66 / 88
フィリエル殿下の滞在
しおりを挟む
ユキバミ芋の一件からしばらく経ったある冬の日、フィリエル殿下が約束を果たしにやってきた。
「こんにちは、フィリエル殿下。ようこそいらっしゃいました」
「やあ、レイナ。今日から二日間、よろしく頼むよ」
「はい。よろしくお願いします」
玄関先でフィリエル殿下と挨拶を交わす。
今日からフィリエル殿下はうちにお泊まりだ。以前ロードリン公国との一件でいろいろと協力してもらったお礼として、フィリエル殿下が提案していたことである。
ちなみにフィリエル殿下が忙しすぎるので一泊二日ということになっている。
「こんにちは、フィリエル殿下。及ばずながら精一杯おもてなしをさせていただきます」
両親も私と一緒にフィリエル殿下の出迎えをしている。
父の言葉にフィリエル殿下は苦笑した。
「顔を上げてください。今回は僕はあくまでレイナのいち友人として来ているので、気楽に接していただけると助かります」
「……ど、努力いたします」
なんとも複雑そうな顔で返事をする父だった。
フィリエル殿下を屋敷の中に通し、客間に案内する。フィリエル殿下は滞在の間はここで過ごしてもらうのだ。
「すみません、フィリエル殿下が普段過ごしているお部屋と比べると手狭かもしれませんが」
「広い部屋が好きなわけじゃないさ。というか……」
「?」
なぜかフィリエル殿下が部屋ではなく私のほうを見ている。
なんだろう。
「どうかしましたか?」
「レイナ、家ではそういう恰好なんだね。いつも僕と会う時はよそ行きだからなんだか新鮮だよ」
「へ、変ですか?」
「いや、とても似合ってる。可愛いよ」
「えっ!?」
急に褒められてどきっと心臓が跳ねる。
い、いやいや。こんなことで動揺していては貴族令嬢の名折れだ。
「お、お戯れを。お世辞だとわかっていても嬉しいですが」
「いや、お世辞なんかじゃないよ。よそ行きのドレスも好きだけど、素朴な服装のレイナも素敵だね」
「あ、ありがとうございます……」
なんで急にそんなに褒めるんですか!?
うう、顔が熱い。
ちなみに私がちょっとだけラフな格好をしているのには一応理由があるんだけど……そのことはまだフィリエル殿下には内緒だ。
「と、とりあえず荷物を置いたらリビングで一休みしましょう」
「そうだね。王都からここまでって意外と距離があるからなあ」
のびをするフィリエル殿下と一緒にリビングへ。
そこで母が用意してくれた焼き菓子と紅茶を食べて休憩。
母は夕食の仕込み、父は「少し仕事で出てきます。夕食までには戻りますので、どうかごゆっくり」と出て行った。
……多分、私とフィリエル殿下だけのほうがフィリエル殿下がゆっくりできるという判断だろう。
そんなわけでしばらくフィリエル殿下と雑談だ。
一緒にお菓子を食べたり、チェスをしながらのんびりと時間を過ごす。
「んー……やっぱりレイナの家は落ち着くね」
満足そうに呟くフィリエル殿下。
「そうですか?」
「うん。なんとなく、レイナが穏やかな性格に育った理由がわかるよ。……あ、そういえばミリネアにレイナの家に泊まるって話したら死ぬほど羨ましがってたから、そのうちまた会いに行ってあげてよ」
「わかりました。私もミリネア様に会いたいですし」
「ぜひそうしてあげて。――はい王手」
「あああ」
話しながらチェスをしていたらあっという間に負けた。その後何度かやったけど、私は五連敗した。私別にチェスが弱いわけじゃないのに……
「レイナは頭はいいのに素直すぎるね」
「フィリエル殿下となにかそんなに違うんでしょうか」
「腹黒さじゃないかな」
「腹黒いんですか?」
「まあ王族だからね。こうしている今も色々と企んでいるのさ、ふふふふふ」
フィリエル殿下はそう言ってにやりと笑った。
……なにかを企んでるって、冗談なのか微妙なラインだ。
そうこうしているうちに夕食の時間になった。
「こんにちは、フィリエル殿下。ようこそいらっしゃいました」
「やあ、レイナ。今日から二日間、よろしく頼むよ」
「はい。よろしくお願いします」
玄関先でフィリエル殿下と挨拶を交わす。
今日からフィリエル殿下はうちにお泊まりだ。以前ロードリン公国との一件でいろいろと協力してもらったお礼として、フィリエル殿下が提案していたことである。
ちなみにフィリエル殿下が忙しすぎるので一泊二日ということになっている。
「こんにちは、フィリエル殿下。及ばずながら精一杯おもてなしをさせていただきます」
両親も私と一緒にフィリエル殿下の出迎えをしている。
父の言葉にフィリエル殿下は苦笑した。
「顔を上げてください。今回は僕はあくまでレイナのいち友人として来ているので、気楽に接していただけると助かります」
「……ど、努力いたします」
なんとも複雑そうな顔で返事をする父だった。
フィリエル殿下を屋敷の中に通し、客間に案内する。フィリエル殿下は滞在の間はここで過ごしてもらうのだ。
「すみません、フィリエル殿下が普段過ごしているお部屋と比べると手狭かもしれませんが」
「広い部屋が好きなわけじゃないさ。というか……」
「?」
なぜかフィリエル殿下が部屋ではなく私のほうを見ている。
なんだろう。
「どうかしましたか?」
「レイナ、家ではそういう恰好なんだね。いつも僕と会う時はよそ行きだからなんだか新鮮だよ」
「へ、変ですか?」
「いや、とても似合ってる。可愛いよ」
「えっ!?」
急に褒められてどきっと心臓が跳ねる。
い、いやいや。こんなことで動揺していては貴族令嬢の名折れだ。
「お、お戯れを。お世辞だとわかっていても嬉しいですが」
「いや、お世辞なんかじゃないよ。よそ行きのドレスも好きだけど、素朴な服装のレイナも素敵だね」
「あ、ありがとうございます……」
なんで急にそんなに褒めるんですか!?
うう、顔が熱い。
ちなみに私がちょっとだけラフな格好をしているのには一応理由があるんだけど……そのことはまだフィリエル殿下には内緒だ。
「と、とりあえず荷物を置いたらリビングで一休みしましょう」
「そうだね。王都からここまでって意外と距離があるからなあ」
のびをするフィリエル殿下と一緒にリビングへ。
そこで母が用意してくれた焼き菓子と紅茶を食べて休憩。
母は夕食の仕込み、父は「少し仕事で出てきます。夕食までには戻りますので、どうかごゆっくり」と出て行った。
……多分、私とフィリエル殿下だけのほうがフィリエル殿下がゆっくりできるという判断だろう。
そんなわけでしばらくフィリエル殿下と雑談だ。
一緒にお菓子を食べたり、チェスをしながらのんびりと時間を過ごす。
「んー……やっぱりレイナの家は落ち着くね」
満足そうに呟くフィリエル殿下。
「そうですか?」
「うん。なんとなく、レイナが穏やかな性格に育った理由がわかるよ。……あ、そういえばミリネアにレイナの家に泊まるって話したら死ぬほど羨ましがってたから、そのうちまた会いに行ってあげてよ」
「わかりました。私もミリネア様に会いたいですし」
「ぜひそうしてあげて。――はい王手」
「あああ」
話しながらチェスをしていたらあっという間に負けた。その後何度かやったけど、私は五連敗した。私別にチェスが弱いわけじゃないのに……
「レイナは頭はいいのに素直すぎるね」
「フィリエル殿下となにかそんなに違うんでしょうか」
「腹黒さじゃないかな」
「腹黒いんですか?」
「まあ王族だからね。こうしている今も色々と企んでいるのさ、ふふふふふ」
フィリエル殿下はそう言ってにやりと笑った。
……なにかを企んでるって、冗談なのか微妙なラインだ。
そうこうしているうちに夕食の時間になった。
24
お気に入りに追加
5,375
あなたにおすすめの小説

「君を愛するつもりはない」と言ったら、泣いて喜ばれた
菱田もな
恋愛
完璧令嬢と名高い公爵家の一人娘シャーロットとの婚約が決まった第二皇子オズワルド。しかし、これは政略結婚で、婚約にもシャーロット自身にも全く興味がない。初めての顔合わせの場で「悪いが、君を愛するつもりはない」とはっきり告げたオズワルドに、シャーロットはなぜか歓喜の涙を浮かべて…?
※他サイトでも掲載中しております。

思い出してしまったのです
月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。
妹のルルだけが特別なのはどうして?
婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの?
でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。
愛されないのは当然です。
だって私は…。

どーでもいいからさっさと勘当して
水
恋愛
とある侯爵貴族、三兄妹の真ん中長女のヒルディア。優秀な兄、可憐な妹に囲まれた彼女の人生はある日をきっかけに転機を迎える。
妹に婚約者?あたしの婚約者だった人?
姉だから妹の幸せを祈って身を引け?普通逆じゃないっけ。
うん、まあどーでもいいし、それならこっちも好き勝手にするわ。
※ザマアに期待しないでください

私を売女と呼んだあなたの元に戻るはずありませんよね?
ミィタソ
恋愛
アインナーズ伯爵家のレイナは、幼い頃からリリアナ・バイスター伯爵令嬢に陰湿ないじめを受けていた。
レイナには、親同士が決めた婚約者――アインス・ガルタード侯爵家がいる。
アインスは、その艶やかな黒髪と怪しい色気を放つ紫色の瞳から、令嬢の間では惑わしのアインス様と呼ばれるほど人気があった。
ある日、パーティに参加したレイナが一人になると、子爵家や男爵家の令嬢を引き連れたリリアナが現れ、レイナを貶めるような酷い言葉をいくつも投げかける。
そして、事故に見せかけるようにドレスの裾を踏みつけられたレイナは、転んでしまう。
上まで避けたスカートからは、美しい肌が見える。
「売女め、婚約は破棄させてもらう!」

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。

一体だれが悪いのか?それはわたしと言いました
LIN
恋愛
ある日、国民を苦しめて来たという悪女が処刑された。身分を笠に着て、好き勝手にしてきた第一王子の婚約者だった。理不尽に虐げられることもなくなり、ようやく平和が戻ったのだと、人々は喜んだ。
その後、第一王子は自分を支えてくれる優しい聖女と呼ばれる女性と結ばれ、国王になった。二人の優秀な側近に支えられて、三人の子供達にも恵まれ、幸せしか無いはずだった。
しかし、息子である第一王子が嘗ての悪女のように不正に金を使って豪遊していると報告を受けた国王は、王族からの追放を決めた。命を取らない事が温情だった。
追放されて何もかもを失った元第一王子は、王都から離れた。そして、その時の出会いが、彼の人生を大きく変えていくことになる…
※いきなり処刑から始まりますのでご注意ください。

婚約破棄?とっくにしてますけど笑
蘧饗礪
ファンタジー
ウクリナ王国の公爵令嬢アリア・ラミーリアの婚約者は、見た目完璧、中身最悪の第2王子エディヤ・ウクリナである。彼の10人目の愛人は最近男爵になったマリハス家の令嬢ディアナだ。
さて、そろそろ婚約破棄をしましょうか。

婚約破棄で見限られたもの
志位斗 茂家波
恋愛
‥‥‥ミアス・フォン・レーラ侯爵令嬢は、パスタリアン王国の王子から婚約破棄を言い渡され、ありもしない冤罪を言われ、彼女は国外へ追放されてしまう。
すでにその国を見限っていた彼女は、これ幸いとばかりに別の国でやりたかったことを始めるのだが‥‥‥
よくある婚約破棄ざまぁもの?思い付きと勢いだけでなぜか出来上がってしまった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる