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ここで来ちゃうの龍の里編

いい顔でサムズアップするにゃーーーー!

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 右を向く。

 ピコピコ。  

 左を向く。

 ピコピコ。

 もう一度正面。

 ピコピコ。

 両手を上げて───。

「にゃ~、って、ちげぇわ! 何故にネコミミ!? 生えるにしてもフェンリルからのイヌミミでは!? クソぅこんな耳なぞ……耳なぞ」

 わぁー、ネコミミって結構普通に動かせる。

「だから違うんだよぉ。そうじゃないんだよぉ。かぎしっぽでハートとか無駄に作ってる場合じゃないんだよぉ。本当に結構自在に動くよぉ」

 クソゥ。聞こえる。どこからともなく属性過多とか、なしてはこっちの台詞だとか聞こえる気がする。

 いや、きっとこれはただの幻聴だ! そうに違いない。と、言うか、そっちの方がダメではないだろうか?

「くっ、こんな事をしている場合ではない」

 早くこの状態をなんとかしなければ、いじられていじられて私の心に穴が空いてしまうに決まっている。

 この世界は私に特に厳しいのだ。きっとそんな状況に追いやられるに決まっている。

 だからこそ、誰かにこの状況を見られる前にさっさと対処を───。

「おやおや、これは随分面白い状況になっていますね」

「ひみゃーーー!?」

 いつの間にやら真後ろに現れたテア。そんなテアから悲鳴を上げながら後ずさると、私の背中は誰かの足に当たる。

「もうハクちゃんったら、犬派の私に対する宣戦布告なのかな? ああでも、確かにこのネコミミハクちゃんは確かに捨て難い。でも、これは……ネコミミ派に鞍替えする時が来たかも!?」

「君は何を口走ってのかなぁ!? 別に何はでも良いからとりあえず離せやぁ!」

「まあまあ、そんな意地悪言わずに……すーすー」

「オイコラ!? 人の耳の間に顔を埋めて猫吸いするんじゃねぇ!?」

「すーーーーー!」

「ロング!? やめろと言ったのになんで長くなったの!?」

「二回がダメでも一回なら許されるかと?」

「そんなわけないよね!? わかって言ってるよね!?」

「さー? なんの事やら。すーーーー」

「絶対嘘だ!? そして吸うんじゃねぇー!」

 なんでこの人、人の頭を無言でそんな吸うの!?

「あっ、本当にハクアがもっと可愛くなってる」

「あー、本当っすね」

「ハクア。可愛いの」

 猫吸い地獄から抜け出す為もがく私。

 そんな私の努力を嘲笑うように響く声。

 錆び付いたブリキの人形のように緩慢な動きで、声のした方に顔を向けると、すっかりお馴染みになった面々が、私の事を指さしながらキャイキャイ騒いでいる。

 終わった……。

「くっ……殺せぇ……」

「なんでそんなゴブリンやオークに捕まった女騎士風のくっ殺を!?」

 だってもう彼女ら、私の事いじる気満々なんだもん。絶対見逃してくれないもん。そしたらだいたい同じだもん。

 まさに借りてきた猫のように、首根っこを掴まれだらんとする私。

 もう好きにすると良いさ。

「聡子もいい加減白亜さんを解放しなさい全く」

「それはツッコミ待ちですかテアさん?」

 聡子から私を奪い取ったテアは、まともそうな事を言いながら同じように耳の間に顔を埋めて猫吸いする。

「もうやめろよぉ……」

 猫吸いして飼い主は多幸感を得るけど、やられる方はストレス感じるんだってネットに書いてあったんだよ。だからやめろください。

「白亜さん」

「なんだよ」

「私は最初から猫派です」

「だから本当になんだよ!? それで許されると思うなよ!?」

「やはりダメですか」

「むしろなんでそれで大丈夫だと思った!? それじゃあしょうがないねとかなんないんだからね!?」

「すーーーー。まあ、冗談はここまでにして」

「冗談と言うのなら吸うのをやめろい!! フシャーー!」

 ジタバタと抜け出して思わず威嚇する私はしょうがないと思います。防衛反応です!

「さて、それでは真面目な話をしましょうか」

「……初めからそうしろよ」

「白亜さん。真面目に聞いてください」

「そうだよハクちゃん」

「お前らにだけは言われたないわ!」

 なんだその私が悪いみたいな態度はやめろよそういうの!

「で、真面目な話ってなんでい」

「ああ、すっかりやさぐれちゃって。でも、これはこれで良い」

 もうつっこまんぞ。

「それはもちろん今の白亜さんの状態に就いてです。先の戦いで力を使い切った事で幼女化した。ここまではいいですね?」

「うん。今後この幼女化って言うか、省エネモードは、力を使い切る度にこうなるってふざけた話よな?」

「ええ、多少気絶はすると思いますが、格段に早く目覚められるようになるでしょう。そしてその今の獣化状態については簡単です」

 ほほう。

「白亜さんの現在の力は大きく分けて三つ。鬼の力と龍の力、そして神獣……獣の力です」

「まあ、そうな」

「そしてこの三つの中で、一番回復能力と言いますか、自己治癒能力が強いのが獣の力なんですよ。その為、早く体を治そうと無意識の内に獣化を選んだ訳です」

「えっ、ちょいまち。それって幼女化にセットで獣化も付くようになってるって事?」

「その通りです。力が戻れば元に戻りますよ」

「ノォォォォオ!」 

 どんだけ面白ろ要素詰め込まれんだよこの身体。

「そしてそのネコミミも理由があります」

「えっ、理由あんの?」

「……むしろ理由なくそんな事にはならないでしょハクア」

「いや、でもワンチャンハクアなら有り得なくないっすよミコト様」

「そうなの。目を離すと何をしでかすか分からないのがハクアなの」

「あー……」 

「納得!? えっ、皆様からしてもハクアはやはりそんな感じなんですか?」

「うっさいよオーディエンス!?」

 もうちょっと大人しく聞いてなさい! そしてアトゥイのやはりってなんだやはりって、それだと私がミコト達の言う通りの人間みたいではないか。

 ”その通りですが?”

 だから当たり前のように脳内ツッコミやめてもろて。

「で、原因は?」

「白亜さんも大方予想出来ているのでしょうが、ビーストコアの影響ですよ」

 うーむ。やっぱそこしかないよね。

「でもなんで? 神獣モードならフェンリルだし、ビーストコアに影響受けるならマナビーストと同じ種じゃないの? アレはどう見てもネコ科ではなかったよ」

「もちろんアレはネコ科ではありませんよ」

「ならなんで?」

「実は白亜さんが聞いたマナビーストの説明には一部抜け……と言うか、一般はあまり知らない事があるんですよ」

「知らない事?」

「ええ」

 マナビーストは確かにアトゥイから説明された通り、普通の動物が高濃度のマナをなんらかの形で宿し、適応する事で力を得た生物。

 だがそれと同時に、ある程度適応した個体が育つと、先代のマナビーストが次代のマナビーストへ、その力の一部を継承する事もあるのだそうだ。

「前回、白亜さんが戦ったマナビーストは何世代か続いた個体でした。その為───」

「ビーストコアの中に歴代のマナビーストの力の残滓が残っている……と? そしてこのネコミミはその中の一つって事?」

「はい。そうなりますね」 

 ……ちょっと待って欲しい。ものすごく嫌な予感がするんだが、これはきっと気の所為とかにはならない気がする。

「あ……あの……」

 そんな予感を振り払うように声を絞り出す。

 頑張れ。頑張れ私!

「なんですか?」

「もしかしてもしかするとなんですが、それって幼女化ネコミミのセットかと思いきや、幼女化&ケモ耳セットで、毎回ランダム要素のケモ耳が出るって事?」

「はい。その通りです」

「いい顔でサムズアップするにゃーーーー!」

 こうして、私の身体はより一層バラエティー要素を含んだ面白体質に変わり、悲鳴にも似た叫び声を上げる姿を皆に生暖かい目で見守られるのであった。

 ド畜生!
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