【完結保証】あれだけ愚図と罵ったんですから、私がいなくても大丈夫ですよね? 『元』婚約者様?

りーふぃあ

文字の大きさ
上 下
6 / 88

パーティー3

しおりを挟む
「ふん、仕方ないな。本来ならこんな田舎者のドレスをマリーに着せるのは気が進まないが、今からではどうしようもないからな」

 義父も渋々それを承諾する。
 私は慌てて口を開いた。

「ま、待ってください! これは学院時代の友人が贈ってくれたもので、とても大切な……」
「貴様がマリーのドレスを汚したんだろうが! 責任を取れ! この恥知らず!」
「――っ」

 義父に怒鳴られ、体ががちりとこわばった。

 怒鳴られたり、殴られたりするのが怖くて体が動かない。
 口がのりづけされたように開かなくなってしまった。

 硬直した私を見て、義父は吐き捨てるように言った。

「さっさとドレスを脱いでおけ。わかったな!」

 私は必死に声を絞り出した。

「で、ですが、それだと私はドレスがなくて、パーティーに参加できません」
「それがなんだ?」
「今日は、両親も来ます。それに、今日はランジス様と私の婚約披露も兼ねていると……」

 そうだ。今日は私だってパーティーに参加するはずだった。

 今までのロージア家での苦労が報われて、この家の一員として対等に扱われるようになる。
 そういう記念すべき日なのだ。
 そう聞かされていた。

 今日であの地獄のような日々から解放されるはずだったのだ。

 義父は私を見て、鼻で笑ってきた。

「はっ、そんなものは延期だ、延期。もともと、今の貴様がランジスの婚約者を名乗るなどおこがましいと思っていたところだしな」
「そうねえ。あなたはランジスの婚約者にはみすぼらしすぎるわ」
「そんな……」

 義母まで一緒になって罵ってくるその光景に、私は思わず膝を折った。

 思い描いていた希望がガラガラと崩れていくような気がした。

 延期?
 それじゃあ、私が婚約者として認められるのはいつになるんだろう?

 そんな日は一生来ないんじゃないかというふうに思えた。

「ランジス様、なんとか言ってくださいませんか」

 私は最後の希望を抱いて今まで黙りっぱなしのランジスを見た。

 するとランジスは私の元までやってきて、ぽん、と肩を叩いてきた。
 それから耳元で囁くように言った。

「お前はまだまだ修行が足りないってことだよ。今日は大人しく使用人の服でも着て、この部屋に閉じこもってろ。お前の両親には『体調不良だ』って言っといてやるからよ」
「……っ」
「悔しかったら婚約破棄でもなんでもしてみろよ。お前みたいな愚図にはそんな度胸ないだろうけどな!」

 ああ、やっぱりこの人も味方じゃない。

 ニヤニヤと笑いながらそう言ってくるランジスは心底楽しそうで、そんな婚約者の姿に私は悔しいとか悲しいとか以前に力が抜けてしまった。

 その後ランジスと義父は部屋を出ていく。
 女性だけになった後、マリーと義母は二人がかりで私のドレスを剥ぎ取った。

「わあっ、見てママ! このドレスとても肌触りがいいわ!」
「本当ねえ。レイナさんにはもったいない高級品だわ」

 そんなことを好き勝手に言いながら、二人は部屋を出て行く。

 私は部屋に置かれていた粗末な使用人の服を着て、ベッドに横たわる。

「……もう、無理です」

 ワガママばかりの義妹に、それを甘やかして言いなりになっている義両親。

 そんな身内を止めるどころか、一緒になって私を虐めてくる婚約者。

 ようやく認めてもらえるかと思ったら、義妹に濡れ衣を着せられて小部屋に監禁されるなんて想像もしなかった。

「お父様とお母様、心配してるだろうな……」

 ふと自分の手を見る。

 その手は押し付けられた水仕事やら庭の世話やらのせいでボロボロになってしまっていた。
 肌はあれ、手首にはうっすらと骨が浮いている。

 やつれてしまった、という表現がぴったりくる。

 しばらくぼうっとしていると、館の入り口に次々と馬車が止まった。
 きらびやかに着飾った招待客たちが現れ、使用人たちに案内されて屋敷の中や中庭へと集まっていく。

 それから始まるきらびやかな立食パーティー。

『ええーっ、そんなあ~。あたしが世界一可愛いって、お世辞じゃないんですか?』

 窓を貫通して甲高い声が響いてきた。

 声のした方には、私のドレスを着て、令息たちにちやほやされるマリーの姿がある。
 それを見ていたら……私の頭の奥で「ぶちっ」という音がした。

「ふふ、ふふふ、ふふふふふ」

 笑い声が口から漏れる。

 王都の屋敷では使用人のようにこき使われ。

 本来なら領主がやるはずの領地管理まで押し付けられ。

 挙句の果てに、大切なドレスを強奪されてパーティーに参加すらさせてもらえない。

 それに、仮にこのまま我慢を続けていつかきちんとランジスと結婚できたとしよう。

 賭けてもいいけれど、そんなことになっても私が真っ当な家族としてロージア家の人間に認められることはない。

 そう考えたら馬鹿馬鹿しくなってきてしまった。

「悔しかったら婚約破棄でもなんでもしてみろ、ですか……上等です」

 私は立ち上がり、部屋に備え付けられていた紙とペンで手紙を書いた。


 『実家に帰らせていただきます。レイナ・ミドルダム』


 これでよし。
 私は私物として持ってきていた鞄を手に、部屋を出て行くことにした。
しおりを挟む
感想 121

あなたにおすすめの小説

思い出してしまったのです

月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。 妹のルルだけが特別なのはどうして? 婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの? でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。 愛されないのは当然です。 だって私は…。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

婚約破棄?とっくにしてますけど笑

蘧饗礪
ファンタジー
ウクリナ王国の公爵令嬢アリア・ラミーリアの婚約者は、見た目完璧、中身最悪の第2王子エディヤ・ウクリナである。彼の10人目の愛人は最近男爵になったマリハス家の令嬢ディアナだ。  さて、そろそろ婚約破棄をしましょうか。

婚約破棄で見限られたもの

志位斗 茂家波
恋愛
‥‥‥ミアス・フォン・レーラ侯爵令嬢は、パスタリアン王国の王子から婚約破棄を言い渡され、ありもしない冤罪を言われ、彼女は国外へ追放されてしまう。 すでにその国を見限っていた彼女は、これ幸いとばかりに別の国でやりたかったことを始めるのだが‥‥‥ よくある婚約破棄ざまぁもの?思い付きと勢いだけでなぜか出来上がってしまった。

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。 因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。 そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。 彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。 晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。 それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。 幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。 二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。 カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。 こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。

【完結】婚約者が私以外の人と勝手に結婚したので黙って逃げてやりました〜某国の王子と珍獣ミミルキーを愛でます〜

平川
恋愛
侯爵家の莫大な借金を黒字に塗り替え事業を成功させ続ける才女コリーン。 だが愛する婚約者の為にと寝る間を惜しむほど侯爵家を支えてきたのにも関わらず知らぬ間に裏切られた彼女は一人、誰にも何も告げずに屋敷を飛び出した。 流れ流れて辿り着いたのは獣人が治めるバムダ王国。珍獣ミミルキーが生息するマサラヤマン島でこの国の第一王子ウィンダムに偶然出会い、強引に王宮に連れ去られミミルキーの生態調査に参加する事に!? 魔法使いのウィンロードである王子に溺愛され珍獣に癒されたコリーンは少しずつ自分を取り戻していく。 そして追い掛けて来た元婚約者に対して少女であった彼女が最後に出した答えとは…? 完結済全6話

義妹が大事だと優先するので私も義兄を優先する事にしました

さこの
恋愛
婚約者のラウロ様は義妹を優先する。 私との約束なんかなかったかのように… それをやんわり注意すると、君は家族を大事にしないのか?冷たい女だな。と言われました。 そうですか…あなたの目にはそのように映るのですね… 分かりました。それでは私も義兄を優先する事にしますね!大事な家族なので!

【完結】公爵令嬢は、婚約破棄をあっさり受け入れる

櫻井みこと
恋愛
突然、婚約破棄を言い渡された。 彼は社交辞令を真に受けて、自分が愛されていて、そのために私が必死に努力をしているのだと勘違いしていたらしい。 だから泣いて縋ると思っていたらしいですが、それはあり得ません。 私が王妃になるのは確定。その相手がたまたま、あなただった。それだけです。 またまた軽率に短編。 一話…マリエ視点 二話…婚約者視点 三話…子爵令嬢視点 四話…第二王子視点 五話…マリエ視点 六話…兄視点 ※全六話で完結しました。馬鹿すぎる王子にご注意ください。 スピンオフ始めました。 「追放された聖女が隣国の腹黒公爵を頼ったら、国がなくなってしまいました」連載中!

処理中です...