上 下
5 / 88

パーティー2

しおりを挟む
「他のドレスはこの屋敷に置いていないんですか?」
「そんなの全部王都に持って行っちゃったわよ。向こうではたくさん夜会があるんだし」
「それはそうでしょうが……」

 だからといって突然そんなことを言われても困る。

「そうだ、それでいいわ!」

 マリーが名案を思い付いたように言った。

「それ? なんのことですか?」
「だからそのドレスよ。義姉さんが今着ているドレスをあたしに貸して頂戴! それで今日はあたしがパーティーに出るわ!」
「……え?」

 この子は一体何を言っているんだろう。

 そんなことができるわけがない。

 常識で考えたらわかるはずだ。

 そんなことを思っていると。

「ああ、そうだな。そうするか!」

 なぜか乗り気になるランジス。

 ええええ!?

「む、無理ですよ、そんなの。私にはこのドレスしかないんですから。これを貸したら私が着るものがなくなってしまいます」
「そんなの別にいいじゃない! 貸してよ! よく見たらそのドレスすごく可愛いじゃない!」

 目を輝かせて私のドレスをじろじろと見るマリーに私は混乱する。

「無理です!」
「なんで無理なの? あたしのお願いが聞けないの? だいたい、義姉さんみたいな地味な人にはそのドレスはもったいないわよ! あたしみたいな華やかで可愛い子のほうがきっと似合うわ!」
「そういう話では……」
「うるさい! 口答えするんじゃないわよ!」

 ぎゃんぎゃんと喚きだすマリー。

 似合うかどうかの問題じゃないのに、マリーは自分が正しいと信じているようだった。

「どうしたんだ!?」
「なにかあったの? ランジス、マリー」

 それを聞きつけて義両親までやってきた。

 マリーはにやりと笑って義両親のほうを向いた。

 その瞳には咄嗟に浮かべたらしい、噓泣きの涙まで光っている。

「聞いて、パパ、ママ! 義姉さんがあたしのドレスにお茶をこぼして着られなくしてしまったの!」
「「なんだって!?」」

 声を揃える義両親。

 私はというと……あまりのことに固まってしまった。
 マリーのドレスを汚したのはマリー本人だったとさっき言われたばかりだ。当然私はそんなことしていない。

「貴様は……マリーになんてことをするんだ、この馬鹿者め!」

 バシッ!

「きゃあっ!?」

 いきなり義父に顔を叩かれ、私は尻餅をついた。

 あまりのことに呆然とする。
 殴られた? 私が? どうして?

 混乱する私の髪を、ぐいっ! と引いて義父は無理やり立たせてくる。

「い、痛い! 痛いです!」
「黙れ、この疫病神め! 貴様と違ってマリーは将来有望な娘なんだぞ! 大方マリーの可愛さに嫉妬して、今日のパーティーで恥をかかせようとでも思ったんだろう! なんてあさましいんだ!」
「違います! 私はそんなことしていません!」
「そんな嘘を誰が信じるか! お前は私を馬鹿にしているのか!?」

 髪を引っ張られ、耳元で怒鳴られ、私は恐怖でどうにかなりそうだった。

 義母に慰められながらマリーは泣くふりをしながら、ニタニタと笑って私を見ている。
 義母が義父を横から止めに入った。

「あなた、そこまでにしてください!」
「なんだと!?」
「それ以上の乱暴はしてはいけません!」

 私は義母のその行動に驚いた。

 義母はランジスやマリーを溺愛していて、あの二人がワガママを言っても全部それを叶えてしまうような人だ。
 しかも事なかれ主義で、乱暴な義父の行動も見て見ぬふりをする。

 そんな人物が義父を止めてくれたことなんて今までなかった。

 まさか私の味方をしてくれるんだろうか?

 この状況は誰が見たって私が被害者だ。きっと同じ女性として、また嫁入りをした身として、マリーよりも私のことを信用してくれたのかもしれない。

 義母は笑みを浮かべて言った。

「レイナさんが着ているドレス、なかなかのものですよ。これをマリーに貸してあげればいいじゃないですか。あなたがこれ以上殴ったら、なにかの拍子にドレスが汚れてしまうかもしれないでしょう?」

 ……え?

 義母の視線は私のドレスのみに注がれている。
 まるで値踏みするように、図々しい視線が私のドレスを舐め回している。

 ああ、そういうことか。
 やっぱりこの人は自分の子どものことしか考えていない。

 義母の言葉にマリーがしてやったりとばかりに賛成する。

「ママ、いい考えよ! そうしましょう。義姉さん、それならあたしのドレスを汚したことも許してあげるわ!」

 私はようやく気付いた。マリーは最初からこれが狙いだったのだ。

 義両親に嘘を吹き込み、私からドレスを奪うことが。
しおりを挟む
感想 121

あなたにおすすめの小説

婚約破棄を求められました。私は嬉しいですが、貴方はそれでいいのですね?

ゆるり
恋愛
アリシエラは聖女であり、婚約者と結婚して王太子妃になる筈だった。しかし、ある少女の登場により、未来が狂いだす。婚約破棄を求める彼にアリシエラは答えた。「はい、喜んで」と。

お認めください、あなたは彼に選ばれなかったのです

めぐめぐ
恋愛
騎士である夫アルバートは、幼馴染みであり上官であるレナータにいつも呼び出され、妻であるナディアはあまり夫婦の時間がとれていなかった。 さらにレナータは、王命で結婚したナディアとアルバートを可哀想だと言い、自分と夫がどれだけ一緒にいたか、ナディアの知らない小さい頃の彼を知っているかなどを自慢げに話してくる。 しかしナディアは全く気にしていなかった。 何故なら、どれだけアルバートがレナータに呼び出されても、必ず彼はナディアの元に戻ってくるのだから―― 偽物サバサバ女が、ちょっと天然な本物のサバサバ女にやられる話。 ※頭からっぽで ※思いつきで書き始めたので、つたない設定等はご容赦ください。 ※夫婦仲は良いです ※私がイメージするサバ女子です(笑)

王子に婚約を解消しようと言われたけど、私から簡単に離れられると思わないことね

黒うさぎ
恋愛
「エスメラルダ、君との婚約を解消させてもらおう」 フェルゼン王国の第一王子にして、私の婚約者でもあるピエドラ。 婚約解消は私のためだと彼は言う。 だが、いくら彼の頼みでもそのお願いだけは聞くわけにいかない。 「そう簡単に離したりしませんよ」 ピエドラは私の世界に色を与えてくれた。 彼の目指す「綺麗な世界」のために、私は醜い世界で暗躍する。 小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+にも投稿しています。

婚約破棄ですか? ありがとうございます

安奈
ファンタジー
サイラス・トートン公爵と婚約していた侯爵令嬢のアリッサ・メールバークは、突然、婚約破棄を言われてしまった。 「お前は天才なので、一緒に居ると私が霞んでしまう。お前とは今日限りで婚約破棄だ!」 「左様でございますか。残念ですが、仕方ありません……」 アリッサは彼の婚約破棄を受け入れるのだった。強制的ではあったが……。 その後、フリーになった彼女は何人もの貴族から求愛されることになる。元々、アリッサは非常にモテていたのだが、サイラスとの婚約が決まっていた為に周囲が遠慮していただけだった。 また、サイラス自体も彼女への愛を再認識して迫ってくるが……。

冷遇された王妃は自由を望む

空橋彩
恋愛
父を亡くした幼き王子クランに頼まれて王妃として召し上げられたオーラリア。 流行病と戦い、王に、国民に尽くしてきた。 異世界から現れた聖女のおかげで流行病は終息に向かい、王宮に戻ってきてみれば、納得していない者たちから軽んじられ、冷遇された。 夫であるクランは表情があまり変わらず、女性に対してもあまり興味を示さなかった。厳しい所もあり、臣下からは『氷の貴公子』と呼ばれているほどに冷たいところがあった。 そんな彼が聖女を大切にしているようで、オーラリアの待遇がどんどん悪くなっていった。 自分の人生よりも、クランを優先していたオーラリアはある日気づいてしまった。 [もう、彼に私は必要ないんだ]と 数人の信頼できる仲間たちと協力しあい、『離婚』して、自分の人生を取り戻そうとするお話。 貴族設定、病気の治療設定など出てきますが全てフィクションです。私の世界ではこうなのだな、という方向でお楽しみいただけたらと思います。

あなたに未練などありません

風見ゆうみ
恋愛
「本当は前から知っていたんだ。君がキャロをいじめていた事」 初恋であり、ずっと思いを寄せていた婚約者からありえない事を言われ、侯爵令嬢であるわたし、アニエス・ロロアルの頭の中は真っ白になった。 わたしの婚約者はクォント国の第2王子ヘイスト殿下、幼馴染で親友のキャロラインは他の友人達と結託して嘘をつき、私から婚約者を奪おうと考えたようだった。 数日後の王家主催のパーティーでヘイスト殿下に婚約破棄されると知った父は激怒し、元々、わたしを憎んでいた事もあり、婚約破棄後はわたしとの縁を切り、わたしを家から追い出すと告げ、それを承認する書面にサインまでさせられてしまう。 そして、予告通り出席したパーティーで婚約破棄を告げられ絶望していたわたしに、その場で求婚してきたのは、ヘイスト殿下の兄であり病弱だという事で有名なジェレミー王太子殿下だった…。 ※史実とは関係なく、設定もゆるい、ご都合主義です。 ※中世ヨーロッパ風で貴族制度はありますが、法律、武器、食べ物などは現代風です。話を進めるにあたり、都合の良い世界観となっています。 ※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。

婚約「解消」ではなく「破棄」ですか? いいでしょう、お受けしますよ?

ピコっぴ
恋愛
7歳の時から婚姻契約にある我が婚約者は、どんな努力をしても私に全く関心を見せなかった。 13歳の時、寄り添った夫婦になる事を諦めた。夜会のエスコートすらしてくれなくなったから。 16歳の現在、シャンパンゴールドの人形のような可愛らしい令嬢を伴って夜会に現れ、婚約破棄すると宣う婚約者。 そちらが歩み寄ろうともせず、無視を決め込んだ挙句に、王命での婚姻契約を一方的に「破棄」ですか? ただ素直に「解消」すればいいものを⋯⋯ 婚約者との関係を諦めていた私はともかく、まわりが怒り心頭、許してはくれないようです。 恋愛らしい恋愛小説が上手く書けず、試行錯誤中なのですが、一話あたり短めにしてあるので、サクッと読めるはず? デス🙇

ある公爵の後悔

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
王女に嵌められて冤罪をかけられた婚約者に会うため、公爵令息のチェーザレは北の修道院に向かう。 そこで知った真実とは・・・ 主人公はクズです。

処理中です...