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フィリエル殿下の滞在4
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「驚かないでください、フィリエル殿下。レイナと話すときのあなたの表情を見れば、あなたの気持ちはわかります。しかし、ロージア家の一件があった今――私はあなたの気持ちの強さを確かめずにはいられないのです」
私がそこまで言ったことで、ようやくフィリエル殿下もこの状況の意味がわかったようだ。
ゴクリと喉を鳴らす。
「つまりこれは……『娘が欲しくば覚悟を示せ』と?」
「恐縮ながら、その通りです殿下」
正直に言おう。
私はレイナがかわいくてかわいくてたまらんのだ……!
一度は歯を食いしばって婚約を認めたが、その結果がロージア家のアレかと思うとはらわたが煮えくり返る!
フィリエル殿下があの連中と同じとは思えないが、それでも黙って見過ごすわけにはいかない。
フィリエル殿下は私の言葉に視線をキッと鋭くした。
「いいでしょう。そこまで言うのでしたら、気が済むまでお相手させていただきます」
「そうこなくては」
「「うおおおおおおおお!」」
その日私はフィリエル殿下と数時間にわたって木剣を打ち付け合うのだった。
▽
「やあ、おはようレイナ」
「おはようございま――フィリエル殿下、なんでそんなに怪我を!?」
朝食のために身支度をしてリビングに向かったら、体の各所に包帯を巻いたフィリエル殿下が待っていた。
なんですかこれは。私が寝ている間に強盗でも入ってきたんだろうか。
「おはようレイナ。いい朝だな」
「おはようございます。……お父様までなぜ怪我を……」
フィリエル殿下の隣にいる父まで体中傷だらけだった。
「昨晩は付き合わせてしまってすみませんでしたな、フィリエル殿下」
「いやいや、ミドルダム卿からすれば当然でしょう。王城で色々聞かれるかもしれませんが、まあ馬から落ちたとでも言っておきますよ」
「お心遣い感謝いたします。……ところでいいワインがありますが一献いかがですかな?」
「これはありがたい」
わっはっは、と会話するフィリエル殿下と父。
なんだか急激に仲良くなっていませんか?
本当に私が寝ている間に一体なにがあったんだろうか。
困惑する私をよそに朝食は済み、少し話したらフィリエル殿下が出発する時間になった。
フィリエル殿下の見送りのために私たち家族も外に出る。
「それでは、二日間お世話になりました」
「いえいえ」
「また来てくださいね~」
両親とフィリエル殿下が挨拶をかわしている。
「フィリエル殿下、羽は伸ばせましたか?」
「そうだね。それに『挨拶』も無事に済んだことだし」
どういう意味だろう……? 挨拶なんて今までも普通にしていたような気がする。
あ、そうだ。
「フィリエル殿下、よければこれを」
「これは?」
「マフラーを編んでみたんです。よかったら受け取ってください」
「へえ! ありがとう、喜んで使わせてもらうよ」
喜んでくれるフィリエル殿下。
いつも褒めてくれるフィリエル殿下だけど……ここで謙遜しては失礼だとそろそろ学んだので、ここはむしろ別の言い方で……!
「……フィリエル殿下のことを思って、一生懸命作りました」
「ぐはっ!」
「フィリエル殿下!?」
咳き込むフィリエル殿下に慌てて駆け寄る。本当にこの人は今日どうしてしまったの? 冬の寒さでなにか悪影響を受けているんじゃないだろうか。
「……やはり……複雑なものだな……」
父がなにか呟いている。
「き、気にしないで。それじゃあ僕は行くから」
「はい。それではまた」
そんなやり取りを最後にフィリエル殿下は去っていき、二日間のフィリエル殿下の滞在は終了したのだった。
「……僕のために……僕のためにか。ふふ、最高の贈り物だ……!」
……馬車に乗りながらそう呟くフィリエル殿下を、彼の護衛たちは胸やけしたような顔で見ていたという。
私がそこまで言ったことで、ようやくフィリエル殿下もこの状況の意味がわかったようだ。
ゴクリと喉を鳴らす。
「つまりこれは……『娘が欲しくば覚悟を示せ』と?」
「恐縮ながら、その通りです殿下」
正直に言おう。
私はレイナがかわいくてかわいくてたまらんのだ……!
一度は歯を食いしばって婚約を認めたが、その結果がロージア家のアレかと思うとはらわたが煮えくり返る!
フィリエル殿下があの連中と同じとは思えないが、それでも黙って見過ごすわけにはいかない。
フィリエル殿下は私の言葉に視線をキッと鋭くした。
「いいでしょう。そこまで言うのでしたら、気が済むまでお相手させていただきます」
「そうこなくては」
「「うおおおおおおおお!」」
その日私はフィリエル殿下と数時間にわたって木剣を打ち付け合うのだった。
▽
「やあ、おはようレイナ」
「おはようございま――フィリエル殿下、なんでそんなに怪我を!?」
朝食のために身支度をしてリビングに向かったら、体の各所に包帯を巻いたフィリエル殿下が待っていた。
なんですかこれは。私が寝ている間に強盗でも入ってきたんだろうか。
「おはようレイナ。いい朝だな」
「おはようございます。……お父様までなぜ怪我を……」
フィリエル殿下の隣にいる父まで体中傷だらけだった。
「昨晩は付き合わせてしまってすみませんでしたな、フィリエル殿下」
「いやいや、ミドルダム卿からすれば当然でしょう。王城で色々聞かれるかもしれませんが、まあ馬から落ちたとでも言っておきますよ」
「お心遣い感謝いたします。……ところでいいワインがありますが一献いかがですかな?」
「これはありがたい」
わっはっは、と会話するフィリエル殿下と父。
なんだか急激に仲良くなっていませんか?
本当に私が寝ている間に一体なにがあったんだろうか。
困惑する私をよそに朝食は済み、少し話したらフィリエル殿下が出発する時間になった。
フィリエル殿下の見送りのために私たち家族も外に出る。
「それでは、二日間お世話になりました」
「いえいえ」
「また来てくださいね~」
両親とフィリエル殿下が挨拶をかわしている。
「フィリエル殿下、羽は伸ばせましたか?」
「そうだね。それに『挨拶』も無事に済んだことだし」
どういう意味だろう……? 挨拶なんて今までも普通にしていたような気がする。
あ、そうだ。
「フィリエル殿下、よければこれを」
「これは?」
「マフラーを編んでみたんです。よかったら受け取ってください」
「へえ! ありがとう、喜んで使わせてもらうよ」
喜んでくれるフィリエル殿下。
いつも褒めてくれるフィリエル殿下だけど……ここで謙遜しては失礼だとそろそろ学んだので、ここはむしろ別の言い方で……!
「……フィリエル殿下のことを思って、一生懸命作りました」
「ぐはっ!」
「フィリエル殿下!?」
咳き込むフィリエル殿下に慌てて駆け寄る。本当にこの人は今日どうしてしまったの? 冬の寒さでなにか悪影響を受けているんじゃないだろうか。
「……やはり……複雑なものだな……」
父がなにか呟いている。
「き、気にしないで。それじゃあ僕は行くから」
「はい。それではまた」
そんなやり取りを最後にフィリエル殿下は去っていき、二日間のフィリエル殿下の滞在は終了したのだった。
「……僕のために……僕のためにか。ふふ、最高の贈り物だ……!」
……馬車に乗りながらそう呟くフィリエル殿下を、彼の護衛たちは胸やけしたような顔で見ていたという。
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