上 下
514 / 654
ここで来ちゃうの龍の里編

はっはっはっ、やっておしまい

しおりを挟む
「あー、死ぬかと思った。頭が割れたらどうしてくれるのさ」

「その時は妾自ら丁寧に火葬してやろう」

「そんな予約は入れたくないですが!?」

 ようやっとトリスのアイアンクローから解放された私は、先程までの蛮行を糾弾したが何故か状況は劣勢だった。解せぬ。

「まあまあ、ハクアも悪いっすよ? せっかくあのトリスが珍しく頭まで下げて礼を言ったのに」

「そうなの。あのプライド高いトリスが、同族以外に頭を下げるなんて珍しい事したの、ちゃんと受け入れれば良かったの」

「お前らも火葬されたいのか?」

「そうらしいよ」

「「フォローしたのに!?」」

「いや、出来とらんじゃろ。そしてサラッとそっち側に着くハクアが流石じゃなぁ」

 褒められちゃった、照れるぜ。

「まあなんにせよ、私は皆が言ってるような礼を言われるような事はしてないんだよ」

 最初から言ってた通りレリウスは才能あったし、今の段階であの戦い方が合っていないだけで、あのまま数年も訓練を続ければ恐らくモノにはなっただろう。
 訓練にしたって少しアドバイスした程度の事を、自分のお陰でなんて誇る気もないのだ。

「つー理由で、私は何も礼を言われるよう事してないのだよ。トリスが思ってる言葉全部レリウスの努力の結果なんだから」

「お前は本当に……はぁ」

「なんでいその反応は」

「やっぱり妾はお前が嫌いだな」

「何すげー良い笑顔でズバッと言ってくれてんのこの女!? いきなりディスられたんですが!?」

 なんなのこの人。酷くない!? いや人ではないけども……それでも酷くない!?

「まあ、今のはハクアが悪いのじゃ」

「なんで!?」

 いきなりディスられた私は可哀想な被害者ですのよ!?

「うーん。そこが分からないのがハクアのいい所とは思うっすけどね」

「長所であり短所でもあるの」

「えぇ……」

 なんなん。ドラゴン様方はやっぱり私とは違う考えなの?

(そりゃ、素直に感謝したいのに本人がその自覚全くなければあれっすよね)

(プライド高いトリスとしては、素直に礼を受け取って貰えないとか普通にイラッとするの)

(まあ、わし個人としては好ましいとは思うのじゃ。自分のターンになったら少し困るが……な)

 私が一人困惑してる間に、後ろで何やらヒソヒソと話しているがそんなものはどうでもいい。

「はぁ、まあいいや。冗談はこれくらいにして……皆ちょっと付き合わねぇ?」

「……おい。妾達から離れるなと言ったのに、もう何処かふらつく気か?」

「だから誘ってんじゃん!?」

「何処に行くのじゃ?」

「んー、ちょっとね。まあ、着いてくれば分かるさね」
 ▼▼▼▼▼
「おい! どうなってんだ!」

 幾つか設定されている待合室の近く、誰も近寄らない通路にわざわざ人払いと認識阻害の結界まで構築し、怒号が鳴り響いていた。

 怒号を放つ人物? ドラ物? の、リーダー格のお山の大将であるモブAが、先程の試合で負けたモブCに詰め寄っていた。

 その周りには三人組のモブBと、多数の仲間と思われるモブが集まっている。

「俺も何がなんだがわかんねえよ! アイツがついこの間まで俺達に手も足も出なかったのは、お前だって知ってんだろ!」

「そうだぜルービス。あいつがこの大会に出られたのだって、たまたま欠員が出てそこに龍王の息子だからって理由でねじ込まれただけのはずだ」

「じゃあ何か!? アイツはたった数日でいきなり強くなってコイツを負かしたって言いてえのかよ!」

「それは……」

 ルービスと呼ばれたお山の大将が、仲裁に入った三人組最後の一人のモブBにも食ってかかる。

「クソッ! まあいい。それなら他のやり方で落とせば良いだけだ」

「あ、ああ。そうだな」

「へぇー。随分とまあ面白い話ししてるじゃねえか。私も混ぜてくんねぇ?」

「なっ!?」

 そう。そんな奴らの目の前に現れたのは何を隠そうこの私なのだー。だー。だー……。

 うん。反響させてみた?

「まあまあ、それよりも面白い話ししてんじゃん。その話、私の後ろの奴らにもゆっくり伝えてみてくれよ」

 私の台詞に合わせて出てきたのは当然トリスを含めた全員だ。

 その姿を見て諦めた顔をする者、絶望した顔をする者、焦る者に、怒る者、様々な反応を見せている。

 はっはっはっ、やっておしまい。

 目の前で行われるのは一方的な展開だ。ミコトなどは私の隣で、トリス達三人の撃ち漏らしに備えるくらいに余裕しゃくしゃくだ。

 ふむ。しかし、あれってルービスとかって名前だったのか。まあ、もう出てこないだろうから覚えても意味無い名前だろうけど。
 でもこういう奴に限って、コアなクイズの問題になったりするんだよなぁ。厄介な。

 そしてレリウスはそんな理由でねじ込まれてたのかぁ。本人も知らんのだろうが、今となってはこいつらよりも強いのだから関係ないか。

 ふむ。そろそろかな。

「はいはい。終了でーす。ブレイクブレイク」

 トリス達があらかた散らしたのを見計らってストップをかける。

「くっ、俺の邪魔ばかりしやがって。お前がレリウスに変な事をしなければこんな事には……」

「ははっ。本当にそう思ってるの?」

「なんだと!?」

「ねぇ? なんで私達がここを探り当てられたか本当に分からない?」

「ま……さか……」

「そうだよ。お前らは切り捨てられたんだよ。私に売られるくらいにね」
  
「あ、アカルフェルの野郎……」

 私の言葉にルー……ルー? うん。モブAだけではなく、他の皆も驚く気配がする。しかし空気を読んで誰も何も言わない。

「とは言えだ。私もアイツの事は気に食わないし、お前にさして恨みがある訳でもない。このまま大人しくこいつらを解散させて、普通に試合に挑むなら見逃してやる」

「なっ!? モガガガッ──」

 その言葉に誰よりも早く反応したトリスが文句を言おうとするが、その口はいち早くシーナ達によって塞がれる。

 ナイス!

「本当だろうな?」

「ああ、本当だとも。そうじゃなきゃここで止める理由もないだろ? ついでに言えばこちらを勝たせろなんて要求する気もないから安心しな」

 モブAが私の顔を眺めながら真意を探ろうとするが、生憎とそんな程度で見破られる程甘くはない。

 モブもそう思ったのだろう。諦めたように首を振ると、一言わかったと呟き集まった奴らを連れて静かに去る。

 さて、終わった終わった。

「……ハクア」

 と、思ったらまだ終わってなかった。

 後ろを見れば激おこのトリスが居る。

「まあまあ、落ち着け」

 思わずミコトの後ろに隠れながらそんな言葉を吐くが、トリスは怒り心頭だ。

「……何故奴らを見逃した」

「はぁ……。ここで事を荒立ててもしょうがないからだよ。てか、意味が無い」

「なんでっすか? 現場も押さえたのに」

 シーナも空気を読んで私を手伝ってくれたが、どうやら疑問だったようだ。

「まあ、色々と理由があるけど、とりあえず一番の理由は今日の本題はこっちじゃねえからだよ。あくまで私達は付き添い、主役はレリウス……だろ?」

「うっ、それは確かに……」

「さっきの話が本当なら、あいつらを排除して不戦勝になってみろ。レリウスの実力が疑われるだけだ。ただの運でってな」

「あー、確かにそうかもしれないの」

「そうじゃな。さっきのを見るとそうなる可能性は高いのじゃ」

「だろ? だから見逃した。つー理由で、さっさと戻ろう。他の理由はゆっくりと観戦しながら教えるよ」
しおりを挟む
感想 104

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

記憶喪失の転生幼女、ギルドで保護されたら最強冒険者に溺愛される

マー子
ファンタジー
ある日魔の森で異常が見られ、調査に来ていた冒険者ルーク。 そこで木の影で眠る幼女を見つけた。 自分の名前しか記憶がなく、両親やこの国の事も知らないというアイリは、冒険者ギルドで保護されることに。 実はある事情で記憶を失って転生した幼女だけど、異世界で最強冒険者に溺愛されて、第二の人生楽しんでいきます。 ・初のファンタジー物です ・ある程度内容纏まってからの更新になる為、進みは遅めになると思います ・長編予定ですが、最後まで気力が持たない場合は短編になるかもしれません⋯ どうか温かく見守ってください♪ ☆感謝☆ HOTランキング1位になりました。偏にご覧下さる皆様のお陰です。この場を借りて、感謝の気持ちを⋯ そしてなんと、人気ランキングの方にもちゃっかり載っておりました。 本当にありがとうございます!

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! 本編完結しました! 時々おまけを更新しています。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

捨て子の僕が公爵家の跡取り⁉~喋る聖剣とモフモフに助けられて波乱の人生を生きてます~

伽羅
ファンタジー
 物心がついた頃から孤児院で育った僕は高熱を出して寝込んだ後で自分が転生者だと思い出した。そして10歳の時に孤児院で火事に遭遇する。もう駄目だ! と思った時に助けてくれたのは、不思議な聖剣だった。その聖剣が言うにはどうやら僕は公爵家の跡取りらしい。孤児院を逃げ出した僕は聖剣とモフモフに助けられながら生家を目指す。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

転生墓守は伝説騎士団の後継者

深田くれと
ファンタジー
 歴代最高の墓守のロアが圧倒的な力で無双する物語。

王都を逃げ出した没落貴族、【農地再生】スキルで領地を黄金に変える

昼から山猫
ファンタジー
没落寸前の貴族家に生まれ、親族の遺産争いに嫌気が差して王都から逃げ出した主人公ゼフィル。辿り着いたのは荒地ばかりの辺境領だった。地位も金も名誉も無い状態でなぜか発現した彼のスキルは「農地再生」。痩せた大地を肥沃に蘇らせ、作物を驚くほど成長させる力があった。周囲から集まる貧困民や廃村を引き受けて復興に乗り出し、気づけば辺境が豊作溢れる“黄金郷”へ。王都で彼を見下していた連中も注目せざるを得なくなる。

処理中です...