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第2章 破滅円舞曲

59.初恋

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荒野でフィリックス国王が去った後、
続いてカインが目を覚めた。

あたりを見渡す。
クロノスナンバー達が倒れていた。

俺は皆に全回復の魔法をかける。
みんな、すぐに目を覚ますだろう。

マリーナに近寄る。
すると、マリーナは目を覚ました。

お互い何が起きたかは、もう分かっている。
マリーナと目を合わせると、
すぐにそむけ、逃げようとした。
だが、手を掴み離さない。

マリーナは、目をそむけながら話す。

「お願い、
もうここには、いられないの。
私はあまりにも多くの血を流してしまったの。」

俺は静かに、マリーナの声を聞いた。

「…。」

そして、マリーナが目をあわせる。
目には涙が溢れていた。

「もう、海斗くんに会わせる顔がないの。」

マリーナの目から涙がこぼれ、泣きじゃくっている。
海斗くん…?
その瞬間、理解した。

「神宮司 満里奈?
新宮司 満里奈なのか!?」

俺は驚きのあまり、手を離そうとしてしまった。
慌ててさっきよりも手を強く握る。
満里奈も手を握り返してくれた。

「私は、昔、自分に誓ったの。
海斗くんと一緒に世界を救おうと。
なのに、私は世界を混乱に導き、多くの人を死なせてしまった。
あんなに自分で誓ったのに…。」

マリーナの涙は止まらない。
そのままマリーナは、呟いた。
「なんで、こんなことになってしまったんだろう…。」

俺は満里奈を抱きしめる。

「仕方がなかったんだ。
今までの行動は、満里奈の本心じゃなかったことは、俺が知っている。」

「朝霧海斗くん、お願いだから、もうはなして。
こんな私は、もう生きていちゃいけないの。」

俺は必死で満里奈を説得する。

「そんなわけない。
君は生きていいんだ。
君は魔王に影響を受けていただけなんだから。
君は悪くない!」

「私が多くの国民を死なせた事実に、違いはないわ。」

満里奈は、自害するつもりなのが、分かった。

「だめだっ、満里奈!
君を死なせたくないんだ。
生きて欲しい!
だって君は、俺にとっての…」

俺にとっての初恋の人だったんだ…。


日本で小学生だった時、
野外教室でキャンプに行った。

キャンプ場には大きな広場がある。
皆、自由時間に好きなことをして過ごしていた。
俺は、なんとなく空を眺めて寝転がっていた。

その時、女子グループは、
四つ葉のクローバーを探していたようだ。
四つ葉のクローバーを見つけると幸せになれるらしい。

女子グループは、必死に探していた。
その頃は占いが流行っていて、
そういうものに敏感な年頃だったんだろう。
俺にはちょっと分からない感情だが、なんとなく微笑ましいと思える。

俺は遠くから、ただなんとなく眺めていた。
でも、ふと気づくと俺の足下に、四つ葉のクローバーがあったのだ。

どうやら女子グループの中で、
唯一、満里奈だけは見つけられなかったようだ。
満里奈は、泣きじゃくる。
自分だけ幸せになれないと。

俺は足下の四つ葉のクローバーを見つめ、あえて摘まなかった。
そして、満里奈に声をかける。

「四つ葉のクローバーを探してるなら、
向こうの方にあったみたいだよ。
ついておいで。」

俺は満里奈を、座っていた位置に連れて行く。
でも、探すのが下手みたいだ。
全然、見つけられない。
ちょっと、その姿が可愛らしいと思ってしまう。

「一緒に探してあげるよ。」

俺はさり気なく満里奈が見つけやすいように誘導していく。

そして、その瞬間は、やってきた。

「あった!
あったよ、海斗くん!」

満里奈は、見つけると凄く喜んだ。
あまりにも嬉しすぎて、抱きついてきた。

俺達は、その瞬間、恋に落ちたんだと思う。

でも、当然、そんなことをすれば、
周りからはいじられる。
話すのが恥ずかしくなって、
なかなか話す機会がなくなった。
そうこうしてるうちに、満里奈との進学先が違ってたこともあり、そのまま話すこともできず会えなくなってしまった。

そして、時は経ち、一度だけ満里奈を見かけたことがある。
本当に綺麗な女性になっていた。
やっぱり声をかけられない自分がもどかしく思う。
でも、その時、改めて好きなんだと自覚させられた。

今回の件で、亡くなってしまった人には申し訳ないと思っている。
でも、それでも俺は満里奈に生きていて欲しい。

満里奈は、全部、察したようだ。
そして、同じことを思い出していたのだろう。
また、目に涙を浮かべている。

「海斗くん、
あの時から、
ずっと好きでした。」

満里奈の思いに俺も応える。

「俺も君のことが、ずっと好きだったよ。」

満里奈は、少しだけ微笑んだ。
長い年月をかけて、
ようやくお互いの気持ちが言えたのだ。

「ありがとう。
これで、私は思い残すことがありません。
私は責任を取って死にます。」

また、元に戻ってしまう。
俺は、もうどうしていいか分からない。
ただ、満里奈に生きていて幸せになって欲しいだけなのに、それを本人が望んでいない。

あの時の光景を思い出す。
子供の頃、自分だけ幸せになれないと泣いていた姿がよみがえる。

そんなのダメだ。
君は、幸せになって欲しいんだ。

「だめだっ!
君が罪を背負ったのなら、
代わりに俺が君の罪を背負おう。
だから、生きていて欲しい。」

ツヴァイ、頼みがある。
あの時、サタナキアのこと見て、
色々と操作系を教えてやれば覚えるだろうと言ったな。
なら、教えることができるということだ。
他人の記憶操作はできるか?

『…。
できる…。
だが、それでいいのか?』

頼むっ。
満里奈の中には、まだ魔王がいる。
だから、魔王だった時の記憶と、
嫉妬の原因である俺の記憶を消してくれっ。

『…。
分かった。
その選択が正しいとは思わない。
でも、カインの気持ちに従おう。』

ありがとう。

「満里奈、
いや、マリーナ。
大丈夫だよ。
もう、何も背負わなくていいんだ。」

満里奈は、海斗が何を言っているか分からない。
だが、マリーナである部分がカインのやろうとしていることを理解した。

「だめ、海斗くん!
それだけは、ダメ!」

カインは、マリーナにキスする。
マリーナは少しだけ抵抗したが、
好きな人とのキスで、体の力が抜けてしまった。

そして、マリーナの中から、
涙とともに記憶が抜けていく。

「海斗くん…。」

「さよなら、満里奈…。
さよなら、初恋の人…。」



しばらくして、立ち尽くすマリーナがいた。

「あの、すいません。
ここは、どこなんでしょうか?」

「ここは、フィーナ王国の郊外ですよ。
初めまして、カイン・レオンハルトといいます。」

「カイン・レオンハルト様?
もしかして、お兄様ですか??
初めまして。
私はマリーナ・レオンハルトです。
えっと、すいません。
どうして私がここにいるのか、少し記憶が飛んでしまっていて。」

マリーナは、丁重にお辞儀をした。

その姿を見て、カインの右目から涙がこぼれた。
その姿を見て、マリーナも左目から涙がこぼれる。

「あれっ?
どうして涙が出てくるのでしょうか?」

マリーナは、自分の気持ちが分からない。
そんなマリーナにカインは、優しく微笑む。

「きっと、ようやく会えたことに喜んでるんだよ。」

「そうかもしれません。
ずっと、会えていませんでしたからね。
でも、何か他に…。
そう、大事なものを無くしてしまったような気がします。」

マリーナは、少し寂しそうに話した。

「この国で色々と事件があって、マリーナも巻き込まれたんだ。
そこで、頭を強く打ってしまったから、
記憶が少し失ってしまっているのかもしれないね。」

「そうだったんですね。
お兄様、ご心配をおかけしました。
きっとそのせいですね。
ところどころ記憶がないようなんです。」

「そうなんだね。
でも、失ってしまった記憶があったとしても、
すぐにこれからの暖かい日々の思い出が、その寂しさを埋めてくれるよ。
だから、大丈夫さ。」

「そういうものでしょうか。」

少しだけ風が吹いた。
まるで二人を慰めてくれるように。

世界は、この一瞬だけ、
二人だけに優しい時間をくれたのだった。


次回、『60.キング』へつづく。
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