からでも借金を強制的に取り立てる」

 ちらりとグリスが窓へと視線を向ける。
 慌てて俺も窓の外を確認すると……屋敷のすぐ手前に、武装した十数人の男たちが待機しているのが見えた。

 グリスの部下だろう。
 つまり……グリスは本気なのだ。

「ぐ、グリス。俺たちは兄弟だろう? そんなことを言うな」
「頭を下げてください」
「俺は兄だぞ! 弟が兄に頭を下げさせるとは何事だ! 常識がないのか!?」
「……あなたはこの屋敷そのものを差し押さえられたいのですか?」

 グリスがゴミでも見るように見てくる。

 不愉快だ。
 殺すぞ。なんで俺がそんな目で見られなきゃいけない?

 くそっ、くそくそくそくそ!

 嫌だ! 頭なんて下げたくない!

「どうしても嫌ですか? いいでしょう。それなら僕は権利を執行するだけです」
「ま、待て! 待ってくれ!」

 部屋を出て行こうとするグリスを俺は慌てて呼び止める。振り向いたグリスに俺はゆっくりと地面に膝をつけてから……頭を下げた。汚い床に額が触れるように。

「どうか……どうか、返済を待ってください。お願いします」
「……ははっ、いいでしょう。今月だけは待ってあげます。ははっ、あははははははははははははははは!」

 俺を見下ろして笑うグリス。

 最悪の気分だ。しかし他にどうしようもない。

 どうにかして金を用意しないと……

 こんな扱いはロージア家当主である俺のプライドが許さない。
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