上 下
99 / 119
第4章 英雄の落日

99.戦争の天才

しおりを挟む
連合軍の新たな総司令官となったエンリケ王とは、中堅国家の王だった。
エンリケ国王の名は、エドワード・エンリケと言う。

エドワードがエンリケ王となるまでの道のりは、困難な道のりだった。
わずか7才で王位に就く。しかし、当然、7才の子供には政治などできるわけもなく、権限は宰相に全て奪われてしまった。
そして、数年たつと、弟が他の家臣にかつがれ反乱を起こす。その反乱は成功した。
しかし、宰相率いる一団は抵抗をかさね、内乱は泥沼へと落ちる。
その際、宰相は人気が低いエドワードより、妹を担ぎ出した。
つまり、エドワード自身は不要となったのだ。そのため、暗殺の危機に陥る。
エドワードは一部の家臣の手で逃亡とした。その結果、身一つで、国外へ逃げ出すこととなる。

しかし、エドワードは後に戦争の天才と呼ばれる王だった。
貴族に自治権を持つ者の中に、圧政を行う者がいた。
そして、そこに住む人々に目をつけ、貴族へ反乱を起こす。
エドワードは、勝利へと導いた。そこから、周辺の民を味方に率いれる。
しかし、圧倒的に兵数が少ない。軍人ではないため、圧倒的に弱い。

だが、エドワードは、その弱点を智略ではねのけ、勝利する。
エドワードは、エンリケ王として再び即位した。

各国首脳は、その事実を知る。常勝ではないものの、負けたのは幼少の頃だけであるし、それは状況が状況なだけに仕方ないことだった。
だが、少し兵が少ないぐらいであれば、戦争の天才と呼ばれたエドワードは負けなかった。
そして、中堅国家であるため、大国家にとっては、御しやすいと思える相手であった。

ここに連合軍の総司令官は誕生する。
そして、ジャパン国を除く各国首脳にて軍事会議が始まった。

「エンリケ王よ、どのように攻める?」
「ローマ帝国を倒すのは、実に簡単だ。一本の矢をもって、ローマ帝国を瓦解させる。」

その発言を聞いたものは、主旨が分からなかった。
だが、エドワードは烏合の衆をまとめる必要があった。
そのため、説明を続ける。

「アテナ女王を倒せば、誰が次の王となるかを決めるために内乱が起こるだろう。
弟のセトは王位継承を蜂起している。
長期決戦は補給に難があるため、短期決戦で挑み、アテナ女王を討つ。
そのために、各国の精鋭を100人ずつ出していただきたい。
飛矢のように、戦場を駆け、アテナ女王を討つとしよう。」

エドワードは、自信に満ちていた。
そして、その自信を持つに足る資格を持っていた。

「エンリケ王は、天才だ。」

各国首脳も勝ちのビジョンが見えたのだろう。そう評された。口々に、「エンリケ王を見いだしたのは我が国だ。」と言い始める。
エンリケ王は、そんな言葉を冷笑しながら、自国を更に強国にすると野心を抱え、戦いに挑むのであった。
この戦いに勝てば、間違いなくエンリケ国に民が集まる。強国とは、そういう物だ。誰だって安寧な日々を欲しいだろう。
そして、エドワードは、ローマ帝国軍と対峙することとなる。

兵力は互角だった。
互いの兵力は、開戦当初よりも膨らみ、20万対20万となっている。

開戦は、正攻法に進む。
連合軍の布陣は、右翼、中央、左翼に分かれ、遊軍として後方へ回り込むことができるように配置されていた。
ローマ帝国軍も同様の布陣となる。

「右翼より、前進!」

連合軍の右翼から攻撃が開始される。そして、自然と斜めの陣形となり、中央と左翼も攻撃を始めた。
戦況は、一進一退であった。エンリケ王は、互いの軍が烏合の衆であると理解している。
だからこそ、瓦解しやすいのだ。
そして、そのリスクは、連合軍の方が高かった。
そのため、先手を打ち続けるしかない。

「遊軍、左側面より回り込み、後方を討て!」

互いの遊軍が左側面へ、移動し、攻撃態勢に入る。
この瞬間がエドワードにとって、勝負の瞬間だった。
当初より予定していた秘密裏の1000の兵の部隊が、右側面より、一陣の矢のようにローマ帝国の本陣へ突撃した。

各国の精鋭で組織された部隊である。各国が自身を持って送り出した部隊であるだけあって、
手薄となったローマ帝国軍の本陣へ一気に突撃した。
それはまさに、1本の矢が本陣へ飛来したようだった。

しかし、精鋭部隊は驚愕する。本陣には、人のように動く石がいたものの、人はいなかった。

「なんだ、これは!」

それは、ゴーレムと呼ばれる存在だった。
しかし、遠くからは、その差異は分からない。
連合軍は本陣へ突入した味方を見て、勝ちを確信する。

その時、円形の光の柱が本陣に立った。
昔、カインが使った技である。太陽光を使ったレーザーである。
精鋭部隊は、魔法攻撃に備えて、魔法防御の結界が張ってある。
しかし、その攻撃は、物理攻撃であった。

サンレーザー。太陽光を収束した一撃により、精鋭部隊は文字通り、一瞬で消滅した。

「何が起こっている!?」
「ただの光さ。」
「ただの光なわけないだろう!」

エドワードは、その時、気づく。
部下の声ではない。女性の声だった。
後ろを振り向くと、そこには紅い髪の女性が立っていた。
他の者は、全員が地面に伏せているように見える。

「なっ!?」
「チェックメイトだ。一応、聞くが、降伏の意志はあるか?」

エドワードは思わず剣を抜いた。そして、構えかけようとした。

「残念だよ。」

エドワードが剣を構える前に、アテナに斬られ、エドワードは地面へ倒れる。

「な、何が起こったんだ…。」

その問いに答えるものは、エドワードの周りにはいない。
その問いの答えを聞くべき者は、既に聞くことができなくなった。

エドワード、いや、エンリケ王は、ここに没することとなる。


【アテナ】

「ふむっ、この程度か。」

アテナの作戦は、エドワードと類似していた。
いや、エドワードの作戦を見抜いて、あえて類似させたのだ。
人は上手くいっている時ほど、油断する。そこを見事についたのだ。

エドワードは、1000人の精鋭部隊を弓矢に見立てて突入させた。
アテナは、ローマ帝国軍最強である自身を弓矢に見立てた。
それは、狙うべきはずの的が、弓矢となっているのだから、攻防一体であった。
そして、光の柱を出現させる派手な攻撃を演出し、全員をその攻撃に注目させた。
その隙に、一気に連合軍の本陣へ忍び込み、エドワードを討ったのだ。

それは、アテナの武勇があってこそ成せる作戦であった。

「さて、掃討戦を始めるとするか。」

アテナは、狼煙を上げた。その合図で、ローマ帝国軍の動きが変わる。
今までは連合軍の動きに合わせて、ゆっくりと動いていたのだ。
しかし、合図をきっかけに速度が上がる。
ローマ帝国軍は、スピード重視の布陣だったのだ。
騎馬隊が、連合軍に突撃する。その位置は各国の軍同士の境目となる場所だった。
そこから、包囲網を完成させ、殲滅していく。
それは、両翼で起こった。

右翼は、セトの指揮のもと、殲滅していく。
左翼は、グラウクスの指揮のもと、殲滅していく。
遊軍は、グラトニーの指揮のもと、殲滅していく。
そして、中央はアテナによって、殲滅していく。

指揮すべき者が戦いの序盤で討たれてしまったことにより、連合軍は混乱状態となった。
各国の軍が、各自で戦い始めたため、連携など何もない。
小軍の抵抗など、戦況に影響を与えることはなかった。
ローマ帝国軍と連合軍の戦いは一方的な戦いへとなっていく。
もはや、挽回の余地もなく、連合軍は絶体絶命の危機だった。

しかし、またもや状況が一変する。
それは、カインが魔王に放った一撃が戦場の上空を横切ったためだ。

アテナは、それを見た瞬間、カインが自由になったことを悟った。

「全軍、撤退する!」

ローマ帝国軍は、あっさりと引き下がってしまった。
十分な余力さえあれば、攻撃の好機である。
しかし、もはや連合軍には追撃するだけの余力はもうなかった。

こうして、ローマ帝国軍と連合軍は、一方的なローマ帝国軍の勝利となる。

グラウクスは、アテナをこう評した。

「猛将は、退くべき時にあえて退かずに戦う。智将は、退くべき時に退くことができる。こアテナ女王は、猛将と智将を兼ね備えた名将である。アテナ女王こそ、戦争の天才と呼べるだろう。」

後世も同じ評価をしている。
エドワードは、実績や智力は普通の将を遥かに上回っていた。
人より秀でていたのだ。エドワードは、後世の評価として秀才と呼べるだろう。
しかし、アテナ女王はその秀才を上回った。
秀才を、上回るのは天才しかいない。
アテナ女王は、戦争の天才と評された。

この戦いにより、連合軍は混乱を極めた。
もう連合軍に勝ち目はないように見えた者もいたのだ。

大幅に兵を失った国は、慌てて補強する。しかし、軍人はいない。自国の兵が少ないせいで負けたとなれば、面子にかかわる。
軍人がいないのであれば、一般人を参加させればいい。
国民総動員で、連合軍へ参加をする国が現れ始めた。

勝ち目のないと判断した国は、連合軍から離れローマ帝国軍へつく。
しかし、兵が少ないと冷遇されるのは、目に見えている。
そこで、形を整えるため、国民総動員で兵数を整える。

アテナは、当然、冷遇をしようとするが、家臣に止められたため、他の離反者を増やすように仕向けるため、あえて厚遇した。

そして、両軍は一般人を巻き込んだ愚かな軍へと変質を始める。

この愚かな戦争を止める者は、やはりカインとなるのだった。

本来であれば、連合軍はこの時点で瓦解するはずだ。
しかし、カイン個人への味方が到着した。
同盟を結んだ獣人国である。

本来であれば、獣人は卑下されていた。しかし、こんな状況である。
一人一人が人間より圧倒的に強かった。そんな獣人国より、10万の軍勢が応援にやってきたのだ。

この軍勢を見て、各国はまたもや心が揺れ動く。
どちらが勝つか、まったく分からない状況となってしまった。

各国の混乱は、まだまだ続く。


次回、『100.神龍リュクレオン』へつづく。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

42歳メジャーリーガー、異世界に転生。チートは無いけど、魔法と元日本最高級の豪速球で無双したいと思います。

町島航太
ファンタジー
 かつて日本最強投手と持て囃され、MLBでも大活躍した佐久間隼人。  しかし、老化による衰えと3度の靭帯損傷により、引退を余儀なくされてしまう。  失意の中、歩いていると球団の熱狂的ファンからポストシーズンに行けなかった理由と決めつけられ、刺し殺されてしまう。  だが、目を再び開くと、魔法が存在する世界『異世界』に転生していた。

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

チートをもらったはずなのに! 異世界の冒険はやわじゃない。  連れは豪腕姫勇者!

N通-
ファンタジー
(旧題)異世界は割とどうでも良かったけど地球もピンチらしいので行ってきます。但し相棒のおかげで胃がマッハです。(仮)  雅也はある日気がつくと白い世界にいた。そして、女神を名乗る存在に異世界へ行き魔王を討伐するように言われる。  そして問答無用で飛ばされた先で出会ったのは……。  たとえ邪魔者は神でも叩き切るほどの、豪腕お姫様だった!? しかもそれが異世界の勇者らしい。    これは一筋縄ではいかない多少性格のひねた主人公とその仲間の楽しくも騒がしい冒険譚。 ※小説家になろう様にて先行公開させて頂いております。

異世界あるある 転生物語  たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?

よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する! 土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。 自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。 『あ、やべ!』 そして・・・・ 【あれ?ここは何処だ?】 気が付けば真っ白な世界。 気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ? ・・・・ ・・・ ・・ ・ 【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】 こうして剛史は新た生を異世界で受けた。 そして何も思い出す事なく10歳に。 そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。 スキルによって一生が決まるからだ。 最低1、最高でも10。平均すると概ね5。 そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。 しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。 そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。 追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。 だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。 『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』 不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。 そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。 その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。 前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。 但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。 転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。 これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな? 何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが? 俺は農家の4男だぞ?

ボッチになった僕がうっかり寄り道してダンジョンに入った結果

安佐ゆう
ファンタジー
第一の人生で心残りがあった者は、異世界に転生して未練を解消する。 そこは「第二の人生」と呼ばれる世界。 煩わしい人間関係から遠ざかり、のんびり過ごしたいと願う少年コイル。 学校を卒業したのち、とりあえず幼馴染たちとパーティーを組んで冒険者になる。だが、コイルのもつギフトが原因で、幼馴染たちのパーティーから追い出されてしまう。 ボッチになったコイルだったが、これ幸いと本来の目的「のんびり自給自足」を果たすため、町を出るのだった。 ロバのポックルとのんびり二人旅。ゴールと決めた森の傍まで来て、何気なくフラっとダンジョンに立ち寄った。そこでコイルを待つ運命は…… 基本的には、ほのぼのです。 設定を間違えなければ、毎日12時、18時、22時に更新の予定です。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

処理中です...