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第2章 破滅円舞曲

48.バスティーユ荒野の戦い

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【アテナ】

「グラトニ-、マズいことになったな。」

グラトニーは神妙な顔をしている。

「申し訳ない。
反論の余地はないわね。」

「そうだな、反論の余地はない。
さて、これからのことだが、
貴族軍は、全軍をもって攻撃を仕掛けてくるだろう。
幸いにして、まだローマ帝国軍がいるとは気づいていないはずだ。
そこに勝機はある。」

グラトニーは驚く。

「市民反乱軍に変装して戦うのですか?」

「その通りだ。
軍隊ではない烏合の衆と思って、
油断してもらった方が得策だろう。」

「お手数をおかけします。
それで、どういった策で戦いましょうか?」

「今回は双頭の龍の布陣で行く。」

グラトニ-には理解できない。
だが、アテナが言うのであれば、
間違いないだろう。

そして、気づいてしまった。
カインとアテナは、
コインの表と裏のように、
真逆なのだろう。

この戦いが終わるまでに、
この先の主導権をどちらに渡すか、
考えなければならない。

カインと共に歩むか、
アテナに従って歩むかを。

アテナはグラトニ-の考えを読んでいる。
専制ローマ帝国にとって、
この国は遠すぎる。
だから、本音はどちらでもよいと思っていた。
今回はあくまでも友人の頼みを優先しているだけだ。
しかし、願わくば属国にしたいとの欲求もある。

「さて、それでは、行こうか。」

赤い髪をたなびかせ、
アテナは出発した。

その光景は、
まさしく勝利の女神の光景で、見るものを魅力する。
グラトニ-は、知らずのうちにアテナに魅了されていた。

「討ってでるわよ!
出陣っ!」

市民反乱軍と専制ローマ帝国軍は、
バスティーユ荒野へと出陣した。
いや、出陣せざるを得なかった。
守りの戦いには忍耐が必要となる。
しかし、市民反乱軍に忍耐はない。
だからこそ、後手に回る前に、
先手で駒を進めていくしかないのだ。

荒野で貴族軍と対峙する。
布陣は、こうだ。

【布陣】
   貴貴
  貴ルミ貴
  貴貴貴貴
  貴貴貴貴
    
   市市  
  市  市 
ロ市    市ロ

貴…貴族軍
ル…ルッソーニ宰相
ミ…ミドリーズ
市…市民反乱軍
ロ…ローマ帝国軍

そして、貴族軍は、一気に突っ込んできた。
市民反乱軍は、攻撃力は低い。
だから防御を徹底するよう言い含めた。
いや、力が違いすぎて、
結局そうせざるを得ないのだ。

そして、戦局は進む。
案の定、貴族軍の蹂躙が始まった。
市民反乱軍は防戦一方だ。

そして、ローマ帝国軍は両翼から一気に後方に回った。
貴族軍は、ローマ帝国軍を止めようとしたが、
圧倒的な力の前にあっさりと後方へ回り込まれてしまう。
そして、包囲されパニックとなった。

【布陣】

 ロロアロ 
ロ貴貴貴貴ロ
ロ貴ルミ貴ロ
ロ貴貴貴貴ロ
グ貴貴貴貴市
市市市市市市

貴…貴族軍
ル…ルッソーニ宰相
ミ…ミドリーズ
市…市民反乱軍
ロ…ローマ帝国軍
ア…アテナ
グ…グラトニ-

貴族軍は、油断していた。
そして、包囲と後方からの攻撃に、
危機を覚え、パニックとなる。
ローマ帝国軍の包囲網は薄い。
しかし、ローマ帝国軍は貴族軍より、
圧倒的に強かった。
西方で戦い続けた国の軍だ。
前提条件が違いすぎる。

ルッソーニ宰相は焦る。

「遊兵を作ってしまうとは。
仕方ない。
後方の軍はあきらかに強力だ。
全軍、右斜め前へ集中的に戦えっ!
包囲網を、突破する!」

しかし、軍はパニックとなっている。
従うものは少なかった。
ミドリーズにいたっては、
アテナの姿を確認すると、
心を奪われ、アテナの方へ突進する。

ルッソーニ宰相は、ミドリーズを見限った。
包囲網の脱出を謀る。
そして、それまで、
ひっそりと力を隠していたグラトニ-と衝突することになった。

「我こそは、クロノスナンバーのグラトニ-!
恐れを知らぬものはかかってきなさい!」

「化け物めが!」
「囲み、殺せっ!」

しかし、クロノスナンバーは、
一般兵より圧倒的に強い。
ことごとく返り討ちに合う。

「おやっ、そこに見受けられるのは、
毛色が違うわね!」

「ルッソーニ宰相、お逃げ下さい。」

「なんとっ!
ルッソーニ宰相であられますか!
ここで会ったのが不運と思いなさい。
お覚悟を!」

グラトニ-は、一気にルッソーニ宰相へ近づく。
その時、ルッソーニ宰相にとって、奇跡が起きた。

「あらっ、いい男ね。
殺すのは、おしいわ。
捕まえましょう。」

「誰がお前なぞに捕まるものか。」

「あら、つれないわね。
この能力はランダムだから確実ではないなだけど、試してみましょう。
えいっ、反転!」

グラトニ-は、ルッソーニ宰相を捕まえ、
自らの反転の能力をルッソーニ宰相へ、向けて使った。
自分以外の生物に反転の能力を使うと、
何が反転するか分からない。
グラトニーは、嫌い→好きへの反転を望み、使ってみた。
しかし、別のものを反転することとなる。

「うわぁぁ、やめろ-!」

ルッソーニ宰相は、
反転の影響により、気を失ってしまった。

グラトニーはため息をつく。
明らかに違うものが反転してしまった。
ランダムの難しいところである。

しかし、グラトニ-に気に入られたことにより、
ルッソーニ宰相は命を取り留めたのだ。

「ルッソーニ宰相を捕まえたわよ!
勝ち鬨をあげなさい!」

まだ戦いは終わっていないものの、
この勝ち鬨により、
貴族軍は更にパニックとなる。
そして、ローマ帝国軍の後方からの攻撃は苛烈を極めた。

貴族軍は、一気にローマ帝国軍に数を削られていく。

そんな中、ミドリーズはアテナと対峙した。

「ふははははっ。
私はクロノスナンバーのミドリーズ。
そこの女性、なんと美しいのだ。
我が妻となれっ。」

「ふむっ、クロノスナンバーか。
やはり、どこかおかしいな。」

「なんだと!
死をもって、償わせてやる。
不可避せつだ…」

事前に聞いていた通りだ。
大振りである。
つまり、隙だらけなのだ。

大多数の人が入り交じっている中で、
隙を見せるのは愚の骨頂である。

ミドリーズが能力を出す前に、
側近がミドリーズを攻撃し、ダメージを与える。
当然、ミドリーズは能力使用を中断する。
そこに、アテナはあっさりとミドリーズに一撃をくらわせ、倒してしまった。

「おまえらの頼みの綱であるクロノスナンバーは、同じクロノスナンバーであるローマ帝国の女王アテナが倒したぞ!
覚悟を決めろっ!」

貴族軍は、ルッソーニ宰相とミドリーズを失い、半狂乱だ。

そして、市民反乱軍はその貴族軍を見て、
防戦一方から攻撃へ一気に転じた。

市民反乱軍も半狂気となっている。
今まで防戦一方だったのだ。
生き残っているものは、
一度は死を覚悟したものばかりだ。
半狂気となるのは仕方ないのかもしれない。

軍は統率されたものだから、
訓練で理性的な側面がある。

しかし市民反乱軍は訓練されていない。
人としての理性が失われて、
野獣と化した。

虐殺が始まる。
貴族は投降しようとしたが、
関係なく殺されるのだ。

アテナは、その悲惨な光景を見て、
包囲網の一部を解除しようとしたが、グラウクスに止められた。

「解除した一部に貴族軍がなだれ込み、
我が軍に犠牲者が増えます。
こちらの包囲網は解除すべきではありません。」

グラトニ-は、
止めようと声をあげた。

「あなたたち、もう戦うことを辞めなさい。
どれだけ殺せば気が済むの!」

しかし、一度、決壊したダムは止められない。
貴族軍は、最後の一人が死ぬまで、
市民反乱軍の狂気は収まらなかった。

バスティーユ荒野の戦いは、
後世、こう評される。

貴族たちの市民への評価は、
ある意味正しかった。

市民たちは貴族から人として見られていなかった事に憤りを感じていたが、
この戦いでの終盤彼らは人としてではなく
野獣として戦った。

人を人として見ない愚かな者たちと、
人が人でなくなった獣となった者たちとの戦い。

どちらが正義でどちらが悪だったのか分からない。

ただ、この戦いで一つはっきりしていることは、
旗印であったマリーナ姫は、
この時、何もしなかった。

マリーナの名前は、
要所要所で歴史に登場する。
しかし、重要な局面では、
名前が出ないのだ。

フィリックス・フィーナリオンは暗君として、
マリーナ・フィーナリオンは、怠惰の姫として歴史に名を刻まれていく。


【セレン】

結局、私は何もしなかった。
いえ、何もできなかった。

皆が戦う中、
ただ、待っていただけだ。

私は何をしているのだろう。

ふと気づく。
世界が白黒となっていることに。

「やぁ、クロノスナンバー8、
セレンよ。
僕の名前は、ウロボロス。」

「ウロボロス?
この、白黒の世界は、いったいどういうことですか?」

「時を止めているんだよ。
ところで、君に確認したい。
マリーナを救いたいと思わないかい?」

「もちろん、救いたいです。」

「なら、君に力を授けよう。
マリーナについている魔王を回収して欲しいんだ。」

「力をいただけるなら…
マリーナを助けられるなら、
ぜひ、お願いしたいです。」

「いい返事だ。
君の能力を使用させてもらおう。
ちょっと力を借りるよ。」

セレンの能力は、
千差万別。
何にでも変幻自在だ。

ただし、自らの力では、人間にしか変化できない。
しかし、神力を、使えばどうなるか。

クロノスナンバー8のセレンの瞳に、
ウロボロスの象徴である∞のマークが現れる。

「これで、君は僕だ。
上手くいったな。
現世のウロボロス、
頼んだよ。」

「あぁ、任されたよ、僕。
神力が切れる前に、魔王を回収してくるさ。
他の神たちの目が邪魔になる。
陽動をしておいてくれ。」

勝利の美酒に酔いしれた市民が
マリーナがいたはずの部屋に、
マリーナがいなくなっていることに気づくのは、
だいぶ先のことであった。


次回、『49.魔人の力 』へつづく。
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