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会食2
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「とりあえず食事にしませんか、父上」
「ああ、そうだな。それでは運んできてくれ」
レグルス陛下の言葉で料理が次々と運ばれてくる。
とても素晴らしいコース料理だ。
けれど……緊張して味がよくわからない……!
「レイナ」
「……」
「レイナってば」
「は、はい」
隣のフィリエル殿下に声をかけられ、慌ててそちらを向く。
「あーん」
「え? ……むぐ」
一瞬遅れて何が起こったのか理解した。
フィリエル殿下がフォークに刺したステーキを私に差し出してきて、私は無意識でそれを口で受け取ってしまったのだ。
これは俗に言う『あーん』そのものではないか。
「!?!?!?」
混乱するものの、一度口に含んだ以上は呑み込むまで口を開くなど有り得ない。
「こら息子よ。女性にいきなりその行いは失礼ではないか?」
「いやいや、友人なんですからこのくらいは大目に見ていただけると」
レグルス陛下とフィリエル殿下が話している間に急いで口の中のステーキを噛んで呑み込む。
ああ、美味しい……じゃなくて!
「……フィリエル殿下、一体なにを」
「なんだかレイナが緊張していたようだったから、ほぐしてあげようかと思っただけだよ。せっかくの美味しい料理なのに、味がわからないともったいないじゃないか」
「そ、それはそうですが……」
からかわれているような気がしてならない。
レグルス陛下の様子をうかがうと、特に気にしている様子もない。
というか面白がっているような気がする。
悪気がないのはわかっていたので、私は溜め息を吐くにとどめた。
それに緊張がほぐれたのも事実だし。
その後もしばらく雑談を交えながら食事をして過ごす。
食後のワインを傾けるフィリエル殿下に私は尋ねた。
「それで、フィリエル殿下。結局私はどうしてここに呼ばれたのでしょうか?」
「それは私が頼んだからだ、レイナ君」
「レグルス陛下が?」
「そうだ」
頷くレグルス陛下。
「フィリエルから君のことはずっと聞いていた。学院時代からね。『面白い令嬢がいる』とよく話をしてくれたんだ」
「そ、そうですか」
「息子だけじゃない。ファルジオン家の娘からも君の評判を聞いているよ。自分では思いつかないようなアイデアを出すことができる、とね」
ファルジオン家の娘、というのはミリネア様だろう。
フィリエル様と並んであの方は、なぜか学院時代から私のことを買ってくれているのだ。
まさかその話がレグルス陛下にまで届いているとは想像していなかったけれど。
「そんな君に一つ聞きたいことがあって、そのためにフィリエルに頼んで君と話す機会を設けてもらったのさ」
「聞きたいこと、ですか?」
「ああ」
私が聞き返すと、レグルス陛下は私の目をまっすぐに見た。
「……!」
ぎくりと肩が跳ねる。
レグルス陛下の態度や表情が変わったわけではない。
けれど雰囲気だけが張り詰めたものになった。
原因はレグルス陛下の眼差し。
私の腹の底まで見通すような鋭い視線に、私の心臓がばくばくと鳴る。
「――領地を運営するうえでもっとも大切なものは、なんだと思う?」
ゆっくりとレグルス陛下はそう尋ねた。
「ああ、そうだな。それでは運んできてくれ」
レグルス陛下の言葉で料理が次々と運ばれてくる。
とても素晴らしいコース料理だ。
けれど……緊張して味がよくわからない……!
「レイナ」
「……」
「レイナってば」
「は、はい」
隣のフィリエル殿下に声をかけられ、慌ててそちらを向く。
「あーん」
「え? ……むぐ」
一瞬遅れて何が起こったのか理解した。
フィリエル殿下がフォークに刺したステーキを私に差し出してきて、私は無意識でそれを口で受け取ってしまったのだ。
これは俗に言う『あーん』そのものではないか。
「!?!?!?」
混乱するものの、一度口に含んだ以上は呑み込むまで口を開くなど有り得ない。
「こら息子よ。女性にいきなりその行いは失礼ではないか?」
「いやいや、友人なんですからこのくらいは大目に見ていただけると」
レグルス陛下とフィリエル殿下が話している間に急いで口の中のステーキを噛んで呑み込む。
ああ、美味しい……じゃなくて!
「……フィリエル殿下、一体なにを」
「なんだかレイナが緊張していたようだったから、ほぐしてあげようかと思っただけだよ。せっかくの美味しい料理なのに、味がわからないともったいないじゃないか」
「そ、それはそうですが……」
からかわれているような気がしてならない。
レグルス陛下の様子をうかがうと、特に気にしている様子もない。
というか面白がっているような気がする。
悪気がないのはわかっていたので、私は溜め息を吐くにとどめた。
それに緊張がほぐれたのも事実だし。
その後もしばらく雑談を交えながら食事をして過ごす。
食後のワインを傾けるフィリエル殿下に私は尋ねた。
「それで、フィリエル殿下。結局私はどうしてここに呼ばれたのでしょうか?」
「それは私が頼んだからだ、レイナ君」
「レグルス陛下が?」
「そうだ」
頷くレグルス陛下。
「フィリエルから君のことはずっと聞いていた。学院時代からね。『面白い令嬢がいる』とよく話をしてくれたんだ」
「そ、そうですか」
「息子だけじゃない。ファルジオン家の娘からも君の評判を聞いているよ。自分では思いつかないようなアイデアを出すことができる、とね」
ファルジオン家の娘、というのはミリネア様だろう。
フィリエル様と並んであの方は、なぜか学院時代から私のことを買ってくれているのだ。
まさかその話がレグルス陛下にまで届いているとは想像していなかったけれど。
「そんな君に一つ聞きたいことがあって、そのためにフィリエルに頼んで君と話す機会を設けてもらったのさ」
「聞きたいこと、ですか?」
「ああ」
私が聞き返すと、レグルス陛下は私の目をまっすぐに見た。
「……!」
ぎくりと肩が跳ねる。
レグルス陛下の態度や表情が変わったわけではない。
けれど雰囲気だけが張り詰めたものになった。
原因はレグルス陛下の眼差し。
私の腹の底まで見通すような鋭い視線に、私の心臓がばくばくと鳴る。
「――領地を運営するうえでもっとも大切なものは、なんだと思う?」
ゆっくりとレグルス陛下はそう尋ねた。
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