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フロッグ殿下の誤算4
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修練場に入りクレストと向かい合う。騎士団は任務か何かで出払っているのか、修練場にいるのはごく少数の騎士や兵士だけだった。
よし、このくらいなら……
「クレストとか言ったっけ? 僕、悪いけど君に教わることなんてないから」
「ほう?」
クレストが首を傾げる。
「『冷氷の皇子』だかなんだか知らないけど、たかだか同年代でしょ? 僕は昔神童って呼ばれてたんだ。魔法の腕なら負けてないよ」
剣術では先日無様をさらしたけど、魔法ならそれはありえない。
僕は魔法のほうが得意なんだ。
こんな気に入らないやつから指導を受ける必要なんてない。
「失礼ながら、殿下は魔法が伸び悩んでいると聞きましたが」
「そんなの、少し訓練すれば済むだけの話さ。僕は天才だからね」
「……一つお尋ねしますが、殿下は戦場に出た経験はおありですか?」
「ないけど、そこらへんの兵士なら束になっても僕にはかなわないさ」
なぜなら僕は神童だった過去があるから。
言い合いを続ける僕たちのもとに、修練場にいた兵士たちがやってきてギャラリーと化す。丁度いい。このいけすかない男を衆目の前でこてんぱんにしてやる。
「なんなら勝負しようじゃないか。僕の腕前を見せてあげるよ」
杖を突きつけて笑いかける。
「なるほど。それはいい考えですね」
「だろう?」
「ええ、なにしろ――」
クレストはにっこり笑った。
「――俺はお前のような身の程をわきまえないガキが一番嫌いなんだ」
「へ?」
瞬間。
僕の目では追えない速さで構えられたクレストの杖の先端から、凄まじい冷気の波が迸り、僕は修練場の端まで吹き飛ばされた。
「ぴぎゃああああああああああああああ!?」
寒い! 寒い! 寒い!
というか痛い!
なんだこれ!? 僕は攻撃されたのか!?
「表面を少し冷やしただけだ。そこまで騒ぐほどのものじゃない」
どうやら今までは猫を被っていたようで、こちらに歩いてきたクレストの言葉遣いはさっきまでと違っている。
「ここここ、こここれはががが外交問題になるぞ」
口がかじかんで全然喋れない。
だが内容は伝わったはずだ。
僕は第一王子だぞ。こんなことをしてたたで済むと思うな。
クレストは溜め息を吐いた。
「好きにするがいい。俺は訓練の相手を務めただけだ。……まあ、お前はいくら訓練を積んでも無駄そうだがな。神童が聞いて呆れる」
「う、うるさい! もう許さないぞ!」
「ほう? 模擬戦を続けるのか?」
クレストに冷ややかな目で見られ、僕の心はぽっきりと折れた。
「や、やりません」
「そうか。……しばらくはこの街にいる。俺はもうお前の相手などごめんだが、国王陛下との約束を守る必要はあるからな。大人しく指導を受ける気になったら宿を訪ねるがいい」
クレストは去っていった。
「おい、今の見たかよ」
「フロッグ殿下、一撃でやられてたな……」
「神童と呼ばれたお方も随分落ちぶれたもんだな」
ギャラリーたちもひそひそと僕を見てなにか言っている。
ちくしょう!
なんで僕がこんな屈辱を……!
その後僕は父上にクレストの非道を包み隠さず伝えたが、取り合ってもらえなかった。
むしろ、こっちから頭を下げて再度魔法を教えてくれるよう頼めと言ってくる始末。
最悪の気分だ。
父上も僕の味方をしてくれないなんて。
……まあいい。
今日は離宮に向かうとしよう。
僕の味方をしてくれるはずの絶対的な婚約者がそこにはいるのだから。
……この後僕は、その婚約者から予想外の言葉を告げられることになるのだけど――そのことをこの瞬間の僕は知る由もなかった。
よし、このくらいなら……
「クレストとか言ったっけ? 僕、悪いけど君に教わることなんてないから」
「ほう?」
クレストが首を傾げる。
「『冷氷の皇子』だかなんだか知らないけど、たかだか同年代でしょ? 僕は昔神童って呼ばれてたんだ。魔法の腕なら負けてないよ」
剣術では先日無様をさらしたけど、魔法ならそれはありえない。
僕は魔法のほうが得意なんだ。
こんな気に入らないやつから指導を受ける必要なんてない。
「失礼ながら、殿下は魔法が伸び悩んでいると聞きましたが」
「そんなの、少し訓練すれば済むだけの話さ。僕は天才だからね」
「……一つお尋ねしますが、殿下は戦場に出た経験はおありですか?」
「ないけど、そこらへんの兵士なら束になっても僕にはかなわないさ」
なぜなら僕は神童だった過去があるから。
言い合いを続ける僕たちのもとに、修練場にいた兵士たちがやってきてギャラリーと化す。丁度いい。このいけすかない男を衆目の前でこてんぱんにしてやる。
「なんなら勝負しようじゃないか。僕の腕前を見せてあげるよ」
杖を突きつけて笑いかける。
「なるほど。それはいい考えですね」
「だろう?」
「ええ、なにしろ――」
クレストはにっこり笑った。
「――俺はお前のような身の程をわきまえないガキが一番嫌いなんだ」
「へ?」
瞬間。
僕の目では追えない速さで構えられたクレストの杖の先端から、凄まじい冷気の波が迸り、僕は修練場の端まで吹き飛ばされた。
「ぴぎゃああああああああああああああ!?」
寒い! 寒い! 寒い!
というか痛い!
なんだこれ!? 僕は攻撃されたのか!?
「表面を少し冷やしただけだ。そこまで騒ぐほどのものじゃない」
どうやら今までは猫を被っていたようで、こちらに歩いてきたクレストの言葉遣いはさっきまでと違っている。
「ここここ、こここれはががが外交問題になるぞ」
口がかじかんで全然喋れない。
だが内容は伝わったはずだ。
僕は第一王子だぞ。こんなことをしてたたで済むと思うな。
クレストは溜め息を吐いた。
「好きにするがいい。俺は訓練の相手を務めただけだ。……まあ、お前はいくら訓練を積んでも無駄そうだがな。神童が聞いて呆れる」
「う、うるさい! もう許さないぞ!」
「ほう? 模擬戦を続けるのか?」
クレストに冷ややかな目で見られ、僕の心はぽっきりと折れた。
「や、やりません」
「そうか。……しばらくはこの街にいる。俺はもうお前の相手などごめんだが、国王陛下との約束を守る必要はあるからな。大人しく指導を受ける気になったら宿を訪ねるがいい」
クレストは去っていった。
「おい、今の見たかよ」
「フロッグ殿下、一撃でやられてたな……」
「神童と呼ばれたお方も随分落ちぶれたもんだな」
ギャラリーたちもひそひそと僕を見てなにか言っている。
ちくしょう!
なんで僕がこんな屈辱を……!
その後僕は父上にクレストの非道を包み隠さず伝えたが、取り合ってもらえなかった。
むしろ、こっちから頭を下げて再度魔法を教えてくれるよう頼めと言ってくる始末。
最悪の気分だ。
父上も僕の味方をしてくれないなんて。
……まあいい。
今日は離宮に向かうとしよう。
僕の味方をしてくれるはずの絶対的な婚約者がそこにはいるのだから。
……この後僕は、その婚約者から予想外の言葉を告げられることになるのだけど――そのことをこの瞬間の僕は知る由もなかった。
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