【完結保証】あれだけ愚図と罵ったんですから、私がいなくても大丈夫ですよね？ 『元』婚約者様？

ミリネア様の逆鱗２

「やること、ですか？」
「ええ。そろそろ来るはずよ」

　一体なんのことだろうか。

「とりあえずレイナは奥の部屋で待機ね。出番になったら呼ぶわ」
「出番……？」
「はいはい、いいからいいから」

　なんだかわからないうちに私はミリネア様によって店の奥に押し込まれた。
　私が内心で首を傾げていると――

「こんにちは！　ドレスができたというから受け取りきたわ！」

　入り口から甲高い声が響く。

　マリー・ロージアだ。

　どうやら彼女のドレスも今日が完成日だったようで、従者を連れて受け取りに来たらしい。

「あらっ、ミリネア様もいらしてたんですか！　こんにちは、ミリネア様！」
「ええ。こんにちは」
「お会いしたかったです～！　ミリネア様ったら、お屋敷に遊びに行っても全然お会いになってくれないんですもの」
「ごめんなさいね。仕事が忙しかったものだから」
「今度お茶しましょう？　あたし、ミリネア様のお屋敷に入ってみたいわ！」
「また機会があればね」

　マリーが猫撫で声でミリネア様にすり寄る。公爵令嬢であるミリネア様と近づきたいようだけど、ミリネア様のほうは社交辞令全開であしらっている。

　それからマリーはそばに立っていた店主のほうを見た。

「それで、ドレスができたんでしょう？　是非見せてくれる！？」
「はい。こちらの二着になります」

　店主が仕立てたドレスをマリーに提出する。

「わあ～っ、なんて素敵なドレスなのかしら！　見たことがないくらいお洒落だわ！」
「光栄です」
「あたしにもソニア様にも絶対に似合うでしょうね！　レイナなんかよりずっと！　やっぱりこういうのは、あたしたちみたいな華やかな女の子にふさわしいのよ！」

　無邪気に喜ぶマリー。

　……ん？
　私の気のせいだろうか。あのドレス、なんだか少し違和感があるような……なんだろう？

「それじゃあ私はこれで！　ふふっ、ソニア様もこのドレスを楽しみにしているし、すぐに届けて差し上げないと！」

　上機嫌で、当然のようにお金も払わずドレスを持ち去ろうとするマリー。
　そんな彼女に対してミリネア様が声をかけた。

「ああ、ちょっと待ってくれる？　実はそのドレス、まだ完成されていないの」
「え？　そうなんですか？」
「そうなのよ。……店主、例のものを持ってきてくれる？」
「かしこまりました」

　店主は一度奥に引っ込み、あるものを持って戻ってくる。
　それを見て私は口元を引きつらせた。

　まさか、ミリネア様の考えって――

　ばしゃっ！

「……え？」

　いきなりのことにマリーが唖然とする。
　それから自分の手元を確認する。

　そこにはミリネア様がぶちまけたお茶によって、無残に汚れた新品のドレスがあった。