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収穫祭
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というわけで収穫祭本番である。
広場に集まり領民や、ルグドさんが連れてきたレジニア領の人々が祭りを楽しんでいる。
「収穫祭は大成功だな。レイナがいてくれたおかげだよ」
「本当ね。よく頑張ってくれたわね、レイナ」
「そう言ってもらえると嬉しいよ、お父様、お母様」
褒めてくれる両親の言葉に私は笑みを浮かべた。
こんなに褒めてもらえるのはこの領地に戻ってきたからだ。
ロージア家の屋敷にいた頃はいつも責められてばかりいて、楽しいことなんてなかった。
今はこんなにもやり甲斐のある日々を過ごすことができて幸せだ。
「ごきげんよう、ミドルダム卿」
「これはフィリエル殿下!」
広場の隅で収穫祭の様子を見守っていた私たちのもとに、フィリエル殿下がやってきた。
フィリエル殿下は当然のように収穫祭の準備を最後まで手伝ってくれた。
せめてお礼にと、祭りに参加して楽しんでもらっている最中だ。
「フィリエル殿下、さきほどまでルグドさんとお話していたのでは?」
「まあね。けれど面白いイベントが始まるというからレイナを呼びに来たんだ」
「私をですか?」
フィリエル殿下は頷いてにこりと微笑んだ。
「なんでもここのお祭りでは男女が手を組んで踊るそうじゃないか。ぜひ君にお相手願いたくてね」
「ええええ」
予想外の展開に驚く私。
「母さん、まさかレイナが殿下に誘われるなんて」
「きゃあ、どうしましょう! なんだか私までドキドキしてきましたわ!」
父と母まで混乱している。
普通に考えて第一王子が、たかが貧乏領地の男爵令嬢にダンスの誘いなんて有り得ない。
「学院時代は『身分の違いが~』なんて言ってダンスの誘いを受けてもらえなかったからね。こういう場でくらい構わないだろう?」
「で、ですが身分が違うのは本当ですし」
「友人同士がダンスを踊るのは普通だと思うけどね。それに僕、祭りの設営を二日も手伝ったんだけどなー」
「う……」
それを言われると悪い。
私はおそるおそる頷いた。
「……わ、わかりました。そんなことでフィリエル殿下の気が済むなら」
「ありがとう。嬉しいよ。それじゃあ――」
スッとフィリエル殿下は私に手を差し伸べた。
それから優しげな声色で囁くように言う。
「――どうか私と踊っていただけますか、レディ?」
どきん、と心臓が跳ねる。
フィリエル殿下の輝かしい金髪は、今は夕闇や広場のたき火のコントラストを受けて怪しく輝いている。とても美しいと誰だって言うだろう。
そんな人にダンスの誘いを受けているなんて信じられない。
まるで自分がロマンス小説の登場人物にでもなったような気分だ。
広場に集まり領民や、ルグドさんが連れてきたレジニア領の人々が祭りを楽しんでいる。
「収穫祭は大成功だな。レイナがいてくれたおかげだよ」
「本当ね。よく頑張ってくれたわね、レイナ」
「そう言ってもらえると嬉しいよ、お父様、お母様」
褒めてくれる両親の言葉に私は笑みを浮かべた。
こんなに褒めてもらえるのはこの領地に戻ってきたからだ。
ロージア家の屋敷にいた頃はいつも責められてばかりいて、楽しいことなんてなかった。
今はこんなにもやり甲斐のある日々を過ごすことができて幸せだ。
「ごきげんよう、ミドルダム卿」
「これはフィリエル殿下!」
広場の隅で収穫祭の様子を見守っていた私たちのもとに、フィリエル殿下がやってきた。
フィリエル殿下は当然のように収穫祭の準備を最後まで手伝ってくれた。
せめてお礼にと、祭りに参加して楽しんでもらっている最中だ。
「フィリエル殿下、さきほどまでルグドさんとお話していたのでは?」
「まあね。けれど面白いイベントが始まるというからレイナを呼びに来たんだ」
「私をですか?」
フィリエル殿下は頷いてにこりと微笑んだ。
「なんでもここのお祭りでは男女が手を組んで踊るそうじゃないか。ぜひ君にお相手願いたくてね」
「ええええ」
予想外の展開に驚く私。
「母さん、まさかレイナが殿下に誘われるなんて」
「きゃあ、どうしましょう! なんだか私までドキドキしてきましたわ!」
父と母まで混乱している。
普通に考えて第一王子が、たかが貧乏領地の男爵令嬢にダンスの誘いなんて有り得ない。
「学院時代は『身分の違いが~』なんて言ってダンスの誘いを受けてもらえなかったからね。こういう場でくらい構わないだろう?」
「で、ですが身分が違うのは本当ですし」
「友人同士がダンスを踊るのは普通だと思うけどね。それに僕、祭りの設営を二日も手伝ったんだけどなー」
「う……」
それを言われると悪い。
私はおそるおそる頷いた。
「……わ、わかりました。そんなことでフィリエル殿下の気が済むなら」
「ありがとう。嬉しいよ。それじゃあ――」
スッとフィリエル殿下は私に手を差し伸べた。
それから優しげな声色で囁くように言う。
「――どうか私と踊っていただけますか、レディ?」
どきん、と心臓が跳ねる。
フィリエル殿下の輝かしい金髪は、今は夕闇や広場のたき火のコントラストを受けて怪しく輝いている。とても美しいと誰だって言うだろう。
そんな人にダンスの誘いを受けているなんて信じられない。
まるで自分がロマンス小説の登場人物にでもなったような気分だ。
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