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フィリエル殿下
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「おやお嬢様、お出かけですか?」
「ええ、そろそろ収穫祭の時期だから準備を進めないと」
出かける途中に使用人に話しかけられたのでそう答える。
ミドルダム領のイベントといえば毎年の秋に行われる収穫祭だ。
この準備は領民の協力を得るとはいえ、領主家が主導することになっている。
「お嬢様、はりきっておられますね」
「当然よ。収穫祭といえば、日ごろ頑張って働いてくれている領民たちが羽目を外せる少ないタイミングなんだもの。手を抜くなんて有り得ないわ」
本来であれば領主家が領民におもねるようなことがあってはならない。
あくまで私たちは領民たちに適切な税を課し、国の発展につとめるのが仕事なのだから。
とはいえこんな時くらい、領民たちには楽しんでもらいたい。
「そうね……多くの人が楽しめるように炊き出しのメニューを練りましょうか。それに王都から大道芸人も呼べばきっと盛り上がるわね。他には……」
ぶつぶつと呟く私に、使用人が笑みを浮かべながら言った。
「やっぱりレイナお嬢様は最高の次期領主様ですね! 戻っていただけてよかったです!」
「ほめ過ぎだわ。まだ私なんて半人前なのに。……あ、そろそろ出ないと!」
「はい。いってらっしゃいませ!」
使用人に笑顔で見送られ、私は屋敷を出た。
収穫祭の会場になる広場を下見していると……
「やあ、レイナ。久しぶりだね」
金髪碧眼の美青年がいきなり話しかけてきた。
「ふぃ、フィリエル殿下! なぜここに!?」
この人はフィリエル・サザーランド様。このサザーランド王国の第一王子だ。
外見は読み物の中から出て来たような貴公子そのもの。
さらに勉学、社交、剣術に至るまで欠点なしの完璧超人である。
国民からも人気があり、彼以外の王族の兄弟はすでに次期国王を諦めてしまっているほどなんだとか。
「つれないな、レイナ。学院では一緒に学んだ仲じゃないか」
「それはそうですが……」
フィリエル殿下と私は学院時代に知り合った関係だ。
恐れ多くもフィリエル殿下は私のことを友人のように接してくれる。
たかが男爵令嬢の私になぜ? と思うけど、おそらく私のような地味な令嬢が物珍しいんじゃないかと個人的には思っている。
「ああ、それで僕がなぜここにいるか、だっけ。仕事で近くに寄ったんだよ」
「そうでしたか」
「最近では色々と気候変動が激しいからね。領民の生活にどんな変化が出ているか自分の目で見ておきたかったんだ」
「さすがはフィリエル殿下ですね。素晴らしい考えだと思います」
「在学中に君から教わったことだけどね」
「……そうでしたか?」
うーん、覚えていない。
けれど確かにフィリエル殿下とは為政について色々と話した記憶がある。
普通なら男爵令嬢なんて学院の中でヒエラルキーが下の存在の意見を聞くなんて、王族らしくないんだろうけど……フィリエル殿下はそのあたりの考えが柔軟なのだ。
「ええ、そろそろ収穫祭の時期だから準備を進めないと」
出かける途中に使用人に話しかけられたのでそう答える。
ミドルダム領のイベントといえば毎年の秋に行われる収穫祭だ。
この準備は領民の協力を得るとはいえ、領主家が主導することになっている。
「お嬢様、はりきっておられますね」
「当然よ。収穫祭といえば、日ごろ頑張って働いてくれている領民たちが羽目を外せる少ないタイミングなんだもの。手を抜くなんて有り得ないわ」
本来であれば領主家が領民におもねるようなことがあってはならない。
あくまで私たちは領民たちに適切な税を課し、国の発展につとめるのが仕事なのだから。
とはいえこんな時くらい、領民たちには楽しんでもらいたい。
「そうね……多くの人が楽しめるように炊き出しのメニューを練りましょうか。それに王都から大道芸人も呼べばきっと盛り上がるわね。他には……」
ぶつぶつと呟く私に、使用人が笑みを浮かべながら言った。
「やっぱりレイナお嬢様は最高の次期領主様ですね! 戻っていただけてよかったです!」
「ほめ過ぎだわ。まだ私なんて半人前なのに。……あ、そろそろ出ないと!」
「はい。いってらっしゃいませ!」
使用人に笑顔で見送られ、私は屋敷を出た。
収穫祭の会場になる広場を下見していると……
「やあ、レイナ。久しぶりだね」
金髪碧眼の美青年がいきなり話しかけてきた。
「ふぃ、フィリエル殿下! なぜここに!?」
この人はフィリエル・サザーランド様。このサザーランド王国の第一王子だ。
外見は読み物の中から出て来たような貴公子そのもの。
さらに勉学、社交、剣術に至るまで欠点なしの完璧超人である。
国民からも人気があり、彼以外の王族の兄弟はすでに次期国王を諦めてしまっているほどなんだとか。
「つれないな、レイナ。学院では一緒に学んだ仲じゃないか」
「それはそうですが……」
フィリエル殿下と私は学院時代に知り合った関係だ。
恐れ多くもフィリエル殿下は私のことを友人のように接してくれる。
たかが男爵令嬢の私になぜ? と思うけど、おそらく私のような地味な令嬢が物珍しいんじゃないかと個人的には思っている。
「ああ、それで僕がなぜここにいるか、だっけ。仕事で近くに寄ったんだよ」
「そうでしたか」
「最近では色々と気候変動が激しいからね。領民の生活にどんな変化が出ているか自分の目で見ておきたかったんだ」
「さすがはフィリエル殿下ですね。素晴らしい考えだと思います」
「在学中に君から教わったことだけどね」
「……そうでしたか?」
うーん、覚えていない。
けれど確かにフィリエル殿下とは為政について色々と話した記憶がある。
普通なら男爵令嬢なんて学院の中でヒエラルキーが下の存在の意見を聞くなんて、王族らしくないんだろうけど……フィリエル殿下はそのあたりの考えが柔軟なのだ。
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