上 下
537 / 654
ここで来ちゃうの龍の里編

そこは流すのが優しさっすよ!?

しおりを挟む
「ふむ。ハクアはユエにゴーレムを任せて、自分は木人形を相手するようじゃな」

「みたいっすね。まあ、ハクアの攻撃力でやるよりは貫通効果があるユエの方が早そうっすね」

「ええ、水龍王がユエをねじ込んだ意味をちゃんと理解していますね」

「ああ、だから水龍王様はユエを無理矢理ねじ込むなんて事をしたんすね」

「納得なの」

 ハクア達がボス部屋に侵入した事で、全ての映像でボス戦の映し出されている。
 ハクアとユエそれぞれの映像に、お互いを俯瞰で映す映像と至れり尽くせりの状態だ。

「ユエの方は優勢のようだが、ハクアはいつまで逃げるつもりなんだ?」

 そんな中、ハクアの映像を観ていたトリスが呟く。

 確かにトリスの言う通り、木人形を引き付け逃げ回るばかりで、一向にハクアが戦う気配はない。

「まあでも仕方ないのじゃ。あの木人形は見た目に反して攻撃力がバカみたいに高い。ハクアでは下手をすれば一撃で沈みかねない」

「ムーでも痛かったからハクアにはキツいと思うの」

「あー、確かにそうっすね。しかもあれどんどん湧いてくるし、倒してもキリがないっすからね」

 ミコト達の評価は確かに正しい。

 木人形はその動きこそ遅いものの、その数は当初よりも更に増え、八体から十五体にまでその数を増やしている。
 しかもミコト達の言う通り、その攻撃力は素人が作った土産物屋の作品のような見た目に反して、地面を砕くほどの威力を誇る。

 ハクアと言えど、偶然当たる可能性は否定出来ない。

 それがハクアが攻撃に移らない理由の一つでも確かにあったのは確かだ。

『さてさて、それじゃあ私もそろそろやりますか』

 しかしそれは確かに理由の一つではあった。

 とはいえだ。ハクアの本当の目的は一度に出る木人形の最大数を調べる事、動きの規則性の調査、そして何より一人で戦うユエの様子を観察していたのが大きい。

 そしてその全てを十分に観察し終えたハクアの反撃が始まる。
 木人形を引き付けたハクアは、ゴーレムから十分に距離を取ると戦闘態勢に入り、おもむろに両手を広げる。

 両手を広げたハクアの指からは糸が放出され、背後に寄り集まり次第に大きな塊へと変貌していく。
 そしてそれは何時しか人型を形作り、その人型の糸を影が呑み込み包み込んだ。

糸繰・竜面鬼神影法師いとくり・りゅうめんきしんかげほうし

『オオオオォォォオォオ!!』

 ハクアの言葉に呼応するように現れた竜面の鬼武者が産声を上げた。

「な、なんっすかあれ!?」

 ハクアの背後に現れた上半身だけの黒の鬼武者。

 その姿をみたシーナの驚愕の声が響く。

 しかしそれもしょうがないだろう。
 何故ならハクアの出した鬼武者にシーナを含めた数人には見覚えがあったからだ。

 面が違う。

 細部の意匠も違う。

 だがその鬼武者が醸し出す雰囲気、映像越しでも判る肌を刺すような感覚は、かつてハクアが死闘を演じた血戦鬼の圧力と同じか、それ以上の圧力を持ってハクアの背後に生まれたのだ。

「あれは白亜さんの新技ですよ。糸と影魔法を組み合わせ、そこに白亜さんの力を乗せた影法師の人形です」

『……行け』

 テアの説明に合わせるようにハクアの命令が鬼武者に飛ぶ。それに呼応するように細い一本の糸でハクアと繋がった鬼武者は、命令に従い目の前に迫る獲物を狩り始める。

 ゾンッ! と、振るう刀で空間を削り取るような斬撃が木人形へと放たれ、まるで木の葉を散らすかのように吹き飛んでいく。

 その一撃はまさしく血戦鬼のそれ。

 シーナ達の記憶にこびり付く、圧倒的な死の予感を感じさせるあの斬撃。それをハクアは自らの力で再現してみせているのだ。

 しかしシーナ達の驚きの一方、龍王達の表情は硬い。

 それが何故かと言えば───

「面白い技ではあるが使い物にはならんな」

「ええ、全くとは言わないけれど少なくともハクアちゃんと同格以上の相手に使うには辛い、使い所の難しい技ではあるわね」

「ん? なんでなの?」

「反応が遅いからだ」

 龍王達の言葉に反応したムーの疑問それにトリスが簡潔に答えてみせる。

「反応が? 確かにハクアよりも少し遅いみたいっすけど、それでも十分強いと思うっすよ」

「いや、今のハクちゃんのレベルであの反応じゃ同格には通用しなくなってくるかな。それにあの技の性質上、ハクちゃんの反応もほんの少しだけ遅くなる。それは決定的な致命だね」

「ええ、それに白亜さんだからこそ成立していますが、あれは二つの異なる戦闘をこなし、なおかつ莫大な集中力で力を扱うので、普通ならその力で自分を強化した方が早いし楽ですね」

「そもそもがハクちゃん以外には出来ない、奇跡的なバランスで成り立ってるからね。あれ、例え龍種でも無理だと思うよ」

「「「えー……」」」

 てっきりハクアのフォローが入ると思っていた元女神達から、いっそ龍王よりも辛辣な評価が下され思わずハクアに同情の声が上がる。

「でも、ハクアちゃんならその辺は織り込み済みよね?」

「ええ、もちろんです」

「えっ、でもさっき……」

「うん、だから普通なら……だよ。あそこに居るのは普通にしてても普通から外れてくハクちゃんだから」

「「「あぁ……」」」

 納得。もう納得である。

 それだけでもう何も言えないほどに納得してしまう。
 更に言えば普通にしてても普通から外れてく。という表現がまた、なんとも言えないほどしっくり来てしまうからしょうがない。

『クシュッ! ハッ!? なにか言われてる気がする!?』

「だからなんでわかるんっすか!?」

 思わずツッコミを入れてしまうほど絶妙なタイミング。

 龍神にしてもハクアにしても、こちらの声が聞こえているのでは? と、疑いたくなるほどのタイミングの良さだ。

 しかし本人達に届くはずのないツッコミに、少し顔を赤くしたシーナがコホンと咳払いをして話を戻す。

「で、どういう事っすか?」

「……誤魔化したの」

「そこは流すのが優しさっすよ!?」

「話を戻しますと、単純にデメリットだけではなく、限定的とはいえメリットがあるからですよ」

「メリット? 話を聞く限りじゃとそんなものがあるようには思えんが……」

 ミコトの言葉にそうですね。と応えつつ、テアは映像に目を向けながら影法師に就いて説明を始める。

 まずデメリットだが、これは先程から話している通りである。
 一見、自律行動しているように見える影法師だが、その実ただの力の塊に過ぎない影法師は、ハクアの思考制御によって動いている。
 故に相手の行動に合わせて行動を設定、それを影法師に伝えて動かすというプロセスが必要になる。その為、どうしてもそこには一秒未満とはいえタイムラグが発生してしまうのだ。
 無論完全に同期させる事も出来るのだが、それでもやはり糸を通して行動を伝える為、少なからずタイムラグは必ず発生する。

 そして二つ目はテアや聡子が言った通り、大量の力を使って維持、行動させる影法師は非効率だと言うことだ。
 簡単に操っているように見えても、放出した力を人の形に維持し、人の動作を取らせるというのは、無駄な上その難易度は驚くほど高い。
 もしもハクア以外が同じ事をすれば、無駄に力を使うだけならまだ良い方で、下手をすれば一気に力を使い切りショック死、力が暴走して大爆発が起きてもおかしくないのだ。

「想像以上の無駄っぷりなの!?」

「そうですね」

 そしてメリットだが、これもハクアならではのメリットでしかない。
 知っての通り、ハクアの力は未だハクアが十全に扱えるほど生中なものではない。龍の里での厳しい修行を以てしても、その力に耐えられる器にはまだ至っていないのだ。

 しかし影法師はハクアの糸で人型を作り、その中に竜と鬼の力を注入したモノだ。
 つまり、ハクアが力を暴走させずに留める事が出来れば、その力を十全に発揮出来る仮初の肉体になるのだ。

 更にハクアの防御力は全員が知っての通りお察しのレベル。だからこそハクアは被弾を抑えるのが重要なのだ。
 格下相手ならほぼ全てを読み切る脅威の読みも、偶然や乱戦の前には絶対ではない。

 だが、影法師を使えばそれが解消される。

 生き物のように見えても実際は力の塊、攻撃を受けても死ぬことは無く、疲れも知らない影法師は、ハクアの集中と力が持てば永久に戦える存在だ。

 更に影法師はハクアよりも大きく出力も高い。更に力を込めればより巨大な肉体を形成出来る。

 それは対大物との戦いにも役立つ。

 例えば見上げるほど巨大な生物に挑むとする。そうなった時、人の肉体では有効な部位に攻撃するには、飛び上がるなどそれに見合った動きが必要となる。
 しかし影法師を使えばそんな大物と、正面から戦うという選択肢も生まれるのだ。

 一つの強い手札がいつも通り毎回使えるとは限らない。こと戦闘に於いて自身の手札の数が増えるというのは、それだけ強さの総合値が上がると言ってもいい。

「と、いう訳で白亜さんにとってあの影法師は、雑魚敵掃討と対大物との戦闘にはもってこいなんですよ」

「ほえー。ハクアは色々と考えてるの」

「そっすね。私らなんてデカい奴とやり合うなら、竜化して元の姿に戻れば良いだけっすからね」

「ふむ。勉強になるのじゃ」

 理由が分かればなるほど確かに合理的ではある。 
 ただし、ハクアにしか使えないほど、高度な技術である事を除けばだが。だがそうだとしても、その有用性と考えは、そんな事を気にしない龍族にとっては面白い思考だった。

「それに驚くのはまだ早いですよ」

 テアの言葉に続いて映像から放たれた声に思わず映像に視線を戻す。するとそこには驚きの光景が広がっていた。

「「「えっ? えぇーーー!?」」」
しおりを挟む
感想 104

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

記憶喪失の転生幼女、ギルドで保護されたら最強冒険者に溺愛される

マー子
ファンタジー
ある日魔の森で異常が見られ、調査に来ていた冒険者ルーク。 そこで木の影で眠る幼女を見つけた。 自分の名前しか記憶がなく、両親やこの国の事も知らないというアイリは、冒険者ギルドで保護されることに。 実はある事情で記憶を失って転生した幼女だけど、異世界で最強冒険者に溺愛されて、第二の人生楽しんでいきます。 ・初のファンタジー物です ・ある程度内容纏まってからの更新になる為、進みは遅めになると思います ・長編予定ですが、最後まで気力が持たない場合は短編になるかもしれません⋯ どうか温かく見守ってください♪ ☆感謝☆ HOTランキング1位になりました。偏にご覧下さる皆様のお陰です。この場を借りて、感謝の気持ちを⋯ そしてなんと、人気ランキングの方にもちゃっかり載っておりました。 本当にありがとうございます!

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

雪月 夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! 本編完結しました! 時々おまけを更新しています。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

捨て子の僕が公爵家の跡取り⁉~喋る聖剣とモフモフに助けられて波乱の人生を生きてます~

伽羅
ファンタジー
 物心がついた頃から孤児院で育った僕は高熱を出して寝込んだ後で自分が転生者だと思い出した。そして10歳の時に孤児院で火事に遭遇する。もう駄目だ! と思った時に助けてくれたのは、不思議な聖剣だった。その聖剣が言うにはどうやら僕は公爵家の跡取りらしい。孤児院を逃げ出した僕は聖剣とモフモフに助けられながら生家を目指す。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

処理中です...