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第2章 破滅円舞曲

57.リコリスの花言葉

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【グラン】

「聞いてくれ、リコリス。
インパルスがな…。」

「ふふっ。
さすが、私たちの子ね。」

グランとリコリスは、
二人が昔、住んでいた家で話していた。

昔過ごしたままの家だ。
台所も本棚も服も、思い出のままになっている。

あたりは霧で霞んでいる。

お互い何も言わないが、
もう現世でないのは分かっている。
二人とも、死んでしまったのだろう。
でも、今は凄く幸せだ。

リコリスは、魔王に体を提供することで、
グランやインパルスたちを守ろうとした。
そして、その代価として死んでしまった。

グランは、魔王に体を奪われたリコリスを取り戻すための代価として、神級アイテム『魂の簒奪』によって、魂が昇天してしまった。
それはもはや、死んでいると変わらない。

そんな二人は死して、ようやく会うことができたのだ。
失われてしまった16年間を急速に取り戻していく。


コンコン。

ふと扉を叩く音がした。

「入るわよ。」

この気配は知っている。
色欲の魔王だ。

リコリスは、驚くと同時に声をかけた。

「魔王ラクリア!?
何故、ここにいるの?」

魔王ラクリアは答える。

「あなたたちを迎えにきたわ。
急ぎなさい。
現世に戻るわよ。」

グランが話す。

「どういうことだ?
俺たちは、死んだんじゃなかったのか?」

「えぇ、死んでるわよ。
だけど、今なら生き返れるわ。
早くしなさい。
ぐずぐずすると、チャンスを失うわよ。」

リコリスは、怪訝な顔をする。

「どうして、私たちに声をかけたの?
一人で戻ることもできるでしょう。」

魔王ラクリアは、少しだけ微笑んだ。

「私は今回の件で借りを作りたくないの。
グランを連れて行くことで、貸し借りはなくなるわ。
そして、リコリスを連れていくことで、
恩を売ることができる。
あの方のために、私がそうしたいのよ。」

グランとリコリスは不思議そうな顔をした。
魔王の考えることは、理解に苦しむ。
だが、リコリスは、発言以外のことも見抜いた。
16年も共に過ごした歳月がなせることだろう。

「ついでに、あなたは、私の体をこっちに持ってきてしまっている。
私がいないとその体は使えないのね。
向こうでの体を探すのが大変だから、私も連れていきたいんでしょ?」

グランは、その発言に驚いた。

「魔王復活の手助けになってしまうなら、
俺たちは、戻らんぞ。」

そんなグランにリコリスは話した。

「いえっ、どちらにせよ魔王は復活可能なのだから、一緒に行った方がいいわ。
ラクリア、交渉よ。
次は体の全部を奪うのではなく、互いが主導権を持つようにしなさい。」

「分かってるわ。
平等でかまわない。
むしろ主導権は譲るわ。
それに、グラン。
リコリスの言うとおりよ。
私はこのままでも復活可能なの。
ただ、できればあの子より、リコリスがいいのよ。
これは、ただの私のわがままだわ。」

リコリスは、インパルスの傍にいた女の子を思い出した。
そして、ふと疑問に思う。

「初代と先代の色欲の魔王も復活するの?」

魔王ラクリアは、答えた。

「いえっ、誘ったけど、元魔王たちは実体化できないみたいなの。
復活できないらしいから、ここでの生活を楽しむらしいわ。」

グランの顔は、もはや不思議や驚きを通り越して、無表情になっていた。

「俺には、何の話しをしているか、
さっぱり分からんぞ。」

リコリスは、そんなグランを見て微笑む。

「とりあえず、向かいながら、話すわ。
時間がないらしいし、急ぎましょう。」

魔王ラクリアは、その発言に頷く。

「えぇ、いつまで橋が安定しているか分からないからね。
だから、リコリスの力を使って、
一気にここから橋を渡り復活します。
(そうすれば、あいつとは会わなくてすむわ。)」

リコリスは、不思議な顔をした。

「私の能力?
そんなの持ってないわよ。」

「まぁ、見てなさい。
まず、あなたに取り憑いた後、
能力を使用するわ。」

そして、二人は手を取りあう。
二人の体が光り出し、魔王ラクリアとリコリスは一体化した。
しかし、その姿はリコリスのままだ。

「魔王ラクリアの名において、
リコリスの名に秘められし、能力を使用する。
能力に基づき、世界よ、応じなさい。
『再会』!」

グランとリコリスは光の泡となって、
現世へ飛んだ。

その衝撃からか、本棚から一冊の本が落ちる。
花図鑑だ。
落ちたひょうしにページが開いている。
リコリスの花について書かれていた。
そのページには、花言葉も書かれている。

リコリスの花言葉…『再会』。

リコリスは、現世で再び会えることとなる。
最愛の夫と、息子に。


【インパルス】

「エレナ、急ぐぞっ!」

ジャパンの防衛網は破られ、魔獣に街中への進出を許してしまっている。

「バカインパルス!
ちょっと待って!
なんか、体が変だわ。」

「まさか、欲情したのか!?」

インパルスは、色欲の種が暴走しかけたのかと思い慌てる。

そんなインパルスをエレナは叩いた。

「ばかっ!
そんなのあるわけないでしょ!
急に私の力が強くなりはじめた気がするわ。」

「へっ?
レベルがあがったとかなのか?
って、めっちゃ無双してるじゃないか!」

二人に襲いかかってきた魔獣たちがいた。
その魔獣たちに対して、エレナは瞬殺していく。

驚きつつも、そのままジャパンに溢れた魔獣を掃討していく。
しかし、まだまだ数が多く、先が見えない。
そう思っていたが、急に魔獣が少なくなってきた。

「ん?
なんか、急に魔獣が少なくなってきたぞ。」

まだ闘っている音が聞こえる方へ向かう。
そこには、いるはずのない二人がいた。

「父さん!?
それに魔王ラクリア!?
何でお前がここに!」

「よぉ、久しぶりだな。
元気にしてたか、息子よ。」

「母に向かって、
その発言はないでしょう。
後でお仕置きです。」

女性は、少し頬を膨らました。
インパルスは不思議そうな顔をする。

「いや、意味が分かりませんよ。」

グランは、女性の肩に手を回し答えた。

「まぁ、なんというか、そういうことだ。」

「本当に母さんなのですか?」

エレナが会話に入った。

「いえ、その女性からは間違いなく魔王ラクリアを感じるわよ。」

「あら?
エロエロボディちゃん、久しぶり。」

魔王ラクリアは、リコリスの体から、幻の姿を出して話す。

「父さん、何が何だか、
サッパリなのですが…。」

「とりあえず、ここにいる魔獣を片付けようや。
この女性は、間違いなくお前の母だよ。」

グランは苦笑して話した。
エレナは微妙な表情をしている。

「インパルス、この二人が両親なの?」

「そうみたいだ。
どうやら、俺の両親で間違いないらしい。」

「おかしくない?
だって、お母さんの方は、
あきらかに私たちと同じ年ぐらいよ。」

「あぁ、分かってる。
もはや、中年の男性が物凄い若い女の子を騙して、
結婚したような形になってしまってる。」

グランは自分でも少し思っていたらしく、少しだけ落ち込んだ。
リコリスは、目を大きくし嬉しそうに話す。

「あら、お義母さんだなんて。
インパルス、この子はあなたのお嫁さんなの?」

エレナは慌てて否定する。

「えっ!?
いや、違いますっ!
つい、言葉のあやで…。」

「俺のいない間に、
何をしてたんだ!
後で詳しく聞かせてもらおうか。」

グランは先程のお返しとばかりに怖い笑顔で話す。

その後、この4人と一体の魔王によって、
ジャパンを侵攻していた魔獣は一気に駆逐された。

インパルスは、ふと骸骨軍団を見る。
さっきまで、すぐに復活していた骸骨軍団だが、
どうやら、もう復活はしてこないらしい。

「カインが上手くやったのかな?」

エレナはその疑問に応じる。

「きっと、そうよ。
さすがカインね!」

その受け答えに苦笑しつつも、インパルスもその通りだろうと思っていた。

そして、母を見て思う。

どう見ても母というより、姉ぐらいの年齢差だ。
なんだか違和感があるが仕方がない。
まぁ、ゆっくり親交を深めていこう。
それにしても、あの様子じゃ、すぐ弟か妹が出来そうだな。

グランとリコリスは、仲むつまじく会話をしていた。

そして、インパルスは、これからの温かい家族生活を思い描き、
ついつい照れくさくなってしまう。
思わず、自分の頬を軽くかいてしまう。

とりあえずだが、復興作業に入るか。

「エレナ、死傷者を把握したい。
救えるだけ、救うぞ。」

エレナは、ふと気づく。
インパルスは、顔に出してはいない。
だけど、本当に嬉しい時、
彼は昔から表情を隠していたのを知っている。
そして、必ず頬をかくクセがあるのだ。

「インパルス、よかったね。」

エレナは聞こえるか、聞こえないかの声で話した。

「なんか言ったか?」

「なんでもないわ。」

「そうか。
…。
……。
(ありがとう。)」

エレナは、その言葉が聞こえたが、そっと胸の内にしまっておくことにした。
少しだけ、胸の内に温かいぬくもりを感じるエレナだった。


各地の戦いは、一気に終わりに近づく。
骸骨軍団は、自ら土にかえる。
土に帰った場所からは、花が咲いていた。
ジャパンとフィーナ国の各地で花が咲き乱れていく。

人々は、少しずつ笑顔を取り戻していくのだった。


次回、『58.王の最後』へつづく。
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