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湖のほとり4
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「まだそんなことを言っているんですか?」
「な、なんだ、その態度は! 僕に逆らっていいと思ってるのか!?」
「私はあなたのことなんて愛していません。……私の婚約破棄によってあなたが自分の行いを反省するなら、他の結果もあったかもしれません。ですが、結局あなたは何も変わらず、こんな犯罪まがいのことをする始末。心底軽蔑しました」
「軽蔑……? 完璧な僕を? ルミアが? そんな、ああ、ああ、あああ」
フロッグ殿下が壊れ始める。
ズドッ!
そんなフロッグ殿下の真横にクレスト様が氷の弾丸を撃ち込む。
「ひいいいいいい!」
「フロッグ。今回は見逃してやる。だが、次ルミアの元に近付いてみろ。容赦しないぞ」
「そ、そんな……ルミアだけは……」
「今死にたいのか?」
ガタガタとフロッグ殿下が震えだす。
おそらくあの震えは寒さ以外の理由によるものだろう。
「も、もう、二度とルミアに近付きません……だから命ばかりは」
「いいだろう。さっさと手下を連れて消えろ」
クレスト様が凄むと、「わかりましたああああ!」と叫び、フロッグ殿下は一目散に逃げて行った。騎士たちは動けない仲間をつれてその後を追う。
その場には私とクレスト様が残された。
「……」
ふらりと倒れそうになるクレスト様を慌てて支える。
「クレスト様! 大丈夫ですか!?」
「問題ない……」
「そうは見えませんよ!」
慌てて服を破って止血し、近くの泉で濡らした布で傷口を清める。
「まったく、どうしてあんな無茶を……」
「お前を奪われるのが我慢できなかった」
「はい?」
予想外のことを言われて思わずクレスト様を凝視する。
するとクレスト様はじっと私の目を見返した。
付き合いの短い私でも知っている。
この人は誠意を示そうとするとき、相手の目をまっすぐ見るのだ。
「俺は今まで、誰かに守られることなどなかった。当然だ。俺より強い人間などそうはいないのだからな。だが、お前はさっき俺を守ろうとした。それが嬉しかった」
「そ、そうするしかなかっただけです」
「理由はなんだっていい。俺はお前のその強さに惹かれた」
どき、と心臓が跳ねる。
外見や礼儀作法など、うわべのような部分を褒められたことは何度かある。
けれど人格をそんなふうに認められるのは初めてだった。
「ルミア、お前はやはり帝国に来てくれ」
「で、ですが私は公爵令嬢としての務めがあります」
「魔道具職人としてではない。俺の婚約者としてだ」
「えええ!?」
さっき言われたときと理由が違う!
「同盟国の皇族との婚姻なら、家の発展にも役立つはずだ」
「急すぎますよ!」
「では嫌か?」
「うっ」
少し落ち込んだような声色で尋ねられて、私は息を詰まらせた。こんな美形な男性がそういう仕草をするのはずるい……!
「い、嫌というわけではありませんが……」
「そうか」
今度は一転して、ぱっと表情を明るくするクレスト様。
そんな彼を見ていたら、なんだか不安な気持ちがどうでもよくなってしまった。
「……私の家族に紹介するので、ついてきてもらえますか?」
その言葉の意味はきちんと伝わったようだった。
「ああ、わかった。きちんと説明しよう。ルミアは俺が命を懸けて一生守ると」
「よ……よろしくお願いします」
薄く微笑むクレスト様の顔を、私はもう見ることができなかった。
「な、なんだ、その態度は! 僕に逆らっていいと思ってるのか!?」
「私はあなたのことなんて愛していません。……私の婚約破棄によってあなたが自分の行いを反省するなら、他の結果もあったかもしれません。ですが、結局あなたは何も変わらず、こんな犯罪まがいのことをする始末。心底軽蔑しました」
「軽蔑……? 完璧な僕を? ルミアが? そんな、ああ、ああ、あああ」
フロッグ殿下が壊れ始める。
ズドッ!
そんなフロッグ殿下の真横にクレスト様が氷の弾丸を撃ち込む。
「ひいいいいいい!」
「フロッグ。今回は見逃してやる。だが、次ルミアの元に近付いてみろ。容赦しないぞ」
「そ、そんな……ルミアだけは……」
「今死にたいのか?」
ガタガタとフロッグ殿下が震えだす。
おそらくあの震えは寒さ以外の理由によるものだろう。
「も、もう、二度とルミアに近付きません……だから命ばかりは」
「いいだろう。さっさと手下を連れて消えろ」
クレスト様が凄むと、「わかりましたああああ!」と叫び、フロッグ殿下は一目散に逃げて行った。騎士たちは動けない仲間をつれてその後を追う。
その場には私とクレスト様が残された。
「……」
ふらりと倒れそうになるクレスト様を慌てて支える。
「クレスト様! 大丈夫ですか!?」
「問題ない……」
「そうは見えませんよ!」
慌てて服を破って止血し、近くの泉で濡らした布で傷口を清める。
「まったく、どうしてあんな無茶を……」
「お前を奪われるのが我慢できなかった」
「はい?」
予想外のことを言われて思わずクレスト様を凝視する。
するとクレスト様はじっと私の目を見返した。
付き合いの短い私でも知っている。
この人は誠意を示そうとするとき、相手の目をまっすぐ見るのだ。
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「そ、そうするしかなかっただけです」
「理由はなんだっていい。俺はお前のその強さに惹かれた」
どき、と心臓が跳ねる。
外見や礼儀作法など、うわべのような部分を褒められたことは何度かある。
けれど人格をそんなふうに認められるのは初めてだった。
「ルミア、お前はやはり帝国に来てくれ」
「で、ですが私は公爵令嬢としての務めがあります」
「魔道具職人としてではない。俺の婚約者としてだ」
「えええ!?」
さっき言われたときと理由が違う!
「同盟国の皇族との婚姻なら、家の発展にも役立つはずだ」
「急すぎますよ!」
「では嫌か?」
「うっ」
少し落ち込んだような声色で尋ねられて、私は息を詰まらせた。こんな美形な男性がそういう仕草をするのはずるい……!
「い、嫌というわけではありませんが……」
「そうか」
今度は一転して、ぱっと表情を明るくするクレスト様。
そんな彼を見ていたら、なんだか不安な気持ちがどうでもよくなってしまった。
「……私の家族に紹介するので、ついてきてもらえますか?」
その言葉の意味はきちんと伝わったようだった。
「ああ、わかった。きちんと説明しよう。ルミアは俺が命を懸けて一生守ると」
「よ……よろしくお願いします」
薄く微笑むクレスト様の顔を、私はもう見ることができなかった。
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