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ここで来ちゃうの龍の里編
めっちゃ焦りました
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「うむ。パーペキ。ほれ、あーん」
「……あるじ。恥ずかしい」
「異論は認めん」
「うっ、あむ」
「美味しい?」
「んっ、おいし」
「よきよき」
やはり、看護と言ったらりんごのうさぎさんカットに限る。
しかし嘆かわしいのは、この世界、病人や怪我人には地球と同じように果物、特にりんごを剥いたりするくせにうさぎさんカットはなかったりするのだ。
まあ、それもそのはず、何故ならこの世界のうさぎはモンスターだから。
モンスターとしてのうさぎは数多く存在するが、特にその中の一種、ホーンラビットは広く知られた食用モンスターとして名高い。
力も弱く、個体も多い、角にさえ気を付ければ驚異にならない、それでいて肉は結構美味しいと、初心者のいい小遣い稼ぎになるモンスターとしても有名だ。
そしてこの名前の通り頭に一本の角が生えた個体のホーンラビットだが、実はその通り名は初心者殺しと実に物騒なものだったりする。
初心者はその愛くるしい姿に躊躇した瞬間、頭の角に刺し貫かれる事例が結構多く、その為見た目と強さに反してそんな物騒な通り名が付いているのだとか。
と、言うわけでうさぎは広く知られてはいるものの、地球のようにうさぎさんカットがされるほど愛されキャラクターではないのだ。
こんな所で異世界と地球の文化の差を感じるとは思わなかったよ。
「ほう、不思議な形じゃな」
「何? ミコトも食いたいの? ほれ、あーん」
「いや……うっ、あ、あーん」
「美味い?」
「うむ」
うん。きっと今の私は勝ち組に違いない。
現在私は酷い怪我を負ったユエの看病中である。
まあ実際はもうなんの問題もないのだが、曲がりなりにも死にかけた怪我、こればっかりは気分的なものもあるので、ユエには大人しく看病されてもらう。
因みに今の私は何故かメイドさんだったりもする。
けして……けっして某誰かからの
「看病? それならばメイド服です。誰かの世話をするそれ即ちメイドの仕事。そして誰かを癒すのもまたメイドの仕事なのです。即ち看病とはメイドによるメイドの為の仕事なのです。さあ、メイド服を着なさい」
なんて、圧を掛けられたからじゃない。
気だと私も着ようと思っていたに違いないのだ。
多分、恐らく、きっと。
そして他の皆もここ最近は屋台の方で忙しかったのもあり、同じく休養という事で今日一日皆でまったりしている最中だ。
「ねぇ、ハクちゃん? それ何?」
「ん? 何とは失礼な。ソウにはこれがうさぎさんカットしたリンゴ以外のなにかに見えるのか?」
「いや、うん。どう見てもうさぎカットのりんごだけど私の知ってるのと違う」
「ふむ」
そう言われて手元のりんごを見る。
うん。見事なうさぎさんカットだ。
しかし確かに言われてみれば普通とは違うだろう。
何せ普通のうさぎさんカットと言えば、適当な大きさに切り分け、皮の部分で耳っぽいモノを再現するのみ。
それに引替え私のりんごは一言で言えば木彫りの熊のような彫刻だ。
地球に居たうさぎはもちろん、キャラクター風、こっちの世界のモンスター風と様々なニーズに答えている自信作。
これがうさぎさんカットかと問われれば少し自信が無い。それくらいに精巧な出来だったりする。
この世界のりんごが見た目地球のと変わらないのに、芯の部分がない不思議仕様の全可食だからこその荒業なり。
と、まあそんな風にゆったりとした時間を過ごしていたのだが、そんな時間を破壊する空気の読めない奴は何時だって居るものだ。
例えばこんな風に───。
ドガァ! と、いう音と共に現れたのはやはりと言うべきか、顔を真っ赤にし怒り心頭といった感じのアカルフェル一行だ。
全く空気の読めない奴め。
「貴様!」
そんなアカルフェル。今日はいつもの痩せすぎな程の体躯ではなく、初めから目に見えて違うほど、膨れ上がる半竜形態でご登場だ。
そこには昨日ほどの余裕は微塵もない。
「おい。人の部屋の入口壊すの止めてくれる」
後ろから「ここ部屋じゃないっす」とか「牢屋なの」とか「われの部屋より豪華じゃがな」とか、嫌味や自虐が聞こえてくる。
あれ、これ一応リフォーム承りますとか営業掛けるべきかな? でもそうすると絶対怒られる気がする。
そんな風に悩んでいるといつの間にやらアカルフェルは目の前に、その目はギラつき殺意が溢れている。
「なんの用だよ」
「なんの用だと……それは貴様が一番わかっているはずだ!」
「さあ、なんの事だ?」
「とぼけるな! 貴様が昨日、ヤルドーザを襲ったのはわかっている!」
「知らんな」
「貴様以外に誰が居ると言うんだ!!」
「さあ、てめぇらの振る舞い見てれば結構多そうだけど?」
その台詞を聞いた瞬間、アカルフェルの拳が私に向かって放たれる。
だがその拳が私に届く前に、その行動はおばあちゃんを含めた皆によって止められた。
でもどうせならこんな顔面ギリギリじゃなくて、もうちょっと余裕を持って止めて欲しかったの。ちょい鼻掠ってますよ。
「離せ」
「それはお前がハクアを攻撃するのを止めたらの話っすよ」
「みすみす見逃すはずがないの」
「引けアカルフェル。証拠もなくハクアを襲う事はわしが許さぬ」
「そもそも貴様が昨日同じ事をハクアに言ったのだ。妾達もそれで納得した。それを貴様が破るならこちらも容赦はしないぞ」
高まる圧力。
部屋全体が震えるような力が渦巻く中、最初に動いたのは私だった。
「そもそも、それが私の仕業だとしてなんの問題がある?」
「なんだと?」
「ここは誇り高き龍が住まう土地。そしてこの里の絶対のルールは強さ。どこの誰にやられたかは知らないけど、弱いからこうなっただけのこと、この里では弱い者から淘汰される。それに異を唱える事自体が間違い───だろ?」
「……やはり貴様が!」
最初、私が龍に就いて語る事で一瞬呆けたアカルフェルだが、その言葉が誰のものだったのか。それを思い出すと顔を怒りで更に真っ赤にする。
「まあ、それでも私じゃないけどな。そもそも私じゃあれに敵わないのはお前自身分かってるはずだろ? それに私が一晩中ここに居たのは、そこのそいつが証明出来るだろ?」
いきなり話しを振られたアカルフェルの取り巻きの一人、緑色の髪をした優男風のドラゴンがビクリと震え、アカルフェルの視線に目を逸らしながらコクリと首を縦に振る。
そう、コイツは昨日アカルフェルと一緒に帰ると見せかけて、突入してくる直前まで私達のことを見張っていたのだ。
当然私はそれを知って利用した。
出て行く直前に、ユエの枕元の人形に気力と魔力の大半を預ける事で、私がずっと居るように偽装したのだ。
お陰で魔力の有無で気配を探っていたコイツから、なんの苦労もなく身を隠す事が出来た。
まあ、その代わり大半の力を預けちゃったから、全力の攻撃でもヤルドーザに傷一つ付かないし、仕込もうと思ってた罠も力が足らなくて血で代用する羽目になった。
何かあった時の為と、エレオノの餌付けの為に作ってあった血液パックを、全て消費する羽目になるとは思わなかったんだよ。
それだけでもかなりの損失だし、実際、やろうとした事が土壇場で出来なくなるかもってめっちゃ焦りました。
「さあ、これで疑いは晴れたなさっさと消えろよ爬虫類」
「ええ、そうね。ここは貴方が引く場面よアカルフェル」
「……覚えていろよ」
「ハッ、嫌だね」
こうしておばあちゃんに止めを刺されたアカルフェルは、その目に殺意を滲ませながら部屋を出ていくのだった。
「……あるじ。恥ずかしい」
「異論は認めん」
「うっ、あむ」
「美味しい?」
「んっ、おいし」
「よきよき」
やはり、看護と言ったらりんごのうさぎさんカットに限る。
しかし嘆かわしいのは、この世界、病人や怪我人には地球と同じように果物、特にりんごを剥いたりするくせにうさぎさんカットはなかったりするのだ。
まあ、それもそのはず、何故ならこの世界のうさぎはモンスターだから。
モンスターとしてのうさぎは数多く存在するが、特にその中の一種、ホーンラビットは広く知られた食用モンスターとして名高い。
力も弱く、個体も多い、角にさえ気を付ければ驚異にならない、それでいて肉は結構美味しいと、初心者のいい小遣い稼ぎになるモンスターとしても有名だ。
そしてこの名前の通り頭に一本の角が生えた個体のホーンラビットだが、実はその通り名は初心者殺しと実に物騒なものだったりする。
初心者はその愛くるしい姿に躊躇した瞬間、頭の角に刺し貫かれる事例が結構多く、その為見た目と強さに反してそんな物騒な通り名が付いているのだとか。
と、言うわけでうさぎは広く知られてはいるものの、地球のようにうさぎさんカットがされるほど愛されキャラクターではないのだ。
こんな所で異世界と地球の文化の差を感じるとは思わなかったよ。
「ほう、不思議な形じゃな」
「何? ミコトも食いたいの? ほれ、あーん」
「いや……うっ、あ、あーん」
「美味い?」
「うむ」
うん。きっと今の私は勝ち組に違いない。
現在私は酷い怪我を負ったユエの看病中である。
まあ実際はもうなんの問題もないのだが、曲がりなりにも死にかけた怪我、こればっかりは気分的なものもあるので、ユエには大人しく看病されてもらう。
因みに今の私は何故かメイドさんだったりもする。
けして……けっして某誰かからの
「看病? それならばメイド服です。誰かの世話をするそれ即ちメイドの仕事。そして誰かを癒すのもまたメイドの仕事なのです。即ち看病とはメイドによるメイドの為の仕事なのです。さあ、メイド服を着なさい」
なんて、圧を掛けられたからじゃない。
気だと私も着ようと思っていたに違いないのだ。
多分、恐らく、きっと。
そして他の皆もここ最近は屋台の方で忙しかったのもあり、同じく休養という事で今日一日皆でまったりしている最中だ。
「ねぇ、ハクちゃん? それ何?」
「ん? 何とは失礼な。ソウにはこれがうさぎさんカットしたリンゴ以外のなにかに見えるのか?」
「いや、うん。どう見てもうさぎカットのりんごだけど私の知ってるのと違う」
「ふむ」
そう言われて手元のりんごを見る。
うん。見事なうさぎさんカットだ。
しかし確かに言われてみれば普通とは違うだろう。
何せ普通のうさぎさんカットと言えば、適当な大きさに切り分け、皮の部分で耳っぽいモノを再現するのみ。
それに引替え私のりんごは一言で言えば木彫りの熊のような彫刻だ。
地球に居たうさぎはもちろん、キャラクター風、こっちの世界のモンスター風と様々なニーズに答えている自信作。
これがうさぎさんカットかと問われれば少し自信が無い。それくらいに精巧な出来だったりする。
この世界のりんごが見た目地球のと変わらないのに、芯の部分がない不思議仕様の全可食だからこその荒業なり。
と、まあそんな風にゆったりとした時間を過ごしていたのだが、そんな時間を破壊する空気の読めない奴は何時だって居るものだ。
例えばこんな風に───。
ドガァ! と、いう音と共に現れたのはやはりと言うべきか、顔を真っ赤にし怒り心頭といった感じのアカルフェル一行だ。
全く空気の読めない奴め。
「貴様!」
そんなアカルフェル。今日はいつもの痩せすぎな程の体躯ではなく、初めから目に見えて違うほど、膨れ上がる半竜形態でご登場だ。
そこには昨日ほどの余裕は微塵もない。
「おい。人の部屋の入口壊すの止めてくれる」
後ろから「ここ部屋じゃないっす」とか「牢屋なの」とか「われの部屋より豪華じゃがな」とか、嫌味や自虐が聞こえてくる。
あれ、これ一応リフォーム承りますとか営業掛けるべきかな? でもそうすると絶対怒られる気がする。
そんな風に悩んでいるといつの間にやらアカルフェルは目の前に、その目はギラつき殺意が溢れている。
「なんの用だよ」
「なんの用だと……それは貴様が一番わかっているはずだ!」
「さあ、なんの事だ?」
「とぼけるな! 貴様が昨日、ヤルドーザを襲ったのはわかっている!」
「知らんな」
「貴様以外に誰が居ると言うんだ!!」
「さあ、てめぇらの振る舞い見てれば結構多そうだけど?」
その台詞を聞いた瞬間、アカルフェルの拳が私に向かって放たれる。
だがその拳が私に届く前に、その行動はおばあちゃんを含めた皆によって止められた。
でもどうせならこんな顔面ギリギリじゃなくて、もうちょっと余裕を持って止めて欲しかったの。ちょい鼻掠ってますよ。
「離せ」
「それはお前がハクアを攻撃するのを止めたらの話っすよ」
「みすみす見逃すはずがないの」
「引けアカルフェル。証拠もなくハクアを襲う事はわしが許さぬ」
「そもそも貴様が昨日同じ事をハクアに言ったのだ。妾達もそれで納得した。それを貴様が破るならこちらも容赦はしないぞ」
高まる圧力。
部屋全体が震えるような力が渦巻く中、最初に動いたのは私だった。
「そもそも、それが私の仕業だとしてなんの問題がある?」
「なんだと?」
「ここは誇り高き龍が住まう土地。そしてこの里の絶対のルールは強さ。どこの誰にやられたかは知らないけど、弱いからこうなっただけのこと、この里では弱い者から淘汰される。それに異を唱える事自体が間違い───だろ?」
「……やはり貴様が!」
最初、私が龍に就いて語る事で一瞬呆けたアカルフェルだが、その言葉が誰のものだったのか。それを思い出すと顔を怒りで更に真っ赤にする。
「まあ、それでも私じゃないけどな。そもそも私じゃあれに敵わないのはお前自身分かってるはずだろ? それに私が一晩中ここに居たのは、そこのそいつが証明出来るだろ?」
いきなり話しを振られたアカルフェルの取り巻きの一人、緑色の髪をした優男風のドラゴンがビクリと震え、アカルフェルの視線に目を逸らしながらコクリと首を縦に振る。
そう、コイツは昨日アカルフェルと一緒に帰ると見せかけて、突入してくる直前まで私達のことを見張っていたのだ。
当然私はそれを知って利用した。
出て行く直前に、ユエの枕元の人形に気力と魔力の大半を預ける事で、私がずっと居るように偽装したのだ。
お陰で魔力の有無で気配を探っていたコイツから、なんの苦労もなく身を隠す事が出来た。
まあ、その代わり大半の力を預けちゃったから、全力の攻撃でもヤルドーザに傷一つ付かないし、仕込もうと思ってた罠も力が足らなくて血で代用する羽目になった。
何かあった時の為と、エレオノの餌付けの為に作ってあった血液パックを、全て消費する羽目になるとは思わなかったんだよ。
それだけでもかなりの損失だし、実際、やろうとした事が土壇場で出来なくなるかもってめっちゃ焦りました。
「さあ、これで疑いは晴れたなさっさと消えろよ爬虫類」
「ええ、そうね。ここは貴方が引く場面よアカルフェル」
「……覚えていろよ」
「ハッ、嫌だね」
こうしておばあちゃんに止めを刺されたアカルフェルは、その目に殺意を滲ませながら部屋を出ていくのだった。
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